宮守の神域   作:銀一色

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南三局です。


第90話 決勝戦 ㊳ 下準備

 

 

 

 

 

 

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南三局 親:愛宕洋榎 ドラ{二}

 

小瀬川 18,300

照 57,200

辻垣内 1,500

洋榎 23,000

 

 

小瀬川:手牌

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {九九横九}

 

宮永照:手牌

{二七九①②②赤⑤⑥9白中中中}

 

 

 

南三局。まだ二巡目の半ばではあるが、場は追い詰める小瀬川、それを必死に避ける宮永照という構図が既に出来上がっていた。

いや、小瀬川と宮永照が一際目立っているだけで、実際は辻垣内も愛宕洋榎も宮永照を追いかけている。

しかし、どうしても小瀬川と宮永照に目がいってしまうのは仕方ないであろう。

そう、仕方ないのだ。だからこそ、この認識は宮永照を狂わせる要因となってしまう。

 

 

宮永照の{西}切りの後、辻垣内、愛宕洋榎、小瀬川……とツモがどんどん回っていき、宮永照にまでツモ番が再び回ってきた。この間約十数秒間。宮永照は如何にして小瀬川の手牌を避けるために、小瀬川の手の進み様や小瀬川の待ちの予測などを試みたが、その前提を作ること自体が自身を惑わせる枷になりかねないと思い、とりあえずは萬子と字牌。この二種類は絶対に切れない、切ってはいけない牌だ。その最低限の事だけでいい。とにかく小瀬川に振り込まない事、ただそれだけでいいのだ。そう心に決め、山から牌をツモってくる。

 

宮永照:手牌

{二七九①②②赤⑤⑥9白中中中}

ツモ{3}

 

宮永照がツモってきたのは{3}。宮永照はただでさえ{中}が暗刻であるおかげで手牌が嵩み、圧迫しかねない状況の宮永照にとっては一回一回のツモが重要。無論、{九}が切れないのと同じ様に、{中}を暗刻落としすることもままならない状況である。僅かではあるが、ゼロではない。その僅かな可能性に宮永照はここまで追い詰められてしまっているのだ。

故に、ここでの{3}は大きい。局の初めから数えて、宮永照が小瀬川の手牌を回避しきるまでに牌を捨てる回数は、鳴きや槓があれば多少上下するが凡そ17回程度。宮永照はその内の既に3回目を安全に回避できたという事にもつながる。

当然、宮永照は{3}をなんら躊躇もせずに切り飛ばす。宮永照にとって筒子と索子はまさに生命線。それと同時に、小瀬川には絶対に当たらない安全牌。故に、筒子と索子であれば安全という括りで見ればどんな牌でも価値は等しい。故に、どんな牌を切っても変わりはない。

 

そして四巡目は萬子の{五}を引いたものの、手牌にある{9}を切って{五}を適切に保管する。五、六巡目は{7}と{⑨}を引き、当然宮永照はそれをツモ切り。その徹底した守りぶりに、一瞬の隙はない。だが当然、小瀬川の手牌は萬子の清一色は無いことは観客含め卓を囲む三人以外は承知していたため、この徹底の守りは意味が無い様にも思われるかもしれないが、仮に宮永照が小瀬川の手牌が萬子の清一色ではない事に気づいたら、宮永照は決して振り込むことはないであろう。そんな気がするほど宮永照の徹底した守りは凄まじかった。間違ってしまっているとしても、だ。

 

無論、小瀬川もそう感じている。もし宮永照が自分の清一色ブラフを見抜けば、宮永照から直撃を奪うのはほぼほぼ不可能だ。だが、誘導は可能だ。宮永照を誘導する事はいくらでもできる。

通常の人間なら、この状況での誘導となれば『宮永照に自身の清一色ブラフを見抜かせないための』誘導と考えるだろうが、小瀬川は違った。ただ見抜かせないように誘導しても、いずれは見抜かれる。だから小瀬川は、宮永照に見抜かれるのを前提で誘導を図ろうとしていた。

 

事は七巡目、小瀬川が牌を切って宮永照のツモ番になろうとしたまさにその時、小瀬川の誘導が開始する。

 

 

「ポン!」

 

愛宕洋榎:手牌

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {⑤赤⑤横⑤}

 

打{北}

 

 

愛宕洋榎が小瀬川の大胆に切った{⑤}を鳴く。これこそが小瀬川の宮永照誘導のその幕開け。

そしてまたもや小瀬川にツモ番が回り、再び牌を切る。その牌は{南}。

 

「ポン!」

 

愛宕洋榎:手牌

{裏裏裏裏裏裏裏裏} {南南横南} {⑤赤⑤横⑤}

 

打{9}

 

この牌も愛宕洋榎が鳴き、これだけで二副露目。しかしまだ終わらない。終わらせない。

 

「ポン!!」

 

 

愛宕洋榎:手牌

{裏裏裏裏裏} {⑨⑨横⑨} {南南横南} {⑤赤⑤横⑤}

 

 

(なっ……!?)

 

 

三回。愛宕洋榎、瞬く間に三副露。そして愛宕洋榎の手は誰がどう見ても筒子の混一色。だが、手の中身などどうでもいい。宮永照にとっては些細なことなのだ。だが、これで宮永照は筒子を封じられてしまった。この局の親は愛宕洋榎。仮に宮永照が振り込んでしまえば、南三局一本場となり、更に危険は増す。となれば、愛宕洋榎にも振り込めない。愛宕洋榎に振り込めないということは、筒子がもう切れないということと同義である。そうなると宮永照が切れる牌は索子のみ。だが、宮永照の手牌には索子は{9}の一枚のみ。とてもじゃないが流局まで持ちそうにもない。

 

(・・・やるしか、ない……)

 

そうなれば、宮永照は危険を承知に切るしかない。まだ捨て牌にある牌、つまり片方にある安牌でもしのげそうな気もするが、それもいつまでもつか分からない。いずれ危険牌を切ることになるだろう。

 

 

 

(・・・流れた……)

 

そう。小瀬川が誘導したのはまさに今の宮永照の状況。宮永照の『筒子も危険牌』と思わせるための三副露。これで宮永照が小瀬川の清一色ブラフに気付いたとしても、宮永照の足が『筒子も危険牌』という状況に引っ張られ、逃げ切ることはできなくなった。

宮永照がブラフに気付いたら萬子も切ってくるだろう。だが、萬子も無限にあるわけではない。次からの宮永照は索子を切り続けるので、索子は手にないであろう。そこで萬子が切れた宮永照は本来なら筒子を切りにいくはずであろう。だが、親の愛宕洋榎が筒子の混一色となると、筒子を切るわけにはいかない。既に『筒子は危険牌』という状況によって筒子は遮断されている。

そうなったら宮永照はどうするか。当然、字牌の方へと目線が寄る。それが小瀬川の狙い。

とはいえ、まだ小瀬川も聴牌には至っていない。何より染め手でないが故、打点も高くない。ここから小瀬川の下準備。宮永照という最高の食材を使って料理を完成させるための下準備を始めることとなる。宮永照がブラフに気付く前に。

 

 

(・・・逃げさせはしない。追い詰めて、追い詰めて……)

 




次回も南三局。
昨日に引き続き今日も字数が……2000台……
毎日投稿だと字数はどれくらいが丁度良いんでしょうかね?
当然字数は多いほうが良いとは思うのですが……

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