宮守の神域   作:銀一色

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南三局です。


予め言っておきますが、正月の時は小説を書く暇がないので1月1日〜3日までは休載とさせていただきます。




第89話 決勝戦 ㊲ 振れば、終わり

 

 

 

 

 

 

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南三局 親:愛宕洋榎 ドラ{二}

 

小瀬川 18,300

照 57,200

辻垣内 1,500

洋榎 23,000

 

 

小瀬川:手牌

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {九九横九}

打{7}

 

宮永照:配牌

{二七①②②赤⑤⑥89白中中中}

 

 

南三局、勝負の南三局。一巡も経たずに場は既に動き始まっている。一巡目の親の愛宕洋榎の一打、{九}打ち。この一打で、小瀬川は宮永照を勝負から下ろし、攻めの姿勢を避け……逃げの姿勢へと変化させた。

当然手牌が狭まり、尚且つ萬子の染め手に安全な牌となる索子を使うので小瀬川の切った牌の{7}を鳴くことはできない。

故に宮永照は小瀬川の{7}を見逃し、山から牌をツモる。

 

(・・・ッ!)

 

宮永照:手牌

{二七①②②赤⑤⑥89白中中中}

ツモ{九}

 

ツモったのは{九}。{九}……!小瀬川がまさに先ほど鳴いた牌である{九}。宮永照は顔を顰める。宮永照と小瀬川白望の位置関係上、これを切っても小瀬川は鳴く事ができない。そしてこの{九}を持っていても手牌を圧迫してしまうだけであり、いい事が何一つない。

ならばここで切ってしまえばいい。そう思うのは極めて当然であり、至極当たり前の発想だ。だが、宮永照にはこの{九}が異様に切れずにいた。ここで切って、仮に小瀬川白望が聴牌していたら……そう考えると、もう切れない。宮永照がここで{九}を切ることはできなくなっていたのだ。

元はと言えば、この心理状態になってしまったのは小瀬川白望が原因。根源的要因……!小瀬川は宮永照を下ろさせた。そう、宮永照は今、勝負という坂を下っているのだ。そして一度足を踏み出してしまえば、もう登ることはできない。ずるずると引きずり込まれる……小瀬川という沼……闇に……!

 

(・・・振れば、終わり……)

 

その言葉を何度も自分に言い聞かせて、宮永照は{九}を手牌に取り込む。今の自分の心理状態がおかしい、小瀬川によって操られているということは宮永照は重々承知している。だが、承知しても尚宮永照は戻れない。勝負という坂を、登る事ができない。登る道は、既に小瀬川によって封じられている。

そして手牌から萬子の染め手では当たることのない{8}を切り飛ばす。{九}が切れないのに、{白}や{中}が切れるわけがない。手牌を圧迫していると分かっていても、僅かでも可能性がある。宮永照はこれで完全にオリに回ることとなってしまった。

 

そして宮永照が{8}を切った直後、辻垣内からの発声。辻垣内も果敢に攻めていく。

 

 

「ポン!」

 

辻垣内:手牌

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {横888}

 

 

一瞬体が跳ねた宮永照だが、「ロン」ではない事を確認するとふう、と一息つく。

辻垣内が{8}を晒すと、手牌の中から{9}を切る。が、誰もそれに反応しなかったので、愛宕洋榎のツモ番に回る。これでやっと一巡目が終わったのだ。愛宕洋榎がツモった牌を取り替えて打牌し、小瀬川もそれに続くようにツモった牌を取り替えて打牌する。

さっきまでの停滞が嘘のようにスルスルと進んでいく。ここからどうやって小瀬川から逃げ切ろうか考えていた最中なのにも関わらず、次のツモ番は宮永照。どうしようもないので、宮永照はツモってから考える事に決めた。だが、宮永照がツモってきた牌は先ほど小瀬川が切った{西}。宮永照は余裕を持って暫し小瀬川の手をどうやって回避するかを考えてから{西}を切った。

 

この南三局。まだ二巡目ではあるが、この時点で既に熾烈な闘い。故に、この後もどんどん熾烈になるであろう。そんな予感が容易くできるほどであった。

 

 

 

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実況室

 

 

「大沼プロ。この局、宮永選手はオリに回っているようですが、一体どうしたのでしょうか」

 

所変わって実況室では、アナウンサーが大沼に質問をしていた。大沼は表情を変えずに、あくまでクールに答える。

 

「この局、小瀬川選手の手牌が萬子の清一色で、 尚且つドラの二萬を暗刻で持っていれば倍満にも到達する手。宮永選手はそれを警戒したのだろう……おそらく」

 

だが、そんな大沼のパーフェクトな回答にも、アナウンサーは未だ信じられないような表情をして、大沼に問いかける。

 

「で、ですが……これは……」

 

大沼も、アナウンサーのように戸惑いはしていないものの、少し困ったような表情をする。

 

 

「ああ、小瀬川選手は宮永選手にそう思わせている、()()()()()()()()()()()()()()いるんだ。だからこそ、恐ろしいんだよ……こんなギャンブルのような駆け引きをする小学生は初めて見た……」

 

 

そう言ったが、大沼は内心どこも困ってはおらず、しっかりと理解していた。

 

 

(・・・さあ、こんなところで『神域の麻雀』が終わるわけないだろう……?見せてくれ。俺に……)

 

 

 

 

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特別観戦室

 

「上手くシロの作戦が通っているみたいだね……」

 

 

特別観戦室では、先ほど対局室から戻ってきた塞と胡桃がスクリーンを凝視していた。赤木はそんな塞と胡桃を横目で見ながら、小瀬川の闇について考えていた。

 

(【・・・『加算麻雀』を打ち破ったあの闇……フフフ……やっとあのジジイが出ていったか……】)

 

そう、小瀬川の闇が発動したのにも関わらず、小瀬川の配牌は配牌聴牌や役満聴牌などではない。小瀬川本人の体験談を聞く限りでは、能力を破る他に、配牌も良くなるはずだった。

だが、小瀬川の配牌には全く影響が起きていない。そして、あの闇から凶々しさ、邪気、悪鬼、物の怪の類が一切合切消え去っていた。そしてそんなものを従えていたのは、他ならぬ赤木の生きてきた中での最大の敵であり、赤木が唯一、偽物ではない同類と認めた男。

それならば赤木の『神域の麻雀』に牙をむいたのも頷ける。そしてそれがいなくなった今、あの男は小瀬川から離れたのだろう。

赤木いるところにあの男あり。それは他ならぬ赤木と同類であったからであろう。それが、まさか小瀬川を通して存在するとは思いにも寄らなかったが。

 

(【・・・まあ、あいつには関係ねえ。それを察してくれたのか……それとも俺を追うあいつの精神を面白がっただけなのか……どっちかは分かんねえが、あいつには関係ねえんだ。引っ込んでな、俺と同じ亡き者よ……】)

 

 

 

 

 

 

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???

 

小瀬川がいなくなり、一人ぼっちとなってしまった老人。だが、光を通して小瀬川たちのいる対局室を覗きながら、老人は愉快そうに笑っていた。

 

「カカカ……!面白い……抗え、抗うがいい……そして絶望するんだ……!『アカギ』との差、圧倒的差に……!お前では無理だ。『アカギ』には届かん。そこらのガキじゃ到底追いつくことは不可能……カカカカカカ……!」

 

老人は笑う。絶望する小瀬川を見ることができるという、己が最高の愉悦のために。

 




次回も南三局。

最近クオリティが下がっている感が否めない……否めなくない?
無い脳絞って文を考えろって言いたいですよね……

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