宮守の神域   作:銀一色

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バレンタインデー前編です。
前後編となりました。すみません。
今回は照!


バレンタインデー企画 シロ×宮永照&姉帯豊音 前編

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視点:宮永照

 

 

(バレンタインデー……か)

 

二月の中旬にさしかかろうとしているのにも関わらず相変わらずの寒さを誇り、これは春は遠いなあと感じる休日の昼間、私は部屋でお菓子を食べながら窓の向こうに展開する景色をただボーっと眺めていた。世間は俗に言うバレンタインデー一色の雰囲気を醸し出しており、かくいう私もバレンタインデーには色々お世話になっている。なぜなら私がどんなにお菓子を食べても、友達から貰った友チョコであるという大義名分があるからだ。まあ、そうでなくとも普段からよく食べているのだが、そこは気分的な問題だ。

しかし、そんな私にとって夢のような一日がもう迫っているというのにも関わらず、私の気分はあまり晴れない。

まず、今回のバレンタインデーは例年とはわけが違う。私が初めてチョコレートを渡される側ではなく渡す側になりたいと思った人がいるのだ。まあ、その人物は言わずもがな白望さんのことであるのだが。それなのに何故憂鬱になっているかというと、東京都と岩手県という絶望的な距離の話もあるのだが、俗に言う彼女は誑しである。しかも、天然な方のだ。全国大会で会った時の時点で既に彼女に好意を抱いている人は多かった。そんな彼女がバレンタインデーの日に誰にもチョコレートを貰わないということもないだろう。それどころか当日は彼女にチョコレートを渡す人で大勢だろう。もしかしたら私のように県外から来る人たちもいるかもしれない。

そんな状況で、果たして私のチョコレートが彼女の心に届くのだろうか。そう考えれば考えるほど、どんどん気持ちが沈んでいく。

しかし、このままバレンタインデーまでなにもしないわけにもいかない。例え彼女に届かないとしても、やってみるだけの価値はある。俗に言う当たって砕けろというやつだ。

 

(・・・作らなきゃ)

 

そう考えると、自然と私は立ち上がっていた。お菓子が食べかけであるにも関わらず、私の体は既にキッチンにいた。材料と器具を取り出して、エプロンを装着して、チョコレート作りへと挑んだ。

 

 

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視点:姉帯豊音

 

 

(バレンタインデーか……ちょー楽しみだよー)

 

私は、部屋の中でカレンダーを確認しながらうずうずしていた。子供が極端に少ないこの村で、私はいわゆる友チョコというやつをしたことは一回もない。年上や年下からは貰ったことはあるものの、やはり同年代での友チョコ交換というのには強い憧れがあった。しかし、今までにその憧れが叶うことはなかった。

だが、今年は違う。去年に私の住む村の近くの山で出会ったシロという存在がいる。私がチョコレートを渡すということは、彼女にはまだ知らせていない。完全なるサプライズだ。因みに、もう渡すチョコレートは作って冷蔵庫にて保管されている。何故そんなにも早く作ったのかというと、恥ずかしい話だがバレンタインデーが待ちきれなかったというのが理由だ。

 

(シロ……喜んでくれるかなー)

 

私はカレンダーの二月十四日を囲むかのように記されている赤丸を見ながら、そんなことを思う。あと数日のことではあるが、私にとっては永遠のように長い数日となりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

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バレンタインデー当日

視点:宮永照

 

 

 

 

(しまった……出遅れた)

 

 

バレンタインデー当日、決戦の日。そんな日に、私は全速力で岩手の地を走っていた。何故かというと、完全に遅刻(?)してしまったのである。

私は新幹線で東京から岩手県まできて、そこから電車で彼女の通う中学校に一番近い駅までやってきた。そこまではよかった。彼女が通う学校は既に白望さんから聞いていたので、そこに一番近い駅も予め調べておいたのだ。駅に着いた時も、順調に行けば確実に白望さんの下校時間にちょうど間に合う手筈であった。

問題だったのは、私が駅からその学校までのルートが分からないという点だった。ルートを確認してなかったことに気付いたときも、何故か私は何処にあるもかもわからないのにあっちへこっちへと足を進めてしまったのだ。当然、運良く見つかるなんてこともなく私は来た道を戻り、近くにいる人に聞いてやっとルートを理解できたのだ。

 

そういうわけで私は今走っている。私の持てる全ての力を振り絞って。あのまま歩いていたら、確実に白望さんの下校に間に合わない。いや、走っている今も間に合うかどうかギリギリなのだが。

 

「ハァ……ハァ……ここ何処……?」

 

だが、そこで私の足が止まる。おかしい。いつまで経っても学校につかないのだ。一体どういうことかとあたりを見回すが、今私がいるところは全く知らない場所であった。取り敢えず引き返そうと振り返るが、私が何処からどうやってここに来たのかも分からず、完全に迷子になってしまった。

 

「・・・どうしよう」

 

事態が深刻であることに気づいた私が最初に思ったことは、迷子になったどうしようということよりも、白望さんにチョコレートを渡せないという焦りであった。

渡せない。この焦りがどんどん私の余裕を奪っていく。気づいた時には、既に軽いパニック状態に陥っていた。

そんなパニック状態によって心の堤防が決壊したのか、自然と涙が零れ落ちる。どうしたらいいのかも分からず、途方に暮れていた。

 

 

「・・・照?」

 

 

だが、そんな私の後ろから声がした。振り返ってみると、そこには制服を着ていた白望さんが立っていた。彼女は少し小さめのリアカーを引いており、良く見るとそのリアカーには大量のチョコレートが包装紙に包まれている状態で、山のように積まれていた。

 

「し……白望さん?どうしてここに……」

 

思わず、これが現実のことどうかを疑ってしまう。そりゃあそうだ。ここが何処かも分からない場所だというのに、どうして白望さんはここまで来れたのか。その疑問を白望さんに言うと、白望さんは首を傾げながら私に向かってこう言った。

 

「どうしてって……あれが私の家だからなんだけど……」

 

白望さんはそういって私の隣にある家に向かって指差す。なるほど、そういうことか。つまり私は無意識中に白望さんの家の近くまで来ていたというのか。それを聞いて、今起こっているのが現実のことであるということをしっかりと理解する。いや、ちょっと待て。これが現実だということは、つまり今私は白望さんと二人きりということだ。あれだけ他のライバルもいることが懸念であると思っていたのに、まさかこんな僥倖に巡り合うとは思いもしなかった。

 

「あ、あの……白望さん、これ……」

 

息を深く吐いて、私は持ってきたチョコレートを白望さんに向かって渡そうと差し出す。白望さんはほんの少しだけ微笑み、私のチョコレートを受け取った。

 

「ありがとうね。照……」

 

彼女はそう言って私が渡したチョコレートをまじまじと見つめる。一体どうしたものか、と疑問に思ったその瞬間彼女は私に向かってこう言った。

 

「食べていい?」

 

「えっ……」

 

突然そんなことを言われて私は少し返答に困ったが、ゆっくりと頷くと、彼女は包装紙を取り外し、私が作った手作りチョコレートを一口食べた。私が作ったものだが、味見してなかったため味に保証はない。故に美味しくあってくれと願ったが、どうやらそれは杞憂に終わったようだ。

 

「美味しい……」

 

そう言って彼女は残りのチョコレートを食べ始める。彼女がそう言ってくれて力が抜けたのか、急に脱力感と疲労感が私を襲った。ふと我に帰ると、彼女は既に私の手作りチョコレートを食べ終わっており、私に頭を下げてこう言う。

 

「ごちそうさまでした」

 

「ど、どういたしまして……」

 

そう言われ、私は顔を隠す。自分の顔が仄かに赤くなっているのが自分でもわかる。

 

「どうしたの、照……?」

 

そんな私を疑問に思ったのか、白望さんは私に急接近してきた。それによって私の顔は急激に赤みを増す。そうして私は耐えきれなくなり、私は思いっきり走り出した。

 

「てっ、照?」

 

私を呼ぶ声が聞こえてきたが、何も聞かないことにした。思いっきり……思いっきり走って、気がつけば私は駅に着いていた。

 

(白望さん……ごめん)

 

私は置いていった白望さんに向かって謝罪しながら、私は依然顔を赤くしながら電車へ乗って、東京へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 




明日は豊音!

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