【完結】シオとサマエル、あとリンドウ 作:飯妃旅立
短い短編がポツポツ上がる予定です。
小話1 哀愁
「おー……こりゃまたすげーとこだなぁ」
「でっかーい! たかーい!」
「キィ……」
ディアーナを討滅してから幾年か過ぎた頃。
月は凄まじいスピードで変化を繰り返し、大陸や海を形成した。
地震の起こらない日は無かったし、大陸移動で形成された直後の山脈が噴火して大火事全焼焼野原、なんてこともザラだった。
さらに月の質量やら形やらが変わった事で大分不規則な軌道を描く様になり、地球で言う所のフルムーン、こちらでいうなればフルアースだろうか。 かなり近い距離にまで地球と接近することもあった。 加え、デブリとまではいかないが宙域に浮いていたであろう小隕石と衝突する事も多々あり、量・質ともに衛星ではなく惑星と呼べるのではないかというほどに成長しているのが感じられた。
このことが起こす地球への影響は計り知れない。
元からそう言う事に関しての専門的知識の無い俺でもわかるんだ。 恐らく、地球の科学者たちはてんやわんやしているだろう。
科学者たちが居れば、だが。
ディアーナを討滅してから3年後と少し、つまりGOD EATER 2 RAGE BURSTが起こったであろう時に、月から視認できるほどの勢いで極東部分に大きく白い盛り上がりが見えた。
青と灰の星のその部分だけが、鮮やかな緑になったのだ。
あれが聖域。 史実通りに終末捕食が起きた結果の、今或る文明を消させないためのジュリウス・ヴィスコンティが留めた空間。
けれど、ゲームで見た時よりその範囲は聊か大きかったように思える。
何故なら、極東だけじゃない……月から視認できる程の広範囲、アジア圏の8割ほどがソレになっていたのだから。
シオがソーマ・シックザールと会わなかった事で、ソーマ・シックザールが研究者にならなかったとか? それとも、ここにいる雨宮リンドウが本来あっちで何かする史実だったのか?
まぁ、確認する術は無いんだが。
更にこれからラケル・クラウディウスの試練が待ち受けているのだと思うと、人間たちの受難にご愁傷様と言いたくなる。
地球を離れてから、人類に対する嫌悪感が全くと言っていいほど消えた。
いや、好感も無いんだけどな。 シオや雨宮リンドウが
けどまぁ、蚊帳の外から適当に頑張れば? というくらいには思えるようになったのだ。
これが地球から離れたが故なのか……それとも、これから月に生まれ出でる可能性のある人類に嫌悪感を持たせないためなのかはわからない。
でもまぁ、いいんじゃないか?
神薙ユウとかいう元純人間のバグ野郎は除いても……ブラッド隊の面々とか、ソーマ・シックザールとかは半アラガミ、つまり同族なワケだし。
元人間現アラガミの俺と、似たようなもんだろ。 応援したくなってもいいのさ。
「おーい! なんか新しいのがいるぞー!」
「おいしいやつ!?」
「キィ……」
さて、
俺は、
「おー、懐かしいなぁ。 だいぶ前にいたクビナガじゃねぇか。 赤いけど」
「あかいー! からいー?」
「喰ってみねぇとわかんねぇなぁ。 いっちょやるとするか!」
「おー! 狩りだー!」
理性が戻ったというより、完全に元の性格になっている雨宮リンドウ。
口調こそ幼いが、自我も自己も完全に成長しきったシオ。
俺だけ変化が無いが……まぁ、アラガミだしな。
あ、上の2人もそうか。
「サマエルー!」
「サマエル、頭潰してくれー」
「キィ……」
いや、まぁ……こいつらも何も変わってないか。