【完結】シオとサマエル、あとリンドウ 作:飯妃旅立
恒例の蛇足が1話残ってますが、本編はこれで終わりです。
物凄い勢い……というか、俺にしては珍しい程にテンションの上がった突進をかましてみたのだが、このノヴァ……。
非常に脆い。
セルピナこそ脆かったものの、その親玉であればもっとこう……それこそ神薙ユウくらいの歯応えがあるのかと思ったのだが、全然そんなことは無かったぜ。
俺の身体はいとも簡単にノヴァの外表面を貫通し、光り輝くその他以内に侵入を果たした。
「キィ……」
うわぁ。
運ばれてきたアラガミ……というかオラクル細胞だなこりゃ。
それがくんずほぐれつ……違うな、まぁぐっちゃぐちゃに纏まって圧縮されている。
圧縮しているのは数体のセルピナと……真っ黒いアルダノーヴァ?
んー……? アラガミを圧縮すると何になる?
ウロボロス辺りかヴィーナス辺りが出てきそうだが……。
こいつらコア創ってんのか? いや、圧縮した程度で作れるならヨハネス・フォン・シックザールが創ってそうなもんだが……。 ヨハネス・フォン・シックザールもアラガミ素材集めてたけど、ありゃ母体をつくるためだろう。 元のノヴァの母体があるのに、なんでわざわざ……。
悩んでいると、俺から見て斜め下……まぁつまり光り輝く塔の根元辺りで爆発が起きた。
爆発と言うか、セルピナが勢いよく吹き飛んだ感じだ。
「邪魔ナンダヨ……黙レエエエエエエエエエエエエ!」
雨宮リンドウだ。 視線は真っ直ぐ、真っ黒いアルダノーヴァを見ている。
あと右手のアーティフィシャルCNCが点滅している。
雨宮リンドウの出現を受けて、圧縮に取りかかっていたセルピナ達は一斉に……アレ、俺を見た。 ここは雨宮リンドウを見るトコじゃないのか?
「キィ……」
真っ黒いアルダノーヴァ……長いな、ディアーナとでも名付けようか。 ディアーナはセルピナと違い、アラガミの圧縮を続けている。 いや、圧縮したアラガミボールに穴を開けている?
……まさか。
「ウォォォオオオオオオオオ!」
なるほど、雨宮リンドウは
つまり、雨宮リンドウに語りかけていたのはコイツ。 雨宮リンドウはそれが不快だったんだな。
そんでアバドンよろしく特攻する雨宮リンドウ。 負ける事は無いとは思うが、万が一はあるだろう。
俺としてはシオの行方の方が気にならんでもないのだが、仕方ない。 助けてやるか。
「キィ……」
アラガミボールに突進!
「……!」
流石にそれをされちゃあ敵わんといった感じでディアーナが防御姿勢に入る。 だが、甘い。 俺はサマエル……アバドン神速種だ……ッ! 自称だけど。
ディアーナが防御姿勢に入ったその時点で、既に俺の身体はアラガミボールに着弾していた。 ぐちゃぁという感覚。
「!!」
ディアーナの声にならない叫びのようなものが漏れる。 なんだ、アルダノーヴァっぽいから「アットウテキナチカラ!!」とか言うと思ったのに。
すぐさま鋭角に離脱。
俺がいた場所を光弾が通り過ぎる。 セルピナと違ってそれなりに威力高そうだな。
「クラッテヤルヨォォォォォォオオオオオオオオ!!」
そこへ雨宮リンドウの空中突撃槍が。 紫色の炎剣は、ディアーナの男神に深々と突き刺さった。
途端、雨宮リンドウの右手のアーティフィシャルCNCが光を失った。
恐らくディアーナが切り捨てたのだろう。 だが、雨宮リンドウは止まらない。
「ウォォオオオオオオオオオ! おおおおああああ!!」
ディアーナの女神が光弾を奮う。 だが、それを全く意に介さずに――雨宮リンドウの背から、まるでブラッドレイジでもしたかのような炎の螺旋が現れる。
え、自力で逆鱗壊したって事?
「キィ……」
そして本来のハンニバルが如く放たれるファイアストーム。 物凄い勢いでセルピナが駆逐されていく。
「オー! サマエル、リンドウー! 来タゾー!!」
直上から声。
そして、浮いている俺の身体に着地する何者か。 というかシオ。
何故上から……。
「キィ……」
「上ニいたの、たべてキタゾ!」
マジすか。 あぁ、元のノヴァが自らの母体だったって自覚はあるんだな。
つまり、それに群がっていたセルピナをキレイに食べて来たのか。
とりあえず雨宮リンドウのファイアストームが届かない上空に退避する。 しかし、俺の頭をタンッと蹴る軽快な音と共に、俺の視界にシオの背中が入った。
「キィ……」
「あの真っ黒いノ、ガ、悪イぞ!」
そりゃ知ってる。
あと喋り方流暢になったね。 セルピナの影響?
まぁいいさ。
左、炎剣を2本構えた雨宮リンドウ。 右、触腕を振り回すシオ。
上、最速のアバドン、サマエル。
負ける気がしないな。
「クビナガ! 美味しい奴!」
「おーぅ、今日の飯はアレにすっかー」
「キィ……」
遠くに見えるクビナガリュウっぽいアラガミっぽい何かに向かって2人を連れていく。
近くで放してやれば、瞬く間に戦闘を始める2人。 そして哀れクビナガリュウ。
あの戦いから、早3年が過ぎただろうか。
あの布陣でアラガミ一匹に負けるはずも無く、俺のヘッドショット+シオの捕食+雨宮リンドウの斬撃によって、ディアーナはなんとも簡単に散って行った。
同時に雨宮リンドウの右手に埋め込まれていたアーティフィシャルCNCが砕ける。 すると、瞬く間に新しいアーティフィシャルCNCが出来上がったではないか。
雨宮リンドウの感覚によれば、コレこそが本物の月のコアらしい。 そんなわけで雨宮リンドウはただのハンニバルへと落ちる事も無く、むしろかなりの理性を取り戻したって次第だ。 俺とシオは何も変わらん。
ディアーナが拡散したのか消え去ったのかはわからないが、あれ以来セルピナ含めツクヨミ・アルダノーヴァ系列のアラガミは見ていない。
拡散したなら種として根付いていそうだし、もしかしたら弱った所を月が分解したのかもしれないな。 なんにせよ、これで杞憂は消えた……と言う事でもなく。
散々言っているが、俺もシオも雨宮リンドウもアラガミで、グボロとかコンゴウとかも勿論アラガミで。 アラガミってのは星の自浄作用なわけで。
本来、敵――この場合はディアーナ達がいなくなれば、俺達は消えなけりゃならないのだ。 他の動物や植物……それこそ人間みたいなのが出てこれないから。 だから雨宮リンドウに理性を与えるなんて、まったくの無駄。 そう思ったんだが……。
「サマエル!」
「おおっと、お仲間がいたのか!」
目の前で首を振り回す、全高50mはあろうかという巨大なクビナガリュウ(仮称)を見る。
どうやらこの
最初の1年はオラクル細胞にその身を食われ、ただのアラガミとなる生物も多かった。 というか絶滅するんじゃないかとひやひやした。
だが、次の1年でオラクル細胞に適応する種族が現れた。 そいつらは海とか湖に住んでいて、見た目はまんまアノマロカリスっぽい。 グボロ・グボロより強いけどな。
そいつらは兎に角捕食能力に特化して進化したらしく、オラクル細胞に食われる前にオラクル細胞を喰らい、オラクル細胞が増える速度を見計らって喰らうのを止めたり始めたりする、なんていう体当たりな生存方法を編み出した。 体内でウロヴォロスしてるようなものだ。 その通りと言えばいいのか、そいつらの身体は際限なくデカくなって……自重で動けなくなり、餌が無くて死ぬという進化を辿った。
その中で適度な体の大きさを見つけ、さらに陸に上がったのが今主に俺達(正確にはシオと雨宮リンドウ)の食糧となっている恐竜シリーズだ。
見た目が恐竜っぽいのでそう名付けているが、実際恐竜なのかはよくわからん。 こいつらは陸上に上がってから今まで学習した事を全部忘れた、とでもいう様に巨大化を始めた。 その結果が目の前の光景だ。 どっかにもっとデカい種もいそうだが。
シオが言うには味が多種多様で、普通にアラガミを食べるより美味しいらしい。
俺はこの身体に憑依してから味ってもんを感じた事がないのでわからないが、シオが楽しそうだったのでいいだろう。
「おらぁ!」
「くびちょんぱー!」
クビナガリュウの首が炎剣と触腕によって分断された。
この程度じゃ死なないのがアラガミと恐竜のハイブリットの怖い所だ。
なので、その首の断面に向かって――
「キィ……」
突進! そしてコア……っぽい物を砕く!
肉を突き破って離脱すれば、ゆったりと倒れ伏すクビナガリュウの姿。
オラクル細胞だけが拡散していく。
「いただきまーす!」
「あぁ……ビールが恋しいなぁ」
それすらも逃すまいと2人は捕食する。
オラクル細胞と癒着した恐竜シリーズは、コアを破壊されるとその身に宿すオラクル細胞のみが拡散するのだ。 タンパク質とかその他諸々はそこに残る。 勿論骨も。
そういうものが堆積して、また新しい命が生まれるんだろう。
大分早回しだが、まるで創世期でも見ているような気分だ。
もしかしたら、あと数十年後に人間族が出てくるのかもしれないなぁ。
そうなるとシオと雨宮リンドウは古代人になるのか?
……似合わねえ。 つか、俺はどうなるんだ。
そういや月にアバドンいないし、俺は貴重なサンプル、みたいに扱われるんだろうか。
「キィ……」
「おー? サマエルも食べるかー?」
「ん、なんだよ。 言ってくれたらもっと残してやったのに」
「キィ……」
いらねーよ。
だけど……まぁ、いつまでもこんな感じな気がする。 人間が出てきても関係ないか。
上を見上げると、蒼と赤に染まった星が。
GOD EATER 2かRAGE BURSTが始まっているのだろう。
だがもう関係ない。 さらば地球。
もう混迷は、必要ない。
はっぴーえんど!