【完結】シオとサマエル、あとリンドウ   作:飯妃旅立

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コラボ作品に提出した話がちょろっと出てきます。


小話2 来襲

 

「なぁ、リンドウー」

 

「んー? なんだぁ?」

 

「何、タベテルんだ?」

 

「コイツか? これは大葉ってんだ。 食ってみるか?」

 

「たべるー!」

 

「アラガミになっても美味いとは思わなかったけどなぁ……。 オラクル細胞を含んでるから、か?」

 

「キィ……」

 

「んー……ヘンな味ー! でも、食べれるぞー!」

 

「ちょっと大人の味過ぎたか? っと、アラガミに大人も子供もないか……」

 

「キィ……」

 

 大葉にしては些か……そうね、30倍くらい大きいと思います。

 流暢も流暢、神機使いをしていた頃となんら変わりない雨宮リンドウ。その戦闘能力や生命力は神機使いの時の比ではない上に、最近やってきた来客――否、戻ってきた得物とでもいうべき存在によって向かうところ敵なしだ。

 元から敵らしい敵はいないのだが。

 

「さってビールを……と、ん? あれ、ここに保存しておいた俺のビール知らねえか?」

 

「ビールかー? シオ、言い付け守って、つまみ食いしてないぞー?」

 

「いやまぁお前さんは最初から疑ってないが……サマエル、お前さんは何か知らないか?」

 

「キィ……」

 

 知らん。

 と、言いたいところだが……知っている。行方も知っているし、下手人も知っている。

 

 身体ごと”下手人”を向けば、当の本人はとてもニコニコしてこう言い放った。

 

「リンドウ、ビールは1日1本まで、だよ。すでに今日の朝飲んだろう? 僕が来たからにはそういう所の管理もするからね」

 

「おいおい……そりゃ無いぜ、レン(・・)

 

 

 

 

 

 

 そう――レン。

 雨宮リンドウの神機の精神体。

 神薙ユウと感応現象を起こし、GOD EATER BURSTでは事態の解決を――雨宮リンドウをアラガミから人間へ引き戻すという荒業をやってのけた、素材がディアウス・ピターとプリティヴィ・マータなブラッドサージ&イヴェイダー……の、精神体。

 ひょんな事から地球へ出戻りした俺が、冷蔵庫ごと配給ビールを持ってきた時についでに持ってきたのだ。

 

 精神体と言っても実体はちゃんと存在している上、本来、所有者である雨宮リンドウと無理矢理接続しようとした神薙ユウでなければ見えない&聞こえないはずの姿&声もしっかり俺とシオに知覚されている。

 それはまぁ簡単に言えば俺もシオもオラクル細胞の塊……所謂同族だから、という話だ。

 神機使いに見えなかったレンだが、戦闘時のアラガミに見えていなかったと言う事もなかったはずだからな。

 

「あー、わかったわかった。ビールは諦めるさ……ったく。しかし、安定したビールの供給源が欲しい所だなぁ……サマエルに何度も取りに行ってもらうわけにゃいかねぇし」

 

「キィ……」

 

 いかない、といいながら頼むぜ、という目をしている。

 まぁ構わないが……人類がずっと存在しているとも限らないし、終末捕食が完遂されたかもしれない今の地球にアラガミ(おれ)が行くのは控えたい。地球に何言われるかわからんし、その場で分解される可能性もある。

 とはいえビールを一から作るとなれば、設備やら何やら必要な物がありすぎる。

 味を気にしなくていいのなら製造方法自体は知っているが……如何せんこんな体で、しかも喋る事の出来ない俺ではどうしようも……。

 

「え、サマエルさんビールの製造方法を知っているんですか?」

 

「キィ……」

 

 知ってるが、知ってるだけだ。

 最低でも安全に何日間か中身の液体を漏らさずに保存しておけるタンクが2つは欲しい。

 幸い麦に関しては――ビールに使われる二条大麦っぽいものは発見してあるし、多分にオラクル細胞を含んでいる事を無視すればそのまま使えるだろう。

 同じ感じでホップも存在する。自力で動くけど、多分あれはホップだ。アラガミじゃあない。

 

「大型のタンクですか……大岩を切り出して、中をくり抜くというのはどうでしょうか? サマエルさんが岩の中に入って掘削する感じで」

 

「キィ……」

 

 残念だが、俺に捕食能力は皆無だ。

 俺にできるのは基本的に突進だけで、初速から最速になれるといっても衝撃を一点に集中させるなんて芸当ができるわけじゃない。むしろ岩が崩れるだろう。

 一番いいのは、それこそ地球から引っこ抜いてくることだろうな。ビールの仕込みタンクと発酵タンクを。

 

「アラガミに食べられていなければ、ですね……彼らは何でも食べるから」

 

「キィ……」

 

 まさかアラガミしかいないこの面々が、アラガミの存在を憂う事に成ろうとは。

 ところでシオはともかく、雨宮リンドウは何か知恵を出したりしないのか。お前のための会話だってのに。

 

「全くだね。リンドウは食事の事さえサマエルさんにまかせっきりだし……少しは自分で動いたらどうなんだい?」

 

「……いや、」

 

 雨宮リンドウは頬をポリポリと掻いて。

 呆れたような、驚いたような声色で、こう言った。

 

 

 

 

 

「お前さんら……言葉、通じるんだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこからは早かった。

 いや、それなりの時間がかかったけれど、身振り手振りだけで雨宮リンドウやシオ達に”技術”を教えるより格段に早かっただろう。

 まず俺達は、というか俺は地球へ飛んだ。

 

 勿論ビール工場を探して、だ。

 幸いと言えばいいのかはわからないが、未だに終末捕食は完遂されていなかった。正確に言えば、完遂されたが地球全土を覆うに至っていなかった、というのが正しいだろう。

 原作よりも遥かに広大な……それこそ地球半分を覆う規模の終末捕食が為されていて、その範囲全てが聖域になっていたので出来るだけ近づかないようにしたが、残された半分は未だ荒廃したまま。

 アラガミもしっかり跋扈しているし、神機使いも奮闘しているように見えた。

 

 何の皮肉か、極東支部やフライアが聖域に絡め取られているのは見えたにも拘らず、フェンリル本部や……確かヒマラヤ支部だったか? は荒廃した世界にあり、しかしその周囲に会った外部居住区はきれいさっぱりなくなっているのが印象的だった。

 恐らく聖域に移住したのだろう。

 つまり今聖域で無い部分に出張っている神機使いは存在を追いやられたか、まだ移住の終わっていない人間を守護しているのだと思われる。

 奴隷根性甚だしいとは思っていたが、一体現在の地位はどれ程まで下がっているのか。

 

 最早違うゲームだな。

 

 さて、話をビール工場に戻そう。

 先程の話にも少しかかるが、フェンリル本部……フィンランドにあるここだが、そもそもフェンリルってのは生物工学、生物化学に特化した穀物メジャー資本の一企業。

 そんでもって配給ビールの配給元。

 

 ここまでくれば、わかるだろう……荒廃した世界側にあるフェンリル本部に、ビール工場があるだろう、という事は。

 

 ちなみにこの情報というかアイデアは雨宮リンドウの産物だ。

 ビールの事に関するアイデアは並々ならぬな。

 

「キィ……」

 

 さて、そんな北ヨーロッパはフィンランドにやってきたわけだが、フェンリル本部はとても速く見つかった。

 でかいし。

 

 しかし本部という事もあって警備が厳重だ。神機使いもうじゃうじゃいるし、ヘリも常時飛び回っている。

 ヘリを一機一機落として神機使いを一匹一匹殺すのも出来ない事ではないのだが、スマートじゃない。あんまり派手をやらかすと神薙ユウが出張ってくる可能性もあるし。

 

 よって俺は、他を頼ることにした。

 

 

 

「グァォ……!!」

 

「キィ……」

 

「ギャギャギャギャ!!」

 

「キィ……」

 

「オォォォオオオオオ――ン!」

 

「キィ……」

 

「ガルルルル……」

 

「キィ……」

 

 とまぁ、やることは簡単で。

 各地に居た強そうなアラガミ達を咥えては運び、咥えては運び。

 当然、運ばれている間だけでも怒り狂っていたアラガミ達は、降ろされた場所でも暴れ回る。沢山の神機使いが動員されるほどに。

 終末捕食がとりあえず終わったからだろう、感応種が居なかったのが残念だが、キュウビのレトロオラクル細胞が拡散し終わったらしく、紫と白と金色が特徴的なアラガミ達が多々見受けられた。

 ハンニバル神速種や白鉄の暴走神機兵に始まり、グボロ・グボロやコンゴウのレトロオラクル細胞種まで見られた。まぁ雑魚なのだが。

 

 とりあえず片っ端からフェンリル本部周辺に放ってやれば、もう大混乱だ。

 高難度任務の難易度15でもこんなお祭り騒ぎは無かっただろう。

 そんな混乱が起きれば、当然ビール工場なんて手薄になる。

 手薄も手薄、ヘリの一機すらいなくなる始末だ。

 

 ま、アラガミを陽動に使ってビールタンクを盗もうとしている奴がいるなんて思いつく奴が居たら怖いわな、うん。

 

「キィ……」

 

 ……あ。

 ……宇宙、どうしよう。

 

「キィ……」

 

 帰るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、確かに僕達のミスですね。特にリンドウの先行きを見ない発言が原因です。無駄足を踏ませて申し訳ありません」

 

「足? サマエル足ないぞー?」

 

「あぁ、ここでいう無駄足っていうのは――」

 

 結局、手ぶらで帰ってきた。

 一応試しにタンク1つ引っこ抜いて宇宙空間に出てみたが、案の定べっこべこだ。 

 スペースデブリになって月へ落ちてきても困るので元の所へ戻しておいた。

 

「でも、お前さんが収穫なしで帰ってくるとは思い難いが……どうだ、外れちゃいねぇだろ?」

 

「キィ……」

 

 まぁ、うん。

 正解だ。

 

「――という意味なんだ」

 

「よくわからないけど、足の事じゃなくて行った事、ってことだな!」

 

「うん、正解だ」

 

「おぉー! シオ、偉いか?」

 

「うん、正直驚くほどの学習能力だよ……もうリンドウより頭が良いんじゃないかな?」

 

 辛辣だなぁ。

 

「キィ……」

 

「これは……図? もしかして、これはタンクの構造か?」

 

「キィ……」

 

「新人用のマニュアルを掻っ攫って来た、ですか……中々大胆ですね、サマエルさん」

 

 そう。

 流石に何も無しで帰るのは俺が嫌だったので、適当に宿直室にあった新人用マニュアルを根こそぎ奪って来た。

 宿直(とのい)は俺を見ただけで気絶してくれたので、今回は珍しく人間も神機使いも殺していない。まぁ運んできたアラガミが何人屠ったのかは知らないが。

 

 あとはレンと雨宮リンドウが頑張るだけだ。

 タンクに関してはいい方法を思いついている。折角穴があるのだ、使わない手は無い。

 

「ディアーナのいた大穴……ですか? 失礼ですが、ディアーナというのは……」

 

「キィ……」

 

 あぁ、レンは後から来たから知らないんだな。

 簡単にディアーナとセルピナに関する顛末を話すと、

 

「そんなことが……」

 

 とか、

 

「全くあの支部長は最後まで……」

 

 とか呟いていた。

 仮にもリンドウがアラガミ化する原因となった奴に思う所があるのだろうな。

 

 ちなみにだが、

 

「なんだ、あいつディアーナって名前だったのか。あの脆いのはセルピナ? へぇ」

 

「ぜんぜんおいしくなかった!」

 

 と、2人の反応はこんな感じである。

 まぁ命名したのが俺な上、俺とこいつらは喋れないからな。

 最近なんとなく意志が伝わるようになっているが。

 

「……うん、まだしっかりとじゃないけど理解できた……かな。その大穴、案内してくれるかい、リンドウ」

 

「おう! いや、地球産のビールも懐かしくて良かったが、何分オラクル細胞が一切含まれてないのがな……。こっちで作りゃ、ちったぁシオやレンも飲める味になるだろ?」

 

「……あぁ、わかった。初恋ジュースってオラクル細胞の味だったんだ……だからあんなに美味しく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かくして。

 未だ創世記真っ盛りなこの月において、ある意味オーパーツとでもいうべき品が出来上がる。

 月のとある場所に造られた、地中深くまで掘られた球状の大空間。

 そこになみなみと蓄えられた、黄金の水。

 飲めばたちどころに気分がよくなり、性格さえも変わってしまうというその水は、後の世に於いて『神の雫(ソーマ)』と名付けられるのだが。

 それが果てしない程のネーミングであるということは、終ぞ知られることが無かった。

 

 そしてもう1つ。

 

 この星由来の物ではない、と断言できるソレ。

 なぜ断言できるのかと言えば、材質に一切のオラクル細胞が含まれていないから。

 

 この星に住まうモノは皆、生物無機物問わずオラクル細胞をその身に宿している。

 故に、この()は宇宙からの飛来物であると、誰もが信じた。

 

 まさか神の雫(ソーマ)の原型を収めていた物であるとは、誰もが想像し得なかったのだった。

 













オーパーツ:ビール工場

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