【完結】シオとサマエル、あとリンドウ   作:飯妃旅立

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IFとはいえ、完全オリジナルストーリーです。
前作『混迷を呼ぶ者』の第二部ラストからの分岐となります。

サマエルについては前作を参照ください。


Challenger
然りて、混迷は境遇を確認する。


「キィ……」

 

「サマエルー、ゴハンだ、ぞー?」

 

「とっとと連れていけ……狩りはヤッテヤル……」

 

 どうしてこうなった。

 

 

 

 

 

 

 事の始まりを考えよう。

 そう、あの最終決戦の日の事だ。

 

 雨宮リンドウがアルダノーヴァを軽く捻じ伏せ、楠サクヤに大けがを負わせたことで吹っ切れたように動きに迷いが無くなった。 うん。

 同時に俺はノヴァの母体へとシオを届ける事に成功し、大量のアバドンと共に母体を囲うも意識外の戦略によりノヴァを引きはがされてしまった。 うん。

 そしてジャラジャラという音と共にノヴァの母体に鎖が撃ち込まれ、アーク計画に使われる予定だったのであろうロケットが発射。 母体、リンドウ、俺ごと月に引っ張られた。

 

 

 うん?

 

 

 ふよふよと浮きながら見る地面は、白亜紀とかジュラ紀だと言った方がしっくりくるような大自然におおわれている。

 主な勢力としてはシダ勢が強く、ウロヴォロスの背中くらいの大きさのシダまであるのだから驚きだ。

 そんな大自然の中で、こちらに笑顔で手を振っている少女が1人。

 

 シオだ。

 

「サマエルー? おりてこーイ」

 

 彼女の口調は原作でも見なかった程に流暢なモノとなり(男っぽい口調なのは仕方がない)、単語も沢山覚えている。

 そして。

 

「早くしろ……何か……警戒するモノがあるのか……」

 

 人間サイズで(・・・・・・)右半身を真っ黒に染め上げた雨宮リンドウ。 感覚的にはハンニバルにしか思えないのだが、姿形は雨宮リンドウだ。 雨宮リンドウ(侵食)と名付けられそうなくらい雨宮リンドウだ。

 

「キィ……」

 

 最後に俺だが。

 俺は特に何も変わっていない。

 相変わらず音速を越え得るスピードが出せるし、どんだけ重い物を咥えても重さを感じない。

 唯一……これは体感でしかないのだが、聞こえるのが地球の意思ではなく月の意思になった事くらいだろうか。

 

「キィ……」

 

 さて、行くか。

 

 俺の意思をどうやって悟っているのかはわからないのだが、シオは雨宮リンドウに抱っこを強請(ねだ)る。 篭手じゃない方の手で抱える雨宮リンドウ。

 そんな雨宮リンドウの襟首をおれがくわえ、空に浮きあがる。

 

 お、良い所にグボログボロ。 ランチになってもらおう。

 

 そこまで急ぐ事でもないのでスィーと宙を移動し、シダ植物をガツガツ食べていたグボログボロの後ろに降り立つ。 食事に夢中なようでこちらには気付いていない。

 

「ゴハンー!」

「今日は魚か……ビールが恋しいな……」

 

 魚ではないと思います。

 

 

 

 

 

 サクっとグボログボロは絶命する。

 これをしたのが神機使いであれば、身体を構成する過半数……いや、9割のオラクル細胞の拡散を許していただろう。

 だが、ここにいるのは食いしん坊2人。 主に白い方の食いしん坊が、それを許さない。

 地面へと触腕を這わせ、黒ずんで拡散していくオラクル細胞のほとんどを受け止めて食した。 また、それを固めて雨宮リンドウに差し出す。 加工技術まで覚えているのだ。

 結果月へと拡散するオラクル細胞は極わずかなモノとなり、それが爆発的なアラガミの増加を防いでいるのだと俺は見ている。

 

 本来アラガミとは星の自浄作用だ。

 

 地球であれば人間。 あの害たる人間が増えすぎて、環境を壊しまくった故にオラクル細胞がそれを排除しようと動いた。

 だから、害がいなくなればアラガミは自然に霧散する。 本来ならばそれが正常だ。

 

 俺達が辿り着いた月には当初、明確な敵……星の害は居なかった。

 ノヴァの母体は月へと着弾してすぐに地表を覆い、緑を生んだ。 岩肌が残っている部分もあるが。

 シオは排出され、意識もそのまま。 雨宮リンドウは地球の恩恵たるアーティフィシャルCNCを失ったので暴走するかと思いきや、即座に緑色のアーティフィシャルCNCが形成されたのを俺は見逃さなかった。

 

 月に特異点として認められたのだ。

 

 自浄する必要のない星で、特異点として認められる。

 この異常さがわかるだろうか。

 

 ノヴァの着弾と同時にその触腕からアラガミも生まれた。

 まぁシオと雨宮リンドウの食事になってくれるので都合は良いのかもしれないが、これも異常だ。 

 アラガミは自浄作用だが、自然環境が整っている状況でそれを放てば害にもなる。

 荒療治故に、自然は勿論地表まで喰ってしまいかねないからだ。

 

 当初アラガミを見た時は、もしかしてコレ全部俺達が駆逐しないといけないのではないかと疑ったのだが、どうやらそうでもないらしい。

 

 植物に敗けているのだ、アラガミは。

 

 いや本当に。 初めて見た時は目を疑った。

 食虫植物に喰われる、オウガテイルの姿。 食アラガミ植物か?

 先のグボログボロのように食されていたシダ植物も、1日2日立てば元通りに、いやさらに大きく成長するだろう。

 ノヴァの母体という地盤は、凄まじいまでの肥料になっているのかもしれない。

 

 最後に、星の害についてだが。

 

「キィ……」

「ム、来たなー!」

「先手は俺がやる……後から来イ」

 

 ゆらりと現れた、ヒトガタのソイツ。

 身体には青色のラインが走り、手足の先は鋭く尖る。

 顔は真白の単眼。 頭には月輪。

 

「ウォォォォォォオオオオオオ!」

「負けないゾー!」

 

 そう、地球にいたアラガミ、ツクヨミ……のような姿をした何かである。

 死んだ後にオラクル細胞として拡散しないことから、アラガミでないことはわかっている。

 個体数も少なく、どこか1点に佇んでいる個体もあればあの蜘蛛のようなフォルムで移動し続ける個体もある。

 通常種っぽい見た目の奴以外にも3、4種類いるようで、そのどれもがパターンに添わない動きをする。

 捕食している所は見たことが無いし、何より俺の感覚がこいつがアラガミじゃない事を告げている。

 

 このナニカが、現在の月の害だと。

 

 月詠の姿をしたモノが月の害というのは、なんだか皮肉な話だ。

 

 

 

 

 

「終わったか……相変わらず喰らっても食べている気がしねぇ……」

「土よりも不味いー」

「キィ……」

 

 とりあえず俺達はこのツクヨミっぽい何かを駆逐するために動いている。

 アラガミもその気はあるようで、ツクヨミっぽい何かと交戦しているのを多々見かける。

 結果は芳しく無いようだが。

 

「水場……」

「お水飲みたいゾー!」

 

 探せってか。

 はいはい。

 

 感知範囲を広げ、水音を――って。

 

「キィ……」

「ん……? なんだ、そっちにあるのカ……」

「のど渇いたー!」

 

 シダ植物を掻き分ければ、水たまりの様な大きさの水源。 水質はとても高い。

 こういう場所は数多く点在しており、それこそ湖のようなモノからこのような水たまりレベルのものまで様々だ。

 俺自身は食事も水も必要ないが――アラガミにも本来必要ないと思うのだが――気分の問題か、本当に喉が渇いているのか。 まぁ美味そうに飲んでいる辺りどうでもいいか。

 

「キィ……」

「ビール……」

「ビールってなんだー?」

 

 シオは未成年……なのか?

 ノヴァの母体にしても生まれてから数年。 シオ自身も数年。 

 じゃあビールはまだ早いな。

 

 さて、ツクヨミっぽい何か探しに行きますか。

 




他のss終わってないのに欲張りすぎなんだよなぁ……

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