帰ってきてしまった例のちょび髭   作:べすぱにあ

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処女作です
ビシビシ評価お願いします


1936年の始め

私は、一国の首相だ

いや、「だった」の方が正しいかもしれない

何故なら、たった今、私は自分の口に銃を突っ込んで、その引き金を引いたのだから...

 

おかしな話かもしれないが、自分の頭をぶち抜いた後でもこうして意識は残っていたし、周りの景色も見えた

人は死ぬとこうなるのか、ともぼんやり考えていたが、やがて一つの思いが頭を駆け巡った

 

「なぜこうなってしまったのだ?」

 

私は首相になってから民衆の願いを叶え続けた

失業率もグッと下げた

公害対策だってした

経済も好調だった

アウトバーンを作った

ドイツ軍を過去最強にまで押し上げた

悪徳ユダヤを消し去った

欧州を征服しかけた...

 

そもそも、なぜ私のドイツ軍が負けたのだ?

フランスを征服したところまではよかった

イギリスを攻め落とせなかったのは、なぜだ?

いや、それは無能なゲーリング&空軍の所為だ

他はよかったはずだ

 

それは置いとくとして、なぜ

ソ連にまで...

やつらの国は腐っていた

だから負けるはずがなかった...

 

やはり、全部、無能な将校の所為だ

私の計画は全て正しかった

それをやつらは...

本当にやるべきだったな、あのスターリンのような大粛清を!

腕を振りかざして激昂したいけどできないこの状況

悔しい、悔しすぎる

 

ふと我が妻エヴァのことを思い出した

彼女には可哀そうな事をした

ずっと待たせた結果がこれだ

1941年頃に結婚するべきだったか?

結婚式をするのであれば

シュペーアに結婚式会場を建てさせよう

スピーチには親友のクビツェク

結婚式会場を出て上を見上げると、そこにはイギリスを手にしたドイツ空軍が...

 

 

 

余計悲しくなった

 

 

もう時間か?

視界が暗くなってきた

デーニッツ、あとは頼んだぞ

ああ、でも、できれば、勝利を手にしたかった

 

ロンドンが陥落したイギリスの土を踏みたかった

 

スターリンが死んだソビエトで、いかに共産主義が劣っているか演説したかった

 

焼け野原になったアメリカで、日本人と手を取りたかった

 

アフリカで、ムッソリーニと食事をしてみたかった

 

ユダヤが駆逐された世界を生きてみたかった

 

なんだ、私の人生悔いだらけじゃないか

自嘲しながら意識は暗転し

ヒトラーという男の人生は終わった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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【一回目】1 9 3 6 年 4 月 3 0 日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます総統、少し寝すぎなのでは?」

 

よく聞きなれた声が聞こえてきた

宣伝相のゲッベルスに違いない

ゲッベルスも死んだのか

まああの世がどんなものかこの目で見てやろうじゃないか

私は重い瞼を開けた

驚いたことにそこは私の昔の部屋そのものだった

私はベッドに居た

ドアの近くにゲッベルスが立っていた

 

「流石に14時になっても起きてこないのは異常かと思いましてね、失礼ながら部屋に入らせていただきました」

 

ああ、ゲッベルス、もうよいのだ

死後の世界なんだからもう少し自由にしろ

そう思い私は声を出した

 

「ああ、別に全然平気だ、それよりも何故お前もここにいるのだ?一緒に死ぬ必要などなかったぞ」

 

「はあ?総統も私もピンピンに生きてますよ、てか総統残して死ねませんからね」

 

「ここはあの世だろう!ゲッベルス!1945年にドイツは負けた!私も死んだのだ!」

 

「総統...?」

 

「じゃあ何か証拠を持って来い!今すぐにだ!私とお前が生きている証拠をな!あとドイツがまだ

健在である証拠もだ!」

 

私は声を張り上げた

ゲッベルスは青ざめて、ナチス式敬礼をするとすぐに部屋を出ていった

ゲッベルスめ、気でも狂ったか

おや、あそこにいるのは...私の愛犬ブロンディじゃないか!

私はベッドから立ち上がると部屋の隅にいた犬を撫でに行った

やけに体が軽い

 

 

 

 

 

ブロンディを愛でていると、医者を5人ほど連れてゲッベルスが戻ってきた

医者は私を半強制的に近くのソファに座らせた

 

「何か嫌なことでもありましたか?」

 

私を精神病患者にしたいらしい

 

「特に何も!私が死に、ドイツが負けたこと以外はな!」

 

「ドイツはまだどことも戦争をしていません」

 

医者の一人が反論してきた

 

「違う!ドイツは確かに1945年に負けた!あの憎きソヴィエト...「少し待っててください」」

 

別の医者が部屋を出ていった

私は苛ついていた

コーヒーを要求し

コーヒーはすぐに運ばれてきて

私はそれを飲みながら、医者を待つ

しばらくしてそいつは戻ってきて、こう言った

 

「とりあえずこの新聞をお読みになって下さい」

 

そう言うと新聞を私に渡した

読んでみた

コーヒーを噴き出しそうになった

 

 

 

 

 

日付が1936年の4月30日である

これは皆が私を騙そうとしているのか

それとも理解しがたい状況がここで起こっているのか

私はすぐに立ち上がると制止の声を振り切って部屋を出た

外に出るまで何人かのドイツ人に会ったが、そいつらに聞いても今日は1936年の4月だ、と言う

というかよく見たらここ、総統官邸そっくりである

まさか、まさか、まさか...

 

外に出るとドイツ人が何十人も歩いていた

それも破壊されていない市街地を、だ

私の疑念は確信に変化した

私にはもう一度やり直しのチャンスが与えられたのだ

どうしてこうなったかは分からないが、嬉しくて飛び跳ねてしまった

頬をつねってみたが夢ではない

こうなったら大改革だ

まず無能な将校を大量に粛正するぞ♪

それからそれから...

私に気づいた民衆の波に埋もれながら、そう思っていた

 

 

 

この時の楽観的な考えはすぐに潰れた

私は気づいていなかった

ドイツが勝利を手にする難しさを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




登場人物はドンドン増やしていく予定です
更新は早めにしていきます

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