鉄火の銘   作:属物

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第二話【スペースモンキーズ・オン・ドヒョーリング】#1

【スペースモンキーズ・オン・ドヒョーリング】#1

 

「イタイな……イタイよ……」”イカワ・イーヒコ”からか細い声が漏れた。言葉の通り痛くてたまらない。頬はジンジンと腫れ、口の中は血でいっぱいだ。足の爪は幾つか剥がれたし、指に至っては内出血で半ば無感覚になってる。

 

複数人にイジメ・リンチでもされたかのような様だ。あながち間違いでもない。事実、ヤンク・センパイに目を付けられ、イーヒコはイジメ・リンチ目的で校舎裏に呼び出されていた。違いは二つ。一つはイーヒコが果敢にも殴り返したこと。

 

そしてもう一つは割れた眼鏡に写る光景がその答えだ。「グ……ワ……」「ア……バ……」「オ……ゴ……」折り重なって倒れる人、人、人、計五人。不公平な殴り合いの末にKO勝ちしたのはイーヒコの方だった。全員を土のマットに沈めている。

 

コワイに勝ちたいと始めたカラテ・トレーニングを、一日たりとも欠かさなかった。兄の伝手で入会したデント・カラテドージョーでも、一年間のカワラ割りパンチ修行を倦むことなく続けている。ナードな外観に潜む確かなカラテの才能は、イジメ・リンチの場で遺憾なく発揮された。

 

命令されて殴った一人目を反撃のボディフックで沈め、嘲笑う二人目の鼻っ柱をカラテストレートでへし折る。低空タックルの三人目はカワラ割りパンチで地面とナカヨシ。四人目からは……どうだっただろう。バットスイングを横っ面に受けてからイーヒコの記憶は曖昧だ。殴ったような、蹴ったような。

 

なんにせよ勝ったのは確かだ。身動き一つとれない五人がそれを証明している。「イタイ……イタイ……」だからこうして安心して泣き言を漏らせる。「スッゲ……!」だが、漏らした弱音に真逆の賞賛が被せられた。

 

「スッゲェよお前! ッタタタ……」誉め言葉の出所はうずくまる一人目だ。まだ腹が痛いのか押さえたまま首だけ上げてイーヒコを見ている。「ヤンク・センパイ全員ぶっ飛ばしちまった! お前スッゲ!」そしてその目は憧憬めいた光で輝いていた。

 

「なぁ! なぁ! 名前! 何て言うんだ!?」「……え、イカワ・イーヒコだけど」イジメ・リンチの尖兵だったのに、当然のように距離を詰めてくる。敵意があるなら殴ればいいが、好意を見せる相手にはどうするのか。頭でっかちで人生経験不足のイーヒコは流されるだけだ。

 

「俺、アイダ! ヨロシクな、親友!」「アッハイ、ヨロシク……?」下級生の癖にソンケイが足りないとイジメ・リンチをふっかけられて、気づけば一人がトモダチ通り越して親友になっていた。詐欺にでもあった気分だ。

 

「動けるようになったらさ、飯食いに行こーぜ!」「カネ、ないけど……」「センパイのポケットにあるぜ!」「いや、それ犯罪……」「固いこと言うなって! イジメリンチも犯罪だろ?」「いや、お前も……」「固いこと言うなって! 美味い飯オゴるからさ!」「センパイの金で?」「センパイの金で!」

 

アイダはC調全開で話をズンズン進めていく。軽薄軽妙なお調子者にどう反応していいのやら。まるで解らずイーヒコは天を仰ぐ。割れた眼鏡越しのゆがんだ曇天は、何も答えてはくれなかった。

 

 

【鉄火の銘】

 

【鉄火の銘】

 

 

カツン、カツン、カツン。鉄の階段が足音を響かせる。「けどさぁ、なんでキスしなかったわけ?」「……フツーに考えて嫌がるじゃん」「いやいやいや、どう見てもあの子キス待ちだったでしょ! なんで押さないかなぁ?」イーヒコとアイダ、二つの影が錆びた階段を下っていく。

 

「前々から言いたかったんだけどさ、正直あーいう場所、苦手なんだよ」「苦手をそのままにしちゃいけませんってセンセイも言ってたじゃん。もっとアソビを楽しまなくちゃ!」ちらつく蛍光ボンボリが足下を薄暗く照らしている。降りた段数から見てもひどく深い。

 

「アソビって……ダンスとクラブはいいとしても、バリキにタノシイにメガデモってほぼ違法でしょ?」「つまりほとんど合法行為! ダイジョブダッテ!」相も変わらぬアイダの調子にイーヒコは長い息を吐く。押し掛け親友になってからずっとコレだ。

 

……ガールズバーにゲームセンター、ダンスフロア。一方的なトモダチ宣言の後、次から次へと怪しい盛り場へ引き回された。正直、気疲ればかりで楽しめなかった。女の子を紹介されても何を話せばいいのかまるで判らない。兄のカチグミな親友なら上手く流すのだろうが、経験不足で固まるばかりだった。

 

唯一興奮したのはダンスフロアでヨタモノを殴り倒した時だ。金切り声のチェンソー・ナイフを紙一重で避けて渾身のカラテパンチをたたき込む。ハイビートのBGMと合わさって血が沸騰する一瞬。その後は露出度の高いパンクゲイシャがベタベタしてきて固まる羽目になったけど。

 

「これだからイーヒコくんはマジメで困る」「マジメで何が困るんだよ」「そんなイーヒコくんのた〜め〜に〜、今日は特別に紹介してやるよ!」「何を?」「すぐにわかるさ」イーヒコの問いかけに意味深な笑顔を浮かべ、アイダは階段を下る足を速めた。

 

やっとたどり着いた長い階段の底には、錆びにまみれた分厚い鉄扉。その直前でソンキョ座りの巨漢がIRC端末を弄んでいる。(((こいつ、強い)))イーヒコの目でも判った。どう殴るか、どう勝つか。即座にイマジナリのカラテを算ずる。肉体も自然と即応の構えを取る。

 

肉塊めいた巨漢も拳を床に着けた。タチアイの形。一瞬でダンプカーめいたぶちかましが来る。空気が張りつめていく。「あー、ガチンコ本場所注射なし」「入れ」が、あっさり弛緩した。「おい……!」「ケンカしたきゃこの後で」抗議の声もあっさり流される。

 

「マジメだけど血の気が多いねぇ、イーヒコくんは」「……」アイダの言うとおりだ。イーヒコは長い息と共に熱を吐き出す。ダンスフロアの一件以来、いやヤンクセンパイをKOしてから何かと昂ってしかたがない。試合や稽古とも違う、血が煮えたぎるあの瞬間が焼き付いてる。

 

「さぁて、女の子とのお喋りもダンスもゲームも苦手なイーヒコくんにお似合いの場所だ!」「どんな場所だよ?」「こんな場所だよ!」重い扉が軋みながら開く。熱気と湿気と罵声と大声が飛び出した。

 

「ハッケ! ハッケ! ハッケ! ヨーイ! ハッケ! ハッケ! ハッケ! ヨーイ!」ケチャかハカを思わせるリズミカルな合いの手! 「「「ノコータ! ノコータ! ノコータ! ノコータ!」」」祭囃子めいたウォークライが響き渡る! 

 

「「ハッキョーホー……ドッソイ!」」BUMP! 大型車両めいた突進がぶつかり合う! 「「……ッッッ!」」砕けんばかりに歯を噛みしめてマワシ代わりのベルトを引き合う! 「ドッソイ!」「グワーッ!」ウッチャリで顔面と床が正面衝突! 「フゥーッ! フゥーッ!」折れた歯と血を吐き捨ててシコを踏む! 

 

「これ……何だよ……!?」今、自分の体温は何度あるのか。扉から噴き出した熱に炙られて、イーヒコの血が沸点へと近づく。アイダは笑って壁を指さした。一面に描かれるソリッドなウサギとカエルの絵。そこに答えがセクシーな書体でショドーされている。

 

「『オスモウ・クラブ』さ」

 

ーーー

 

……江戸時代、時のショーグン・オーヴァーロードは幾度となく辻オスモウを禁じた。しかし至る所で繰り広げられる違法オスモウを前には空文に等しく、逮捕者の晒し首を前にオスモウ大会が開かれる様であったという。

 

その過去故かオスモウには血のアトモスフィアが付き纏い、非行少年達は強くオスモウを嗜好する。必要なのは漢が二人。輪っか(リング)を描けばそこが土俵(リング)だ。『マワシを締めずに粋がる不良はいない。』このプリミティブなスポーツは、アウトローの本能を刺激する。

 

そして、ここ『オスモウクラブ』はその極北にあった。ここには江戸時代のオスモウ英雄を謳うコリードも、リキシDJのパワフルなラップもない。オスモウチョコもテキーラもない。それどころか行司すらいない。

 

コンクート打ちっ放しの天井、釣り下げられたタングステンボンボリ。床にはダクトテープのドヒョー・リング。そして何より、全身全霊でぶつかり合う雄達。余計なものなど何一つない。ただオスモウの為だけの空間がそこにある。

 

「オスモウクラブ第一条『オスモウクラブについて口外するな』」

 

門番の巨漢は案内役を兼ねていたのか、イーヒコとアイダを先導しながらルールを告げる。独り言めいた台詞をかき消すように横で歓声が上がった。誰かが誰かを投げ飛ばしたのだろう。

 

「オスモウクラブ第二条『オスモウクラブについて口外するな』」

 

人だかりから漏れ見える光景には、儀礼もなければ賞金もない。スモトリと観客の区別すらない。人の輪から出てきた雄二人が立ち合い、ぶつかり合い、投げ合い、殴り合い、血を噴きあう。倒されれば次へ。それがひたすらに繰り返されている。

 

「オスモウクラブ第三条『オスモウクラブについて質問するな』」

 

門番の足が止まった。太い指が向けられた先はドヒョーリングの一つだ。他に比べて人数が少ない。門番の存在に気づいたのか人の輪が割れる。中央には門番に負けず劣らずの巨体がシコを踏んでいる。

 

「オスモウクラブ第四条『初めてクラブに来た者は必ず一度トリクミをしなければならない』」

 

つまりやれと言うことだ。熱が腹の底からこみ上げてくる。身震いするとイーヒコはドヒョーリングに足を踏み入れた。巨体のオスモウ戦士が獰猛に嗤う。イーヒコも口角をつり上げて返した。顔がひきつってないといいけど。

 

「オスモウクラブ第五条『ドヒョー内の足裏を除き、床に触れたら負け』」

 

「他には?」「ない」イーヒコの問いに巨漢は当然の顔で返した。拳も蹴りもチョップも肘も多対一もルール違反でないらしい。そもそもルールがないのか? なんたるプリミティブにしてバイオレンスなオスモウ空間か! 

 

「ハッケ! ハッケ! ハッケ! ヨーイ!」アイダが手拍子と共に囃しの声を上げた。「「「ハッケ! ハッケ! ハッケ! ヨーイ! ハッケ! ハッケ! ハッケ! ヨーイ!」」」つられて人の輪も両掌を打ち合わせ、発揮揚々の声をかける。

 

オスモウ戦士が両の拳を床に着けた。イーヒコも腰を落としカラテを構える。囃し立てる周囲が遠ざかる。世界がドヒョーのサイズに収束していく。(ドヒョー)(オスモウ)(カラテ)。これで全てだ。これが全てだ。

 

ドン。「ドッソイ!」オスモウ戦士が膨れ上がった。イーヒコが突き出す拳より早い。鳩尾にチョンマゲがめり込む。「グワーッ!」BUMP! 絶叫と一緒に肺の空気が絞り出される。だが、カチ上げを喰らいながらも、イーヒコは腰を浮かせはしなかった。

 

「ドッソイ!」故にオスモウ戦士は掴んだベルトを引き寄せる。下から上へ。浮かせて櫓で投げるつもりだ。イーヒコは更に腰を落とした。上から下へ。それは一日たりとも休まずに続けているベーシック・アーツ……カワラ割りパンチだ。

 

「イヤーッ!」「グワーッ!?」肉弾装甲の隙間を縫って脊椎に拳がめり込む。後頭部か首を狙いたかったが四つ手の引き寄せはそれを許さない。それでも両手が緩んだ。「イヤーッ!」「グワーッ!」捻り込みの低空左スマッシュで横面をカチ上げる。目が合った。生きた目だ。来る。

 

「イヤーッ!」「ドッソイ!」右フックが頬にめりこみ、ハリテが顔面を吹き飛ばす。「「グワーッ!」」互いの首が跳ねた。だが目は逸らさない。目の前の敵だけを見つめている。鼻血を噴いて、血の唾を吐き捨てる。牙剥くかのような笑みが自然と浮かぶ。

 

ヤンクセンパイのKO、ダンスフロアの一件。どうして血が昂っていたのかよくわかった。好きなのだ。習い覚えたカラテを使い、誰かを思い切り殴り倒すのが……大好きなのだ! 

 

『貴方は何の為に……』耳の奥でセンセイの声が微かに聞こえた。『……に勝ちたいです』応える自分の台詞がニューロンに流れた。「イィィヤァァァーーーッッッ!!」「ドォォォッソイッッッ!!」だがそれらはシャウトとアドレナリンに紛れ、瞬く間に消え失せた。

 

 

【鉄火の銘】

 

【鉄火の銘】

 

 

「つまりコレだけ売り上げが出るんですよ! コレはスゴイんですよ!」アジテーターめいたプレゼンテーターの掛け声に合わせて、グラフがフジサンを超えて雲を突き抜ける。

 

『イヨォーッ!』合いの手と共に装飾過剰のアニメーションが動き回る。「そうか」だが説明を受ける人影……オスモウクラブ主宰者の心は僅かなりとも動きはしなかった。『極めて魅惑的』『千客万来』『大入り』幾つもの極太ミンチョ体のアッピールも、馬にネンブツめいて流れさるのみ。

 

「エートですね、無論我々から有能な人材を派遣させていただきます! それもお安く!」ソファーに沈む主宰者の無反応ぶりに危機感を抱いたのかプレゼンテーターがスクリーン横の暗闇に目配せする。

 

「「「ドーモ、お手伝いさせていただきやす」」」プロジェクターの前に現れたのはヤクザスーツとサイバーサングラスの厳つい男たちだ。『プロフェショナル』『合法で有能』『荒事にも丁寧な対応』流れる欺瞞的コピーライトで覆い隠そうとしているが、彼らのヤクザ性は明らかだった。

 

むしろ、判りやすい欺瞞を見せつけることでその危険性を表現しているといえよう。事実、並のカイシャなら震え上がって従うであろう婉曲的暴力性アッピールだ。「そうか」それすらも主宰者は無関心に聞き流す。

 

「では、ご契約ということで?」「しない」何故なら初めから承ける気も何も無いからだ。「ザッケンナコラーッ!」「ソマッシャッテコラーッ!」「シィヤガッテコラーッ!」その事実に気づいたのか、ヤクザスーツたちが交渉から強請りへと切り替わった。

 

部屋に満ちるヤクザスラングをBGMにプレゼンテーターは揉み手ですり寄る。「我々もアソビで来ているわけではないんですよ。判ってくださいよ」「そうか」オスモウクラブはカネになる。だからクラブを手に入れるため、プレゼンテーターめいた山師はヤクザを呼び込んだ。

 

ここでイモを引けばイモめいて土に埋められるのは自分なのだ。「では、ご契約ということで?」「しない」だが、主宰者にとっては金もヤクザも何の意味もない。彼にとって意味があるのはただ一つ。「ザッケンジャネーゾコラーッ! ヤッチマエーッ!!」「「「スッゾコラーッ!」」」暴力だ。

 

「「「ザッケンナコラーッ!」」」BLALALAM! 無数の鉛玉がソファーをスイスチーズめいた姿へ変えた。ソファーだ。人体ではない。では主宰者はどこに? 「ドッソイ!」「「「アバーッ!?」」」後ろだ。ハリテの一撃でヤクザスーツ複数が水平に飛ぶ。壁に人痕が刻まれる。

 

「「「シネッコラーッ!」」」複数の切っ先がスクリーンをズタズタに引き裂いた。スクリーンだ。人体ではない。では主宰者はどこに? 「ドッソイ!」「「「アバーッ!」」」後ろだ。テッポウの一撃でサイバーサングラス複数が垂直に飛ぶ。天井に人痕が刻まれる。

 

「アィェーッ!?」瞬く間にヤクザ戦力は0に変わった。プレゼンテーターは荒事を知っているつもりだった。だからヤクザが主宰者を殺してクラブを奪おうとしたのは理解できた。だがこれほどまでの暴力は理解できなかった。否、暴力以上の恐怖が脊椎を貫いている。

 

だから必死に最高戦力にすがりついた。「セ、センセイ! お願いします! センセイ!」「おうおうおう、どーれ」扉から巨体のヨージンボが滑り込んだ。巨大ダルマめいた胴にサイバネの両腕。人間と言うより肉と機械で出来た重機めいている。一度動き出せば人体など容易くネギトロとなるだろう。

 

だが主宰者に恐怖はない。「クズ鉄付きの腐った水風船が強いとでも?」代わりに怒りがあった。血走った目から常に見える怒りだ。怒りは熱となり陽炎となって噴き上がる。鋼めいた体躯と合わさり、人型の赤熱する鉄そのものだ。

 

「ん、お前……確かリーグにいたな」その顔にヨージンボのニューロンが刺激された。彼はかつてリキシ・リーグに手を掛けた優良スモトリであった。「ああ、そうだ。チャンコ072から逃げてリーグからも逃げた臆病者だ。ハハハ!」そして主宰者はヨージンボがかつて夢見たリキシ・スモトリそのものであったのだ。

 

「オスモウネームは”パニッシュメント”だったかな。臆病者にはモッタイナイ名前だ。懲罰(パニッシュメント)を加えてやろう!」「そうか。死ね」故にこそヨージンボに嗜虐心が湧き上がる。ヨージンボは両手を床に着けた。鉄の腕からモーターホイールがせり出す。ギュィィィンッ! バーンアウトの白煙が上がる。

 

「ドッソイ!」サイバネの加速を得たチャンコ072製の巨体が迫る。ダンプカーの突貫に等しい質量と速度だ。だがパニッシュメントは動かない。棒立ちのままだ。「ドッソイ!?」BUMP!! そして棒立ちのまま……受け止めた!? 

 

そのままパニッシュメントは両腕を抱え込んだ。「イ、イディオットめが!」これはオスモウで言えば外四つの形だ。ヨージンボのもろ差しの方が力が入る。不利の形といえよう。ましてやサイバネの両腕が盾になっている。リキシ・スモトリとてここから勝てる者はまずいまい。

 

だが、パニッシュメントは腕を絞った。「ド、ドッソイ!?」CREAK! 鉄の腕が耳障りな悲鳴を上げた。パニッシュメントはそのまま腕を絞った。「アィェッ!?」CRACK! ヨージンボーから情けない叫び声が迸る。パニッシュメントは更に腕を絞った。

 

「グワーッ!」CRASH! 鉄の腕は断末魔と共にへし折れた。パニッシュメントはそれでも腕を絞った。「アバーッ!」SNAP! ヨージンボの脊椎が末期の音を響かせる。パニッシュメントはにもかかわらず腕を絞った。ぶつり。

 

ようやくパニッシュメントは腕をゆるめた。ヨージンボの下半身が水っぽい音ともにぼたぼたと落ちる。続けて上半身がその上に崩れて、ヨージンボの内臓がこぼれ出た。絞め殺すを通り越して絞め千切られた死体へと視線を向ける。そこに怒りはもうない。虚無だ。溢れ出た憤怒は再び内へと収められた。

 

漂う陽炎だけがその熱量を物語り、血走った目だけがその内圧を示している。その圧力容器の窓めいた両目が壁の一点へと向けられた。一枚の色紙と一枚の写真。妄念の圧力が瞬く間に危険域に達する。色紙には手形と併せて絶対のヨコヅナの名前が刻まれている。

 

そして写真にはリョウゴク・コロシアムの姿と……数十回に及ぶだろう八つ裂きの跡があった。

 

【スペースモンキーズ・オン・ドヒョーリング】#1おわり。#2に続く。


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