鉄火の銘   作:属物

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ミューズの触手が脳味噌に降りてきたのかわずか三日で出来ました


第十一話【スケアリー・ストーリー・オブ・フィクション】

【スケアリー・ストーリー・オブ・フィクション】

 

 

カタカタカタカタ。痙攣めいた打鍵の音が暗い部屋に響く。プディング頭髪をした住人は音源のキーボードを狂ったように打っている。ただ一つの光源であるCRTディスプレイに血走った目と泡立つ涎が照らされる。正気の喪失は一目で見て取れた。彼が打ち込む文章からもそれはよく判った。

 

#KOWAI874:tera-:これはお話。フィクション。全部作り話。創作。現実じゃない。嘘っぱち。俺の妄想。非真実。白昼夢。夢物語。悪夢の話。

 

 

#KOWAI874:774:ドシタドシタ

 

#KOWAI874:774:ナンダナンダ

 

 

#KOWAI874:tera-:今年の冬頃だった。俺は金がなくてピィピィ言ってた。だから友人のSが持ち込んだ安いアルバイトの話にも飛びついた。

 

#KOWAI874:tera-:バイトに参加したのは俺とS、それにRとT。結局数が足りなかったそうで、バイト先は派遣会社からKを雇った。内容はTV撮影の下働きだった。

 

#KOWAI874:tera-:バイトの番組はスカムだった。『オクタマの奥地に怪人ハンザキを見た!』たしかタイトルはそんなんだ。素人番組以下。スポンサーが居るのに驚くレベルだ。

 

#KOWAI874:tera-:バイトの内容もスカムだった。機材と一緒に詰め込まれて移動。低俗番組専門タレントはバイト相手に王様気取り。撮影が始まってもスカム仕事は増える一方だった。

 

#KOWAI874:tera-:幸いKの手際がテンサイ級だったし、バイト先に仕事量の交渉もやってくれたから、暫くしたら一息つけた。全身黒一色でダサイ上に目つきの悪い奴だったが、いい奴だった。

 

#KOWAI874:tera-:そうこうして撮影が進んで夜になり、オバケのシーンを撮影することになった。だが、プロデューサーが唐突に場所の変更を言い出した。このプロデューサー、思いつきをねじ込んで撮り直しを繰り返させるスカム野郎だ。

 

#KOWAI874:tera-:問題はその変更希望先が、立ち入り禁止になってるってことだ。なにやら神聖なジンジャ・シュラインらしい。スカムプロデューサーは食い下がってたが、地元の村長の返答はNG。いい気味だ。

 

#KOWAI874:tera-:なのに夜になって、突然スカムプロデューサーがそこへ撮影に行くと言いだした。監督が許可について聞いてたが「ダイジョブダッテ!」としか答えなかった。ダイジョブだとは思えなかったし、実際無許可だった。

 

#KOWAI874:tera-:スケジュールの都合やら予算やらで結局、スカムプロデューサーの望み通り撮影することになった。移動中、青い顔したTがしきりにヤバイと呟いてた。テンプル出身の癖にジンジャが怖いのかと笑った。笑おうとした。笑えなかった。

 

#KOWAI874:tera-:撮影場所は悪い意味で番組に相応しかった。上の半分が無くなったトリイの奥に、緑に呑まれた廃シュライン。トリイは気が狂ったようにシメナワでシーリングされて、犯罪現場の『外して保持』テープめいてた。真夜中にこの光景は心臓に悪い。

 

#KOWAI874:tera-:アトモスフィアが出てると喜んでいたのはスカムプロデューサー一人だけ。誰も彼も、当然俺も腰が引けていた。Tに至っては失禁して失神しかねない有様だった。だがバイト代の為にはやるしかなかった。

 

#KOWAI874:tera-:撮影そのものは拍子抜けするほど順調に進んだ。その最中、洞穴を見つけた。当然、大喜びのスカムプロデューサーは入るように命令してきた。Tはドゲザして拒否した。たぶん、失禁もしてただろう。

 

#KOWAI874:tera-:結局、Tだけ残して入ることになった。俺も残りたかったが、金欠には逆らえなかった。洞穴には妙な物が沢山あった。ダルマ、マネキネコ、大量の薬品瓶、空っぽの檻。動物の白骨を見つけた時は、誰かが情けない叫び声を上げた。俺だったかもしれない。

 

#KOWAI874:tera-:撮影が終わり、皆そそくさと外に出てきた。スカムプロデューサーだけが満足げだった。出てみるとTの姿はなかった。先に帰ったのだろうと無理矢理納得した。探す気にはなれなかった。一刻も早くここから帰りたかったんだ。

 

#KOWAI874:tera-:Tは宿に帰っていなかった。電話もIRCも繋がらなかった。スカムプロデューサーはバックレて帰ったのだと決めつけていた。そうだと俺も思った。その方がいいと思った。

 

#KOWAI874:tera-:俺は眠れなかった。監督もスカムプロデューサーも一晩中起きててなにやら騒いでた。どうやら映像に妙なモノが映り込んで使い物にならなかったそうだ。撮り直しでまたあの場所に行くのだけはカンニンだった。

 

#KOWAI874:tera-:その上、不法侵入がバレたらしく、村長が怒鳴り込んできた。いったいどこでバレたのか。「おまえ達あそこに入ったんか!」って耳が痛いくらいに叫んでた。けど何というか、怒っているというより怯えてる声に聞こえた。

 

#KOWAI874:tera-:村長にバレた理由はすぐに判った。Tが見つかったからだ。村長が怯えてる理由もすぐに判った。変死体で見つかったからだ。

 

#KOWAI874:tera-:Tの死体は……うまく説明できない。強いていうなら空き缶だ。中身だけ無くなって、空っぽの外身が残っている。どう考えてもおかしかった。ヨタモノや発狂マニアックじゃこんな真似できない。

 

#KOWAI874:tera-:村長はオバケの仕業じゃって喚いてた。ジンジャで奉られてたノキザル様が、住処に土足で踏み込まれてキレたんだって。嘘っていうにはTの死体は雄弁すぎた。

 

#KOWAI874:tera-:頭の緩いスカムプロデューサーですら大急ぎで逃げ帰ろうとしてた。けど、「ノキザル様は追ってくる」の一言で座り込んで泣き出した。泣きたいのはこっちの方だ。お前のせいだ。

 

#KOWAI874:tera-:最終的に村長に泣きついて、地元のボンズに依頼することになった。ボンズのネンブツ・チャントでジャミングかけてテンプルに籠もる。ノキザル様が諦めるまでそれで耐える。正直、上手く行くとは思えなかった。でもそれに縋るしかなかった。

 

#KOWAI874:tera-:ウシミツアワーのテンプル内は真っ暗だった。居場所がバレるから照明も禁止、会話も禁止。絶対に扉を開けちゃいけないと厳命された。死にたくなかったから従った。だけど、死にそうになるくらい怖いんだ。

 

#KOWAI874:tera-:想像してみてくれ。指先も見えない闇の中でひたすらにボンズのネンブツが響いてる。あと聞こえるのは心臓と呼吸の音だけ。ブッダとオーディンとあの男と、思いつく限りの神様に祈ってた。

 

#KOWAI874:tera-:不運なことに祈りは届いた。何せノキザル様もジンジャに奉ぜられてる神様だったんだ。ネンブツが突然途絶えて、代わりに足音が聞こえだした。テンプル周りの玉砂利を踏みしめる音だった。

 

#KOWAI874:tera-:叫び出しそうになるのを腕を咬んで堪えてた。心音がめちゃくちゃうるさくて、どうやったら心臓を止められるんだって必死に考えてた。恐怖で頭がバカになってたんだ。

 

#KOWAI874:tera-:そしたらジャリジャリジャリジャリずっと鳴ってたのが急に止まった。唐突に静かになったのが怖くて耳を澄ましてた。

 

#KOWAI874:tera-:「アバーッ!」ボンズの声だった。多分、断末魔だ。

 

#KOWAI874:tera-:それで緊張の糸が切れた。「アィェーッ!」だれかが叫んで飛び出した。「アバーッ!?」悲鳴でSと判った。でも、どうやって首のなくなったSが声を上げ続けてたのか、今でも判らない。

 

#KOWAI874:tera-:皆が次々にテンプルから逃げ出した。そして次々に殺された。「アィェーッ!」「アバーッ!?」「アィェーッ!」「アババーッ!?」「アィェーッ!」「アバーッ!」「アィェーッ!」絶叫と血しぶきが飛び交ってた。

 

#KOWAI874:tera-:俺も耐えきれなくなって後を追った。死体と死体と死体と死体と死体と……まるでツキジだった。それかアビ・インフェルノ・ジゴクだ。そしてそれを作ったオバケで神様がそこにいた。

 

#KOWAI874:tera-:ノキザル様は恐ろしい神様だって、邪悪なオバケだって村長は言ってた。でも、あれはそれより恐ろしくて邪悪だった。あれは、あれは、あれは、あれは、あれは、あれは、あれは、

 

#KOWAI874:tera-:

 

#KOWAI874:tera-:あれは

 

#KOWAI874:tera-:

 

#KOWAI874:tera-:

 

#KOWAI874:tera-:

 

#KOWAI874:tera-:

 

#KOWAI874:tera-:

 

#KOWAI874:tera-:ニンジャだった

 

#KOWAI874:tera-:

 

#KOWAI874:tera-:

 

#KOWAI874:tera-:

 

#KOWAI874:tera-:

 

#KOWAI874:tera-:

 

#KOWAI874:tera-:

 

#KOWAI874:tera-:ニンジャが居たんだRの首持ってたRの首無かった皆首なかった皆首しかなかったスカムプロデューサーも監督も出演者もRもSもきっとTもだれもかれもみんなみんな死んでた殺されたニンジャに殺されたチョップで殺された殺されてた

 

#KOWAI874:tera-:

 

#KOWAI874:tera-:

 

#KOWAI874:tera-:

 

#KOWAI874:tera-:

 

#KOWAI874:tera-:ゴメン

 

#KOWAI874:tera-:上手くタイプできない

 

#KOWAI874:tera-:

 

#KOWAI874:tera-:

 

#KOWAI874:tera-:ニンジャ

 

#KOWAI874:tera-:ニンジャがアイサツした

 

#KOWAI874:tera-:「ドーモ、ソウカイヤのフォークロアです」

 

#KOWAI874:tera-:テンプルから返事がきた

 

#KOWAI874:tera-:「ドーモ、フォークロア=サン。ブラックスミスです」

 

#KOWAI874:tera-:喉が嗄れるまで叫んだと思う。

 

#KOWAI874:tera-:後は覚えてない。気がついたら川の中にいた。声が出ないくらい喉が嗄れてた。

 

#KOWAI874:tera-:番組は初めからなかった。バイトも初めからなかった。SもTも誰もいなかった。行方不明だって。バイトの前から捜索願い出てた。そうなってた。

 

#KOWAI874:tera-:おわり

 

#KOWAI874:tera-:おわり

 

#KOWAI874:tera-:おわり

 

 

#KOWAI874:774:良い!

 

#KOWAI874:774:肝臓が冷えました

 

#KOWAI874:774:後半結構インパクト有ったな。

 

#KOWAI874:774:でもニンジャはないだろ。オバケの方がいいと思うぞ。

 

#KOWAI874:774:だよなぁ。リアリティないし。

 

 

「そうだよそうだよそうなんだよニンジャなんかリアルじゃないんだホントじゃないんだ嘘だ嘘っぱちだだからアレも嘘だ嘘なんだ全部嘘」プリン頭髪をシェイカーめいて上下に降り、否定をひたすらに肯定する。振りまかれる涎でキーボードは水に沈めた有様だ。

 

「俺は何にも見てない何も覚えてないSもTもRもいなかった全部妄想全部間違い全部作り話嘘っぱち嘘で方便全部嘘だ嘘だ嘘だ嘘」ヘイキンテキはとうの昔に失われ、ラクダの背骨には既に亀裂が走っている。

 

DING―DONG! 「アィェッ!?」そして玄関のベルが響き、最後の藁が乗せられた。DING―DONG! 「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ」カタカタ鳴る歯と同じリズムでマントラめいた否認を繰り返す。DING―DONG! 「嘘、嘘、嘘、嘘」抱えた膝にダチョウめいて顔を突っ込み現実から目をそらす。

 

DING―DONG! DING―DONG! DING―DONG! DING―DONG! DING―DONG! DING―DONG! DING―DONG! DING―DONG! DING―DONG! DING―DONG! DING―DONG! DING―DONG! DING―DONG! DING―DONG! DING―DONG! DING―DONG!

 

突然の静寂。

 

ドアが開いた。「ドーモ」そこにいた。「ソウカイヤから来ました」それがいた。「クリーピーパスタです」ニンジャがいた。

 

「アィェーッ!? ァイェェエェーッ!! ナンで!? ニンじゃナンでぇぇェーーっ?!」音程がぐちゃぐちゃの壊れたラジオめいた叫び声が迸る。

 

「イヤーッ!」「アィェェェ……」証拠隠滅か、スリケンがUNIXを二つに割った。これでもうIRCに逃げ込むことは出来ない。残る行先はアノヨだけだ。

 

「創作怪談が好きなようだな。喜べ、貴様はこれから存在ごとフィクションになる」「故に邪悪なニンジャの悲鳴は誰にも聞こえぬ。思う存分に泣き叫ぶがよい」「アィェェェ……!?」股間がなま暖かく湿った。

 

ニンジャが警戒を見せる。「だれだいまの」「アィェェェ……!」ゆっくりと窓を指さす。そこにいる。それがいる。「いや、そんな!? 嘘だ……負け犬どもの方便の筈だ! お前は!」ALAS! 窓に! 窓に! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤 黒 の !

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【スケアリー・ストーリー・オブ・フィクション】おわり。


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