鉄火の銘   作:属物

85 / 110
第十話【レッドスレッド・イズ・ブラッドカラード】#2

【レッドスレッド・イズ・ブラッドカラード】#2

 

プルトップを引き起こし、温かな缶を傾ける。シンヤの額にシワがよった。「このアマザケ、アルコール入ってますよ」「その方があったまるぞ」そうかもしれないが、ノンアルを頼んだ以上そちらを持ってきて欲しかった。それに昨年末散々アルコールでやらかしてまだ飲むのか。

 

“ナンブ隊長”への文句と一緒に酒粕のすり流しを飲み込む。胃の腑に熱が滑り落ち、アマザケより白い息が漏れた。「ドンパチ譲ってやった割りには浮かない顔じゃの」「オショガツからタノシイ光景を見られましたからね」嗜虐趣味の無いシンヤにはひたすらに不快だった。犯人全員半死体にしてやっと±0だ。

 

「こりゃワシがやった方がよかったか」「そしたら人質諸共ネギトロにするでしょ」違いないと笑うナンブに苦笑いしてアマザケをもう一口。人質は無視して犯人ごと射殺して、お詫びオカキ詰め合わせた骨壺を遺族に渡すのが軍隊流だ。人質救出は湾岸警備隊の最前線をくぐり抜けたナンブ向きではない。

 

「なのにワシをヘッドハントとは余りいい目をしとらんの、あの社長」「経歴も成果も一流ですからしかたないでしょう」ゴマ擦っても何も出さんぞとナンブは缶を煽る。リベン社の社長は、俺は詳しいんだと言わんばかりの鼻持ちならない若成金だった。引き抜きの台詞すら上から目線で閉口したものだ。

 

しかし、復讐代行のみならず被害者遺族向けの拷問処刑ショーをビジネスにする辺り、マッポーの世に適応しているのは確かなようだ。だからこそ義理人情とあたたかみで繋がるコネコムの姿勢は今一つ理解できていなかったが。「ナンブ=サン、いらっしゃいますか?」そのリベン社員より声がかかった。

 

「犯人の輸送が始まりますので、公民館の拷問セレモニー準備をお願いします」「ぼちぼちワシの出番じゃな」腰を払って仕事へ向かうナンブにシンヤは手を振った。ぶちのめされた犯罪者達は、これからナンブ指導の下で被害者遺族が満足するまで拷問されて、死に損なえば残虐に処刑されることとなる。

 

犯した罪を鑑みれば当然の報いだが、同時にマッポーの世を感じざるを得ない。不意に思う。(((これが『前世』ならどうなっただろう)))捕まえるのは企業ではなく警察。ぶちのめすではなく法が裁き、拷問処刑ショーではなく刑罰で罪を償わせる。報復を唱える者がいてもあくまでも復讐ではなく法治。

 

ネオサイタマとは違う、公が機能する真っ当な国だ。今となっては余りに遠い。ここはネオサイタマであって、かつていた日本では無い。所詮は夢想だ。気づけば缶の中身はスッカラカンだった。ニンジャ器用さで通り向こうのゴミ箱に投げ入れる。山積み空き缶にアマザケが突き刺さった。拍子に目が合った。

 

「ッ!?」同時に実在しない五寸釘が額から脳幹に突き刺さる。頭を振って痛みと仮想の五寸釘を振り抜けば、視線の元は黒布を外套めいて纏う。すっきりした体型の美人。自我科病院行きのバスに並んでいるあたり被害者の一人だろう。唐突な痛みの理由は不明だ。ニンジャには見えない。

 

それにしても下着に布一枚の姿は目の毒で、シンヤは僅かに目を逸らした。だが彼女は目を逸さなかった。シンヤをジッと見つめていた。その視線がむず痒く、また違和感を覚える。何故に自分を見るのか。ヒーローよろしく助ける姿に吊り橋効果でもあるまいに。救助方法に文句でもあったのか。

 

視線を戻すと先より近い。というか、真っ直ぐこちらに向かってきている。そんなに苦情を訴えたいのだろうか。しかし、ニンジャ観察力は『否』と告げている。硬い顔には渦巻く放射性の怒りではなく、恐怖混じりの切望が透かし見える。彼女の表情は不安と希望の合間でメトロノームめいて揺れていた。

 

「……ねぇ、アンタがアイツラを殴り倒したのよね?」「貴女の言うアイツラが連続婦女ハイエース犯を指すならそうなりますね」シンヤはできる限り事務的に応対する。纏っただけの黒布の隙間から、チラチラと生白い肌が見える。シンヤはできる限り事務的に応対しようする。

 

「じゃあ、アンタがアレを言ったのよね?」「代名詞で言われても何かわかりませんが」女性は長く息を吸って吐いた。吐息も声も震えていた。「……『ニンジャは実在しない、いいね?』って、アンタが言ったのよね?」口は災いの元。我ながら余計なことを言ったな。シンヤは内心で苦い顔を浮かべた。

 

『ニンジャは実在しない、いいね?』Twitter小説『ニンジャスレイヤー』の代名詞的台詞だ。否定を強弁して強引に釘を刺す言葉が、逆に疑念と実在をかき立てている。そのアホらしさと汎用性からネットミーミーとして各所で用いられており、シンヤも一度は使ってみたいと常々思っていた。

 

そして、嫌な光景で下がった気分を盛り上げたい処に、最適な呟きが聞こえたので、思わず言ってしまったのだ。発した時はしてやったぜとノリノリだったが、後から考えればバカをしたやったものである。「ハイ、ニンジャは何処にもいませんからね。フィクションですよ。まさか信じていらっしゃるので?」

 

なので強引に誤魔化す。少なくとも表向きにはニンジャの実在は信じられていない。遺伝子に刻まれた恐怖があろうとも、いや、NRS(ニンジャリアリティショック)を引き起こすその恐怖があるからこそ、誰もが頭では存在を否定するのだ。だから『ニンジャはいない』と告げられれば、皆『アッハイ』と首を縦に振る。

 

なのに彼女は首を縦に振った。「信じるもなにもニンジャはいるわ。私は……詳しいのよ」「ハイ、そうですか。心配されずともバスはまだあります。お医者さんに診てもらってゆっくり休めばすぐに良くなりますよ」よりによってその台詞とは。被害を鑑みれば自我を心配すべきだろう。

 

慣れない営業スマイルを張り付けたシンヤは自我課行きのバスに誘導する。その手を払い、縋り付くように彼女は問いかけた。「なら、一つだけ! 一つだけ答えて!」「ハイ、なんでしょう」まだあるのか。笑顔のオメーンでウンザリした表情を押し隠す。

 

「明治、大正、昭和! その次は!?」

 

「……!!」その問いかけに、シンヤの纏う空気が変わった。若年層労働者のアトモスフィアから、ニンジャ“ブラックスミス”のものに。

 

ネオサイタマの時代区分は神話の古代、圧政の平安、大平の江戸、ディストピアの現代だ。開国の明治、デモクラシーの大正、激動の昭和、そして停滞の平成を知るものはいない。いるとすればそれは……ブラックスミスと同じ、現実世界からの転生者に他ならない。

 

そしてブラックスミスは二人の元転生者に出会っている。名と魂を超存在に売り渡した二忍は『トライハーム』を名乗り、ニンジャスレイヤーを殺すべく暗躍を繰り返した。そして、トモノミストリート浮浪者キャンプでの死闘の末、ニンジャスレイヤーとブラックスミスの手で遂に死んだのだ……表向きは。

 

だが、トライハームは滅びていない。過去を塗りつぶす力を求めた”スクローファ”、過去を忘れようと快楽に溺れた”ガスル”、そして()()()ハームの三忍目が、必ず姿を現す筈だ。その時が来たならば、陰で嗤う顔も名も知らぬ元凶ごと皆殺すと決めている。そして今、四人目の転生者が現れた。

 

(((トライハームか?)))三忍目の可能性あり。詳細不明。情報が要る。(((拷問か?)))非推奨。メフィストフェレスやガスルの例もある。口先だけ、視線だけでもジツを使われる。(((殺すか)))アンブッシュ決定。先手打つべし。死体に口なし、ジツもなし。ミンチにすればゾンビーもなし。

 

一切の共感無きサツバツたる思考がコンマ未満で脳裏を駆けた。ブラックスミスの両眼が殺人マグロの非人間的な光を帯びる。目の前の少女はアワレな被害者ではない。未定の敵だ。人様の台詞だが、慈悲はない。胸ぐらを掴み胸元に縋るその細い首筋に、畳んだ肘の切っ先を向ける。振り下ろせば即死だ。

 

そして容赦なく振り下ろす、その半瞬前。俯いていた顔が上を向いた。「ねぇ、答えてよ! 答えて……!」見覚えのない顔立ち、なのに見覚えのある表情。重なる記憶に困惑を覚えた。なぜ子供たちの顔が浮かぶ? ナンデ? 何らかのジツ? 既に術中か? 

 

否、それは只の想起に過ぎない。養護施設トモダチ園にやってきた初めの日は、どの子も同じ顔をしていた。それは帰る家のない迷子の顔、縋る親のない孤児の顔。目前の少女と同じ顔だった。「お願い……お願いだから……」ブラックスミスは肘鉄をゆっくりと下ろした。両目に人間の色合いが戻る。

 

トライハームとの関係は不明だが、少なくとも邪悪なニンジャではない。トライハームのニンジャは殺すべし。慈悲などない。では、ニンジャでないなら? 人様の台詞だが、状況判断だ。「平成だ。その次は……」「……ッ!」女性の目から涙が滴となって零れた。

 

「居たんだ……ヒッ……私以外に、居たんだ……ズッ……独りじゃ、なかったんだ……」止まらない涙で表情が溶け崩れていく。嵐の海で灯台を見つけたかのように、安堵の嗚咽が溢れ出した。「ウウウ……アア……」ただ一枚の板切れに縋る海難者めいて、彼女はブラックスミスへと抱きつく。

 

そして胸元に顔を突っ伏して、声の限りに泣き続けた。「アアア……アァーン! ワァーン!」「え、あの、その、ちょっと」困るのがブラックスミス、もといシンヤである。異性なるものと無関係な人生を二度も送ってきたサクランボ野郎に、涙する女性の取り扱いなんぞ知る由もない。

 

「あ、あの、スイマセン、ちょっとやめませんか?」「アァーン!」だがやめてくれない。「どうしよう……?」「アァーン! アァーン!」泣き濡れる彼女をどうしようというのだ。どうしようもない。自然に肩でも抱けばいいのだろうか。そんなん出来るなら二度の人生両方で独り身をやってない。

 

撲殺でカタがつく分、いっそヨタモノの方がマシだった。情けない顔で天を仰いだシンヤをドクロの月が嘲り笑う。「……よしよし、よしよし」「ワァーン! ……ヒック……アァーン!」しばらく固まった末、シンヤはトモダチ園の子供らと同じ扱いをすることにした。

 

彼女の背中を柔らかくさすり、掌で優しく叩く。泣き出した我が家の子供らをあやす時のように、何度も何度も繰り返した。「ダイジョブだよ。もうダイジョブだから」「ヒッ……アーン! ……ヒック」彼女が泣き止むまで、ずっと繰り返していた。

 

 

【鉄火の銘】

 

【鉄火の銘】

 

 

色のない部屋だった。そして色気のない部屋だった。壁も天井も床も什器も何もかも、白黒時代の映画めいたモノトーンでできている。家具も皆ユニセックスな実用一点張りばかりで、女性らしさもまるでない。それでもモデルルームめいた涼しさを感じさせるのは、部屋主のセンスの賜物だろう。

 

そして当の部屋主であるユウはというと、張りつめた様子で携帯IRC端末を見つめていた。火山灰色のベッドに腰掛け、携帯端末の時計表示を何度も何度も確かめる。そろそろ仕事が終わる時間だ。本当に掛かるのだろうか。

 

おかけになられた番号は現在使われておりませんドスエ。幻聴の合成マイコ音声が耳の奥にコダマする。あの場で交わせた言葉は二三語だけ。代わりの服とIRC端末の番号だけユウに手渡して、彼は次の仕事に行ってしまった。

 

全ては自分の願望が見せた幻覚ではなかろうか。どうか違うと言って。震える指で番号をプッシュする。TELLL! TELLL! 祈るように返答を待つ。ただ待つ。じっと待つ。「ハイ、モシモシ。カネコ・シンヤです。どちらさまでしょうか?」電話が掛かった。幻では無かった。安堵の息が漏れる。

 

「アッハイ、モシモシ。ウトー・ユウです」「ああ、ウトー=サンですね。お電話ありがとうございます」「こちらこそありがとうございます」IRC中毒者めいた過剰に丁寧なやりとりを交わす。「……ええっと」「……あの」そして、沈黙。何を喋ればいいか判らないから言葉が無闇矢鱈とお堅いのだ。

 

鉛めいたアトモスフィアの中、ユウが会話の口火を切った。「…………先日は掴みかかったり、泣きついたりしてごめんなさい」「お気になさらず。お電話のご用件をお伺いしても?」本当に気にしなくていいのだろうか。怒ってたりしないのだろうか。電話越しの四面四角な口調からは読みとれない。

 

「えっと、その……シンヤ=サンは何時、この世界にきたの?」「確か15、6年前ですね」自分とほぼ同じだ。原因も恐らく同じだ。なら何か掴めるかもしれない。「どうしてこの世界に?」「すみません。何故なのかも、どうやってなのかも、自分も判っていません」あっさりと蜘蛛の糸は切れた。

 

「自宅のベッドで寝たのが最後です。気が付いた時には子供の姿でゴミ捨て場でうずくまっていました」「そっか。そうなんだ……」強烈な絶望感は無かった。代わりに息苦しい失望感があった。同じ原因でこの狂った世界に落とされたなら、同じく何も知らなくてもおかしくはない。

 

同郷の人間がいただけでも喜ぶべきだ。開始地点は屋内で雨風凌げた分、彼よりマシだ。それに一人いればあと二三人居てもおかしくない。(((だからまだ可能性はある。その筈だから)))ユウは内臓を抉るように良かったを探す。だが無理矢理『良い』を絞り出しても、口から出るのは泥めいたため息だけだった。

 

「「………………」」再びの、沈黙。何を喋ればいいか判らないから言葉がまるで出てこないのだ。「あー、渡した服はダイジョブでしたか?」静寂の重さに耐えかねたのか、二度目の口火を切ったのはシンヤだった。悪漢どもに衣服をはぎ取られたユウに、シンヤはタタラ・ジツ製代用衣類を手渡していた。

 

「別におかしくはなかったけど」センス以外は。言わない優しさがユウにもあった。「アレはジツの製品なんで長持ちしないんですよ」電話先は何故か自信に満ちていた。「なのでカッコいいからって日常着にせずに処分してくださいね」「……カッコいい?」電波の向こうの妄言に首を傾げる。フシギ! 

 

電話先は何故か自慢してきた。「カッコいいでしょう?」「カッコいいと思ってるの?」電話先は何故か抗議してきた。「カッコいいでしょ!?」「カッコいいと思ってるんだ……」電話先は何故か強弁してきた。「カッコいいでしょォッ!!?」「カッコいいとは、思えないなぁ」

 

「………………そうですか」電話先は何故か落胆していた。声からして本当に気を落としてる。どうやら黒単色塗り潰しの厨二病患者服を本気でクールだと思ってたらしい。自分を助け出したあの凶暴なシルエットと、電話向こうの間抜けた声。どうにもイメージが合わない。いや、あの影も服はダサかった。

 

背筋を氷柱で刺し貫くかのような殺意の目線。しかし服はダサい。

外道の群をたやすく消し飛ばす黒錆色の暴風。けれど服はダサい。

かつて定命者(モータル)をその力で支配した半神の化身。だけど服はダサい。

 

「……プッ!」ユウは吹き出した。鉛めいた重苦しさが笑い声と共に抜けていく。「アハハハッ! アハハッ!」「あの、笑わないんで欲しいんですが」「ゴメッ! ヒヒヒッ! ゴメンね! ンフフフッ!」「無理ですか。そうですか」声音だけで憮然とした顔が見えるようだ。それがおかしくてユウは笑い続けた。

 

……「ハーッ、ハーッ。あー、おっかしい」「とてもお楽しみでしたね」やっと笑い終えて息を整えるユウに、電波を通じて皮肉気な感想が送られた。「楽しんで頂けたようでなによりです」「ゴメンって、ホントゴメン!」携帯端末に半笑いの片手チョップで謝罪する。その顔は軽やかで柔らかだった。

 

「ねぇ、『前』は何処に住んでたの?」「えっと東京の下町ですね」ユウの脳裏に最後の光景が目に浮かぶ。記憶のランドマークは夜の曇天に青く光っていた。「私も似たようなところだったかな。引越してすぐにコレだったから、そこまで思い出は多くないけど」「以前はどちらに?」

 

次いで脳裏に思い浮かぶのは、休みの度に立ち寄った郊外のショッピングモールだ。「名古屋……って言っても端っこも端っこで、実際は半分田舎かな」「東京で言うと練馬あたりですか」練馬にカナリ・シツレイである。もはやこれはシンヤ=サンのケジメ案件では? 

 

「え? あそこ23区でしょ?」「でも練馬大根が特産なんですよ」練馬大根にスゴイ・シツレイである。もはやこれはシンヤ=サンのセプク案件では? 「まぁ、親の話なんで今は違うかもしれませんが」「23区だもんね」実際、練馬区は副都心線や大江戸線などの開通に伴って建設ラッシュに沸いている。

 

「そう言えばコッチにも練馬大根っぽいバイオダイコンがあるんです。けど、やっぱりネオサイタマ産らしく、引っこ抜かれると二足歩行で逃げるんですよ」軽くなった空気に釣られてか、話題も口調も軽くなる。「アレ見ると笑いますよ。本当に綺麗なフォームでダイコンが走ってるんですから」

 

気楽な笑い話を笑いながら話す。軽く笑って次の話題を期待してのことだろう。だが、返ってきたのは唐突なほど暗い声だった。「なにそれキモチワルイ……やめてよ、同郷の人からまで、コッチのこと聞きたくない」泥めいた声音が吐瀉物めいて溢れる。誰でもこの声を聞いてタノシイの感想は出てくるまい。

 

「「………………」」気まずい、沈黙。何を喋ってもいいか判らないから言葉がまるで出てこないのだ。ずしりと重い静寂が電波を通して響き渡る。「……じゃあ話を変えましょう。練馬が舞台のアニメイシヨンがあった筈ですけど、名前を知ってたりします?」本日三度目の無音へとシンヤが果敢に挑みかかる。

 

シンヤの出したお助け舟にユウは勢い込んで飛び乗った。「……うん、なんかあったね! 確か踊ってた気がする。ブルース・ブラザーズ、は元ネタの映画だろうから違うかな」空気を悪化させてしまったユウとて、好き好んで黙りこくった訳ではない。話がしたいから電話をかけたのだ。

 

「バンド・オブ・ブラザーズ?」「それ戦争モノ。もっと離れてる……あっ、練馬大根! 練馬大根ブラザーズ!」「ああ、女の子が踊ってたヤツですね」「女の子もいたけど、メインは男二人女の子一人のトリオじゃない?」「動画かなんかで見たヤツとゴッチャになってたかもしれませんね」

 

ヘッズであったことから判るように双方サブカルチャについては詳しいのだ。「へー、動画も見るんだ。どの実況好きとかあった?」「いえ、どうも肉声が苦手で合成音声の実況ばかりでした」「じゃあさ、淫m「それ以上いけない」手の届かない思い出話に花は咲き、夜はしめやかに更けていった。

 

 

【レッドスレッド・イズ・ブラッドカラード】#2おわり。#3に続く。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。