鉄火の銘   作:属物

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第六話【リファインド・マレイス・ロブ・トライアムス】#3

【リファインド・マレイス・ロブ・トライアムス】#3

 

「これ授業でやったぞ!」「ヤメロー! グワーッ!」寸胴鍋から吹きこぼれる沸騰アンコシチューめいて、堡塁から頭が煮えた臨時ヒョットコが溢れ出る。次々にヒョットコ化した被害者たちが別の堡塁へと躍りかかり、パニック映画がカワイイ程の混乱が防衛隊へと襲いかかった。

 

「やめてくれ! 目を覚まグワーッ!」「ドブネズミを消毒だ!」その怪物役は他でもない、戦友であり仲間であり家族であるはずの同じ住人たちだ。ヒョットコと任『名』された彼らに躊躇はなく、躊躇する多くの防衛隊員達は反撃一つできないままに一方的に打たれ撃たれる。

 

BLAM! 「キレイキレグワーッ!」「状況はクソだ! だが一匹も後ろに通すな! 湾岸警備隊魂を見せろ!」「「「ハイヨロコンデー!」」」防衛隊の中で抵抗できているのはナンブ隊長と彼が選抜した僅かな隊員達だけだ。戦友が狂敵に代わるアビ・インフェルの最中で彼らは絶望的な抗戦を続けている。

 

「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」「「「グワーッ!」」」そしてブラックスミスは混沌を打ち倒すべく、容赦なきスリケンと慈悲無きクナイ・ダートを間断無く放つ。皮肉なことにニンジャであるが故の共感無き冷酷さが、「元住民のヒョットコ駆除」という冷徹なる判断を可能にしていたのだ。

 

「イヤーッ!」「イヤーッ! ハズレ! ケココーッ!」しかし最新鋭万札偽造印刷機めいた高速スリケン連射でも、堡塁の合間を動くガルスを殺し切れない。実に諧謔的なことに、ヒョットコによる攻撃を防ぐための堡塁が、臨時ヒョットコの大本であるガルスを守っている。

 

しかし、その程度ならばブラックスミスのスリケン狙撃力と連射力にとっては臨時ヒョットコを殲滅する片手間でしかない。では、何故殺し切れないのか? 「イヤーッ!」ブラックスミスの放ったスリケン・ブーメランが鋭角を描き、筒狭間を通り抜けてガルスの首筋へと迫る! 

 

「アブナイ! グワーッ!」「ア・リ・ガ・ト! コーッ!」「クソッタレ!」だが首を飛ばした相手はガルスではなく、臨時ヒョットコとなった防衛隊員であった。片足のないガルスを殺し切れない理由がこれだった。最悪なことに臨時ヒョットコ達が自ら肉盾となってスリケン狙撃を防いでしまうのだ。

 

「おお、ブッダ……」そして盾になるヒョットコは当然、元防衛隊員だ。ヒョットコ顔で最期を迎えた友の姿に、ある防衛隊員は銃を支えることもできずに顔を覆った。「三文芝居はタノシイな! ケーッ!」友が友と殺し合う悲劇を指さし、演出したガルスは喜劇と慶び嘲り笑う。

 

「「「タノシイな!」」」ガルスの嘲笑に臨時ヒョットコ達が全く同じ表情と全く同じ声音で唱和する。ジツで自我を形作る記憶を奪われた彼らは、家族同然の仲間にすら当然のように蔑意を向ける。否、自我の一切を奪われた彼らにとってはもう家族ではなく只の獲物。

 

「アンタもヒョットコ! お前もヒョットコ! みーんなヒョットコ!」「「「やっちゃうぜ!」」」白けた光に曝されて、次々に住民は白痴に脱色され、自我を狂気に染色される。与えられた役割(ヒョットコ)以外何一つない彼らは躊躇いもなく同胞の命を奪い、恐怖もなく自分の命を捨て去るのだ。

 

「ゆけ!」「「「ヒャッハーッ!」」」表情で形作られたヒョットコを素早く換算し、満足げに目を細めたガルスは命を下した。狂気の怒濤は堡塁を乗り越え、血溜まりに沈むスクローファとトドメを加えんとするニンジャスレイヤーへと躍り掛かる。ジツで疲れすら忘れさせられた彼らの足は速い! 

 

「イーヤヤヤヤヤヤァーッ!」「「「グワーッ!」」」ブラックスミスはスリケン投擲専門ニンジャめいた高速スリケン連射で片端から臨時ヒョットコを死体に変える。「「「ヒャッハーッ!」」」だが臨時ヒョットコの数は多く、全員を殺し切れない! これだけの数が揃うのをガルスは待っていたのだ。

 

「ホホホホ! イヤーッ!」「グワーッ!」その上、ウォーロック憑依者がワタナベの神経を焼き焦がし、ブラックスミスをその場に釘付けて行動を制してしまう。「チクショウ! イヤーッ!」「グワーッ!」悪罵と共にスリケンを投げ撃つ。首が撥ね飛び崩れる憑依者。だがこれも徒労に過ぎない。

 

ブラックスミスは血を出すほどに唇を噛みしめ掌に爪を立てる。(((俺も行くべきだ、けど!)))今すぐ飛び出して臨時ヒョットコを処理し、ガルスをツクネ団子にしてしまいたい。だが自分が肩を支えているワタナベは、もう自力で体を支えることすらできなくなっているのだ。

 

度重なるニューロンダメージの前に、盤石なる巨体は砕けた岩めいて崩れ落ちた。今の彼を一人放り出せばどうなるか。それは飢えたメキシコライオンの檻に弱々しいミニバイオ水牛を放り込むのと同じ結果となるだろう。狂喜するウォーロックのジツに曝され、思う存分になぶり殺されるに違いない。

 

「行って、くれ!」「ワタナベ=サン!?」歯噛みするブラックスミスの肩が思いもかけない力で掴まれた。顔中の穴という穴から血を流しながらも、ワタナベは真っ直ぐにブラックスミスを見つめて力強く頷く。「多、少は耐えて、見せ「イヤーッ!」ヌゥーッ!」脳髄を侵す痛みを歯を食いしばり堪える! 

 

フラッシュバック・ジツにニューロンを焼かれながらも、ワタナベは割れ鐘の声で叫んだ。「行、け! 行く、んだ! 君もヨー、ジンボーだ、ろう!」「さっさとしろ! 護衛はワシ等がやる!」未だ正気の防衛隊員と共に必死の抵抗を続けるナンブ隊長もまた叫ぶ。

 

「スミマセン! イヤーッ!」「グワーッ!」臍を噛む思いを噛み殺し、行きがけの駄賃と憑依者をスリケン殺すると同時にブラックスミスは駆けだした。一路向かう先は白痴と狂気の大竜巻。混沌の中心で愚痴をまき散らす、邪悪なる天使ニンジャをこの手で殺すのだ。

 

「ココーッ! ゆけ!」「「「ヤッチマエー!」」」迫るブラックスミスに気づいたガルスが、残り全ての臨時ヒョットコをけしかけた。使い方すら忘れた得物を振り回して狂人の波濤が襲いかかった! 

 

【鉄火の銘】

 

【鉄火の銘】

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」ブラックスミスが狂人の波濤に飛び込むその瞬間、ニンジャスレイヤーもまた狂気の怒濤を受けとめようとしていた。チョップが胴体をブツギリに切り分け、カラテパンチが頭蓋を割り砕き、ケリ・キックが内蔵を炸裂させる! 

 

「「「やっちゃうぜ!」」」しかし幾人もの同胞をジゴク絵図の絵の具にされても、ヒョットコ顔をした狂気に一切の気後れはない。自我を喪失した臨時ヒョットコには如何なる躊躇も恐怖も無いのだ。上書きされた存在理由に従って盲目的に襲いかかるのみ。

 

「イヤーッ!」「アバーッ!」「アバーッ!」「アバーッ!」コマめいて高速回転するニンジャスレイヤーから放射状に両手の指より多いスリケンが飛ぶ。頭蓋と心臓を貫かれ、十人のヒョットコが瞬時に絶命した。ニンジャスレイヤーは嵐の如き殺戮を繰り広げるが、臨時ヒョットコの数が多すぎる! 

 

「「「ヒャッハーッ!」」」濁流を乗り越えるバイオ軍隊アリめいてニンジャスレイヤーを突破し、何人かがスクローファの元へとたどり着いた。指令を達成したヒョットコ達は立ち尽して次の命令を待つ。血溜まりのスクローファはスライムめいて蠢き、間接の増えた腕で臨時ヒョットコを引きずり込んだ。

 

「アバーッ!」原型を半ば失ったスクローファは残る力を総動員してタコめいて絡みつき、臨時ヒョットコを押し潰して挽き潰す。そして出来た粗挽きヒョットコを指を失った掌で液質になるまで擦り潰すと、かつて顎があった場所からヒョットコムースを食道に流し込んだ。

 

GURGLE! 具材たっぷりな人肉スープが胃袋に流れ込んだ途端、ハーフサイズに削られたスクローファの全身が蠢きだす! 痙攣しながら膨れ上がる血肉が、植物成長の微速再生めいた動きで人間のシルエットを形作る。顎も喉もない口から吹き上がる紅色が、失われた顔下半分を形作った。

 

「グフーッ!」スクローファはグラトン・ジツによりプラナリアめいて再生した全身を確かめる。食事には健康な顎と歯が必要だ。しかし不健康な傷病人のための流動食というものがこの世には存在する。顎を失ったスクローファは臨時ヒョットコから人肉スープを作ることで、病人食の替わりとしたのだ! 

 

滾る憎悪のままにスクローファは叫ぶ。「やってくれたな、ニンジャスレイヤー=サン! やってやるぞ、ガルス=サン! 出し惜しみは無しだ! 俺も惜しまぬ!」GUZZLE! GUZZLE! GUZZLE! 「「「アバーッ!」」」スクローファはヒョットコを次々に貪り食らう! 内臓が回復不十分なのか? 

 

違う! おお、見よ! 「これが偉大なる方のお力だ! 『眼差し』を賜った我がジツは貴様のカラテを遙かに超える!」スクローファのシルエットが更に膨張し、人間の形から大きく外れた! 両腕が胴の太さを越して膨れ、背の高さを超えて伸びる! 肥大化した僧帽筋が首を覆い、硬質化した角質が拳を固める! 

 

「そう、『眼差し』は、偉大なる方のお力は、全てのカラテの上にあるのだ!」その姿を見てニンジャと判る者は居ても、人間であったと気づく者はいない。類人猿めいた異形と成り果てたスクローファは溢れる力と信仰心に随喜の涙をこぼす。さらに両拳を打ち合わせ、金属めいた威嚇音を何度も鳴らした。

 

「ノリト代わりの前口上は終わったか? ならば、次は偉大なる方とやらにネンブツ・チャントでも唱えておれ」しかし如何なる威しであろうとも、ニンジャスレイヤーの殺意が退くことはない。重傷に揺らめく足取りに反して、その敵意には一切のブレがない。

 

「ほざけ! イヤーッ!」狂乱ゴリラめいたナックルウォーク走法でスクローファは襲いかかった。拳を踏み込む度に床が炸裂し、臨時ヒョットコの食べ残しがコンクリートとのカクテルに変わる。このままではコンクリートを耕す異形剛拳でニンジャスレイヤーも人肉入り骨材と化してしまう! 

 

だが次の瞬間! 「イヤーッ!」「グワーッ!」苦悶の声を上げたのは重装甲耕運機めいた攻撃を仕掛けるスクローファの方であった。ニンジャ視力の持ち主でなければ、暴走バッファロー殺戮鉄道めいた突撃に、頼りなく揺れる赤黒の影が瞬く間に挽き潰されたと見えるだろう。しかし本物のカラテ戦士は違う。

 

それは舞い踊りながら標的を狙う、オイラン・アサシンの舞踏めいた武闘に例えられよう。ニンジャスレイヤーは暴風雨に乗る一葉めいて打ち据えられる乱打を紙一重で悉くかわし、コンクリの散弾に身を刻まれながらも、鋭利極まりないサミングでスクローファの両目を刺し貫いたのだ! ワザマエ! 

 

「イヤーッ!」そのままニンジャスレイヤーはチョップで刎頸にかかる。「ヌゥーッ!?」「言ったぞ、我がジツは貴様のカラテを超えるのだと!」それを『見据えた』スクローファは鉄柱めいた両腕で首筋を守る。名刀以上に鋭いチョップは、鋼鉄以上に頑丈な腕に防がれ、僧帽筋に浅い傷を残すに終わった。

 

血涙を流す『両目』でスクローファは残心するニンジャスレイヤーを睨みつける。ALAS! 抉り出したばかりの生暖かい目玉がニンジャスレイヤーの指にあるというのに! 恐るべきことにサミングで眼球摘出された瞬間に両目を再生させたのだ! 今までのジツすら比べものにならぬ、なんたるヒドラめいた超常的再生力か! 

 

「ニンジャスレイヤー=サン、死ね! 偉大なる方のために死ね!」殺戮掘削機めいて、スクローファは絶え間なく拳を振り下ろす。偉大なる目的のため蓄えたカラテの浪費は避けねばならぬが、ことここに至っては是非もなし。怨敵を一刻も早くここで殺す! 偉大なる方よ、この浪費のオワビは勝利を以って! 

 

「イヤーッ!」「イヤーッ!」制止不能停止不可な暴走殺戮装置と化し間断無き巨拳の流星雨を降らすスクローファ。その間髪を殺意を帯びて流麗に舞い狂うニンジャスレイヤー。死の舞踏はエンディングへと向かって濁流の如くに流れ出した。

 

【鉄火の銘】

 

【鉄火の銘】

 

臨時ヒョットコを量産するガルスを叩き殺さんと痴人津波をカラテでかき分けるブラックスミス。「イヤーッ!」「ヌゥゥゥッッッ!!」その背後、ニンジャスレイヤーとの中間地点で、ワタナベは脳髄に刺し込まれるウォーロックのジツに耐えていた。

 

彼が臍を固めて置いていったワタナベは、今もウォーロックの毒牙に曝されている。だが、一人ではない! 「いたぞ! 三時方向!」BLAM! 「グワーッ!」ナンブ率いる選抜防衛隊員達は、ワタナベを中心に護衛艦隊めいた円陣を敷き、現れ出る憑依者を間髪入れずに射殺しているのだ。

 

「周りだけじゃないぞ! お互いも警戒しろ!」ナンブが拳銃を突き上げ、錆声を張り上げる。その警告が的を射たのか陣を張る選抜防衛隊員がニューロンに押し入られる苦痛に痙攣を始めた。「ッ! 友よ、サヨナラ!」BLAM! 「はあああアバーッ!」憑依の兆候に即応し、隣の選抜防衛隊員は戦友を射殺! 

 

「よくやった! 湾岸警備隊は永遠だ! 故にお前も奴も永遠だ!」「ハイ!」涙を堪えて友を葬った隊員へとナンブから熱い労いの声が飛ぶ。「怯え竦んでベソかいて死ぬな! キャンプを守ったと胸張って死ね!」「「「オーッ!」」」襲い来る恐怖と狂気を、使命感とさらなる狂気で吹き飛ばす! 

 

「ワタナベ=サン、まだ持つか?」「ダイ、ジョブだ。持た、せてみ、せる」血涙を流し蹲るワタナベを横に、ナンブは鋭利な視線で全方位へと隙のない警戒を続ける。唐突な静寂が円陣を覆った。聞こえるのは紅白VS赤黒/黒錆のイクサ背景音だけだ。

 

つい先ほどまではウォーロックの憑依者は続々と現れては次から次へとニューロン攻撃を仕掛けていた。だが今は姿を見せない。息つく暇もない猛襲から突如不気味な空漠に投げ込まれた。弛緩する空気と共に焦燥がゆっくりと腹の底から沸き上がる。

 

「出てこないぞ」「打ち止めか?」銃を握り直す選抜防衛隊員の口から疑念が漏れる。気の立ったナンブ隊長から即座に叱責が飛んだ。「無駄口を叩いていいと誰が言った!?」「「ハイ、スミマセン!」」(((スミマセン)))湾岸警備隊式の撃てば響くような歯切れの良いやり取り。

 

そこにノイズが走った。「今の声は」どこから聞こえた? ワタナベは苦労して頭を持ち上げ辺りを見渡す。出所は前後左右どこからでもない。耳元で囁くような声だった。似たものを聞いた。耳の奥で響き続けるオハナの断末魔。その音源は記憶の奥底……ニューロンの奥深くにある。

 

(((前菜ではご満足頂けなかったようですね)))「まさか!?」「奴か!?」戦慄がワタナベの脊椎を貫いた。警戒を強めるナンブの声も耳を通り抜ける。ウォーロックは何のためにワタナベにジツを仕掛け続けたのか。直接的にニューロンを焼くため。あるいは隙を作ってナパームで焼くため。それは正しい。

 

(((でもこれからがメインディッシュ!)))「何処だ!? 何処からだ!?」しかし、他に目的がないとウォーロックは口にしていない。フドウノリウツリ・ジツの名前も詳細もワタナベは知らない。だが、憑依の結果は幾つもの例を通して知らされた。同時に乗っ取りの条件も朧気ながら察していた。

 

フドウノリウツリ・ジツは下拵え済みのモータル相手にしか使えない。並以上に頑強なニンジャのニューロンに進入できないからだ。例外はモータル並に惰弱なニュービー・サンシタ程度。それはつまり……強靱なニンジャでもモータル並に弱らせれば乗っ取り得るということ。

 

(((貴方の精神はスイスチーズで皿の上だ!)))「ヤメロー!」手遅れと気づいた瞬間に、ワタナベは回答にたどり着いた。不屈なるニンジャの自我でも、十分に痛めつけられたなら乗っ取るのは不可能ではない。だから、忘れようと努めた悪夢を引きずり出し、克服しようと足掻いた快楽を抉り出したのだ。

 

(((貴方のイドを! 頂きます!)))高らかに謳う声がニューロンを震わせる。自我を、魂を、精神を、今から侵し食らい我が物にするのだと。「アバーッ!?」(((ホホホッ! オホホホホ! ホーッホッホッホッ!)))敗北を告げるウォーロックの狂笑がワタナベの脳裏に響き渡った。

 

「アーッ! アーッ! アーッ!」亀裂に覆われたワタナベの自我に、毒性樹木の根めいてウォーロックの精神が押し入っていく。浸食されたニューロンを抉り出そうと、頭蓋を掻き毟り血が吹き出る。脳味噌を浸す汚濁を絞りだそうと、頭を何度も拳で殴りつける。

 

「ブッダ! 待避しろ! 待避だ!」だが努力も空しく心のひび割れが無理矢理こじ開けられていく。亀裂に根を張られた巨石のように、加速度的に割れ目は広がり、ぽっかりと虚無が開いていく。「こんなの嘘だろ……」アスファルトに叩きつけられたガラスめいて、ワタナベの精神は千々に砕け散る。

 

「アァ」足掻き藻掻いて残ったのはほんの一片。他すべては消えて失せた。「アアア」『ワタナベ』は二度と挫けぬと決めた膝を折り、蔓植物に絞め殺された巨木めいて崩れ落ちた。「アァァァーーーッ!」そして……精神も表情も希望も愛情も何もかも、狂気一色で全て塗り潰された『インターラプター』が顔を上げた。

 

【リファインド・マレイス・ロブ・トライアムス】終わり


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