鉄火の銘   作:属物

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第四話【サプライジング・ウェフト・パス・スルー・イマジネーション】#3

【サプライジング・ウェフト・パス・スルー・イマジネーション】#3

 

「ホホホホ! インターラプター=サン、ゴキゲンヨ!」蒸気のスクリーンに映し出されたヒョットコ・オメーン。声の主はキングに乗り移ったウォーロックであった。電気的に合成されて歪んだ声がキャンプ中に響きわたる。さらに次々に対弾盾を構えた重装備ヒョットコが現れ、体育授業めいて二列に並ぶ。

 

安全装甲ヘルムに覆われたヒョットコの耳には専用のイヤホンが填められ、キングの誉れ高き演説が無限にリピートされている。何が話されようと彼らが聞くことはない。NRSすら越えるカルト一体感と後の人生を無視した薬物過剰接種の元で、バイオ兵隊アリめいて運び・戦い・殺し、そして殺されるのだ。

 

コマを並べ終えたウォーロックは演説を始める。「ニンジャスレイヤー=サン、いやここではイチロー・モリタ=サンですかね? 既に殺しましたか! 流石、手早い! あとは貴方の望み通りに邪魔なキャンプを焼き払ってあげましょう!」それは真実を織り交ぜた卑劣にして巧緻なる虚言だった。

 

ウォーロックはワタナベから人間性の拠り所を奪い取るつもりなのだ! 巧みな嘘にキャンプに居着いてから日の浅い住民たちは思わずワタナベへと疑いの目を向けてしまう! 「悪いとも思わんが、お前との契約は全てキャンセルだ。そして下らん嘘を混ぜても無駄だぞ」だがワタナベに一切の揺るぎはない。

 

疑念の視線も疑惑の声も全て背中で受け止めてみせた。その背から立ち上るソンケイと堂々たる態度に、疑いを抱いた住民は皆恥いる。今の彼に迷いは無い。このキャンプを守り、アンコを取り除き、胸を張って家族と会う。そう決めたのだ。

 

「約束を守れと言った貴方が破るとはヒドイ話ですね!」芝居のかかった声音でウォーロックが責め立てる。「浮浪者キャンプのヨージンボーで残りの人生を不本意に終えたいのですか? オハギ中毒を治すこともなく、ボスの慈悲を拒否して!」「治療はこちらでする。お前達の手は借りない」

 

巨岩めいたそのシルエットは小揺るぎせず白煙をにらみ返す。かつて心を揺さぶった言葉も、今の彼を揺るがすことはない。「フゥーム、『お話』と随分違いますね。プランAは失敗ですか」言葉ではワタナベを揺さぶれないと理解したのか、考え込むような声が白煙のスクリーンの向こうから漏れる。

 

「ならばプランBと行きましょう。お二方、出番ですよ!」「「イヤーッ!」」ウォーロックのかけ声と共に唐突なカラテシャウト! どこから!? それは封鎖したはずの避難経路からだった。土嚢で閉鎖された避難口が砲撃めいて吹き飛び、そこから二つの影が飛び出した。片方は白く、もう一つは赤い。

 

白は怪鳥めいて赤はゴムマリめいて跳ねながら、防衛隊もカラテ遊撃隊も無視して避難所めがけて飛びかかる。「させるか! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」それを許すカラテ遊撃隊ではない! シンヤは下手人をブツギリ死体に変えるべく、瞬間生成スリケン・トマホークを即座に三連射する。

 

「イヤーッ!」だが、それに反応した白影が振り返り翼めいた両腕を打ち振るう。影と同色の羽が無数に宙を切り裂きスリケン・トマホークを逸らす。さらにスリケン・トマホークをすり抜けた幾つもの白い羽がシンヤへと迫る。「イヤーッ!」デント・カラテのサークルガードがそれを全て防ぐ。

 

その合間にも赤影は避難所へと近づく! 「イヤーッ!」ニンジャネームの如くに迎撃すべくワタナベが跳んだ。巌を思わせる巨体が重量を忘れたかのように宙を舞う。跳ねる赤影より高くそして速い! この速度差ならば避難所寸前で捉えられると弾道計算UNIXめいた正確さでワタナベは結論づけた。

 

だが次の瞬間! 「グワーッ!?」突如その質量を思い出したかのようにワタナベが墜落した! 無人テントに突っ込んだワタナベは轟音と共にカワラを砕いてビニールをまき散らす。何が起きたのか? ワタナベにも理由は一切不明だった。突然の衝撃がニューロンに襲いかかり全身の自由を奪われたのだ。

 

そして混乱する現状で判ることは一つだけだ。赤い影を阻む者はもういない。故にシンヤも赤影をインターセプトするべくすぐさま跳躍する。「イヤーッ!」「イヤーッ!」だが、白影がそれを妨害にかかる! 羽根めいた両腕と蹴爪の付いた脚を振り回し、空中のシンヤへと躍り掛かった。

 

「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」空中でカラテがぶつかり合う。ソウルから伝わる飛び散る羽毛めいた軽薄な掻痒感が皮膚を走る。人間を遙かに越えるカラテを受け止めて堅く握った拳で殴り返す。雷光が瞬くがごとき一進一退の空中戦だ!

 

それは……つまりニンジャであるシンヤと同等のカラテの持ち主ということになる。その顔を見、気配を肌で感じてシンヤはようやく気づいた。「ニンジャ、ナンデ!?」「コーッココココ! 裏切り者め!」クチバシめいた黄色メンポで口を覆い、白けた羽毛の装束に包まれた姿は、紛れもなくニンジャだったのだ! 

 

シンヤの脳内に混乱が溢れる。『原作』でここに居るニンジャは『ニンジャスレイヤー』と『インターラプター』の二人だけの筈だ。シンヤという介入者の存在でウォーロックが新たなニンジャを連れてきたのだろうか? しかし、シンヤは自らがニンジャであることを他人から隠している。

 

強いて可能性をあげるなら先日に赤黒色をした影を目にしてニンジャ装束を纏った位。あの赤黒の影はニンジャスレイヤーでは無かったのか? それに相手の台詞も不可解だった。会った覚えもない相手から「裏切り者」呼ばわり。何も判らない。

 

それに何より情報も時間も足らない。目の前の白影がニンジャならば、避難所へと飛び込まんとするあの赤影もニンジャに違いないのだ。避難所にいるのはモータルの防衛隊員だけ。後方地帯の家族がアブナイだ! 

 

「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」家族を守るべくシンヤは空中でデント・カラテを次々に繰り出す。だが、地に足の着かないデント・カラテでは足りない! 白影ニンジャのエアロカラテにいなされてしまう。反撃はない、する気がない。時間稼ぎと妨害が目的なのだ! 

 

その間にも赤影ニンジャは避難所へと近づいく! 「テーッ!」BLATATATA! 避難所の防衛隊員もライフル対空射撃で必死の抵抗を試みる。「イヤーッ!」「「「グワーッ!」」」だが相手はニンジャだ。軽武装少人数のモータルで防げる相手ではない。反撃の重量級スリケンで全員が死傷! 

 

「「「アイェェェ……」」」避難所に抵抗できる者はない。NRSに打ち据えられ、何も出来ないままに弾道を描いて落ちてくる恐怖の化身を見つめるだけだ。おお、ナムアミダブツ! ブッダよ、貴方はまだ寝ているのですか!? 誰も彼らを救える者はいないのか!? 

 

否! いる、一人いる! 「あれは!」絶望に表情を歪めかけていたシンヤのニンジャ動体視力は確かに『それ』を捉えた。避難所から人間魚雷めいた体勢で迎撃に飛び立つ一つの影。ニンジャ・バリスタから対空弾道軌道で打ち出される影。

 

その顔を覆うメンポには恐怖の字体で二文字が刻まれている。そう、『忍』『殺』の二文字が! 赤黒の殺戮者のダイナミック・エントリーだ! 「イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーの対空弾道跳び蹴りにより赤影ニンジャのベクトルが180度逆を向く! 

 

吹き飛ばされて天井付近の闇に覆われ、ニンジャ装束の腸めいた赤が影に黒く染まった。それはシンヤが以前見た赤黒の影と同じ色合いだ。つまり、観察者はニンジャスレイヤーではなく赤影ニンジャだったのだ! おそらくはキャンプのニンジャ戦力測定のためにヨタモノ退治を観察していたのだろう。

 

蹴り飛ばされた赤影ニンジャは跳ね飛びつつ白煙の立ち上る入り口前へと移動する。着地した白影ニンジャもそれに併せて連続バック転で赤影ニンジャの横へと動く。肥大した巨漢の内臓めいた赤と、細身の小柄な脱色めいた白。体型も色彩も正反対な二人に額の「目」一文字だけが共通している。

 

シンヤは敢えて白影を追わずに胸のオマモリ・タリズマンに拳を当て、深呼吸でマインドセットに入る。全身が超自然の繊維で覆われ、その姿は黒錆色に染まった。立ち上がった影法師のごとき闇に溶けるシルエット。赤錆めいたメンポだけが蝕に食われた月輪めいて暗赤色に浮かび上がる。

 

シンヤ、すなわちブラックスミスの右に原因不明の不調から立ち直ったワタナベが降り立つ。続いて赤影ニンジャを追って跳んできたニンジャスレイヤーが左に陣取った。紅白ニンジャとカラテ防衛隊に足すことの一人。五忍のニンジャ圧力が広場の空気を押しつぶし、沈黙が空間を満たした。

 

防衛隊もヒョットコもキャンプ住人も声を挙げる者はいない。人知を越えた神話的存在の放つ圧倒的カラテに圧されて、脂汗をこぼしながらNRSに震えるだけだ。呼吸すら難しい圧力の底で紅白のニンジャが両手を合わせた。「ドーモ、皆さん。トライハームのスクローファです」「同じくガルスです」

 

【サプライジング・ウェフト・パス・スルー・イマジネーション】終わり

 


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