鉄火の銘   作:属物

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第四話【サプライジング・ウェフト・パス・スルー・イマジネーション】#2

【サプライジング・ウェフト・パス・スルー・イマジネーション】#2

 

トモノミ・ストリート浮浪者キャンプの通り道には地下の廃棄下水道を利用している。誰も省みない忘れられた場所だからこそ、誰にも気づかれない秘密の移動経路となるのだ。さらに出入りの際は周囲の確認を義務づけ、複数ルートを複雑に利用することでヨタモノの侵入を防いでいる。

 

「イヒヒーッ!」「今夜はボーナスゲーム!」「最高得点狙っちゃうぜ!」「ウッ!……フゥ」「俺がクランで一番だ!」だが今、秘密は全て破られた。キャンプが隠し続けた機密通路には身勝手なヨタモノ達が闊歩している。好き勝手に妄言を吐き散らし、自分勝手に得物を振り回す。

 

ケイオスを体現したかの如き無秩序な集団だが、ただ一点、その顔を覆うヒョットコ・オメーンだけは統一されている。彼らこそがキャンプを狙う恐るべきヨタモノ・カルティスト集団「ヒョットコ・クラン」である! 今宵は偉大なるキングが示した約束の地で、不潔なネズミめいた浮浪者を殺すのだ。

 

狂えるヒョットコ・パレードの中心では社長室に置かれるような重役椅子がオミコシめいて運ばれている。そこに身動き一つなく腰掛けるのはヒョットコ・キングだ。青竜刀を膝の上に置いてザゼンを組み、狂乱の中でただ一人青銅像めいて静止している。纏うアトモスフィアも配下とはまるで異なる。

 

普段とも異なる静寂かつ危険な空気を帯びたキングに、荷物を背負った担ぎ手から畏怖と違和感の入り交じった視線が向けられる。それに答えるようにキングは椅子の上に立ち上がった。その拍子に椅子が大きく揺れるものの、キングは体重移動だけでバランスを保つ。

 

「聞け、約束の子らよ! 不潔なネズミ共は我々の存在に気づき、せせこましくも巣穴に抵抗の準備を始めた。しかし、かつて平安時代の哲学剣士は言った。『イディオットは考えるより休むべき』と! 愚かなネズミの行動は既に手遅れなのだ!」キングは長い両手を広げ、堂々たる態度で力強く演説を始めた。

 

ヒョットコ達の持つタイマツが仁王立ちしたキングを照らし、通路に威圧的で巨大な影を作る。下水道に反響する声は鼓膜のみならず頭蓋骨を揺らして、催眠術めいて脳髄にしみ入る。ソビエト党大会めいて考え抜かれた視聴覚効果に、その場の誰もが声を失い一心にキングを見つめていた。

 

「ヒョットコとは『火の男』の意! オメーンをかぶったその瞬間から、諸君等は火炎の化身となった! 神聖なる炎で汚らわしいバイオドブネズミ擬きを焼却し、約束の地を清めるのだ! 約束の子らよ、ゆくぞ!」なんたる高偏差値を体現するが如き高度な歴史的知識に基づく高水準アジテートか! 

 

「「「キング! キング! キング!」」」爆発的な歓声が通路を満たした。ヤング・オモシロイで接種した濃縮バリキに加えての、特権意識を揺さぶり殺戮を全肯定するタクミなスピーチで、誰もが宗教的恍惚に酔いしれている。知的レベル余りの高さに随喜の涙をこぼすヒョットコまでいる。

 

だがセンタ試験を経験した無関係の第三者がこの場にいれば、違和感に気づくであろう。キングの演説は高偏差値過ぎるのだ! ミヤモト・マサシのコトワザやヒョットコの語原など、名門文系大学生でも無ければそう知っているものではない。つまり、これだけの知識があるなら名門文系大学も十分射程内だ。

 

そしてヒョットコ・クランは「センタ試験に失敗した」「十代の若者」からなるヨタモノ集団だ。そんな人物が何故、ヒョット・クランの指導者になっているのか? 理由は至って単純、彼はヒョットコ・キングではない。いや、その肉体は間違いなくキングのもの。違うのはその中身だ。

 

キングの精神は侵入者の手によって粉微塵に破壊されて消え去った。今やキングは遠隔操縦される生きたゾンビーに等しい。他人の精神を破壊し乗っ取るなど到底人間業ではない。当然、侵入者はニンジャである! そう、ヒョットコ・キングを動かすのはソウカイニンジャ「ウォーロック」なのだ。

 

「ホホホ! マケグミ未満のヨタモノはコントロールが楽でいいですね」キングに乗り移ったウォーロックは、再び重役椅子ミコシに腰を下ろし小さく呟く。疑いなくキングに従う周囲を一瞥する眼光は人間離れして鋭く、モータルへの蔑みに満ちていた。想像力と注意力の高い者ならその視線に気づくだろう。

 

だがヒョットコにそれに気づけるような者はいない。だからこそ彼らはヒョットコに成り果てたのだ。それでもウォーロックは注意深く違和感を覚えられる前に瞼を瞑り、ニューロンの内側に沈み込む。一人沈黙思考するウォーロック、つまりキングへと先行させていた近衛ヒョットコから報告があがった。

 

「キング! 扉にカンヌキがかかっています!」「焼き切れ!」すぐさまバーナーを担いだヒョットコ工兵が扉へと駆け足し、蒼白の火を噴くトーチで熔断を始めた。浮浪者が手に入れられるカンヌキ鋼材などたかが知れている。カンヌキは僅かな時間でその能力を失った。

 

「焼き切りました!」「ヨロシイ!」再び椅子の上に立ち上がったキングはカンヌキを失った扉へと青竜刀を振りかざす。「「「キング! キング! キング!」」」唱和し反響する呼び声の中、さらなるアジテートと共にヒョットコが待ち望む殺戮へのGOサインが示された。

 

「約束の子等よ、時は来たれり! バットを握り、オメーンを被れ! 血と炎でこの地を清めるのだ! ゆけ!」「「「ヒャッハーッ!」」」金属バットを構えた殴り込みヒョットコ隊が、キャンプ入り口の扉を蹴り開ける。彼らは濃縮バリキの興奮と殺戮への期待で股間と胸を膨らませ、残虐な本能に身を任せる。

 

さあ、浮浪者の頭蓋骨をホームランしてキングに高得点を捧げよう! それこそがセンタ試験なる欺瞞に気づき、ヒョットコという真実を得た約束の子の使命なのだから! 扉の向こうには抵抗する術も対策の時間もなく、狩られて刈られるだけの哀れな獲物が怯え竦んで待っている……その筈だった。

 

【鉄火の銘】

 

【鉄火の銘】

 

(((ついに使命を果たすときが来たのだ!)))選民的優越感と薬物ケミカル反応が入り交じった熱狂の最中、十数人の精鋭ヒョットコが金属バットを掲げてキャンプ入り口の扉を蹴り開ける。ヒョットコへの恐怖で這いずり回る浮浪者達の後頭部めがけてフルスイングする予定だ。

 

「あれぇ?」「え」「ナンデ?」だが現実は予定通りにいかぬもの。彼らの視界には焼く予定のテントも殺す予定の浮浪者も見あたらない。代わりに見えるのは、両手の数より多い土嚢の石垣。そして石垣の最上段と二段目には僅かな狭間が開けられ、その一つ一つから鉄の筒が顔を覗かせている。

 

「さぁて」ただ一人姿を見せているのは中央の土嚢石垣から立ち上がったグンバイを担いだ老人だけだった。幾多のシワが刻まれた顔に、ヒョットコとは異なる残虐で酷薄な笑みを浮かべている。帯びる雰囲気もヒョットコの知る弱々しい浮浪者達とは全く異なっていた。

 

「獲物だ!」「ドブネズミ!」「これ塾でやったところだ!」狂気に酔いしれるヒョットコがようやく獲物が出たと歓喜の声をあげて突撃した。ヒョットコは老人の放つ危険性アトモスフィアに気づくことはない。気づく暇もない。そんな余裕を老人は、ナンブ隊長は与えはしなかった。

 

「ホノオ!」BLATATATA! 振り下ろされたグンバイを合図に、狭間から突き出た銃火器が不作法な侵入者へと盛大に歓迎のクラッカーを鳴らした。「「「アバーッ!?」」」キャンプ防衛隊からたっぷりと贈られた熱々の鉛玉で、ヒョットコ殴り込み部隊は断末魔のブギーダンスを踊り狂った。

 

「アイェェェ……」眼前で行われた銃殺めいた一方的殺戮劇に、石垣めいた土嚢の堡塁の中で幾人もの臨時防衛隊員が恐怖の声を漏らした。社会の最低辺にいるがキャンプの住人は皆善良で良識を持ち合わせている。キャンプを守るという大儀に奮い立っても、これほどの流血に耐えられるものではない。

 

耳に届いた悲鳴にナンブ隊長は僅かに眉をひそめた。恐怖に狂った新兵は優秀な敵に勝る脅威となる。教育が必要だ。「ナンブ隊長、危ないです!」「気にするな!」決断を下したナンブ隊長は年齢を感じさせぬ動きで堡塁を乗り越え、銃殺現場となった出入口扉へと颯爽と歩く。

 

「ふん」「ウゥッ」防衛隊員の注意を気にも留めず、交差銃火点の中央に横たわるヒョットコの一人を掴み上げた。老人とは思えない腕力でつるし上げられたヒョットコは呻き声を上げて悶える。このヒョットコは幸運なことに仲間が盾となって致命傷を免れたのだ。だがその幸運もここまでだった。

 

「グワーッ!」朦朧としていたヒョットコ・サヴァイバーの意識が突然の痛みに強制的に覚醒させられる。チョップを加えられた旧式TVめいて突然鮮明になる光景の中、ヒョットコの頭蓋にさらなる痛みが追加された。靴底で割り砕かれたオメーンが顔面に押しつけられる。

 

「見ろ、オサルども! こいつらはカイジュウでもオバケでもない。狂気に酔っているだけのバカなヨタモノにすぎん!」「グワーッ!?」当然、実行者はナンブ隊長である。吊し上げたヒョットコを投げ飛ばし、踏みにじり、そして今耳を塞ぎたくなるような罵詈雑言と共に拳銃を突きつけているのもまた彼だ。

 

「ヤメロー! ヤメロー!」自らに狙いを定めた銃口に命乞いと恐怖の声を上げる生き残りヒョットコ。薬物効果は痛みでかき消され、無思考の一体感はオメーンと共に砕け散った。そのブザマを鼻で嗤い、ナンブ隊長は拳銃のハンマーを持ち上げる。後は引き金を引くだけでヒョットコはジゴクに堕ちる。

 

「こ、こんなの授業で習ってないぞ!」「ならばここで学んで逝け! ジゴクで復習も忘れるな!」進退窮まったヒョットコが最期に上げたのは命乞いの声でも恐怖の叫びでもない。現実を拒否し夢想へと逃げ込む妄言がヒョットコのハイクとなった。

 

BLAM! 拳銃弾が残りのオメーンごと頭蓋を割り砕き、脳漿と脳味噌のカクテルをコンクリートにぶちまけた。ヒョットコが撲殺直後のマグロめいて痙攣する。戦場の本質を体現した演出に、臨時防衛隊員の誰もが圧倒され言葉を失う。オメーンと頭蓋骨の破片を踏み砕き、ナンブ隊長は寂声を響かせた。

 

「ヒョットコは只のバカなガキ共だ! 撃てば死ぬ、殴れば死ぬ、切れば死ぬ、刺せば死ぬ、殺せば死ぬ! 故に殺せ、殺せ、皆殺せ! 判ったか、オサル共!」「「「エイ! エイ! オーッ!」」」ナンブ隊長の舞台めいた台詞と共に、防衛隊員がシュプレヒーコルを謳い上げた。

 

「「「オ、オーッ!」」」戦場の狂気に当てられた臨時防衛隊員もまた同調の雄叫びを上げる。初陣の新兵めいた怯える目つきが、狂気に浸ったトリガーハッピーのそれに変わっていく。彼らはまともな人間性を持つが故に、戦場の狂気に浸らねば正当防衛でも殺人を犯せないのだ。なんたる皮肉か! 

 

「やるぞ、やるぞ!」「センターに入れてトリガー、センターに入れてトリガー」臨時防衛隊員の変質した目を、ワタナベは配置の場所から痛ましい表情で見つめる。ヨージンボーが守るべき住民達が、自らの意志とは言え戦場に立ちその手を血で染めているのだ。自分の不甲斐なさに歯噛みする思いだった。

 

臨時防衛隊員の何人が戦争神経症に苦しみ、そして何人が狂気から未帰還となるのか。ワタナベもナンブ隊長もロン先生も誰も知らない。だが戦わなければ全員がゴア死体となることは確実だ。今や状況はビハインド・リバーにある。逃げ場は勝利しかない。

 

それにクロスファイヤで死の舞踏をしたのは僅か十数人。防衛隊員がナリコから推定した数よりも少なすぎる。今のは捨て駒の威力偵察部隊。恐らくは次に来るのが本隊だ。未来の危険に怯えている暇はない。ワタナベは折り重なったヒョットコ死体の山の向こう、扉の奥を睨みつけた。

 

【鉄火の銘】

 

【鉄火の銘】

 

「キング! 殴り込み隊が死にました!」「気にするな! 聖火隊及び第二殴り込み隊突撃準備に入れ!」ワタナベの予想通り、ヒョットコ達は次なる部隊を舞台へと投入する準備を進めていた。キングに憑依したウォーロックにはヒョットコへの愛着も気配りもない。単なる齣、それも使い捨ての安物だ。

 

全員が無惨に死んでも目的が果たせるならオツリで大儲けができる。むしろ無価値な人生を慈悲深く使ってやっていると考えてすらいる。それがソウカイニンジャなのだ! 「彼らは使命を抱いて死んだ! つまり偉大なる約束と一つになった! それでもまだ怒りを覚えるか? 涙があふれそうか? 私もまた同じだ!」

 

「全ての罪は清めを拒むドブネズミ共にある! その思いは浄化行為で発散せよ! 諸君等も彼らの後に続き、使命を果たし永遠となるのだ!」「「「キング! キング! キング!」」」キングは追加の煽動と薬物で狂気を追加し、背を押されたヒョットコの脳髄は宗教的恍惚と群衆的一体感に漂白される。

 

「汚物は消毒だ!」「キレイキレイ!」火の点いたヒョットコ聖火隊は火炎放射器を構えて扉へと駆ける。その脳裏には一片の疑問もない。仮面を被り名前を捨てヒョットコの一単位に成り果てた今、無思考の喜びと個我喪失の一体感だけがある。彼らはキングの示す方向へとレミングスめいてひた走る。

 

BLATATATA! 「「「アババーッ!?」」」そしてレミングスめいて次々に死んでいく。十字砲火が彼らの大半をスイスチーズに変え、僅かな生き残りはまき散らされた可燃性廃液で自主的にローストされる。極彩色火炎に炙られたスプリンクラーヘッドが作動し、汚染消火水がキャンプに降り注いだ。

 

蒸気が立ち上り息苦しい程の熱気と湿気が辺りに立ちこめる。ロンドンめいた蒸気の霧が視界の大半を白く染め上げた。これではヒョットコの位置が見えない! 「ブッダ! これが狙いか!?」グンバイを構えるナンブ隊長は眉根を寄せて思考を回す。だがその時間をヒョットコは与えてはくれない。

 

「ヤッチマエー!」「ホームラーン!」第二次殴り込み隊が蒸気の煙幕に紛れて次々に接近してきたのだ! 「アイーッ!?」突如目の前に現れたヒョットコに臨時防衛隊員は驚愕のまま電動ドライバー付きホームガードパイプを突き出す。だが、彼は驚愕の余りドリルの電源をいれ損ねてしまった! ウカツ! 

 

「やっちゃうぜ! やっちゃうぜ!」「アイェーッ!」ドライバーはわき腹を僅かに抉ったが、それだけでは薬物で痛覚が鈍麻したヒョットには効果不十分! 恐怖する臨時防衛隊員めがけ狂った目のヒョットコはバットを振り上げた。ウカツな彼はキャンプ初の犠牲者となるのか!? 

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」いや、そうはならない。そのために彼らはいる! 突然の疾風が霧を吹き散らしヒョットコの両膝を蹴り砕いた。膝を砕かれたヒョットコには激痛も相まって何がなんだか判らない。風が吹いた次の瞬間には両足がネコネコカワイイジャンプ専用に仕立て上げられていたのだ。

 

「ナンデ!? こんなのテストに出なアバーッ!?」「や、やったぞ!」そしてその疑問が解かれることはない。頭蓋に突きつけられた電動ドライバーがモーター回転し、ヒョットコの頭のネジを締め潰したからだ。恐怖で混乱してやらかしたとは言え、動けない標的相手なら落ち着けばなんとか殺せる。

 

そして落ち着けば周囲も見えてくる。「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」二陣の風が吹き荒れる度、同様の光景が次から次へと生じているのだ。ヒョットコの接近を拒むカラテを纏った烈風の正体は言うまでもない。カラテ遊撃隊のワタナベとシンヤだった。

 

ニンジャの速度で駆ける二人は色付きの風にしか見えない。故にどのヒョットコも理解も反応もできずに足を砕かれて夜店の的に早変わりだ。殺意を漲らせた防衛隊員の尽力もあり、瞬く間に第二次ヒョットコ殴り込み隊は床の赤ペンキに変わり果てた。しばらく塗り直しは要らないだろう。

 

スプリンクラー配管の消火水が尽きたのか蒸気の白煙が徐々に収まっていく。原色の火炎はまだ名残惜しげにヒョットコ焼死体の上で踊っているが、その火勢は随分と衰えている。その向こうには無人となったキャンプ出入り口が見える。このタイミングを逃すようなナンブ隊長ではない。

 

「チャンス! 準備は!?」「できてます!」合図からすぐに数台の貨物台車に時代物の攻城兵器が乗せられてきた。両手を広げたよりも大きいバリスタだ。黒錆色の弓に黒錆色の弦が張られ、黒錆色の太矢が番えられている。色彩から判るように全てシンヤ製である。

 

「焦るなよ!」「判ってます! 任せてくださいよ!」拳並に太いクナイ・ボルトには危険なTNTバクチクがタップリと束ねられている。その導火線に火が点けられた。シュウシュウと危険な音を立てながら導火線が長さを減じる。隊員は慎重に狙いを定めた。標的は入り口扉のその向こう全てだ。

 

「フーッ……行きます!」「全員、伏せろーっ!」深呼吸を一つして、隊員はトリガーを引いた。空気が切り裂かれる高音を奏でながら、巨大クナイ・ボルトは水平弾道飛行で扉向こうのコンクリ壁へと突き立つ。緊張のアドレナリンで引き延ばされた長い長い一瞬の後、遂に火は雷管に達した。

 

KABOOOOM! 「「「アバーッ!」」」バクチクの化学エネルギーは瞬時に熱と圧力と光に転じ、逃げ場を探して暴れ回る。半分は出入り口からキャンプへと脱出し、巨大地下空間を熱風と轟音と閃光で満たす。取り残された残りのエナジーは、逃げ道を求めて閉鎖空間をヒョットコの悲鳴ごと塗り潰した。

 

網膜で踊る極彩色の影と鼓膜の奥で歌う耳鳴りが収まるより早く、ナンブ隊長は堡塁から顔を上げた。視線の先の出入り口には、飴細工めいた元扉が倒れている。他には何もない。ブギーダンスを踊ったヒョットコの死骸も、引火廃液でローストされたヒョットコの残骸もない。全て吹き飛んだのだ。

 

「いないぞ!」「やったか!?」「勝ったぞ、ヤッター!」バクチクの圧倒的破壊力の結果に、誰もが口々に勝利をつぶやく。「よし!」冷静で冷徹なナンブ隊長も思わず声を上げた。彼にも勝利のフラッグが見えたのだろう。確かにヨタモノ大集団相手ならこれで大損害は間違いない。

 

「バリスタは後方に移送、突撃隊を編成しろ! カタをつけるぞ!」「ハイ!」大戦果をオーテ・ツミに変えるべく、ナンブ隊長は矢継ぎ早に指示を飛ばす。役割を終えて下げられるバリスタと交代で、バトルライフルを構えた命知らずの防衛隊員が次々に並んでいく。

 

彼らは薬室に込められた初弾と同じく、突撃命令を今や遅しと獰猛な表情で待ち望んでいる。命令の撃鉄が振り下ろされれば故郷を汚すヒョットコを大喜びで食いちぎるだろう。彼らの戦意を見て取ったナンブ隊長も、肉食獣の笑みを浮かべて応える。そしてグンバイが振り上げられる。

 

「では突撃隊進軍開……」「まだです!」「来るぞ!」だが、それを止める声が飛んだ。カラテ遊撃隊は未だにカラテ警戒を解いていない。二人のニンジャ第六感も否定の声を上げている。特にシンヤは『原作』からウォーロックの行動を知っている。ウォーロックが動く可能性は極めて高いのだ。

 

それを明示するかのように出入り口向こうの通路から冷たい霧が立ち上り始めた。白煙は瞬く間にその量を増し、出入り口を積乱雲めいた巨大煙柱が封鎖した。なにが起きるのか。なにが飛び出すのか。

 

固唾をのんで見守る彼らの前に現れたのは、人間よりも大きい巨大ヒョットコ・オメーンだ! 「アイッ!?」「巨人か!?」「オバケ!」否、映像である! スモーク内部で何者かがプロジェクターを動かし、蒸気に3D投影したのだ。「ホホホホ! インターラプター=サン、ゴキゲンヨ!」

 

【サプライジング・ウェフト・パス・スルー・イマジネーション】#2終わり。#3に続く


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