戦国†恋姫~水野の荒武者~   作:玄猫

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8話 天人と鬼の巣と新たな鬼

「藤十郎藤十郎!もうすぐ阿弥陀さまのお使いに会えるのですよ!」

「あー、はいはい。とりあえず綾那は落ち着け」

 

 馬上からこの言葉を綾那が言うのは何度目だろうか。よっぽど楽しみなのだろうが、歌夜も流石に苦笑いである。

 

「綾那、私たちは殿の名代として行くのだからちゃんとしなくては駄目よ?」

「分かってるです!ふっふっふー!ちゃんとやってやるです!」

「藤十郎どの、いつも貴方たちはこのような雰囲気なのですか?」

 

 詩乃の問いかけに苦笑いで答える藤十郎。綾那と藤十郎に関して言えばいつもこんな感じだ。

 

「安心しろ、戦になれば綾那ほどの強者はそうそうおらん……ん?」

 

 藤十郎が馬上から遠方を見る。

 

「どうかしましたか、藤十郎さん?」

「ふむ、一里半ほど先から馬がこちらに駆けてくるのが見えるな」

「ほんとなのです。でもあの速度は……突撃してきてるです?」

「っ!?私が先行してお止めしてきます!」

 

 詩乃が馬を走らせ、前へと進んでいく。

 

「……嫌な予感がするな。皆、武器はすぐに抜けるように準備しておけ!!」

「「応!!」」

 

 

 あと半里ほどまで来た頃だろうか、藤十郎はこちらに向かってくる馬上の人間の姿を捉える。

 

「あれは……小夜叉と……桐琴さんか。ってことは……綾那!!」

「藤十郎、どうしたのです?」

「手合わせだ。織田からの手荒い歓迎だと思え」

「分かったのです!!殺ってやるですっ!!」

 

 

「ひゃっはーっ!!」

 

 馬上から飛び降りながら襲い掛かってくる小夜叉に、槍の一振りで綾那が応える。馬でそのまま突撃してくる桐琴に藤十郎が同等の速度で正面からぶつかっていく。

 

「おう、久しいな孺子!!少しはいい漢になったか!!」

「桐琴さんも久々なのに言葉より先に槍が出るとは……相変わらずじゃないか!!」

 

 互いの槍が交差するたびに周囲に火花が散る。同じように少し離れたところで綾那と小夜叉の攻防も激しさを増していた。身の丈を遥かに超える槍を旋風させながら小夜叉の攻撃を軽々と打ち払いながらなにやら話している。

 

「ほぅ、あの小娘なかなかやりおるわ」

「よそ見してる場合じゃない……ぜ!!」

 

 藤十郎が馬の頭を一撫ですると、グンと速度が上がる。

 

「っ!?」

 

 槍と槍が交差し、桐琴がはじめて押し負け身体が少しぐらつく。波が返すように瞬時に馬を反転させて槍を突き出してきた藤十郎の一撃を身体を捻ることで桐琴が避ける。

 

「んはっ!孺子、ワシらとおったときはやはり本気ではなかったようだな!」

「事情があるんだよ、事情が!」

 

 再度、馬を撫でると藤十郎はひらりと馬上より降り立つ。あわせるように桐琴も馬から降りると槍を振るう。

 

「かかって来い、孺子!」

「かかってきな、チビ!」

 

 桐琴と小夜叉の言葉に藤十郎と綾那が槍を構えなおしたその瞬間だった。

 

「ちょ、ちょっと待ったぁぁぁーーーーー!!」

 

 そんな言葉と共に間に飛び込んできた少年。

 

「ほぅ……」

 

 藤十郎が桐琴と戦っていたとき以上に鋭い目で見る。特に何と言って特徴らしき特徴はない。顔立ちは整っているが、武者という雰囲気はなく異質な感じがするのは彼が腰に差している太刀くらいのものだろうか。身体も鍛えているようだが、だからと言って三河の兵以上のものとは思えない。

 

「そこまでにしてくれるかな、松平の人たち」

 

 

 若干拗ねたような表情の森一家と苦笑いでそれを宥めている少年。彼が新田剣丞。田楽狭間に舞い降りた天人にして阿弥陀如来の化身……そして松平へ来ていた詩乃の上司であり、あの久遠の夫……。

 

「えっと……水野さん、でしたっけ?そちらの代表の人だよね?」

「あぁ。水野勝成。通称は藤十郎だ、年も近そうだし藤十郎で構わん」

「そう?じゃあ藤十郎さん、知ってるかもしれないけど俺は新田剣丞。剣丞隊の隊長で久遠の夫をやらせてもらってる」

 

 剣丞の挨拶に藤十郎は一瞬きょとんとした顔を浮かべ、その後に笑う。

 

「はっはっはっ!夫をやらせてもらっているとは面白い表現だな。流石はあの久遠殿が選んだ男ということか」

 

 笑われた剣丞は意味が良く分からなかったのか、先ほどの藤十郎と同じような表情になっている。

 

「それで、先ほどの二人の突撃は一体なんだったのだ?三河の気性を考えた上でわざとやった……ということか?」

「いや……二人の場合はただ喧嘩を吹っかけただけだと思う」

 

 正直に言う剣丞の評価を藤十郎は上げる。

 

「ふむ、まぁ三河は気性の荒い土地だ。あれくらい血気盛んなほうが打ち解けるのは早いだろう。特に問題にする気はないから気にするな」

「正直、ありがたい。あ、俺のことは剣丞でいいから」

「ならば剣丞。まずは先行して来ている三河衆を紹介させてもらう」

 

 

 一通り紹介が済んだ辺りで詩乃が合流する。目をキラキラと輝かせている綾那を見てため息をつく。

 

「はぁ、剣丞さま。相変わらずの蕩しっぷりで……」

「いやいや!?俺は何もしてないって!!」

 

 二人の掛け合いを聞くに綾那のように憧れのようなものを抱いている女子が多いのだろうか。

 

「藤十郎!綾那、剣丞さまとお話しちゃったのですよ~!えへへ~」

 

 嬉しそうな綾那の頭を軽く撫で、もう一度剣丞に視線を向ける。正直、警戒していたのだがそれほど危険は感じない。不思議と親しみやすい感じを受けるが……。

 

「それで剣丞。お前はどうしてこんなところに居る?本来なら美濃にいるんじゃなかったのか?」

「あー、それは……」

 

 

「鬼の巣、ね」

「うん。あ、藤十郎は鬼と戦ったことあるんだよね?」

「あぁ。桐琴さんと小夜叉と一緒に狩りに行ってたからな」

「あ、そういえば、ここに藤十郎たちがいるってことは松平家中は、久遠の上洛に……」

「勿論、手を貸そう。駿府屋形から独立した俺たちにとって、久遠どのは大切な同盟相手だからな」

 

 藤十郎の言葉に感謝の言葉を伝える剣丞。藤十郎の隣の綾那はなにやらそわそわし始める。

 

「どうした、綾那?」

「藤十郎、綾那も鬼退治してみたいです!」

 

 まるで子供が遊びに行きたい!といった軽い感じで鬼退治を所望する綾那。

 

「剣丞さま、三人で鬼の巣に討ち入りなど……そのようなこと認められるとお思いですか?」

「え、でもほとんど森のお二人が倒すし」

「そう言う意味ではなくてですね……」

 

 くどくどと説教を始める詩乃を横目に、藤十郎はどうしたものかと考える。自分が相手をしてきた鬼の強さを考えるに、綾那や少し離れたところでこちらを伺っている歌夜、そして恐らくはついてきているであろう小波であれば万が一にも遅れをとることはないだろう。今後、鬼と対峙する際にも少しは役に立つだろう。

 

 

 その後、鬼の巣へと移動した一同は予想と違う光景に驚くことになる。

 

「……なんだ、あの鬼共」

 

 藤十郎の言葉に、桐琴と小夜叉、そして剣丞は眉を顰める。

 

「あれは……具足?それに刀を持ってる?」

 

 剣丞の呟きの通り、入り口付近をフラフラしていた鬼の姿はまるで足軽のそれであった。まだ日が昇っているからだろうか、動きに精彩は見られないが鬼を初めて見る松平衆からは若干の動揺が見て取れる。

 

「おい、孺子。数は?」

「……五十、ってとこか」

「おいおい、物見は三十っていってたじゃねぇか。全然違げーじゃん」

「はっ!数が増えれば獲物が増える。ワシとしては嬉しい限りだ!」

 

 そんな会話をしている森一家の隣で藤十郎は考える。鬼が具足や刀を持つ、その事実がこれからどのような影響を与えていくのか。だが、藤十郎の知る鬼の生態とは大きくかけ離れた今の状況では判断に難しい。

 

「……今は、まず倒してみてから考えるか。今後の動きにも関わるぞ、これは」

 

 藤十郎の呟きを聞いたものは誰も居なかった。

 

 

 場所は変わって長久手の村。鬼を退治した一行(森一家は二、三日鬼を乱獲してくると旅立った)は、情報交換と一時の休息のために宿に入り一息ついていた。

 

「ふぅ……さて、綾那、歌夜。お前達から見て鬼はどうだった?」

「綾那は少し物足りなかったのです。藤十郎と死合ってるほうが楽しいのです」

「綾那、藤十郎さんが聞きたいのはそういうことじゃないと思うわよ。……藤十郎さんから聞いていた鬼とは少し様子が違う、そう感じました」

 

 歌夜の言葉に藤十郎は頷く。

 

「その通りだ。俺の知る鬼は刀や具足は持たず、野性の獣のような存在だった。正直、刀を持っていることを警戒もしたがまるで素人の太刀筋だった。だが、あれはあれで危険だ。もし鬼の膂力で剣術を極めたら……並の人では文字通り太刀打ち出来んだろう」

「そんな奴がいるですか!」

「どうだろうな、今はまだ見ていない……としか言えん。俺が知らぬだけで既にそういった存在がいる、という可能性も否定は出来ない」

 

 藤十郎の言葉に歌夜は思案する。

 

「鬼が知識をつけている?」

「……どうだろうな。今日潰した鬼の巣の中には知能がありそうな奴は居なかった。だが……たとえばだが、俺が鬼になったとしたら……綾那、どう思う」

「藤十郎は鬼だったのですか!?なら綾那が倒すのです!あー……でもでも、藤十郎の腕前で膂力が高くなるとちょっと苦戦するかもしれないです」

 

 ちょっと苦戦、という言葉に藤十郎は苦笑いするが軽く頷くと言葉を続ける。

 

「その通りだろうな。人から鬼になる……って言うのは例えとして言われることだが、もし鬼が人に近づいているとしたら……いつかは知能を持つだろう」

 

 鬼の国などが出来てしまえば最早それは脅威以外の何物でもない。

 

「今回見た鬼はもしかするとそういった類の先駆けかもしれん。姫さんと合流したらすぐに伝え対策を立てる」

「はい」

「分かったです!……藤十郎、お腹すいたです!」

 

 普段であれば既に夕餉を済ませている時間だ。普段から慣れているとはいえ、初めての鬼退治の後だ、少々疲れもあるのだろう。

 

「そういえば、剣丞が手配するって言っていたが……というか、お前たちは俺と同じ部屋でいいのか?」

「え、違う部屋にする意味あるです?」

 

 綾那が心底不思議そうな顔で藤十郎にたずねる。

 

「まぁ、お前たちがいいのなら俺は構わんが」

「ふふ、私も綾那も、藤十郎さんなら大丈夫です」

 

 歌夜の優しい笑顔に、そうか、とだけ返す。

 

「どうやら飯も運ばれてきたようだし……とりあえずは腹ごしらえだな」

「腹ごしらえって……藤十郎さん、まだ何かするつもりなんですか?……ま、まさか……」

「ご飯食べたら腹ごなしに死合うのですよ、藤十郎!」

「あぁ、今日の鬼は手ごたえがなかったからな」

「……はぁ、そんなことだと思いました」

 

 歌夜が何故か少し残念そうな態度でため息をつく。

 

 

 こうして、長久手での夜は更けていく……。




剣丞ハーレムの一角は崩しますが、私は決してアンチ剣丞ではありません!
この小説でも剣丞は剣丞なりの活躍の場が出てくる予定です。
……とはいえ、松平、そして藤十郎以上の活躍はそうそう出来ませんが。

この作品では、原作よりも鬼の強さが強化される部分が多々あります。
ご注意ください!

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