戦国†恋姫~水野の荒武者~   作:玄猫

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前半はラブコメ回です(ぉぃ


6話 松平家御家騒動!?

「……それで、姫さんはどうなってるんだ」

「うー、葵さまずるいのです……」

「こら綾那、静かにしてなさい」

「えへへ」

 

 真剣な顔で悠季に尋ねる藤十郎。藤十郎のほうを羨ましそうに見ている綾那。綾那をたしなめつつもチラチラと藤十郎のほうを見る歌夜。そして、何故か藤十郎の膝の上に座っている葵。

 

「……はて、藤十郎殿。なにやら楽しそうに見えますが?」

「……お前の目は節穴か」

「冗談はさておき……話は一月ほど前に遡るのですが……」

 

 

 その日、葵は悠季と幾人かの護衛を連れ町の視察へと出ていたそうだ。賑やかな町に満足気であった葵は、一人の占い師に占いをしてもらったという。

 

「ほうほう……お嬢さんからは天下を治めるに相応しい資質を感じるぞい」

「流石は葵さま!このような怪しい占い師にもその輝かしい未来が見えるほどとはっ!!」

「こら、悠季。失礼でしょう?」

「ほっほっほっ、構いませぬぞ。この老いぼれから贈ることが出来る言葉は……修身斉家治国平天下(しゅうしんせいかちこくへいてんか)。お嬢さんは身を修めておるようじゃから、次は家庭を整えることじゃな」

 

 葵は占い師の言葉に首を傾げる。この家庭を整えるというのは、家中を……ということではなさそうだ。

 

「よき旦那様を得られれば、天下を治めることも出来ようて」

「っ!」

 

 占い師の言いたいことを理解した葵は頬を染める。

 

「葵さまに下賎な男などという生き物は必要ありませぬぞ!」

「悠季!……お婆さん、ありがとう。私なりに出来ることをやってみます」

「ほっほっほっ、なればこれを帰ってから見てみなされ」

 

 そういって、一つの巻物を葵に手渡す。

 

「お嬢さんにとっての転機を引き起こす巻物じゃ。それを信じるも信じぬもお嬢さん次第じゃが」

「ありがとう。悠季、謝礼を」

「はっ」

 

 

「その話と、今のこの状況。どう繋がる?」

「葵さまが、屋敷にお帰りになられてからその巻物を読まれたようで……そしたら」

 

 藤十郎の膝の上で満足そうな笑顔の葵を見て。

 

「……どうやら、幼少期の精神状態に戻ってしまったようなのです」

「……は?」

 

 

 この状況になったときは非常に大変だったらしい。他国から来る使者には、急病ということで悠季が緊急で対応し、かといってこの状況の葵を放置しておくわけにも行かない。家中でも信頼の置ける者や葵の身の回りの世話をしている女中に緘口令を敷き、何かを知っている可能性のある占い師も探したそうだが影も形もなく。

 

「今に至るというわけか」

「大変だったのですよ。藤十郎は、藤十郎はーと、葵さまは何故か藤十郎殿をずっと探しておられて……藤十郎殿、葵さまが幼い頃に何を仕出かしたので?」

「……言いがかりはよせ」

「藤十郎、葵さまと楽しそうなのです。綾那も混ざりたいですー!」

「綾那!……藤十郎さん、綾那がそろそろ暴れそうなのでお先に失礼しますね。ほら綾那、行くわよ」

 

 まだなにやら納得いかない様子だった綾那は歌夜に引きずられるように葵の屋敷から出て行く。

 

「詳しい話や、これからについてはまた明日聞くことにします。……く・れ・ぐ・れ・も!葵さまをお願いします、藤十郎殿?」

「あぁ。……とはいえ、どうすればいいんだ」

 

 

「……はぁ」

 

 悠季が帰った後も大変だった。食事まではよかったのだが、葵が藤十郎と風呂に入ると聞かなかったのだ。なんとか女中たちが宥めすかして風呂に入れたのが一刻ほど前。その間に藤十郎も湯浴みを済ませたのだが。

 

「藤十郎、一緒に寝よ?」

 

 白い襦袢を身に纏っただけの葵が藤十郎の部屋へ枕を持参して来たのだ。この時間になると、女中たちも自らの家に帰っており二人しかいない。

 

「姫さん、さすがにそれは……」

「この間は一緒に寝てくれたのに?それに姫さんって何?」

 

 記憶も昔に戻っていると言っていたことを忘れていた。それに昔は呼び方が違ったということを。

 

「……あー、その……葵。今日は一人で……」

 

 そこまで言って、寂しそうな葵の顔に言葉を詰まらせる。そういえば、昔は人一倍寂しがりやなところがあり、母が屋敷にいることが少なかった二人は一緒に寝ることが多かったことを思い出す。

 

「……分かった。おいで、葵」

 

 覚悟を決めて布団へと葵を招き入れる。

 

「えへへ」

 

 普段の葵からは想像もつかない、蕩けるような笑顔で布団の中にもぐりこんでくる。精神が子供と言っても、身体は今の葵のままだ。意識するなというほうが無理だろう。

 

 

「ねぇ、藤十郎?」

「何だ?」

「あのね、葵が大きくなって、松平の家を大きくしたら……」

 

 言葉を少し待っていたが、すぅすぅと寝息が聞こえてくる。

 

「……ふふ、家を大きくしたら、か」

 

 

『ねぇ、藤十郎?葵が大きくなって、松平の家を大きくしたら……ずっと一緒に居てくれる?』

『勿論!葵は俺が守るよ!』

 

 

 葵が覚えているかは分からない約束。幼い頃の約束が果たせるほどに力を付けられたとは思わないが、それでもこの約束は藤十郎の力となった。

 

 

「……天下、か」

 

 時折、藤十郎や歌夜、綾那のいないところで葵と悠季が話をしているのは知っている。これからの世、必要なのは武士ではない。それならばそれでいいと藤十郎は考えていた。葵が平穏に暮らしていける場所があるのならば、いっそ国を離れ流浪の身になるのも悪くはないと。そう思ったからこそ、一人で各地を旅したり今回のように織田へ行ったりもした。

 

「天下の邪魔になるものは……武田、上杉……そして織田。いや、それ以上に鬼か」

 

 甲斐の虎、武田信玄や越後の龍、上杉謙信だけでなく、織田信長もまた藤十郎の中では天下の障害として認識されていた。勿論、全てが敵とは限らないが敵に回ると厄介という意味では近隣では脅威と成り得るだろう。

 特に、今回直接会うことはなかったが天人、新田剣丞という存在。もしかすると鬼以上に厄介なのはこの男かもしれない。

 

「場合によっては……全て斬る。相手が仏であろうと、鬼であろうと」

 

 すぅすぅと寝息を立てる葵の頭をやさしく撫でる。藤十郎もその後、静かに目を閉じ、意識を闇へと沈めていった。

 

 

 

 葵は混乱していた。それはそうだろう、朝起きて目を開けると目の前に眠った藤十郎の顔があったのだ。枕は二つあるし、着衣に乱れがあるわけでもないが状況がまったく飲み込めない。必死に記憶をたどるが、ここ最近のことがまるで夢のようにぼんやりとしか思い出せない。

 

「い、一体何が……!?」

 

 恐らくは人生で最も動揺している瞬間だろう、冷静であれば起きて布団から出ればいいのだが、それすらも判断できずに混乱しながらも布団から一歩もでない。

 

「ん……おはよう、姫さん……」

「と、藤十郎?あの、私どうして……」

「……え?」

 

 

「……皆には本当に迷惑をかけたわね」

 

 まだ少々頬は赤いが、落ち着いて家臣たちに謝罪をする葵。

 

「いえいえ、我ら葵さまの為ならば火の中水の中……」

「葵さま、もう大丈夫なのです?」

「えぇ、綾那も心配かけたわね」

 

 一人ひとりに声をかける葵。最後に藤十郎の番が来ると頬を再度染めてうつむいてしまう。

 

「おやおや?藤十郎殿、昨晩は葵さまに一体何をしたのです?」

「言いがかりだ。何をしてないし、疑られることなぞ何もしていない。なぁ、姫さん?」

「そ、そうです。悠季、私は大丈夫だから。……こほん、それはそうと、藤十郎。織田へ行って、見たと存在について話してくれますね?」

 

 葵が言いたいのは鬼のことだろう。前に藤十郎が葵にだけ話をしたときは悠季にも伝えなかったらしく、家中では葵と藤十郎だけが鬼の存在について認知している状況だ。今回の尾張行きで藤十郎が何かしら鬼に対しての知識をつけたと確信しての発言だろう。

 

「はっ。……まずこれは、冗談のような話に聞こえるかもしれないが全て事実だ。……」

 

 

 藤十郎の話を聞いた者の反応は大きく分けて二つだ。鬼の情報を聞き、恐怖を覚える者。逆に猛っている者。流石は三河者というべきだろうか、圧倒的に後者のほうが多い。故に危険でもある。

 

「鬼は一匹であれば、そこまでの危険性はない……とは言い切れないが、複数人……もしくは武に自信を持つ武士であれば倒すことも難しくない。だが……危険なのはそれが複数居る場合だ」

 

 藤十郎の言葉に場にいる全員が静まり返る。

 

「実際に俺が見、同時に戦った最大数は30ほどだが、正直連携らしき連携はしていなかった。それこそ野生の動物程度の知能かもしれない。だが……一匹、おかしな鬼を見た。その鬼はまるでほかの鬼に指示を出しているかのように吠え、それに従うように動く鬼が居た」

 

 再度、場がざわつく。それはそうだろう。ただでさえ未知の存在である鬼が知能を持っているというのは脅威でしかない。

 

「もし、鬼が徒党を組んできたならば……数匹で一つの村は簡単に滅びるだろうな」

「ふむ……藤十郎殿、少し疑問があるのですが、どうして鬼は今のところ尾張の周辺に多く存在しているのでしょう?」

「……正直、分からん。が、少しずつではあるが鬼の現れる範囲や方角が増えているようだ」

 

 尾張では既に夜に外を出歩くことを禁ずるほどに鬼の出没する割合が上がっていたらしい。森一家と藤十郎によって尾張の中心部周辺の鬼は殲滅されたが、人々に恐怖の種を植えたのは間違いないだろう。

 

「いずれは三河にも現れる、と?」

「現れぬならそれに越したことはないが、現れぬと断言できるほど余裕のある状況には感じられなかった」

 

 いくら三河とはいえ、武士以外の者にとっては鬼は脅威でしかないだろう。民の疲弊は国の疲弊。松平は国力を落とすのは間違いない。

 

「早急に対策を立てなければならないわね……悠季、織田殿へ文を。鬼に対する対策、状況次第では互いに協力し合えるようにしなくてはならないわ」

「そう簡単にいきましょうか?松平と織田は先代に何度も戦をした関係。溝は狭くありませんが?」

「そうね、でも民を苦しめるわけにはいかないわ。それに藤十郎が織田に客将として行ってくれていたことが利となるわ。久遠姉様が裏永楽を授けるほどに藤十郎のことを評価してくれているのであれば、前向きに考えてくれるはずよ」

 

 そう言うと、藤十郎の腰に差してある太刀に目を向ける。久遠が礼に贈った左文字だ。

 

「ただ、今は織田も斉藤と事を交える寸前と聞きます。すぐには難しいやも知れませぬなぁ」

「えぇ、ですが織田殿であればすぐにでも終わらせ、新たな動きを見せるでしょう。そうなれば、鬼の討伐に動く可能性も視野に入れておいても悪くないわ。……三河武士は強くとも、国としては小国。斉藤を下した織田殿と早い段階で協力体制を整えておけば、その後に何かあったとしても有利に立ち回っていける」

「流石は葵さま!深いお考えがあったとは……私は感動しております!」

「何はともあれ、まずは自国の護りを固めることが必要ね。今川がどのように動いてくるかも分からないし……」

 

 思案する葵。恐らくは鬼に対する対策と、今川に対する備えの両方を考えているのだろう。

 

「……そうね、まずは一向宗の一揆を抑えることから始めましょう」

「なら、その鎮圧は俺が行こう」

 

 藤十郎が言うと場が少しざわつく。面々の中ではまだまだ若いがその実力は認められている為、まさか藤十郎が自ら出陣すると言うとは思わなかったのだろう。……藤十郎が出陣しない戦いのほうが少ないのだが。

 

「あ!藤十郎ずるいです!綾那も行きたいのです!」

「あ、綾那!すみません、葵さま……」

 

 自分もと立候補する綾那とそれを止めようとする歌夜。二人を見て葵はふふっと笑う。

 

「いいのよ、歌夜。……それでは、藤十郎の補佐に綾那と歌夜をつけます。一揆を平定してきなさい」

 

 こうして、松平の三河平定への勢いは加速していく。




ここまで読んでいただきありがとうございました!

水野勝成は多くの主君に仕えています。
有名どころでは織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、黒田長政、加藤清正、立花宗茂……。
このうち、秀吉からの褒美を放棄して逃げ出したので秀吉からは刺客を放たれたりしています。

この作品の勝成は葵と……なので、主君が代わることはなさそうですね!

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