戦国†恋姫~水野の荒武者~   作:玄猫

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今回から北条と徳川合流でお送りいたします。


24話 葵との新婚旅行~北条編~【葵】

「北条にも向かうのか?」

「えぇ。まぁ、他の家とは違ってうちと一番近しい間柄だけどね」

「なぁ、葵。一度藤千代……いや、家に寄っていかずに良いのか?葵も家中が心配だろ?」

「……藤十郎、本音が隠せてないわよ。……ふふ、大丈夫よ。私は既に現状を聞いているし」

「……おい、葵。俺はその話を知らないんだが」

「あら、文を貰ってるって言ってなかったかしら?」

「……聞いたような、聞いてないような……まぁいいか」

 

 藤十郎は考えることを放棄するように白石を進める。

 

「あ、でも」

 

 葵が思い出したように呟く。

 

「小田原に着いたら藤十郎が喜ぶことがあるかも」

「ん?」

 

 

 天下の名城、小田原城。難攻不落と名高いその城は、戦の天才と謳われる美空率いる長尾衆をも撃退したというものだ。勿論、その難攻不落の背景に朔夜の力があったのは疑い知れぬことではあるが。

 

「あれは……」

 

 城のほうから駆けて来る者の姿に藤十郎が驚いた声を上げる。藤十郎の前に乗っている葵が微笑んだのは藤十郎から見えていないだろう。

 

「ふふ、皆もきっと藤十郎に会いたかったと思うわ。ほら、行ってあげて」

 

 葵の言葉に藤十郎が白石から飛び降りると駆けて来る相手を見る。

 

「藤十郎ーっ!!」

 

 いつものように弾丸のような速度で突撃してくる綾那を藤十郎は軽く抱きとめる。

 

「綾那、元気そうだな」

「藤十郎、藤十郎なのですよーっ!!」

 

 飛びついた綾那は嬉しそうに藤十郎の胸に顔を埋める。

 

「おいおい、どうした?いつもより甘えてくるじゃないか」

「う~、久しぶりだから仕方ないです!」

 

 そんな言葉を言いながらも藤十郎も何処か嬉しそうに頭を撫でている。くすぐったそうに目を細めながらも藤十郎にしがみついて離れない綾那を少し離れたところで白石を止めた葵が優しく見守っている。

 

「ちょっと綾那!……気持ちは分かるけど、ずるいわよ」

「じゃあ歌夜も来るですよ-」

 

 綾那の言葉に困ったような表情を浮かべながらも藤十郎をじっと見つめる歌夜。

 

「……歌夜」

 

 綾那を撫でている手と逆の手で歌夜を招きよせる。少し遠慮がちに近寄ってきた歌夜を抱き寄せる。

 

「歌夜も元気にしていたか?」

「はい。藤十郎さんが居ない間もしっかりと三河をお守りしてましたよ」

「ふふ、そうか」

 

 歌夜の頭も優しく撫でる藤十郎。綾那がはっと気付いたように顔を上げると葵を見て笑顔を浮かべる。

 

「あー!葵さまなのですよ、歌夜!」

「あ、葵さまっ!?も、申し訳……」

「いいのよ。綾那、歌夜。留守の間大義でした」

 

 優しくそう言った葵も白石から降りると藤十郎たちへと近づいてくる。

 

「あ、でもでも、綾那と歌夜が藤十郎に撫でられてたら葵さまが撫でてもらえないです」

「ふふ、大丈夫よ。私は旅行の間、藤十郎を独り占めしてたんだから。……まぁ、嫁が数人増えたけど」

「……藤十郎、また蕩らしたです?」

「……綾那までそんなことを言うのか」

「ふふっ、昔に比べると落ち着きましたが、相変わらずといったところですね」

「歌夜まで」

「そういうことよ、藤十郎。さ、皆が待っているわ」

 

 葵の言葉に藤十郎が城を見る。二人以外にも誰が来ているというのだろうか。

 

 

「あぅー!」

「藤千代!?」

 

 藤十郎が驚きの声を上げるのも仕方がない。まだ赤子の藤千代を連れて小田原まで来ているとは想像もしてなかったのだ。しかも、抱き上げているのは何故か朔夜というおまけ付きだ。

 

「……藤十郎ちゃんったら私のこと完璧に無視しちゃってる~」

「あ、朔夜か。何故お前が藤千代を抱いている?」

「……もう、いけずねぇ。ね~、藤千代ちゃん」

「あう!」

「……おい、葵。藤千代がやけに朔夜に懐いていないか?」

「初めて抱っこしたときからそうだったわ。それに藤千代は愛想がいいから」

「うふふ、伊達に葵ちゃんのお母さん先輩じゃないわよ」

 

 笑いながら、藤十郎に藤千代を渡す朔夜。藤十郎に抱かれた藤千代は嬉しそうに藤十郎の顔に手を伸ばす。

 

「おぉ、藤千代も俺に会いたかったか?そうかそうか!」

 

 満面の笑みで藤千代をあやす藤十郎。

 

「……藤十郎、藤千代が可愛くてたまらないって感じです」

「あら、綾那もいつもあんな感じよ?」

「全く、未来の日の本の統率者となるお方がそのような姿を見せるとは……いやはや、子を持つと人は変わるものですなぁ」

 

 久方ぶりに聞く嫌味な言葉に藤十郎が向きを変える。

 

「悠季も来ていたとは。後は小波もきていれば……」

「お側に」

「……おいおい。徳川の中心であるお前らが此処にいて大丈夫なのか?」

「おや、藤十郎どのは徳川が我らが居らぬだけで揺らぐとお考えで?そちらのほうが困ったものですなぁ」

「大丈夫よ、藤十郎。今回、此処に皆が居るのは忠重どのや桐琴どの、それに酒井も賛同してくれたからよ」

「……母上や酒井のばあさんもか」

 

 藤十郎の頭が上がらない相手の名前が出てきて何も言うことができなくなる。

 

「私と藤十郎だけじゃなくて、この子たちもまだ結婚したばかりでしょう?だから、ね?」

「……葵がそれでいいのなら構わん。……というか、こいつは違うだろう」

「藤十郎どのは私を嫁には貰えるの仰りますか」

「……ふむ、お前を、か?」

 

 じっと藤十郎が悠季を見る。最初は藤十郎を挑発するような態度をとっていたが、少しずつ居心地が悪そうな様子を見せる。

 

「……ふふ、まぁいいか。とにかく藤千代をつれてきてくれて助かったぞ」

「そうね、藤十郎ったらずっと藤千代のことばかり話すのよ?」

「でも、藤千代可愛いですから仕方ないと思うです!」

「お、綾那分かってるな!」

「当たり前です!」

 

 盛り上がる藤十郎と綾那を苦笑いで見る一同。

 

「さ、葵ちゃんと藤十郎ちゃんも疲れたでしょ?夜は宴の準備してるからゆっくり休んでなさいな」

 

 

「葵はこのことを言っておったのだな」

「えぇ。実は、久遠姉さまと剣丞どのの案だったりするのだけど」

「……むぅ、剣丞にしてやられたということか」

 

 胡坐をかいた藤十郎の足の上ですやすやと眠る藤千代を起こさないように小さめの声で話す。

 

「しかし、このような年から旅行とは……藤千代はたくましく育ちそうだな」

「ふふ、藤十郎の娘だしね」

「葵の娘だから可愛らしく育つだろうな、うむ」

「……本当に時々恥ずかしいことを言うわよね、藤十郎って」

 

 

 宴の席。

 

「藤十郎どの、お久しぶりです」

「おぉ、朧どのか。朔夜とは時々会っていたが久しいな」

「……藤十郎どの。姉上は呼び捨てなのに、私はどのなどと敬称をつけて……私も呼び捨てで結構です」

「む、そうか?ならば朧、と呼ばせてもらうぞ」

「はい」

 

 少し嬉しそうに微笑む朧が藤十郎の隣に腰を下ろす。

 

「お会いできずに少し寂しかったんですよ?」

「ははは、それはすまんかったな」

「もう、冗談とお考えでしょう?」

 

 そう言いながら藤十郎の空になった杯に酒を注ぐ朧。

 

「姉上や十六夜と話をしてからになりますが……藤十郎どのに時間を頂くこともあるかもしれません」

「ん、いつでも構わんぞ。どうせ仕事もないことだしな」

「ふふ、約束ですよ?……私以外にも藤十郎どのと話をしたい子も居るようですから、私はこの辺で」

「あぁ、またな」

 

 立ち去っていく朧と入れ替わるように十六夜、三日月、暁月の三人が藤十郎の元へと来る。

 

「藤十郎さん、お久しぶりです!」

「十六夜、息災のようだな。聞いているぞ、内政の才が開き始めているとな」

「藤十郎さんが言っていた通り、私は私の道を進もうと決めたから……藤十郎さんのおかげです!」

「いや、それは十六夜の力だ。誇っていいのだぞ」

 

 そう言って頭を優しく撫でる藤十郎。

 

「あー、姉ちゃんだけずるい!」

「はは、三日月も元気そうだな」

「当たり前だろー!あ、また訓練つけてくれよー!」

「あぁ、いつでもいいぞ。朝の鍛錬にでも付き合うか?」

「付き合うー!」

「藤十郎どの、お久しぶりです」

「暁月は相変わらず姉の補助を上手くこなしているようだな」

「私は十六夜姉さまのお手伝いを少ししているだけです」

「その少しというのがとても重要なのだ。自分のできることをしっかりとやる。それができれば北条は安泰だ。俺たち徳川としても嬉しい話だからな」

 

 暁月の頭も優しく撫でる藤十郎。

 

「そういえば、藤千代は抱いてあげたか?」

「えぇっ!?えっと、母さまが抱かれているのを見てました」

「何か触ったら壊れそうだったしなー」

「やはり、父母の許可なくというのは如何なものかと思いましたし」

「そんなに難しく考えずともいいのだがな……葵!」

 

 ちょうど起きた藤千代を抱いていた葵を藤十郎が呼ぶ。

 

「どうしたの、藤十郎?」

「あぁ、十六夜たちにも藤千代を抱かせてやってくれ」

「えぇっ!?」

 

 何故か動揺している十六夜に葵が微笑んで藤千代を差し出す。

 

「わ……」

 

 腕の中にすっぽりと納まった藤千代を抱き、固まったようにじっと見つめる十六夜。藤千代は嬉しそうに笑っている。

 

「可愛い……」

「だろう?はっはっはっ、自慢の娘だ」

「藤十郎ったら」

「姉ちゃん、三日月も抱っこしたいぞー!」

「焦らんでも藤千代は逃げんぞ」

 

 交代に藤千代を抱き、最後に暁月も抱く。

 

「……」

「どうだ?」

「こんなに小さいのに、力、のようなものを感じます」

「はは、それは……生命力のようなものかも知れんな。それに何よりも可愛いだろう?」

「……自慢気なのは不思議ですが、気持ちは分かります」

「こんなに赤ちゃんって可愛いならお姉ちゃんもほしいなぁ」

「三日月も!」

「ふふ、自分の子はもっと可愛く感じると思うわ」

 

 葵が三人に微笑みながら語りかける。

 

「好きな人と……」

 

 十六夜がそう呟いて藤十郎を見る。藤十郎は気付いていないが、葵はそれに気付き優しい微笑を湛えて十六夜を見る。

 

「……ふふ、藤十郎。優しくしてあげなさいね?」

「ん?」

 

 何かを確信した葵が藤十郎に言うが、藤十郎はよく理解できずに居た。

 

 

「やれやれ、あれが藤十郎どのですか」

 

 呆れたように悠季が呟きながら首を振る。

 

「葵さまから報告は受けていたとはいえ……まさかあれ程までとは……やはり剣丞どののことは藤十郎どのには何もいえませぬなぁ」

 

 ふぅ、とため息をつく悠季は何故か何処か嬉しそうでもあった。




あと2話で本編と並びますね(ぉぃ
後日談もゴールが見えてきてますが、もう暫くお付き合いください!

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