戦国†恋姫~水野の荒武者~   作:玄猫

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こちらの作品では非常にお久しぶりです!
少し違和感などあるかもしれませんがご了承ください!


7話 二人の忍の行方【小波&姫野】

 向かい合う二人の状態は対極的であった。姫野はいつものようにふん、と鼻を鳴らしながら藤十郎から目を背けている。小波はモジモジとしながらもチラチラと藤十郎を見る。そんな小波の両手は料理の練習をしていたからだろうか、包帯が部分部分に巻かれていて少々痛々しく見える。

 

「小波、大丈夫か?」

「は、はいっ!この程度何でもありません!」

 

 藤十郎が小波にたずねると小波はあわてて答える。両手をぐっと握り締めて大丈夫だと強調している。

 

「ちょ、ちょっと藤十郎!?始まる前から贔屓するとかなんだし!?」

「む、そんなつもりはなかったんだが……そう感じたのならすまんな」

 

 ぽんぽんと頭をたたく藤十郎を睨みながらも頬を染めている。藤十郎以外には丸分かりな反応である。

 

「うふふ、楽しそうねぇ。ただそろそろ始めてもいいかしら?」

 

 朔夜が言うとはっとしたように姫野が藤十郎から離れる。藤十郎も二人の傍を離れ葵と朔夜の元へと向かう。そこには何故か剣丞も居る。

 

「む、剣丞?何でそこにいる?」

「あはは……俺もここに来てくれって朔夜さんに言われただけだから」

 

 内容については詳しく知っている剣丞であるが、剣丞隊の面々と共に小波に協力していた面もある。内心は小波を応援したくもあるのだが、ここに呼ばれた以上そうはいかないと自分を律しているようだ。

 

「朔夜、どうして剣丞を?」

「うふふ、だってそっちのほうが面白そうじゃない?」

「……そうか?」

 

 首を傾げながら葵を見る藤十郎。葵は少し困ったように微笑んでいる。

 

「まぁ、俺はかまわんが。それで、まだ褒美について俺は聞いてないんだが」

「まぁまぁ、藤十郎ちゃん。それは終わってのお楽しみってことで」

「う~む……剣丞」

「ノーコメントで」

「相変わらずよく分からん言葉を使うな。俺は何も準備しないでよかったのか?」

「あー……なんだろう、準備いるというかいらなさそうと言うか……まぁ、今はいいんじゃない?」

 

 苦笑いの剣丞に怪訝な顔をしながら藤十郎が周囲をちらと見る。

 

「……ふむ。まぁいいか」

 

 何に対してなのかは分からないが藤十郎がつぶやく。

 

「それじゃ、はじめましょうか」

 

 朔夜の言葉に小波と姫野の二人は息をのむ。

 

「小波と姫野の料理対決をはじめます」

 

 葵の言葉で二人の対決の火蓋が切って落とされた。

 

 

「へぇ、姫野ったら気合入ってるわね」

 

 朔夜が姫野の動きを見て感心したようにつぶやく。

 

「下手したら任務より真剣なんじゃないかしら」

「ふふ、姫野も乙女だった、ってことですね」

 

 葵と朔夜が楽しそうに話す。

 

「小波もなかなかいい手際じゃないか」

「すごい頑張ってたからね。……男冥利に尽きるね、藤十郎」

「そんなに二人が欲しがる褒美か。一体何なのか俺たちも楽しみになるな」

「……藤十郎って葵以外の女の子に興味あるんだよね?」

「失礼な奴だな。俺も男だからあるに決まっているだろう」

「……だよね。じゃないと綾那や歌夜やきよちゃんを嫁には貰わないか」

「……間違いではないが、何か言い方に棘がないか?」

「藤十郎が悪いわ」

 

 葵に言われて口をつぐむ藤十郎。既に尻に敷かれているように見えて剣丞が声を殺して笑う。

 

 

 そんな他愛のない会話をしている間にも二人の料理は進んでいく。明らかに見た感じでの手際は姫野のほうがよく見える。小波は一つ一つの作業をゆっくり丁寧にやっている。そんな光景を少し離れたところから見ている二つの集団があった。

 

「頭……踏ん張りどころですよ」

 

 上忍はそうつぶやきながら姫野を見る。周囲にはほかにも風魔の忍が控えている。

 

「頭は勝てるんでしょうか」

「……勝ってもらわねば困る。直接伊賀と決着をつける機会に恵まれない以上、これが代理戦のようなものだ」

「……忍の勝負が料理とは……」

「言うな。私もそう思うが……それが御本城さまのご意思だ。仕方なかろう。……我らがあれだけ実験……いや、試食させられたのだ。藤十郎どのにも満足していただけるに違いない」

「……頭、変な自己流を入れようとしますからねぇ……」

 

 

「はわわ、ころちゃん!小波ちゃん大丈夫かな!?」

「お、落ち着いてひよ!私たちが作ってるわけじゃないんだから!」

「……ひよもころも落ち着いてください。一緒にいる私たちも緊張してしまいます」

「ホントよ。それにしても剣丞まで審査員として呼ばれるなんて不思議ねぇ」

 

 本人たち的には隠れて見ているひよ子、転子、詩乃、そして結菜の四人。

 

「いいえ、結菜さま。葵さまと氏康どのの狙いさえ考えれば自然と答えは出ますよ」

「狙い?……あ、もしかして」

「えぇ。素直になれないお二人に主君からの応援といったところでしょう」

 

 詩乃が言う。

 

「えぇ!?じゃあ葵さまも朔夜さまも小波ちゃんと姫野ちゃんを応援してるってこと?」

「だね。あれ、でもお頭が居たら出来ることって……」

「恐らくですが……票を二つに割り、二人とも勝利として共に藤十郎どのの嫁になる、といった形をとるのでしょう」

「剣丞に負けず劣らずの蕩らしっぷりね、藤十郎って」

「剣丞さまとは違う形ですが、間違いではありませんね」

「詩乃ちゃん、辛辣だね」

 

 

 二人の料理が終わり、藤十郎たちがその料理を口に運ぶ時間がやってきた。二人の料理は方向性も違う。姫野の料理は本職の職人が作るそれのように綺麗な出来上がりとなっている。実際に食事を口に運んだ藤十郎たちも驚きに目を見開いたほどだ。

 対して小波の料理は家庭的な煮物。時間がそこまでかけることが出来なかったが、十分な仕上がりとなっていた。

 小波と姫野も互いの料理を食べて互いに驚いた顔をしている。

 

「……それじゃ、決まったかしら?」

 

 食事を食べて葵が口を開く。全員が頷くのを確認すると葵がまず勝者を決める。

 

「私は小波の料理を推します。姫野の料理の出来は素晴らしかったわ。でも、小波の家庭的な雰囲気の料理には暖かさを感じた。だから私は小波の料理がよかったわ」

「葵さま……!」

 

 葵の言葉に小波が感動する。

 

「そうねぇ。私も小波ちゃんの料理はおいしかったと思うわ。でも、やっぱり姫野の料理のほうが出来は良かったかしら?……よく短期間でこんなに頑張ったわねぇ、姫野」

「こ、これは伊賀に風魔が勝つためだし!」

 

 この場に及んでも正直になれない姫野である。

 

「それじゃ、藤十郎と剣丞どの。二人は同時にお願いできますか?」

「うん。俺は決まったよ」

「……うむ、俺もかまわん」

「じゃ、藤十郎。せーので行くよ。せーの!」

 

 

「……少し予想外だったけど結果としては上々、かしらねぇ」

「そうですね。……今度等十郎にはしっかりといっておきます」

「ふふ、あの場であんな選択が出来るのは剣丞ちゃんと藤十郎ちゃんくらいのものだから、それもいいところなのかもしれないわね」

 

 剣丞と藤十郎が同時に出した答え。それはどっちもうまかった、である。しかも示し合わせたように二人ともまったく同じ答えだった。その言葉を聴いたときには場にいた全員が固まっていた。

 

「おぉ、剣丞もやはりそうか」

「うん。二人ともおいしかったから俺には答えが出なかったよ」

「俺もだ」

「ちょ、ちょっと待つし!?確かに服部のもおいしかったのは認めるけど……引き分けってどういうことだし!?」

「そ、そうです!藤十郎さまも剣丞さまもふざけてないでしっかりと答えてください!」

「う、うん?だから二人ともおいしかったんだけど……」

「あ、あぁ。小波も姫野もそんなに怒らずとも……」

「「怒ってません!(ないし!)」」

 

 綺麗に重なった二人の声に剣丞と藤十郎が後ずさる。

 

「え、えっと。少し予定とは違うけど、藤十郎。二人への褒美は貴方よ」

「……俺、が褒美?……む、まさか」

 

 

 夜。

 

「……」

「……」

「……あー、二人ともそんなに睨み合うな。傍に居る俺が困る」

「べ、別に睨んでないし!」

「そ、そうです!緊張してるだけで……」

 

 姫野と小波が同時に否定の言葉を放つ。

 

「緊張しておるのか?」

「は、はいっ……わ、私のようなものが……」

「小波。何度も言っておるが、お前は立派な女子だ。そのように自分を卑下するものではない」

「藤十郎さま……」

 

 二人の世界が出来上がりそうになっているのを姫野が焦って間に入ってとめる。

 

「ちょ、ちょっと待つし!何で服部とだけいい雰囲気出して姫のこと無視するし!?」

「そんなつもりはなかったんだが。姫野、お前にも聞いておきたい。お前も俺の嫁になりたいのか?」

「っ!わ、悪い!?どうせ姫は素直じゃないし!」

「そんなつもりで言ったわけではなかったんだが。すまんな」

 

 やさしく頭をなでる藤十郎に、少しふて腐れたように、だがどこか嬉しそうに擦り寄っていく姫野。

 

「あ……」

「小波」

 

 藤十郎がぽんと自分の隣をたたく。おずおずと小波も藤十郎へとしなだれかかる。

 

「……特別」

 

 姫野が小波を見ながら言う。

 

「え?」

「特別に認めてやるし!まぁ、姫の料理には敵わなかったけど?でも服部のもそんなに悪くはなかったかな……って思う」

「……小波です」

 

 姫野が言い訳をするようにいっている言葉の後に小波がつぶやくように言う。

 

「服部正成、通称は小波。小波で、構いません。風魔の」

「……ふん!じゃあ姫も姫野でいいし!」

 

 そんな二人を藤十郎がやさしく見る。

 

「……ふ、素直じゃないな。二人とも」

「あ、アンタに言われたくないし!」

「と、藤十郎さま!お戯れを!」

 

 二人をぐいっと抱き寄せる藤十郎。夜はゆっくりと更けていく。

 

 

「はぁっ!?姫のほうが藤十郎に愛されてるし!」

「ふ……姫野は好きに言っていればいいと思います」

「調子のんなし!?」

 

 どうしてこうなった、と頭を押さえる葵。朝からこんな様子の二人である。

 

「あらあら。でも二人とも」

 

 困った風な笑顔で朔夜が二人に声をかける。

 

「藤十郎ちゃんが一番愛しているのは葵ちゃんだと思うわよ?」

 

 そんな、確信を秘めた言葉に二人は黙り込むのであった。




リハビリ込みの更新になりますのでお許しを!
まだこちらの作品も続きはありますのでお楽しみに!

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