戦国†恋姫~水野の荒武者~   作:玄猫

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4話 信長との面合わせ

 ―――織田久遠信長は大うつけである。

 誰が言い始めたのかは分からないが、多くの口からそう言われそれが当たり前のように思っているものが多数存在している。

 

「……真実は己の眼で見、己の耳で聞かなければ分からん、か」

 

 普段の藤十郎を知っている者が見れば驚くだろう、まだ誰も来ていない大広間で凛とした姿勢で城の主を待つ姿は、立派に使者としての体を成している。

 

「……誰もおらん振りをして部屋の前や周囲になかなかいい気配を感じるな」

 

 こちらを威嚇するような気を放っている者もいくつか感じるが、織田と松平の関係を考えれば分からなくもないだろう。

 そう一人で考えていると、部屋の襖をあけ藤十郎よりは幾分か暗い赤の髪を持つ女性が入ってくる。

 チラと目が合えば一瞬でその相手が只者ではないことが分かる。

 

「ほぅ……織田久遠信長様のお入りである!頭を……」

「よい、壬月(みつき)。葵の使者……それも水野勝成だと聞く。それならばそのようなことは必要ない」

「ですが殿……」

「おけい。今は問答をしているときではない……待たせたな、水野の」

 

 頭を下げたままの藤十郎を見て、一瞬驚くが何をしているのかが分かりにやりと笑う。

 

「頭をあげよ。お前のことは葵からも聞いているし、文にも書いてあった。そのように演じる必要はないぞ」

「……はっ。……アンタが織田久遠信長殿、か」

 

 突然の口調の変化に次は壬月が驚きに目を見開く。次の瞬間腰の得物に手を伸ばしかけるがそれを久遠が手で制する。

 

「殿っ!」

「我が良いといったのだ。それで、一応自己紹介をしてもらいたいのだが」

「俺は水野藤十郎勝成。姫さん……松平葵元康の命で織田殿に力を貸すように言われてきた。何をすればいい?」

「ふふ、葵の言うように面白い男だ。そう思わんか、壬月?」

「思いませぬ。まったく、殿は相変わらず変な男を好む気質のようで」

 

 変な男。恐らくはそれが例の天人だろう。

 

「それはそうと、水野の」

「藤十郎だ。通称で構わない」

「ふむ、ならば藤十郎。おまえは織田の客将として協力してもらうこととする。城のことはそこにいる壬月や手の空いている者にしてもらえ。近々戦になる、存分に働いてもらうぞ」

「はっ!……久遠殿、どれくらいの期間になるかは分からんがよろしく頼む」

 

 

 藤十郎が壬月と共に部屋を離れて少し経った頃、久遠が入ってきたのとは逆方向の襖が開き、一人の男が入ってきた。

 

「久遠、言われたとおり見てたけど……」

「剣丞、お前はどう見る?」

 

 新田剣丞。巷では天人と呼ばれ、久遠の夫として行動している男だ。腰には不思議な気を放つ刀を差し、どちらかというと柔らかな雰囲気を持っていた。

 

「そうだなぁ。少なくとも悪い人って感じはしなかったかな?ただ、自分の思い通りに行かないことは無理やりにでも突破しようとしそうかな」

「ふむ、剣丞と同じか」

「うわ、ひどい!俺はそこまで自分勝手にやってないと思うけど……後は、元康さん……だっけ?それって女の子だよね?」

「葵のことか?勿論女だが……まさか剣丞……!?」

「違う違う!たぶんだけど、元康さんと勝成さんは何か深い絆で結ばれてるのかなーって思っただけだよ」

 

 一瞬目が据わった久遠の勘違いに気づき、大急ぎで訂正する。

 

「……確かに、葵の文の内容からしてもそういった感じは受け取れた。少なくとも一家臣に対して以上の想いはあるようだが……」

 

 ふむ、と頤に手を当てる久遠。

 

「どちらにせよ、初対面での人となりには問題なさそうだな。剣丞、顔を見せるかどうかの判断は任せる」

「いいの?」

「うむ。剣丞がやりたいようにするのがいいだろう。場合によっては剣丞隊を手伝ってもらう可能性も出てくるだろう」

 

 全ては藤十郎の腕や織田家中での評価によって変わってくるが……あの葵があそこまで気にかける存在だ。恐らくは期待以上の結果をあげてくれるだろう。

 

「三若にもいい刺激を与えてくれるだろうし……桐琴が言っていた若武者も藤十郎のようだし、な」

 

 

「客将、ねぇ」

 

 正直に言って逆に何をしたらいいのか分からない。基本的には何もせずとも必要なときに声をかける、という意味なのだろうが訓練をするにしろ相手がいるのといないのとでは大きく差が出る。

 

「さすがに尾張の弱兵には三河と同じ仕合は出来んだろうしなぁ」

 

 先ほどまで城や、滞在する屋敷の案内をしてくれた壬月……柴田壬月勝家であればいい腕試しになるかもしれないが、そう暇ではないだろうし腕試しどころですまなくなる可能性は高い。

 

「……何かを忘れている気がする」

 

 つい最近、何かとんでもない相手と戦った気がする。それは、確か織田に関係していた……。

 

「あ」

 

 ポン、と肩に手を置かれて振り向いた藤十郎は、忘れてはいけないことを忘れていたと悟る。……後の祭りなのだが。




ここまで読んでいただきありがとうございます!

次回は皆大好き○一家の登場です!(ぉぃ

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