さらに主人公のはずなのに藤十郎の出番は……。
「こ、ころ殿!お願いします、私に料理を教えてくださいっ!!」
凄い勢いで土下座をする小波に唖然とする剣丞隊の面々であったが、はっと気を取り直し慌てて小波を立ち上がらせる。
「ちょっと小波ちゃん落ち着いて!?料理を教えるのは構わないけど……どうしたの、急に?」
「は、はい……実は……」
「へぇ、風魔と仲直りをさせる為に藤十郎が考えたんだ」
感心したように頷くのは剣丞だ。いつの間にやら話を聞いていたらしい。
「け、剣丞さま!」
「それで、ころに料理を習いに来た、と。うん、いい手じゃないかな?後は結菜のご飯も絶品だからお願いしておくよ」
「結菜殿まで巻き込んでしまうなど恐れ多い!?」
「あはは、気にしなくていいよ。皆も手伝ってあげてね。俺は鍋くらいしか出来ないし」
「お頭の鍋も絶品ですよぉ~!」
そういってひよ子が褒めてくるのを優しく頭を撫でる。
「……剣丞さまの作ってくださるご飯のおいしさはさておき」
「……そういえば、詩乃ちゃん昔連日作ってもらってたよね」
じと目で転子が呟く。
「……ころさん、そのことについて詳しく……」
「今は小波の協力をすることが先決です。さぁ雫、共に頑張りましょう」
「……逃げましたわね」
「あはは……」
「まずは、小波ちゃんがどれくらいの料理が出来るか確認しないと教えるにも教えられないから……料理はしたことある?」
「はい。簡単な忍者食なら」
「に、忍者食って……あれは料理……う~ん……」
「藤十郎どのや剣丞さまのような蕩らしであれば美味いと言って食べてくれそうですが」
「詩乃、言いますね……まぁ、分からなくもないですが」
「で、ですが、刃物の扱いは苦手ではありません!」
そういって苦無を取り出す小波に苦笑いを浮かべる転子。
「何だろう、間違えてないけど間違えてる……」
「ふっふっふっ……こうなれば私が人肌脱ぐしかありませんわね!」
「「えっ」」
「さぁ、小波さん!料理に最も大切なものはなんだと思いますか!」
「え、えっと……知識……いえ、経験ですか?」
「違いますっ!いいですか、最も大事なものはっ!!」
ばっと手を広げる梅。
「愛っ!!ですわ!」
「あ、愛……っ!?」
梅の言葉に顔を真っ赤にする小波。
「愛さえあればどんな障害も!運命も超えていけるんですわ!!」
「す、すごい!」
「……ねぇ、ころちゃん。小波ちゃんが梅ちゃんに影響受けちゃいそうなんだけど」
「……奇遇だね、ひよ。私もそう思ってたところなんだ」
「さぁっ!小波さんも一緒にハニーへの愛を!!」
「……はぁ。梅さんに任せたのは間違いでしたね。次は……」
「鞠がいくのーっ!」
「えっとね、小波ちゃん!鞠、一つだけ得意な料理があるの!」
「そ、そうなのですか!流石は鞠様」
「えへへ~!剣丞もおいしいって褒めてくれるの!」
「……なんでだろう、ころちゃん。そこはかとなく不安が……」
「あはは……」
そういって鞠が取り出したのは炊き立てのご飯。近くに水の張った小さな桶が準備されている。
「もしかして……」
「もしかしなくてもおにぎり、ですね」
雫が冷静に状況を伝える。鞠は真剣におにぎりを小さな手で作る。
「えっとね、剣丞が言ってたの。びしょうじょ?が握ったおにぎりは最高だーっ!って。だからね、きっと小波ちゃんのおにぎり、藤十郎は喜んでくれるの!」
「うぅ……違うって言いたいけど、鞠ちゃんは悪くないし……」
「お頭……変なことを鞠ちゃんに教えて……」
頭を抱えるひよ子と転子。……ちなみにであるが、剣丞は本心からそう思っているから全く嘘をいってはいないのだが。
「で、ですが、私は鞠さまのように可愛くないですし……」
「ううん!小波ちゃんは可愛いの!」
両手をぐっと握り締めて力強く言う鞠にうんうんと頷く剣丞隊の面々。
「小波ちゃんはまず自信を持つの!そしたらきっと藤十郎も答えてくれるって思うの!」
「凄い……!鞠ちゃんのほうが梅ちゃんより頼りになってる!」
「あはは、普段からそうだよね」
「ちょ、ちょっと!?ひよさんにころさん、ちょっとひどすぎじゃありませんこと!?」
「まぁ、梅なのに牡丹ですからね」
「あはは……」
きゃいきゃいと後ろでは騒いでいる中、真剣におにぎりを作る小波。
……その後も的確(?)な指導が続けられ……。
「それで、私のところに来た、と」
「うん。結菜なら適任だって思って」
「よ、宜しくお願いしますっ!!」
「宜しくね、小波。で、剣丞。私は何の料理を教えればいいのよ?」
「そうだなぁ。結菜のご飯はどれもおいしいけど……あ、そうだ!豆腐の味噌汁とか!」
「ホント剣丞はすきなのね。でも、味噌汁だけじゃ料理って呼べないでしょ?」
「う~ん……結菜的には?」
「そうねぇ。煮物なんかの下ごしらえをしっかりとすれば後は煮込んだりするのが基本の料理とか?」
首を傾げながら考える結菜。
「確かにおいしい煮物っていいよなぁ」
「でしょ?なら私は煮物の下ごしらえから教えていくわね。食材の適切な大きさとか、煮込む時間とか。覚えることはいっぱいあるから、剣丞は食材買ってきてね」
「あ、それでしたら私が……」
「いいのいいの。どうせ剣丞は何もしないんだから」
「うわ、結菜ひどいな!……否定できないけど」
「じゃ、買ってきて」
そういって剣丞を追い払った結菜は小波に向き合う。
「さ、じゃあ教えながら……その間に藤十郎のこと、色々と教えてくれるかしら?」
「は、はいっ!」
「成る程ね。分け隔てなく接してくれたのが嬉しかったのね」
「はい。草として生きてきた私にあのように接してくださったのは、藤十郎さまがはじめてでした。それに、何度も食事にも誘ってくださって」
「それで、一緒に食べたりしたの?」
「……初めは逃げていたんですが……藤十郎さまは私を見つけては命令と言って食事を共にしてくださったので」
懐かしそうに、嬉しそうに呟く小波を優しく微笑んで見る結菜。
「……うん。そんな男なら小波を任せても大丈夫そうね。それじゃ、小波の料理がないと駄目だーって思わせるくらいの料理を作りましょう!」
「はいっ!」
……それからあっという間に月日は流れ。
決戦の日。
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