戦国†恋姫~水野の荒武者~   作:玄猫

33 / 60
1話 贈り物を求めて 【綾那&歌夜】

 これは、まだ綾那が槍を持ち始めた頃の話である。幼くして無双の片鱗を見せていた綾那は、既に向かうところ敵なしであった。その頃から共に育っていた歌夜を除けば、彼女のことを諌めるだけの力を持つものはあまりいなかった。

 

 

「歌夜~!今日も遊びにいくですよ~!」

「ちょっと待ってね。今用兵術の勉強中だから」

「う~、そんなの必要ないです!綾那がぜ~んぶ倒すですから!」

「ふふ、綾那は強いものね。……でも、もし綾那が勝てない相手が出てきたら?」

 

 歌夜の言葉に不貞腐れる綾那。

 

「そんなのいないです!だって、綾那負けたことないです!」

「もう、綾那ったら……」

 

 困ったような歌夜を見て、仕方なく傍に腰を下ろす綾那。とりあえずは勉強が終わるまで待つことにしたようだ。

 

「歌夜は真面目なのです。そんなのなくたって……」

「でも、水野の跡取りの……勝成どのだったかしら。その人も今は戦術などの勉強をしてるそうよ?」

「勝成?……あ、聞いたことあるです。なんかすっごく強いって話ですけど、綾那ほどじゃないです!」

「ふふ、綾那らしいわね。……ねぇ、綾那。その勝成どのと戦ってみたい?」

 

 

 その頃の藤十郎は、綾那と同じく負けしらずでありながら戦いに関する全てのことに興味を持っていた。

 

「藤十郎」

「何でしょう、母上」

「貴方、戦うの好きよね?」

「……はぁ。嫌いではありませんが……それは必要な……」

「必要よ。今後の松平にとって、あの子の成長は必要不可欠。だからね、藤十郎」

 

 

「あの子に敗北を与えなさい。どんな手を使ってでも」

 

 

「お前が本多忠勝か」

「そうです!通称は綾那って言うです。強かったら宜しくしてやるです!」

「そうか。僕は水野勝成。藤十郎だ、もし君が勝つことが出来たら宜しくしてやるよ」

 

 藤十郎の言葉に驚いた様子の綾那は次の瞬間敵意をむき出しにする。

 

「よく言ったです。なら……一瞬で片付けてやるです!!」

 

 槍を構えた両者。立ち会いは藤十郎の母・忠重と歌夜。歌夜と忠重は初対面であったが、歌夜の印象は優しい母親……といった感じであるが、何か底の見えない強さがあるように感じた。

 

「ふふ、これからの松平を担う力、見せてもらうわ。……では、両者共に今回の勝利条件を」

 

 一つ。相手を意識不明、もしくは武器から手を放させること。敗北を認めさせることを勝利条件とする。

 一つ。敗北を認めた後や抵抗が出来ない状態での追い討ちの禁止。

 

「分かったです!!」

「分かった」

「それでは、はじめっ!」

 

 二人の槍が交差する。その瞬間的な威力、一撃一撃に込められた膂力。そのどれをとってもこの年頃の少年少女が撃てる技ではない。

 

「「!」」

 

 綾那も藤十郎も、驚きに目を開く。それはそうだろう。自分よりも遥かに年齢が上であっても負けたことのなかった二人だ。同じ年頃にそんな相手がいるとは思いもよらなかったのだ。

 

「やるですね!!」

「そっちこそ!」

 

 互いに笑いながら槍を交わす。

 

「凄い……綾那と対等に戦えるなんて……」

「ふふ。歌夜ちゃんって言ったかしら?二人が対等に見える?」

「は、はい。違うのですか?」

 

 二人の攻防を見ながら忠重が微笑む。

 

「違うわ。確かに綾那ちゃんは強いわ。でも、それは決まりごとのない世界での話。これは立ち合いである以上決まりがある。……なら」

 

 

「藤十郎には勝てないわ。一対一の戦いの限られた条件の中で最善の一手を見つけることに関しては、あの子に敵うものは居ないわ。松平……いいえ、この日の本の中でも、ね」

 

 

「確かに強いです!強いですけどっ!!」

 

 綾那が槍を構えなおす。

 

「綾那のほうが、ずーっと強いです!!」

「それは、どうかな?」

 

 確かに綾那は強い。最早おかしいと言ってもいいほどの強さだ。だが、その強さはまだ荒削りであり、子供らしい考えの至らなさもある。

 藤十郎が、槍をまるで棒のように振り回す。その動きは綾那が今までに見たことのないものだった。

 

「わっ!?な、なんなのです!?」

「あの動き……」

「ふふ、藤十郎の槍、綾那ちゃんのと比べると少し短いでしょ?あの子、実は槍と同じくらい刀や薙刀といった武器も得意なのよ。あれが天賦の才なんでしょうね。一度見たら覚えちゃうんだもの」

「で、でも!綾那は負けないですよ!」

 

 綾那の胴を狙って放たれた石突での一撃を避け、槍を突き出そうとする。だが、突いてきたはずの藤十郎の槍は初めからそれを狙っていたかのように槍の穂先を叩くように石突部が跳ね上げられ、綾那の槍を下から叩く。

 

「甘いですっ!!」

 

 跳ね上げられた槍から手を離し(・・・・)落ちてきた槍を手元を見ずに掴み、藤十郎の喉元に槍を突きつける。

 

「そこまで!」

「ふっふっふっ~!綾那の勝ちです!」

「いや。僕の勝ちだ」

「そうねぇ。今回は藤十郎の勝ちね」

「えーっ!?何でです!?」

「だって……綾那ちゃん、槍から手、放しちゃったでしょ?」

 

 

「むーっ!!ずるいです!!」

「なんと言おうと僕の勝ちだよ。……だから」

 

 すっと手を差し出す藤十郎。

 

「本当に強かったよ、綾那。きっと、決まりがなければ綾那の勝ちだった」

「……えへへ~!まぁ、藤十郎も強かったです!まさか綾那とあんなに戦えるとは思ってなかったです!」

「ふふ、あの二人は大丈夫そうね。……歌夜ちゃん」

「は、はい」

 

 膝を曲げ、歌夜の視線に合わせる忠重。

 

「これからの戦であの二人は別格の戦果を上げていくはずよ。でも、歌夜ちゃんは二人を援護する立場で居てあげてね。勿論、歌夜ちゃんも武功を上げていくでしょうけど、あの二人には支えになる人が必要よ」

「勝成どのは……私よりも頭もいいですし……」

「あぁ、あの子は駄目よ。頭はいいけど、それよりも身体を動かしちゃうから。綾那ちゃんと対して変わらないわ。だ・か・ら、歌夜ちゃんも藤十郎のことお願いね?」

「はいっ!」

「……あ~もう可愛い!歌夜ちゃんも綾那ちゃんも、私の娘にしたいわぁ!大きくなって藤十郎がいい男になったらお嫁に来なさい!」

「え、えぇっ!?」

 

 

「……なんてことがあったの、綾那は覚えてないわよね」

「歌夜~?何か言ったです~?」

「何でもないわ。それよりも綾那、藤十郎さんに何を上げるか決まったの?」

「まだです!……藤十郎何上げたら喜ぶです?お母さんは綾那を上げるーっていえば喜ぶって言ってたですけど」

「お、お母さんって忠重さま?……もう、あの方は……」

 

 でも……と何かを考えてクネクネする歌夜を不思議そうに見ていた綾那だったが、視線を目の前にあった店の商品へと戻す。

 

「う~……綾那、こういうの苦手なのです……」

「……はっ。こほん、綾那。こういうときは、剣丞さまに相談するのもいいかもしれないわ。同じ男性だし……仲もいいし」

「歌夜さすがなのです!早速いくのです!!」

 

 

「え、藤十郎に何を上げたらいいかって?……う~ん、何を上げても喜ぶと思うけどなぁ。俺だったら何貰っても嬉しいし」

「うぅ……剣丞さま役に立たないです……」

「ちょっと綾那!?す、すみません、剣丞さま」

「あはは、いいよ。ん~、でも藤十郎が欲しいものかぁ……よし、それじゃ知ってそうな人に聞きに行こうか」

 

 

「それで、私のところに?」

「うん。葵なら知ってるだろうって思って」

「あわわ!け、剣丞さま!葵さまに直接聞くなんて聞いてないです!」

「うん、言ってないからね」

 

 何故か慌てている綾那に笑顔を向ける剣丞と葵。歌夜もなにやら申し訳なさそうな表情だ。

 

「綾那も歌夜も、私に遠慮しなくていいのよ?」

「葵さま……ですが……」

「ふふ、私は十分に藤十郎に甘えているわ。だから次は貴女たちも自分の想いを遂げるべきよ。……私と同じように、小さな頃から藤十郎のこと、好きだったのよね?」

「わわ!?葵さまは凄いのです!綾那、歌夜以外に言ったことなかったですのに!」

「……葵さま……ありがとう御座います!」

「はは、それで本題なんだけど藤十郎が欲しいものって分かる?二人がいつものお礼に何かを上げたいってことみたいなんだけど」

 

 剣丞の質問に葵が少し考える。

 

「……そうね。最近、腰が寂しいって言ってた気がするわ。何かあった気がするけど、刀を持ち歩いていた記憶はないし……と。少し値が張ってもいいなら刀とか喜ぶんじゃないかしら」

「刀、ですか。歌夜、刀詳しいです?」

「う~ん……普通程度には……」

「それなら、一葉に聞いてみよう。一葉なら詳しいし、何かいい店とか知ってるかもしれない」

「公方さまです?……剣丞さまってやっぱり凄い人ですね」

「綾那、いまさらよ」

 

 

「ほう、それで余に聞きに来たというわけか」

「そうなんだ。一葉なら詳しいよね?」

「うむ。刀剣に関してであれば余に敵うものはそうそう居ないはず。……というよりは、倉庫に入れてある刀のどれかを持っていけばよいのではないか?」

「ちょ、何を仰いますかこの暴れん坊公方様は!」

「幽さん、お値段はそちらの言い値で構いませんので見せていただけませんか?」

「それがしに止める理由はありませぬなぁ。一本でも百本でも、お好きなだけご覧くださいませ」

「……幽よ。流石の余もそれは引くぞ」

 

 

「うわぁ!凄いです!!」

「ほんとだ。俺も初めて入るけどこれは凄い」

「ふふふ、古今東西の名刀が此処に集められておるからな。余の自慢の品々であるぞ」

「本当に凄い……名のある刀ばかり」

 

 歌夜が置かれた刀を一つ一つ見て回る。

 

「あ、歌夜!!この刀、藤十郎に似合いそうです!」

「どれ、何を選んだ?……ほぅ、この刀は……正宗であるな」

「正宗……というとあの?」

「うむ。余が知る中でも間違いなく上位の名刀であるな。……刀に詳しくないといいながらこれを一目で選ぶとは流石は本多忠勝といったところか」

 

 刀を手に取り、それを歌夜に差し出す。

 

「金はいらん……といいたいところではあるが、それでは余が幽に怒られてしまうのでな。後日金額は伝える。……それでよいか?」

「はいです!」

「はい。ありがとうございます、一葉さま」

 

 

「藤十郎ーっ!!」

 

 いつもどおり、綾那が藤十郎に突進する。

 

「どうした、綾那。今日はいつにも増して勢いが強いが」

 

 そう言いながらも全く動揺した様子も、よろけることもないのはさすがである。

 

「藤十郎!綾那と歌夜から話があるです!」

「そうなんです。それで……今晩一緒に食事はいかがですか?」

「食事、か。葵に」

「葵さまからは許可いただいております。……駄目、ですか?」

 

 上目遣いでたずねて来る歌夜に、苦笑いを浮かべながらも頷く藤十郎。

 

「分かった。それならば問題ない」

 

 こうして、藤十郎は歌夜の屋敷に行くことになる。




今回から番外編のある意味本編スタートです!
タイトルの隣の【】の中がメインとなるヒロインです!

と、いうわけで。
まずは、綾那と歌夜からです!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。