戦国†恋姫~水野の荒武者~   作:玄猫

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我慢できずに早速後日談です(ぉぃ


後日談編
導入部 1話 葵の憂鬱


 藤十郎が戻って早いことに一月ほどの時が流れた。あの日、藤十郎が戻ってきてから幾度となく愛を語り合ってはいるのだが。

 

「はぁ……」

 

 執務の最中、ため息を吐く葵。もう幾度目か分からないそれに流石の悠季も苦笑いである。

 

「葵さま、どうされたのですか。藤十郎どのが居なかった間でもそれほどまでにため息をつかれることはなかったと記憶しておりますが」

「悠季……。ごめんなさい」

 

 素直に謝罪する葵に更に驚く。

 

「いえいえ!某のことはお気になさらず。……某で相談に乗れるのであればお話を伺いますが?」

 

 悠季の言葉に葵は一瞬悩む素振りを見せるが、決断はすぐであった。

 

「……そうね。あの、ね悠季。藤十郎のことなんだけど」

 

 

「まさか、葵さまの悩みが藤十郎どのとは……」

 

 話をしてすっきりしたのか、葵はその後の執務には影響を与えずに無事終えたのだが悠季としては葵の話に考えさせられる部分もあった。

 

「ふむ、仕方がないこととはいえ……葵さまも乙女であった、ということですなぁ」

 

 

「……藤十郎が戻ってきてから、何度も私のことを愛していると言ってくれるのだけれど……いつも藤十郎の回りには綾那や歌夜、小波……それに北条からもよく来てるじゃない?……私一人が独占するのがこれからの世を考えればよくないことは分かっているの。でも……」

 

 ……つまりは葵としては、徳川の世を考えれば血の繋がりや後継ぎは多いに越したことはないと考えているが、藤十郎が他の女と話しているのを見るとモヤモヤするということか。

 

「ふむ、それに関しては某では解決に導くことは出来ませぬが……ただ、夜は必ず葵さまの元に帰られる藤十郎どのですから、もし何かあるときには仰ると思いますが?」

「……そうね、そうよね」

「それに、正室……といっていいのでしょうか。藤十郎どのの第一婦人は葵さまです。お世継ぎの藤千代さまもお生まれになられていることですから……もっと甘えてみてもよいかもしれませぬな」

 

 とはいえ、葵の藤十郎へのべったりぶりには胸焼けしてしまうほどのものがある。心酔している悠季としては甚だ不愉快である瞬間もあるが……悠季個人としても、藤十郎は異性として数少ない認めている相手、いや唯一と言っても過言ではない以上完全に否定することは出来ない。

 

 

「藤十郎どのも罪作りな男に成長なされましたなぁ。……そろそろ奥向きについても考えていかねば。……ふぅ、織田どのに詳しく伺いに行く必要がありますな」

 

 また仕事が増えますな、と独り言を呟きながら悠季は自室へと向かっていった。

 

 

「葵、ただいま戻ったぞ」

「藤十郎!」

 

 本格的に葵の屋敷に住むことになった藤十郎が帰ってくると、葵は先に屋敷に居たときには必ず抱きついてくる。それを優しく抱きとめる藤十郎。この構図は屋敷の女中たちの中では最早日常茶飯事になっており、微笑ましく見ていることが多い。

 

「うむ。……どうかしたのか?」

 

 見上げた葵の表情を見て、藤十郎がたずねて来る。葵としては、昼の話を表情に出しているつもりはなかったため、驚きと小さな変化にも気付いてくれる藤十郎への愛しさが際限なく沸いてくるような気持ちになる。

 

「……いえ、何でもないわ。それよりも、今日は私が食事を作ったのよ。……まぁ、皆の力を借りてだけれど」

「おぉ!葵の作ってくれたものならば何でもおいしく食べられるぞ!」

 

 実は、以前に一度自力で作ろうとしたことがある。だが、生まれてはじめての料理など、結果は目に見えている。ほとんど墨のようになった魚、それなのに生に近い部分もあるものや、煮物という名の半生野菜の汁付けのようなものなど……。残飯といえば残飯に失礼なものを藤十郎は残すことなく全て平らげたのだ。その日の夜は、葵にとって違った意味でも忘れられないものとなったのは仕方のないことだろう。

 

「ふふ、でも今回は皆の力も借りたからちゃんとおいしく出来ているわ」

 

 そう言って藤十郎の手を引き部屋へと入っていく葵を見て、女中たちが嬉しそうに微笑みながら見ている。中には、少し年配の……それこそ葵と藤十郎が幼い頃から仕えている者もいることを考えれば、仕方のないことだろう。

 

「よかったわ。葵さまがお幸せそうで」

 

 年配の女中が呟く。

 

「本当に。でも、私たち女中にも藤十郎さまはお優しいから、葵さまは気が気じゃないんじゃないかしら?」

「そうよねぇ。重い荷物とか運んでたらそっと手伝ってくれるし」

「……あんたたち、藤十郎さまに何させてんだい」

 

 若い女中たちの言葉に年配の女中はため息をつく。

 

「……とはいえ、あの二人は本当に命を懸けた大恋愛をしたようなものだからね。きっと幸せになってくれるさ」

 

 

「うまい!」

 

 葵の作った食事を食べた藤十郎の第一声はそれであった。

 

「ふふ、前のときも同じことを言ったわよね、藤十郎は」

「いや、今回のものは凄いぞ!ほら、葵も食べてみろ」

 

 そう言って、箸で煮物をつまみ葵の口元へと差し出す。葵は口を開けそれを食べる。

 

「……本当、おいしいわ」

「だろう?……もぐもぐ」

 

 うまいうまいと言いながら次々に口の中へと消えていく食事に葵は知らず知らずに幸せな気持ちになる。

 

「……これが、結菜の言っていた気持ちなのね」

「ん?何か言ったか?」

「いえ、何も」

 

 藤十郎と祝言の式を挙げた際に会った……剣丞と久遠の妻である女性……結菜と意気投合し、食事の準備についてや夫の扱い方、妻としての心構えなど……そういった類のことを話し合う仲になっていた。その繋がりで公方の妹でもある双葉とも交流が生まれるといった好循環が生まれていたりもする。

 

「妻は夫の胃袋を握ること。……ふふ、流石は結菜ね」

 

 なにやら呟きながらも楽しそうな笑顔を浮かべていることから特に問題があるわけではないと判断した藤十郎は、葵の作った食事に舌鼓を打つことを続けた。

 

 

「ねぇ、藤十郎?」

 

 共に食事と湯浴みを済ませた後、一緒の布団に入って少しして葵が藤十郎に声をかける。

 

「どうした?」

 

 優しく葵の頭を撫でている藤十郎。布団に入った後、よく優しく撫でてくれるこの瞬間で一日の疲れが取れる、というのは葵が結菜に対してだけこっそりと話したことだったりする。

 

「藤十郎は、綾那や歌夜のこと好き?」

「ん、そうだなぁ。あいつらも幼馴染のようなものだからな。勿論好きだが……」

「……そう。なら私は私がするべきことをしなくちゃね」

「ん??」

 

 よく分からんといった顔を浮かべる藤十郎に小さく噴出してしまう葵であったが、そっと藤十郎に身体を寄せる。

 

「藤十郎、前から久遠姉さまや一葉さまと話し合っていたことがあるの。……協力してくれる?」

「勿論だ。俺に出来ることなら、いや出来ぬことなら出来るようになってでも協力する」

「ふふ、ありがとう。藤十郎……大好きよ」

 

 

 それから更に一月の月日が流れた。そして、場所は変わって二条城。

 

「ここが二条の城か」

「あら、藤十郎も来た事あったわよね?」

「あー……あの時は周囲の鬼を狩っていたからな。ほとんど記憶にない」

「やれやれ、あの頃の藤十郎どのはどちらが鬼なのか分からぬほどでしたからなぁ」

「腐れワレメは藤十郎に対して失礼なのです!」

「こら、綾那。そういうことばかり言わないの」

「小波」

「はっ!……って、うわぁ!?」

 

 しゅっ、と目の前に現れた小波の腕を取り自分の馬に乗せる。

 

「ととと、藤十郎さまっ!?」

「別に呼び捨てでも構わんと言っておろうに。お前はすぐに自分を卑下して隠れるからな。今日は二条の城につくまでは俺と馬の上で大人しくしておれ」

「おおお、お許しください!?」

 

 動揺のあまり顔を真っ赤にして何を言っているのかも分からなくなる小波に全員が苦笑いを浮かべる。とはいえ、同じことを自分がされたら……と考え真っ赤になっている歌夜が居たりするのだが。

 

「葵、構わんよな?」

「えぇ。小波もたまには藤十郎に甘えなさい。普段は貴女のおかげで三河で暴れる鬼はすぐに鎮圧できているし、他国の情報も細かに手に入れることが出来ている。その褒美よ」

「褒美などと……ふぁ?!」

 

 頭を藤十郎が撫でると、次は小さくなってまるでぷしゅーっと頭から煙でも出ているかのような反応の小波を藤十郎が面白がっているのは見ているものであればすぐに分かる。

 

「藤十郎、小波ばっかりずるいのです……」

「そうね。……後で二人でお願いにいこっか」

 

 なにやら綾那と歌夜が話し合っているが、藤十郎たちにはその声は届かない。そんなにぎやかな一行の前に二条の門と、その前で待っている人影が目に入る。

 

 

「藤十郎!!……久しぶり!」

「おう、剣丞。文以外では俺が帰ってきて以来か。……いい顔立ちになったではないか」

 

 馬から下りた藤十郎と剣丞が硬く手を握り合う。そして藤十郎が剣丞に近づくと力強く抱擁する。

 

「うわっ!藤十郎!?」

「俺が居ない間、約束を果たしてくれてありがとう。この礼はどうしても直接言っておきたかった」

「……当たり前だろ。友達、いや、親友からの願いを聞き届けないほど俺は落ちぶれてないよ」

 

 男同士で熱い友情を確認し合っているとき。

 

「久遠姉さま、ご無沙汰しております」

「うむ、葵も息災で何よりだ。……全く、あいつらは何をやっておるのか」

「ふふ、いいではありませぬか。これからの時代を本当の意味で担っていくのは……二人なのですから」

「……そうだな」

「とはいえじゃ。なにやらモヤモヤするようなワクワクするような感覚があるのだが……幽、これは何だ?」

「……それがしにはなんともいえませぬ。双葉さまにはあまりお見せしたくない光景ではありますが……」

 

 久遠は葵と、同じく出迎えに出てきていた二条の主である一葉と幽。藤十郎と嬉しそうに笑顔を浮かべている剣丞を見て微笑ましく見ている。

 

「久しいな、藤十郎よ。こう面と向かって話をするのは、清洲に来ていた頃以来か?」

「お久しぶりです、久遠どの。色々とありましたが、ご健勝そうで何よりです」

「うむ。……今日は各勢力の面々が揃っておる。何かあるまでは一時、此処で親睦を深めてくれ。……色々と、な」

 

 なにやら意味深な言い方をする久遠に首を傾げながらも藤十郎は頷く。

 

 

 ……この後に、藤十郎は久遠の言葉の意味を理解することになる。




まずは後日談の導入部になります!
よくよく考えてみると、葵は既に子を産んでいることになるんですよね……。

対して剣丞にはまだ子はいない設定……。

藤十郎、恐ろしい子!

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