戦国†恋姫~水野の荒武者~   作:玄猫

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20話 激戦

「何故だ、何故お前が生きておる!」

「はっ!知れたこと!今貴様の目に映るものが全てだ!」

 

 桐琴の槍を何とか受けた壬月が距離をとる。

 

「……孺子も小夜叉も騙していたとでも言うのか?」

「好きに思うがいい。ワシは最早、森の名を捨てた唯の桐琴。徳川の……藤十郎の槍に過ぎん!」

「壬月さま!」

 

 部隊に指示を出し終わった麦穂も合流する。刀を構え、警戒を緩めずに接近してくる。

 

「くくく……久々だな、この面々で集まるのは」

「まさか敵同士だとは思わなかったが」

「本当に。……まだ間に合います。剣丞どのも、小夜叉ちゃんも喜びますよ?」

「はっ!知らんな。……小夜叉も孺子も、立派に育ったであろう。ならばワシが教えるものはもうないということだ」

 

 桐琴の言葉に少しの驚きを見せる麦穂。

 

「これ以上の言葉は不要であろう?さぁ、権六、五郎左、かかって来い!本気のワシを抑えてみよ!」

「行くぞ麦穂!剣丞は殺すなと言っておったが、殺す気でいかねば殺られるのはこちらだ!」

「はい!」

 

 桐琴と壬月の剛撃がぶつかり合う。周囲を囲むようにしていた部隊は既に麦穂と藤十郎の部下の策によって離れた場所で戦端を開いていた。

 

 

「っ!!綾那!」

「歌夜、どうしたです?」

「藤十郎さんが……合流したって!」

 

 歌夜の言葉に綾那がぱぁっと輝く笑顔になる。

 

「やったです!流石は藤十郎、間に合ったです!」

「えぇ、そうね。それで、悠季から全軍突撃の命が出たわ」

「ふっふっふ!綾那と藤十郎、どっちが本当に強いか示すときなのです!」

「綾那、好きにやっちゃいなさい。後ろは私が」

「任せるです!武田なんて綾那一人で蹴散らしてやるです!」

 

 気が漲っている綾那の言葉に対して。

 

「そうはいかないのら!」

 

 兎々が答える。

 

「ここは兎々が通さないのら!」

「綾那!兎々さんは私が!」

「なら綾那は……光璃のところに行ってくるです!そこのけそこのけ綾那が通る、です!」

 

 恐ろしい速度で迫り来る綾那を受けようと兎々は指示を出すが、それを防ぐように歌夜が部隊を動かす。

 

「っ!歌夜、流石はやるれすね!」

「ふふ、兎々さんのお相手は私です」

「なら、兎々の本気、見せてやるれすよ!」

 

 

「撤退する最後尾、見えたですよ!」

 

 武田の旗が目指しているのは葵がいる本陣だろうか、撤退ではなく進軍だったようだ。綾那はそれに向かって突撃をかける。

 

「おっと、そうはいかぬぞ」

「むむっ!」

 

 殿を務めていた春日が綾那の突撃を受け止める。

 

「春日ですか、怪我したくなかったらそこを退くです」

「ふむ、そうはいかぬな。拙とて不死身の鬼美濃と呼ばれる身。おいそれとこの場を退くなどできぬのでな。……本多平八郎殿のお相手としては不足か?」

「馬場様!」

「お前たちはそのまま典厩さまの指揮下に入れ!この場は私で……」

「本当にいいですか?」

 

 ざわりとその場にいた兵全ての背筋が凍る。

 

「綾那は本気で押し通るですよ?春日を倒してそのまま……」

「なら、あたいも行くしかないんだぜ?」

「粉雪!?お前は先備えとして……」

「お屋形様からの命でこの武田が赤備え、山形昌景がお相手するんだぜ!春日、お屋形様が万全を期す様に、剣丞に怒られるのは嫌だけど綾那を止めるには殺す気で行けって」

「……ふふ、そうか。ならば、粉雪共に行くぞ!」

「おう!だぜ!」

「ふぅ……本多平八郎綾那忠勝、推して参るです!」

 

 

「嘘!?あいつ、追いついてきてる!?」

 

 撤退を開始していた長尾勢の背後を突くように恐ろしい速度で迫り来る黒馬。武田騎馬と同等か、それ以上を感じさせる勢いに美空は驚く。

 

「御大将!ここは柘榴に任せて先に行くっす!」

「さっきの借り、返す」

「あんたたち……」

「大丈夫っす。柘榴と松葉なら余裕っす!」

「……早く帰ってきなさいよ!」

 

 馬を走らせ去る美空を見送りながら。

 

「相変わらずの……なんだっけ」

「つんでれ?」

「そう、それっす。つんでれっすね!さて、あの鬼さんをどう止めるか……」

「……殺すしかない。スケベは怒るかもしれないけど、そうしないと止まらない」

「そうっすねぇ。まずは初撃、御家流で行くっすよ!!」

 

 馬から降り、槍を手に駆けて来る藤十郎に向けて柘榴は御家流を放とうとする。

 

「行くっすよ~!」

「「御家流・昇竜槍天撃!」」

「なっ!?」

 

 驚愕に目を見開く柘榴と松葉。二人の御家流が互いを打ち消すように発動し、藤十郎と距離をとる。

 

「いいのか、距離をとって」

 

 藤十郎の気が槍を包み、まるで斧のような形に纏う。

 

「御家流……五臓六腑を!」

「御家流・血雨舞」

「ぶちまけろぉ!!」

 

 藤十郎の一撃をかいくぐるように朱傘が藤十郎を襲う。避けても追尾するように傘は止まらない。

 

「ふん!」

「ちょ、素手で受け止めたっすよ!?化け物っすか」

「上等」

 

 受け止めた朱傘を松葉のほうへ投げて寄越す。

 

「化け物で結構だ。……」

 

 すぅ、と息を大きく吸い込んだ藤十郎。何をするかと身構える柘榴と松葉。

 

 

「聞けぇ!徳川、北条の両勇者たちよ!」

 

 

「この声……藤十郎!?一体何処から……?」

 

 その声は織田の本陣にまで届いていた。

 

「敵は強大、なれば俺は今ここで人を捨てよう!これより我ら修羅とならん!仏と会えば仏を斬り!鬼と会えば鬼を斬る!情を捨てよ!!ただ一駆けに敵将を……」

 

 まずい、と思ったのは剣丞だけではないだろう。いや、剣丞以外はどこかで確信していたのかもしれない。徳川が……藤十郎が、本気で勝つために手段を選ばないであろうということを。

 

 

「討て!!」

 

 言葉を言い終わるのと同時に、藤十郎の動きが更に加速する。

 

「柘榴!」

「止める」

 

 傘を構え、守りの姿勢を取る松葉を見ても警戒のひとつもせずに藤十郎が突撃をかける。

 

「守りが堅いのであれば」

 

 槍を地面に向かって投げつける。身構えた松葉の視界に入ったのは刀を抜き放つ藤十郎。鋭いその一撃は松葉の防御をかいくぐり、軽くない傷をつける。

 

「松葉っ!!」

 

 友がぐらりと崩れそうになるのを見て、柘榴が鬼気迫る表情で藤十郎に槍を突き出す。

 

「怒りは人を強くも弱くもする。お前は後者か」

 

 藤十郎の瞳が紫色に輝き、まるで知っているかのように柘榴の一撃を紙一重で避け、松葉と同じように斬り捨てる。ドサリと倒れる二人、藤十郎はそれを見て刀を振り鞘へと収め槍を取る。

 

「……一時は動けん。お前たちには戦後の交渉で役に立ってもらう。そして、()にもなるだろう」

「ぐ……!何を……」

「長尾が家臣、柿崎景家、並びに甘粕景持両名、この水野勝成が討ち取ったっ!!」

 

 

 その声を発した瞬間である。戦場を包み込むような怒りの気が放たれる。

 

「……さて、ここからが本番か」

 

 

「まずい……っ!久遠、俺も出る!」

「ま、待て剣丞!貴様が行ってしまうと……!」

「いや、このままじゃ藤十郎……いや、美空がやばい!」

「主様が行くのであれば、余も行くぞ。止めても無駄じゃ」

「悪い、今は一葉の力を借りてでも美空を止めないと取り返しのつかないことになる!」

 

 

「水野、勝成ぃ!!」

 

 鬼神と呼ぶに相応しい気迫と怒気を放ちながら美空が藤十郎に単騎で突撃してくる。

 

「来たな」

 

 戦国の世でも一、二を争う力を持ちながらも天下に興味を持たない。故に彼女は強いのかもしれない。人一倍責任感があり、弱き者を守る。出会いが違えば葵や藤十郎とも分かり合えたかも知れないが、最早遅い。藤十郎の名乗りを聞いて美空は冷静を欠いていた。

 

「来なさい!!私の妹たち!!」

 

 そこに顕現するは、帝釈天と四天王。毘沙門天の加護を受けし美空にしか使えない御家流。

 

「死になさい。あなただけは許さない。三昧耶曼荼羅!!」

 

 美空の御家流が完全に放たれる。そして、その瞬間こそが。

 

「俺の狙いだ。……三昧耶曼荼羅!!」

 

 美空に対して、現れるのは女性ではなく男性という違いはあるが、明らかに同種の存在。

 

「な、何よそれ!?」

「言っただろう、三昧耶曼荼羅だ、と」

 

 ぶつかり合う護法五神の力は同等。自らの御家流と同じ技を使われ動揺する美空だったが、すぐに気を取り直し自ら刀を抜き放つ。

 

「なら、私が直接あんたを殺せば済む話よ!」

「残念だが」

 

 美空が振り下ろす刀を紙一重で避け。

 

「個人の武ならば、俺のほうが上だ」

 

 槍の石突で腹部を強く打つ。どさりと倒れる美空を見た後、藤十郎が片膝をついて肩で息をする。

 

「はぁはぁ……まずいな、流石に脳が焼ききれるかと思ったぞ」

 

 つー……と鼻から流れた血を拭う。

 

「どれだけ寿命(・・)が縮んだか……こんな技を使うとは冷静ならば負けたな」

 

 遠方へと視線を向けると、そこでは長尾勢に対して幾度となく突撃を繰り返し疲弊させている地黄八幡の旗、そして、鑊湯無冷処の旗。

 そして、違う方向からも迫り来る別の旗。赤地に四つ割菱……武田菱である。

 

「アレの相手もせねばならんか。……なかなかに厄介だ」

 

 徳川の本陣からも人がこちらに向かっている。恐らくは美空たちを捕らえるべく来ているのだろう。

 

「……ふぅ、行くとするか。決着をつけに」

 

 

「ぐ……」

「どうした、権六。腕が落ちておるぞ!」

「そういう貴様は、また腕を上げたか?」

 

 片膝をついて肩で息をしている壬月。既に身体は切り傷だらけになってしまっている。それは、対する桐琴や共に戦っている麦穂もそうだ。

 

「はっ!一度は死を見たからな。……で、まだやるのか?」

「当然だ。……貴様を殿の前に行かせるわけには行かん」

「ふん……ならば」

 

 槍を構える桐琴であったが、殺気に反応し壬月たちの背後を見る。

 

「……命拾いしたな、権六、五郎左よ。ワシの相手はどうやら代わるようだな」

 

 

 駆けて来た少女は桐琴を見て固まる。桐琴も肩に槍を乗せた状態から動かない。

 

「……なんだよ、何なんだよ」

「あぁ?」

「何で、何でそこにいるんだよ!オレたちのところに帰ってこないで、何でそんな!!」

「それはワシが選んだ道だからだ。クソガキが孺子の傍にいると決めたのと同じように、ワシは藤十郎とおると決めた」

「……あぁ、そうかい分かったよ。ならもうテメェは母でも何でもねぇ……っ!!」

「小夜叉ちゃん……」

 

 顔を伏せた小夜叉に心配そうな顔をする麦穂。

 

「手、出すんじゃねぇぞ。母……いや、この敵は」

 

 

「オレの獲物だ」

「やれるもんならやってみせい、クソガキ」




あれ、連続で桐琴終わりになってしまった(ぉぃ

美空たちですが、少し噛ませ犬のようになってしまっていますが、まだ出番はあります。
お楽しみに!

今回で分かったかもしれませんが、藤十郎の御留流は精神力や集中力、ものによっては寿命や魂といったものを対価に使うことになります。
美空の御家流は集中力などだけでは賄えないほど強力なものということですね!

質問などもお受けしますので感想もお待ちしております!

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