戦国†恋姫~水野の荒武者~   作:玄猫

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誕生日が嬉しいものなのはいつごろまでだったか……。
また新たな20歳のループが始まりました(ぉぃ

何周目かな、これ。


閑話6 風魔の姫、藤十郎の本気

「あ、兄さま。ちょうどよかったです」

「……確定なんだな。まぁ構わんが。どうした暁月?」

「はい、姫野についてなんですけど……」

 

 暁月から姫野といわれ一瞬首を傾げる。北条の関係者に姫野という知り合いがいただろうかと思い、気付く。

 

「……あぁ、風魔の頭領の女か」

「そうです。あの子に何かされたりしてませんか?優秀なんですけど、ちょっとだけ思い込みが強いといいますか……」

 

 明らかに小波を敵視していた姫野のことを思い出す。あの後、時折風魔の視線を感じはするが直接こちらへ接触してくることはなかった。三人の北条後継者の護衛をしているようだが。

 

「姫野はああいう子ですから、扱いが難しいように感じるかもしれません。でも、あの子はがつんといわれると聞いてしまう、そんな子ですから遠慮なくびしびしやってくださって構いませんよ」

「分かった。ここからの戦には彼女の力は不可欠だから何とか話をしないといけないとは思っていたからな」

「はい。悪い子ではないのでお願いします」

 

 暁月がぺこりと頭を下げると軽く走り去っていく。

 

「ふむ、なら風魔の、姫野と話をする機会を作らないとだな」

 

 

「……何か用?私忙しいんだけど」

「あぁ、すまんがこれからについて頼みたいことがあってな」

「……ふぅん。姫に頼みがあるのね?」

「そうだ。ここから先の戦いには風魔の力……姫野の力を借りなければかなりきつい戦いになる。だから」

「ふ、ふぅん。まぁ当然だし?風魔は伊賀よりも優秀だし!」

 

 何故か自慢げに姫野が腕を組みながら言う。

 

「姫野は嫌かも知れないが、伊賀と甲賀、風魔が協力しなければ織田、武田、長尾の同盟軍には勝てん。お前も剣丞たちと戦ったのであれば分かるだろう?」

「……ふん!姫はちょ~っとだけ調子が悪かっただけだし!」

「それでも負けた。だから協力して欲しい。俺たちの力と姫野の力。あわせることが出来れば、きっと勝てる」

「……へぇ、藤十郎は私の力が借りたいのね?」

「あぁ。姫野の力が必要だ」

 

 藤十郎の言葉に満足そうに頷く姫野。

 

「そ、そういうことなら仕方ないわね!私の力を貸してあげてもいいし!」

「ありがとう。期待しているぞ」

 

 微笑みかける藤十郎と、突然あわあわする姫野。最近多い反応だと不思議に思う藤十郎。

 

「宜しくしてやるし!えっと、藤十郎って呼び捨てしてるけどいいわよね?」

「あぁ。好きに呼んでくれ」

「うふふ、敵は天人に軒猿とか腕が鳴るし!」

「そうだ、姫野。友好の証って訳ではないが、一緒に食事でもどうだ?」

「へ……?」

 

 

「草と一緒に食事とか普通じゃないし」

「そうか?共に戦う仲間なんだからいいと思うんだがな。小波にも同じことを言われたな」

「……服部と一緒とか納得いかないけど、意見には同意する」

 

 二人でやってきたのは、近くにあった食堂のような場所。

 

「嫌なら悪いことをしたな」

「嫌とは言ってないし!……もぅ」

 

 ぶつぶつ言いながらもお品書きを見ながら少し楽しそうな姫野。

 

「ねぇ藤十郎。これってどんな奴?」

「ん、あぁ、これは……」

 

 あまりこういった場所へはこないらしい姫野の質問にひとつずつ答えていく。

 

「あんたら仲良いねぇ。夫婦……には見えないけど婚約者か何かかい?」

「ちょ!?こ、こんな奴とそんなわけないし!そんな勘違いするとか信じらんないし!!」

「ふふ、恥ずかしがるのも最初のうちだけさね。ゆっくりしていきな」

 

 女将さんは姫野をからかってそのまま立ち去る。姫野は既に顔が真っ赤になっている。

 

「ちょっと!藤十郎も何で笑ってるし!?」

「ははは、すまんすまん。姫野もそうやって自然体でいれば可愛らしいものだなと思ってな」

「か、かわっ!?~~っ!」

 

 

「……何故か怒ってた……のか?」

 

 一応、一緒に食事はして打ち解けたとは思う藤十郎だったが、最後に「そ、そんなんじゃないんだからね!?」みたいなことを言って走り去ってしまった姫野を呆然と見送った。

 

「……藤十郎さま」

「ん、お前は……風魔の忍か?」

「はっ、風魔の上忍でございます」

 

 そういえば、以前に藤十郎に切りかかってきた忍とは違う熟練の雰囲気を感じる。恐らくは前回は参戦していなかった風魔の忍なのだろう。

 

「藤十郎さま、頭をお頼み申します」

 

 ペコリと頭を下げる上忍。

 

「私は、頭……姫野さまを幼少の頃より見ておりますが、あのように良い感情を表に出されているのは久々に見たものです。……素直でないところもありますが……」

「大丈夫だ。誰かに言われるまでもなく、俺自身の判断で姫野とは仲良くさせてもらうよ」

「はっ!」

 

 一瞬で目の前から消える上忍。姫野はよい部下に恵まれているようだ。

 

「全体での能力はかなり高いようだな。あの子も悪い奴ではなさそうだしな」

「あ、兄ちゃん!姫野が何か顔真っ赤にしてたんだけど知ってるかー?」

「さぁ?さっきまで一緒に食事をしていたが……」

「兄ちゃんも天人みたいに奥さんいっぱいいるのか?」

「……いるわけないだろう。むしろ奥さんはいない」

「そっか。徳川の殿様は婚約者だっけ?」

 

 三日月の言葉に頷く。

 

「そうだ。戦が終わった後でしっかりと紹介できるようにしておこう」

「そういえば、徳川ってすごい草使ってるんだよな?」

「うちは伊賀と甲賀だな」

 

 伊賀も甲賀も共に日の本を代表する忍の里であり、その中でも小波……服部半蔵の知名度は高く、日の本一とされている。それ故に恐らく姫野が敵対視していたのだろう。

 

「だが、小波と姫野か……。うむ、仲良くなれそうでいいな」

 

 頭に思い浮かべるのは小夜叉と綾那の二人。性格は全く違うが、小波と姫野も似たように仲良くなれるのではないかと藤十郎は考えていた。

 

「さて……そういえば、北条の面々にも御家流はあるはず……。なんとか見ることが出来れば、な」

 

 恐らくは次の戦で、藤十郎の御留流は知れ渡ることになるだろう。噂で聞いた話では、剣豪将軍・足利義輝、越後の龍・長尾景虎、甲斐の虎・武田晴信は別格の御家流と聞く。

 

「……どれだけの相手か」

「どうした、藤十郎。まるで戦の前のワシら、森一家のような気を感じたぞ」

 

 嬉しそうに笑いながら桐琴が現れる。

 

「……そうか?そうかも知れん。俺にとって最後の大戦になるだろうからな」

「……ほぅ。藤十郎、まだワシに言っておらんことがあるのではないか?」

「そうだな。桐琴には話しておくべきかも知れんな」

 

「何故もっと早くに言わんかった?」

「聞かれなかったからな」

「……チッ。孺子といい藤十郎といい……やはり似たところがあるな」

「あいつとか?それほど似てるとは思えんが」

「そういうところが似てるんだがな。……ちょっと付き合え、ワシと死合うぞ」

 

 

「ん?あれって……藤十郎とあの怖い付き人?何で武器もって向かい合ってるし?」

 

 姫野が周囲の警戒をしているときに、視界に入ってきたのは藤十郎と桐琴が自身の武器を持ち向かい合っているところだった。

 

「構えて……っ!?」

 

 二人から放たれるのは間違いなく殺気。これは修練などといった生ぬるいものではない。本気の殺し合い(・・・・)

 

「仲違い?いや、そんな感じじゃ……こ、これが徳川にとっての修練!?気違いだし!」

 

 二人の槍が幾度となく交叉する。火花が散り、互いの攻撃を避けるたびに地形を変えてしまうほどの衝撃が周囲を包む。

 

「こ、こんな奴らと姫やりあってたの!?」

「頭」

 

 姫野の傍に現れた上忍が声をかける。

 

「な、あんたか。何?」

「……頭、しっかりとこの戦いを見届けるよう」

「何でよ」

「先代より仕えてきましたが、おそらくは頭が先代を超えるためにはこの戦いを見届ける必要があります。……全て終わった後にそれを理解するでしょう」

 

 

 藤十郎も桐琴も互いに本気であった。加減もなく、全力での戦い。

 

「良い、良いぞ!この調子ならばっ!!」

 

 桐琴の気が高まっていくのが分かる。しかも、それは戦いを始めた頃よりも間違いなく高く、研ぎ澄まされていく。と、そのとき、藤十郎は本能的に使う予定のなかった御家流を使うべく気を爆発的に増大させる。

 

「鬼哭槍攘!!」

 

 鬼の気を纏った藤十郎を見てニヤリと笑う桐琴。

 

「最後の戦に赴く前に、ワシからの手向けだっ!!」

 

 桐琴の言葉と同時に、周囲を包んでいた殺伐とした殺気が掻き消える。

 

「ゆくぞっ!!!」

 

 

 その瞬間を直接見たものは、藤十郎と桐琴を除けば姫野と上忍の二人。織田において攻めの三左と呼ばれ、鬼武蔵と呼ばれる森長可の母である桐琴の本気。

 

「森家御家流!!!」

 

 数ある戦の中でもほとんど使用したことがない御家流。

 

森羅万勝(しんらばんしょう)!!」

 

 槍を地面に突き刺すと、湧き出る光がまるで藤十郎を襲うように包み込む。

 

「ぐっ!?」

「そらそらそらっ!!」

 

 光が槍のようになり、桐琴の突きにあわせるように藤十郎を襲う。

 

「舐めるなよ」

 

 藤十郎の瞳が紫の光を放ちながら、桐琴の攻撃や光の槍を避け桐琴へと攻撃を繰り出す。

 

「!その技……奪っておったか!!」

「使い勝手がいいので、な!」

 

 グンと加速した藤十郎が分身したようになる。態勢を整えた二人は再び交叉を繰り返していく。

 

 

「はぁ、疲れた」

 

 桐琴との死合いが終わった後の風呂上り。藤十郎は一人で外で涼んでいた。

 

「あ、藤十郎……」

「姫野か。どうした」

「あんた、強かったのね。あの付き人との訓練見たわ」

「ん、覗いてたのか」

「はぁ!?の、覗いてないし!姫は偶然見えただけだし!」

 

 何故か必死で否定する姫野。

 

「はは、別に構わんさ。それで、姫野の目から見てどうだった?」

「……はいはい、凄かったって認めればいいんでしょ!」

「何で怒ってるんだよ。まぁ、同盟組む相手に認められるのは大切なことだからな。最初の出会いはあれだったが、だからこそお前に認めてもらえるのはありがたいよ」

「……ふん!」

「そういえば、風魔小太郎って名前は襲名なんだってな」

「そうよ。だから、姫は……」

 

 言葉を切る姫野に藤十郎が酒を差し出す。

 

「のめるか?」

 

 差し出された酒をぐいっと一気に飲み干す姫野。

 

「俺は忍じゃないから詳しくは知らんが、家を継ぐ、名を継ぐっていうのは大変なことだからな。俺も水野の家を継いだが、まぁ何もしていないから姫野の状況を分かる、とは言えんが。まぁただ、姫野が姫野なりに頑張っているというのは分かる。……見てる奴は見てるさ」

「藤十郎……?」

 

 ぽんと頭におかれた手。一瞬驚くが、姫野が手を押しのけることはしない。

 

「小波と色々とあるだろうが、仲良くしてやってくれ。あいつもあいつで色々と苦労してるからな」

「と、藤十郎がそこまでいうなら仕方ないから仲良くしてやってもいいわよ?姫野って優秀だし!」

「はは、そうだな。頼むぞ」

 

 

「頭、今日は機嫌よさそうですね」

 

 次の日、姫野とあった上忍はそう声をかける。鼻歌を唄いながら振り返った姫野は明らかに楽しそうである。

 

「そんなことないし!でも、藤十郎と話をして少しだけ、ほんの少しだけ見直してもいいかな、って思っただけだし」

「そうですか。それはよかった」

 

 上忍が満足そうに頷く。

 

「……あ、京で動きがあったらすぐに姫に教えるように」

「はい。それについて、ちょうどお伝えに」

 

 先ほどまでと変わり、真剣な顔に変わった上忍。その口から告げられた一言で、藤十郎たちは進軍の速度をあげることになる。

 

 

「徳川と織田の軍勢が、京付近で戦闘を開始。双方に少なくない被害が出たとのことです」




次回から本編に戻ります!
仕事が忙しく数日に分けて書いておりますのでおかしな部分などがありましたらご報告お願いします!

桐琴さんにも勝手に御家流作っちゃいました。
これは少し違いを出しながらもうひとつの作品でも使う予定です。

それでは次回、本編でおあいしましょう!

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