戦国†恋姫~水野の荒武者~   作:玄猫

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物語もオリジナル展開へ……。
お楽しみください!


17話 小田原へ

 小田原を治める北条家は北条早雲から始まる大名家である。現当主である北条氏康は武においては武田、長尾、佐竹などと戦を繰り返し無敗。鎧に受けた傷はすべて前方。

 

「ほぅ、ワシはそこまで知らんかったが意外と面白そうな相手ではないか」

「面白そう、か。桐琴らしい感想だが、今から会う相手としてはかなり厄介だと思うがな」

 

 ちらと周囲を見る。木々の辺りから感じる視線。しっかりと隠密しているのかもしれないが、それは藤十郎や野生の勘が強い桐琴のような相手には効果がないこともある。

 

「誰か見ておるな」

「これが風魔だな。……ふむ。だが『服部』には勝てんな」

 

 藤十郎が何かを思いついたように半蔵という単語を大声で言う。周囲がザワリと反応し、殺気が藤十郎と桐琴を襲う。

 

「ほう、面白い。藤十郎、試すつもりか?」

「向こうが乗ってくれば、な。おそらくだが北条の武……地黄八幡とやり合うか、くらいしか俺の力を確認させる方法が思い浮かばないからな。まぁ普通なら乗らないだろうが……」

 

 膨らんだ殺気の塊が藤十郎に突撃してくる。

 

「はっ!ふざけんなし!服部より姫野のほうが強いし!」

「はははっ!普通じゃなかったようだな!」

 

 うれしそうに笑う桐琴が言う。

 

「じゃ、ほかの雑魚は任せるぞ」

「おう、藤十郎。一応殺さんように努力する」

「……頼むぞ。同盟相手会った瞬間に破棄とか話にならんぞ」

「ちっ!早く殺すし!」

「しかし、お頭」

「早く殺る!たかが二人程度、盗賊にでも襲われたと……」

 

 そこまで言った忍の少女の横を吹き飛んだ部下が通り過ぎる。

 

「はっ!この程度か、風魔の忍は!」

「……殺してないんだな?」

 

 藤十郎がやれやれと首を振りながら少女の前に立つ。

 

「お前が頭って呼ばれてたな。風魔……小太郎だったか?」

「ふふん、姫野の名前も天下に轟いているから知ってるのね」

 

 以前に小波から風魔小太郎については聞いていたから知っているだけだ。とはいえ、風魔の某としか覚えてなかったので、後から悠季に詳しく調べてもらったのだが。

 

「俺は水野勝成。挨拶代わりだ」

 

 槍を構え、そのまま動きを止める。姫野と名乗る少女が怪訝な顔を浮かべる。

 

「は?何やって……っ!?」

 

 槍の穂先がぶれたように見えた瞬間、姫野の背筋を悪寒が走る。忍として生きてきた中でも感じたことがないほどの危険信号で咄嗟にその場から飛びのく。

 

「正解だ」

 

 藤十郎の声と共に、姫野の頭があった先の木に穴が開いていた。

 

「ちょ、な、何よそれ!?」

「はははっ!!藤十郎、ワシには殺すなと言っておきながらお前が殺そうとしてどうする」

「殺す気はない。小波のことを敵対視するならこの程度は避けてもらわんとな。……聞いた話だと、小波が世話になったらしいからな」

「っ!あんたたち、早く殺って……」

 

 反応のない部下にまさかと視線を桐琴のほうへと向ける。そこには既に地に伏した部下たちがいた。

 

「ざっと三十程度か。準備運動にすらならんかったわ」

「やりすぎだ。……で、だ」

 

 槍の穂先がすっと姫野に向けられる。

 

「なんだったか。……あぁ、『盗賊にでも殺られた』と今から行く小田原で伝えておけばいいか?」

 

 姫野の身体がびくりと動く。同時に三方向から藤十郎に向けて忍が攻撃を仕掛ける。訓練に訓練を重ね、身につけた完璧なまでの三位一体の攻撃を槍を持つ手を片手にし、もう片方の手で刀を抜き放ち一刀のもとに武器を弾く。ドン、と何かが衝突したような音と共に三人の忍は吹き飛んだ。

 

「ワシを忘れてもらっては困るぞ、風魔よ」

「ってわけだ。どうする?小太郎さんよ」

 

 

「何なのよあいつらは!!」

「お頭、あれが三河の鬼……松平の、徳川で相手にしてはならぬと言われている双璧のひとり、水野勝成どのです」

「水野……って、あんなのが!?」

 

 初陣で首級を十五も取ったとか、鬼の軍勢に一人で大立ち回りをしたとか……噂は所詮噂だと思っていた姫野にとっては、まさか本当にそんなことが可能な人間がいるとは思っていなかったのだろう。

 

「水野、勝成……!きーっ!絶対姫野の前に跪かせてやるしっ!!」

 

 

「よい暇つぶしにはなったわ」

「……それはよかった」

「で、どうだ。北条は役に立ちそうか?」

「どうだろうな。風魔忍軍の強さはおおよそ分かった。……まぁ、今回来た連中とは違う腕利きもいるだろうが……軒猿なんかは抑えられるんじゃないか?」

 

 姫野たちに襲われながらも相手の力量を測っていた二人は確認しあう。

 

「ふむ、後は実際に地黄八幡や当主がどうか、と言ったところか」

「あぁ。煮ても焼いても食えない奴というのが周辺諸国からの声だからな。町で聞いたところでは善政は敷いているようだから、統治者としては評価できるだろう」

 

 単純に数十万の軍勢と衝突する可能性があるのが徳川の現状だ。鬼との戦いで疲弊した後だとしても、数というのはいるだけで脅威だ。

 

「地黄八幡は本人の武もさることながら、部隊の運用や指揮も高い評価を得ている将と聞く。楽しみではあるな」

「はははっ!小田原を出て京へ向かえばそのまま決戦かもしれないというのに余裕だな、藤十郎よ」

「今は目の前の敵をどう対処するか、だ。交渉事になる可能性が高いが、正直俺はそこまで交渉に強いとは思えない。だから、圧倒的な武を見せ付けておくのは必要かと思っているだけだ」

 

 言葉を交わす二人の前に巨大な城が見えてくる。

 

「ほう!噂には聞いていたが……」

「あぁ。あれを崩すとなると……どれほどの軍勢が必要か。天下の名城というのも頷ける。……やっとついたか。小田原に」

 

 

「これはこれは。『駿府』よりよくぞ来られました。私は本日、お二人をお迎えするように主君北条氏康より命じられました北条綱成と申します。通称は朧。これから同盟となる徳川の水野勝成どのには是非通称でお呼びいただきたい」

「ご丁寧に。ご存知のようだが、俺は徳川家康の名代で参った水野勝成。通称は藤十郎だ。此度は名高い地黄八幡どの直々のお出迎え、感謝する。そちらが通称ならばこちらもそれで構わない。よろしく頼む、朧どの」

「こちらこそお願いします、藤十郎どの」

「ワシは藤十郎の槍だ。名は桐琴」

「……桐琴どの、ですね。よろしくお願いします」

「応よ」

 

 

 入り口で簡単な挨拶の後、広い部屋を割り当てられる。

 

「桐琴、お前から見てどうだった?」

「なんとも言えんな。ただ、一騎打ちなどならばワシや藤十郎のほうが上だろうな」

 

 藤十郎も同じ意見だったのか頷く。

 

「だが、戦術や戦略というのは、時に圧倒的な戦力になる。特に数と数のぶつかる戦ではな」

「しかし、この部屋は忍がついておらんな」

「俺や桐琴相手じゃ意味がないから引き下げたか。それともそんな必要すらないと思われているのか」

「はっ!いい意味か、悪い意味か分からんところだな」

「まぁ、あの風魔の頭領が帰ってくれば何かしらしてきそうだが……たいしたことはないな」

 

 そこまで話した時点で藤十郎がチラと背後の襖を見る。

 

「で、そこで盗み聞きしているのは誰だ?」

「っ!!」

 

 襖の向こう側から息をのむ声が聞こえる。その後、ひそひそと話す声。

 

「どどど、どうしよう、三日月ちゃん、暁月ちゃん!ばれちゃってるよ!」

「お、お、落ち着け姉ちゃん!まだ慌てる時間じゃない!」

「……十六夜姉さまも三日月姉さんも落ち着いてください。ばれているのでしたら、堂々と出るほうがいいと思います」

「……聞こえてないと思っているのか?」

「……たぶん。悪意は感じないから付き合おう」

 

 呆れ顔の桐琴と苦笑いの藤十郎が話す。

 

「し、失礼します!」

 

 そういって入ってきたのは三人の少女。どことなく朧と似た雰囲気があるような気がする。

 

「えっと、あのぉ~……」

 

 恐る恐るといった感じで藤十郎と桐琴をちらちらと見る少女。

 

「何だ、小娘」

 

 桐琴の言葉に少女がビクリと反応する。

 

「おおっと!姉ちゃんいじめるつもりなら三日月が相手になるぞ!」

 

 桐琴の放つ気にも動じずに二人を庇うように三日月と名乗る少女が前に立つ。

 

「桐琴、驚かせるな。……それで、お前らは?」

「申し遅れました。私は北条氏規、通称は暁月。北条家当主北条氏康の五女です」

 

 ペコリと頭を下げた一番年下に見える少女が名乗る。

 

「……ふ、俺は水野勝成。通称は藤十郎だ。藤十郎と呼んでくれて構わん」

 

 既に桐琴の興味は失せたらしく槍の手入れをしていた。

 

「こいつは桐琴。俺の相棒だ」

「あ、あの!私は北条氏政って言います!!通称は十六夜。十六夜って呼んでください!」

「三日月は北条氏照、通称三日月だ!よろしくな、兄ちゃん!」

「兄ちゃん……。まぁいいか、それでどうして聞き耳を立てていたんだ?」

「えっと、その!」

「北条と同盟を結ぶ徳川がどのような人を送り込んでくるのか。それが気になったから、私たちで判断しよう、と……十六夜姉さまが」

「わ、私!?」

 

 まるで漫才のような掛け合いをする三人を綾那を見ているときと同じような気持ちで見る。

 

「で、どうだった?」

「わ、私はいいと思います!」

「あれ、姉ちゃんって兄ちゃんみたいな男が好み?」

「……いえ、三日月姉さん。それ意味が違うかと……」

「ちちち、違うよ!?お姉ちゃん、そんなこと言ってないよ!?」

「っ!ははは!!藤十郎はやはり孺子と同じ蕩らしの技術でも持っておるのか!」

 

 藤十郎の肩をバンバンと叩き笑う桐琴。

 

「痛いって。……じゃ、せっかくここまで来たんだ。少し話でもするか?」

「「「え?」」」

 

 

 少しの会話の後、三人が立ち去った。

 

「ふむ、藤十郎。今の小娘たちの評価は?」

「難しいな。十六夜は理想に揺れる……そうだな、剣丞と似たところがある気がするな。……もし、あの子が現実と理想の両方を知り、それを併せ呑むことができれば」

「化ける、か」

「三日月は恐らく北条の武を背負っていく人材、と言ったところか。暁月は時が経てば智謀で天下に名を轟かせるだろうな」

「ほう、高評価だな」

「あぁ。……だが、俺たちが求めるのは即戦力だ。だから、もっとも俺たちが重視しなくてはいけないのは」

 

 藤十郎が、城の上のほうを睨むように見る。

 

「北条家当主、北条氏康。相模の鬼姫だ」

 

 

「それで、朧から見て徳川の二人はどうだったの?」

 

 城の、藤十郎たちがいる場所を見下ろしながら朧に問いかける女性。彼女こそ、十六夜たちの母でもあり藤十郎たちの会話にも出てきた相模の鬼姫、北条氏康。

 

「はい。流石は三河の鬼といったところでしょうか。連れてきている護衛が一人と言うのは驚きましたが、あの二人であれば納得と言ったところです」

「へぇ。朧にしては高評価ね。それで、姫野は?」

「……藤十郎どのに軽くあしらわれたことで少し荒れているようですが……部下が宥めているようです」

「あの子、それがなければ優秀なんだけどねぇ。さて、明日になれば私も会って見定めるわ」

 

 すっと目を細める。

 

「徳川と手を組むべきか、それとも……」

 

 口角をあげ。

 

「織田と手を組むか、ね」




事情があり、数回に分けて書いた為、変なところがあったらすみません!

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