戦国†恋姫~水野の荒武者~   作:玄猫

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16話 駿府屋形と鬼の調伏

 葵が大猿の鬼……白川の手で攫われて、藤十郎は周りの静止を振り切り一人……桐琴もいるので二人で馬を走らせていた。

 

「鬼の居城へ二人で討ち入りとは……面白い話だが、藤十郎。少し落ち着かんか」

「俺は落ち着いて……」

「嘘だ。今のお前からは焦りしか感じ取れん。ワシを舐めるなよ」

 

 桐琴の言葉に藤十郎は言葉を飲み込む。

 

「……藤十郎にとって徳川の殿がどういう存在かは、ある程度分かっておるつもりだ。だからこそ、お前が怪我を負って助けに来てみろ。徳川の殿がどのように感じるかも分かろう?」

「……すまん」

「分かればいい。我が主になったとはいえ、まだまだ甘いところは抜けんか」

 

 笑いながら桐琴が言う。

 

「後続を待ったほうがいいか?」

「ふむ、恐らくだが誰かが門に張り付き、孺子が侵入といった策を取るはず。中の様子が分かるようならいいが……まずは徳川の殿の無事を確認できねばなんとも言えんな」

「……いや、俺と桐琴ならいける、と言いたいが綾那をつれてくるべきだったか」

「本多のガキか」

「あぁ。綾那は大音声(だいおんじょう)って技……なのか、まぁ名乗りを上げると人やら鬼やらが集まってくるので、な」

「ふむ、そんな便利な技があるのならワシも欲しいものだが」

 

 駿府屋形が目に入る。禍々しい気を放つその建物のどこかに葵が居る。

 

「……桐琴、俺に命を預けろ」

「ふん、前にも言ったであろう。ワシは藤十郎の槍となる、と。そんなものとうの昔に預けておるわ!」

 

 

 駿府屋形の門の前。藤十郎が馬から降り、地面に立つ。

 

「桐琴。俺には御家流と御留流、二つの技がある」

 

 槍を回しながら言う藤十郎。

 

「一つが水野家の御家流、鬼哭槍攘。肉体に反動があるからあまり多用は出来ない技だ。そして、もう一つが」

 

 槍を止め、鬼の気配漂う門をにらみつける。

 

「俺しか使えない御留流。家中でこれを知っているのは葵と悠季、あとは母上のみ。名も無きこれは精神力と魂を削って使う。多用できるものと出来ないものがあるのも特徴か」

 

 藤十郎の身体から膨大な気が放たれる。

 

「条件は一つ。『俺が知っている』こと。本家を超えることは簡単ではないが……血統、出自を無視して使えるこれは強力無比だ」

「おい、藤十郎。まさかお前の御留流は……!?」

「そう」

 

 槍を手にしているにも関わらず、気の形は明らかに巨大な斧のようになっている。

 

「人の『御家流』を我が物とする。『五臓六腑をぶちまけろ』」

 

 

 門と共に多くの鬼を一撃で葬り、屋形内へと侵入をしていた。

 

「丁度、織田の軍勢が門に張り付いたようだな。こちら側が手薄になってきておる。それよりも大丈夫なのか?魂や精神を削る技を使ったのだろう?」

「大丈夫だ。威力を抑えれば数発はいける。本家の威力を出してしまえば話は変わってくるが」

 

 藤十郎は自身が見たことのある壬月の五臓六腑を思い浮かべる。藤十郎との仕合の中で使ったのは恐らく七割程度だろうか。あれを使えば一発で息切れしてしまうだろう。

 

「ふむ、ならば良い。藤十郎、先にいけ」

 

 突然、鬼の面を取り出した桐琴が藤十郎に言う。

 

「桐琴?」

「ここはワシが食い止める。もし織田方の連中と出くわしたらワシは先に撤退するぞ」

「分かった。……また後でな」

「うむ」

 

 

「さて、門に張り付いておるのはガキか。……ふ、立派な武者になったようだな」

 

 面の中でニヤリと笑う桐琴。そして、すぅと大きく息を吸い込む。

 

「クソ鬼どもぉっ!ワシが相手だっ!掛かってこいやぁーっ!!」

 

 桐琴の声が屋形の中に響き渡り、鬼たちが次々と桐琴を目掛けて襲い掛かる。一匹の鬼と多数の鬼の衝突が起こった。

 

 

「桐琴の奴、まるで綾那の大音声だな。……頼んだぞ」

 

 虱潰しに襖を開け、中を確認して回る。壁や部屋の中は惨憺たる状況で、人骨や生々しい血の跡などがそのままにされていた。悪臭が漂うこんな屋敷に葵が居ること自体が藤十郎には堪らなく不愉快であった。そんな藤十郎の目の前に、襖が開け放たれた一つの部屋に差し掛かる。

 

「っ!?葵!!」

 

 ぼんやりと部屋の中で立ち尽くしている葵を見て部屋に飛び込んだ藤十郎を目掛け、天井から攻撃が繰り出される。すんでのところで回避した藤十郎が、葵と降り立った白川との間に立つ。

 

「来いよ、クソ猿。今の俺は虫の居所が悪いんだ」

 

 強烈な殺気に当てられてか、白川はジリジリと下がっていく。

 

「キキッ!!」

 

 鳴き声をあげて風の如く部屋から逃げ出す白川。チラと一瞥して葵と向き直る。意識があるのかないのか。ぼーっとした表情で虚空を見つめている。

 

「葵……」

 

 葵の身体に藤十郎が触れた瞬間、禍々しい気が藤十郎の中に流れ込んでくる。

 

「っ!?……はぁはぁ……」

 

 咄嗟に葵の身体から手を離し、距離をとる。葵の様子に変化はないが、今の感覚はなんだったのか。

 

「まるで……人でない何かになったかのような……」

 

 ふらっと倒れる葵を咄嗟に抱えるが、先ほどと同じ衝撃はなかった。葵の身体を優しく寝かし、傷を確認する。

 

「外傷はなし。だが状況が分からんな……これは悠季の専門か」

 

 そう思い、一度立ち上がろうとする。そんな藤十郎の袖口を葵は掴んでいた。

 

「葵?」

 

 気がついたのかと視線を向けるが、やはり葵は気を失ったままであった。そのとき、バタバタと人の足音が聞こえてくる。

 

「って、藤十郎!?」

「応。……すまんな、先走ってしまった」

「いや、無事ならよかった。先に行ったって聞いたときはどうしようかと思ったけど」

 

 部屋に飛び込んできたのは剣丞と観音寺から仲間に加わったという梅、そして。

 

「藤十郎さん……葵さまは?」

「今は気を失っているようだが……まずは悠季に見て貰うのがいいだろう」

 

 ふわりと葵を抱えあげながら藤十郎が言う。

 

「……分かりました。剣丞さま?」

「あぁ。藤十郎は葵をお願い。道は俺たちが切り開くよ」

 

 

「そういえば、鬼の数が少なかったんだけど……」

「恐らくは俺たちが裏を破壊して入ったからだな」

「……藤十郎、無茶しすぎでしょ」

「ハニーには言われたくないと思いますけど」

 

 苦笑いしながらいう剣丞に、更に梅が苦笑いで答える。

 

「って、もう一人は?」

「あぁ、途中で別れた。さっき綾那の大音声が聞こえたから恐らくは先に脱出している」

「そっか、ならよかった」

 

 屋敷から飛び出した藤十郎たちの前には信虎と向かい合う綾那の姿が見えた。

 

「綾那っ!無事っ!?」

「綾那は全然元気なのです。って、藤十郎!また綾那置いていったです!」

「す、すまん」

「むー……まぁいいのです。この件は後でじっくり聞くですから……藤十郎と剣丞さまたちはさっさと逃げるです」

 

 綾那の言葉に驚く剣丞。

 

「綾那一人で信虎さんの相手は……」

「任せるぞ、綾那」

 

 剣丞の言葉を切るように藤十郎が言う。

 

「ほう、貴様はあのときの……。どうだ、今ならば二人まとめて相手をしてやってもいいぞ?」

「俺と綾那でか?やめておけ。……相手にならん」

「そうなのです。綾那だけでも余裕ですし、藤十郎でも勝てるです」

 

 若干、藤十郎を馬鹿にしているようにも聞こえる言葉ではあるが、綾那の言葉に信虎が怒りを現す。

 

「その狸娘。我が直々に喰ろうてやるところを見せてやってもよかったのだがな」

 

 その言葉と同時に藤十郎、綾那、歌夜から猛烈な殺気が放たれる。特に藤十郎からの殺気は異常で、門の外で待機していた小夜叉などが反応するほどであったという。

 

「……危うく口車に乗るところだったが……綾那」

「任せるです」

 

 最後に綾那の背中をチラと見て藤十郎たちはその場を離れる。

 

 

 少し後に屋形から名乗りが聞こえた。

 『徳川家が一番槍!本多綾那忠勝が、鬼の大将・信虎を討ち取ったのですーっ!』と。

 

 

「……ふむ、これは。葵さまは鬼に落とされようとしておりますな」

「鬼に、か」

 

 悠季の言葉に静かに頷きながら藤十郎は呟く。

 

「おや、あまり驚かないので?」

「いや、驚いてはいるが葵に触れたときになにやら禍々しい気が流れ込んできたのでな」

「!?藤十郎どのも少し見せてもらいますぞ」

 

 悠季が真剣な表情で藤十郎を確認していく。

 

「……大丈夫そうですな。それで、葵さまを抱えてこられましたがその後異常は?」

「特には。……何とかなるのか?」

「そうですなぁ。確実であろう手が一つ、不確実ではありますがもう一つ。といったところでしょう」

「確実な手と不確実な手、か。二つを提案するということはそれなりの理由があるのだろう?」

「えぇ。……新田剣丞どのに託すか、藤十郎どのに託すか。この二択です」

 

 

 駿府屋形を落とし、ついに鞠がその中へと足を踏み入れた。その夜には、近くの屋敷を借り受けていた。そして藤十郎は。

 

「と、藤十郎!頭を上げてくれ!」

「……頼む、剣丞」

 

 土下座をして頭を下げ続ける藤十郎と、困ったようにあたふたとしている剣丞。

 

「えっと……葵を助けるために俺の刀が使いたい、ってこと?」

「あぁ。無礼は承知している。本来なら剣丞自身に頼むべきだということも重々承知している。だが、葵だけは俺が助けたい。いや、俺が助けなければならない!」

 

 頭を上げない藤十郎を見て、苦笑いでため息をつく剣丞。

 

「藤十郎、友達が困っているときに力を貸すのは当たり前だろ?」

「剣丞……」

 

 頭を下げた藤十郎の側にかちゃりと刀を置く。

 

「俺にとっては唯一の持ち物に近いものだからちゃんと返してくれよ?」

「勿論だ!……剣丞、俺もこの刀を一旦預けておく。代わりにならないのは分かっているが、これくらいせねば俺の気が済まん」

 

 そういって自らの刀、正宗を剣丞の前に置く。そして、槍を。

 

「え、槍も置いていくの?」

「あぁ。剣丞が自分の武を俺に差し出したんだ。俺も前にそれだけのものを渡さねばいかんだろう?」

「いいのに。……でも、分かった。しっかり預かっておくよ」

 

 

「ほぅ、剣丞どのはかしてくれましたか」

「あぁ。……で、どうすればいい?」

「その刀で、葵さまを斬っていただきたいのです」

 

 

 悠季の言葉、考えが正しければ……確りと意識をし、鬼という存在だけを斬ることが出来れば葵は救える。そう言っていたが……。

 

「鬼だけを斬る……?そんなことが出来るのか……?」

 

 今は、悠季の力で一時的に鬼化の進行を抑えているだけであるから、あまり時間をかけると葵の魂に負担がかかってしまう。つまり時間はあまりないということだ。静かに眠っている葵に刀をむける。剣丞の刀は鬼に反応し光るというが、確かに葵に向けた刃は光を放っていた。藤十郎は、恐る恐るその刃を葵の腕に当てる。

 

「……」

 

 恐らく、藤十郎の人生の中で最も緊張している瞬間であろう。初陣のときですらこれほどに動揺したことはないだろう。葵に向けた刃を静かに押し込む。

 

「ううっ……!」

 

 葵の呻き声と、刀を差した場所から漏れる黒い靄。靄は刀に吸い込まれるように消え、刃を抜いたその部分には傷一つついていなかった。

 

「悠季、いるか?」

「おりますぞ」

「お前の予想通りだ。……鬼の因子だけ斬ることが出来そうだ」

「ならば、お任せしますぞ。何かあれば某は此処におります故」

 

 葵の身体中に慎重に、だが素早く刀を差す。その度にあがる葵の呻き声を顔を顰めながら聞く。

 

「もう少しだ、頑張ってくれ葵」

 

 反射的にであろうか、藤十郎が葵に覆いかぶさるような形でついていた左腕に葵の手を弱弱しく掴む。着ていた服ははだけ、ほとんど用を成していない状態になっているが藤十郎は葵の心臓に刃を当て、突き立てる。声にならない葵の叫びと共に、一際大きな靄があがり刀に吸い込まれる。

 藤十郎も過度の緊張状態にあったのだろう、はぁはぁと荒い息をしながら刀を抜く。葵に向けられた刃は既に光をなくし、完全に鬼の呪縛から解き放たれたことを証明していた。それを確認し、葵へと視線を向けると静かに目を開ける姿が確認できた。

 

「葵!」

「……とうじゅうろう……?」

 

 まだ意識が混濁しているのだろうか、いつもに比べると舌足らずな感じではあるが、藤十郎を葵が呼ぶ。

 

「あぁ、そうだ。大丈夫か、身体におかしな……っ!?」

 

 藤十郎の言葉は最後まで続くことはない。何故なら藤十郎の唇に、重なるもう一つの唇によって言葉を奪われたから。

 

「っ……!」

 

 どれほどの時間、そうしていたのかは分からない。一瞬か、はたまた一刻か。頭の芯まで痺れるような感覚を藤十郎は受けていた。

 

「葵何を……」

 

 そこから先は言葉はない。再び葵によって言葉を奪われた藤十郎。

 

 

 駿府での夜は更けていく……。




藤十郎と葵はどうなったのでしょう?(すっとぼけ
R-15なので此処までですね!

駿府編はここで終わりますので、次回から閑話を挟み藤十郎は北条へと向かいます。
閑話の一つはご希望であった『斉藤飛騨』の物語がプロットに組み込みましたので書かせていただきます。
もう一つが今回の話の後日談、あと一つくらいかな~と思ってますのでまだまだ希望ありましたらお気軽にどうぞ♪

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