戦国†恋姫~水野の荒武者~   作:玄猫

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15話 駿府への道

 日は流れ、織田、浅井と今回の中心となる鞠との合流の日がついに来る。遠方に見える織田木瓜と三つ盛亀甲、足利二つ引が、大中黒一つ引を守るかのように旗が風に靡いていた。

 

「あれに加えて武田と長尾、か。錚々たる顔触れだな」

「……正直、笑い事では御座いませぬからなぁ。どちらも一騎当千の武者揃い、智将も揃っておりますれば……。はて、そういえば桐琴どのは?」

「流石に知り合いが多すぎるからな。今は母上と新しい服を作るとかいって意気投合していた」

「……確かに忠重どのと桐琴どのならば仲良く慣れそうな気がしますな」

 

 近づいてくる軍勢の中から飛び出す影が二つ。藤十郎からすればとても見慣れた相手でもあった。

 

「藤十郎ーっ!!」

 

 鬼に当たればそれだけで消滅させてしまうほどの勢いで藤十郎へと突進してくる綾那を、いつものように勢いを殺して抱きとめる。

 

「久しいな、綾那」

「う~!心配したですよ!綾那は大丈夫だって思ってたですけど、心配したのです!」

「あぁ、本当にすまん。……綾那は元気そうで何よりだ」

 

 優しく頭を撫でると嬉しそうに綾那ははにかむ。

 

「えっへっへ~!ちゃんと葵さまとの約束どおり、剣丞さまをしっかり守ったです!」

 

 まるで褒めて褒めてと尻尾を振る犬のような綾那をあやしながら、視線を歌夜へと向ける。

 

「歌夜も、心配かけたな」

「……本当に心配しました。今度の今度こそ……でも」

 

 藤十郎は身体を寄せてくる歌夜の頭も綾那と同じように撫でる。

 

「あぁ。これからは離れる気はないさ。時期を見てまた呼び戻すことになるだろう。覚悟はしておけ」

「はい。綾那にはそのときに上手く伝えますね」

 

 今はゴロゴロとまるで猫のように藤十郎に甘えている綾那を見て微笑む歌夜。

 

「しかし、綾那。会わん間に甘えん坊になったのか?」

「なっ!そんなことはないです!ないですけど……藤十郎はいや、です?」

「嫌ならその場で言っているさ。心配かけたのは事実だから好きにしていいが」

「ならなら!後で死合うです!」

「……やっぱり最後はそこに行き着くのね」

 

 

「……久しいな、剣丞」

「藤十郎!無事だったんだな!」

 

 出迎えに来た藤十郎を見て嬉しそうに剣丞が笑いかける。

 

「あぁ。色々と危ないところではあったけどな。お前も見ない間に嫁を増やして……天下をも誑してしまうつもりか?」

「ちょ!藤十郎までそういうこと言うの!?」

 

 剣丞の言葉ににやりと笑う藤十郎。

 

「半分は冗談だ。……今回は、徳川家からの歓待役を仰せつかった水野家棟梁水野勝成として此処に来た」

「徳川……そっか、葵は改名したんだっけ?」

「あぁ。それに俺も……藤十郎としての心に従ってみることにした」

 

 まっすぐに剣丞を見る。

 

「礼を言う。これからどうなっていくかは分からんが、お前には本当に感謝している」

「……そっか。うん、それが藤十郎の選んだ道ならそれでいいと思う。でも、今は」

「あぁ。駿府屋形を取り返すのは共同戦線だ。……剣丞、互いの道が違えようと」

「うん、俺たちは友達だ」

 

 

「葵、敵方の様子はどうだ?」

「はい、今は駿府屋形へと集結しているようです。……それと」

「書状で読んだぞ。改名したそうだな」

「これからは徳川家康を名乗ります。久遠姉さま……」

「デアルカ。我も自分のやりたいようにやってきた。葵も好きにしろ」

 

 久遠の言葉に少しだけ驚いた様子を見せた葵。

 

「……久遠姉さま、我ら徳川は鬼の討伐には与力しますが同盟には加わらないことを決めました」

「……そうか。それが葵の選択なのであれば、我は構わん。日の本の為に動いているのであればな」

「……はい。それにしても、久遠姉さまは変わりましたね。やはり剣丞さまのお力ですか?」

「ななな、何を言っている!我は……そうだな、我は変わっているのかもしれん。それは葵、お前もではないか?」

 

 久遠が葵を見ながら言う。

 

「以前に比べ、本心からのやわらかい表情が出ている。以前のお前は何を考えているか分からんところがあったが……今はしっかり伝わってくるぞ」

「それは褒められているのでしょうか?ふふ、そうですね。私も……変わりましたから」

 

 

「久遠」

「剣丞か。どうであった?」

「うん、藤十郎は元気そうだったよ。……それと、やっぱり」

「あぁ、我も葵と直接話をしてな。確信した」

「「織田と徳川の戦が起こる」」

 

 剣丞と久遠の言葉が重なり、二人はうなずき合う。

 

「……よいのか、剣丞。藤十郎はお前の友なのだろう?」

「うん、正直戦いたくはない。でも、俺は俺の大事な嫁さんたちや仲間たちを守りたい。一対一じゃ絶対勝ち目ないだろうけど、それでも皆で力を合わせれば大丈夫」

 

 剣丞の言葉に久遠が頷く。

 

「ならばいい。だが、今は目の前の敵が優先だ。……しかし、本当に良いのか?本多や榊原などは剣丞隊にとっても大きな戦力であろう?」

「仕方ないよ。二人とも直接話をして、主家に戻りたいって言ったんだ。寂しい気持ちはあるけど、それが二人の選択だからね。小波はまだ悩んでるみたいだから、焦らずに考えていいって伝えてるよ」

「小波か……。あの御家流は強力であるから、正直手放したくはないが……この件は剣丞に任せる」

 

 

「葵」

「藤十郎!……どうだった?」

「剣丞は元気そうだったな。だが、流石というかなんと言うか。もう俺たちの考えを見抜いているようだったな」

「そう……。久遠姉さまもそうだったわ」

「駿府屋形を取り返した後で」

「恐らくは京付近で決戦になるわね。京に鬼の首魁が現れるかもしれないと剣丞さまが言っていると話していたわ」

 

 京付近の地形を思い浮かべながら眉を顰める。

 

「……相手方に公方もいることを考えると正直不利だな」

「えぇ。今その辺りは悠季が中心に内裏などに手を回しているわ。……それと、藤十郎。駿府屋形を落としてそのまま北条へ使者として行ってもらいたいの」

「ほう?俺でいいのか?」

「私たちが剣丞さまを中心とした連合よりも手を組むに値する相手かどうかを証明しろと言っているの。それに対応できるのは藤十郎、貴方よ」

 

 

「北条ねぇ。正直、気は進まんが」

 

 同盟を確実なものとするためには行かないという選択は取れない。京には葵たちが向かい、北条には藤十郎と桐琴の二人だけで行くという。

 

「織田との戦には間に合えばいいんだが……」

「おい、藤十郎!」

 

 背後から聞こえた桐琴の声に振り返ると、一瞬固まる。

 

「……なんだその禍々しい服」

「はっはっはっ!忠重どのと共に作らせたのだ!どうだ、似合っておろう!」

 

 凶悪な胸元はそのままだが、以前の服と比べると黒が増えている。

 

「お主の服に色を合わせてきたわ。それとな、ほれ」

 

 桐琴が左腕を見せる。そこには肩まで包む漆黒の籠手があり、指先も動いている。

 

「な、何だそれは」

「鉄砲と同じく西洋の絡繰らしい。忠重どのは呪われておるが、ワシなら使えるだろと言っておった。しかしなかなかどうして、しっくり来るものでな!」

「……母上、何をしているんだ……」

 

 軽く頭を押さえる藤十郎。あの母にしてこの子あり、なのだが。

 

「まぁいい。具合が悪くなったらすぐに言うんだぞ」

「応よ。それで藤十郎よ。此度の戦、織田方と共になってしまうと不味い気がするのだが良いのか?」

「その辺りは考えている。……おい」

 

 藤十郎の声に現れたのは桐琴と似た体格の家臣たち。男は藤十郎と同じような服装で、女は桐琴に似た服装を着ていた。全員に共通して言えるのは、鬼の面をつけていることだ。

 

「血気盛んな若い衆だ。ここにいる二十五……桐琴を加えて二十六騎を俺の側近とする」

「ほう……項籍か為朝だとすれば数が足りんのう」

「気付くの早いな。俺の部隊ではないが、綾那と歌夜を此処に含めて二十八騎とし決戦のときに先陣を切る立場とする。これは葵からも許可を貰っている」

 

 駿府屋形での決戦時にも先陣を切る予定になっているという言葉に桐琴がにやりと笑う。

 

「分かっておるな、藤十郎。やはり戦は一番槍こそ花よ!」

 

 

 駿府屋形への侵攻は詩乃と京で剣丞隊に入った雫の両兵衛によって順調に行われていた。そしてまもなく駿府屋形が見えてくるであろう頃にそれは起こる。

 

「何だ、あの旗……武田か?」

 

 先駆けしていた藤十郎の目に、黒地に白餅の旗が突撃していくのが見える。

 

「……親を狩る、か。身内の恥は身内で晴らす。そう言うことか?」

「で、あろうな。どうする、藤十郎?」

「決まってるだろう。……突撃だ」

 

 

「あの名乗り……武田信繁……典厩か」

「景気の良い発破ではないか!……だが」

 

 藤十郎と桐琴を先頭に次々と鬼を切り捨てながら突き進む藤十郎たちは、同時に違和感を感じていた。

 

「この鬼ども、本気で殺しに来てはいないな」

「うむ。あの小娘を誘い出す罠……もしくは孺子に関わる何かしらやもしれんな」

「そして、敵の旗と交錯……不味いな、恐らくあれは」

 

 

「くっ……!薫、逃げるでやがる!」

「駄目!夕霧ちゃんを置いて逃げるなんて出来ない!」

 

 一際大きな鬼……武田信虎であったそれに追い込まれている二人を取り囲む鬼の輪が少しずつ狭められていた。薫が応戦するが、多勢に無勢。既に勝敗は決したかに見えた。そのときに一陣の風が、いや嵐が吹き荒れる。

 

「ヒャッハーッ!!クソ鬼どもは皆殺しじゃぁっ!!」

 

 金色の夜叉と。

 

「信虎だな。鬼に堕ちた外道に過ぎん貴様には勿体無いが我が槍馳走仕る!」

 

 紅の修羅が、部下をおいて敵陣に飛び込んできたのだった。

 

 

「オラァッ!この程度か、クソ鬼ども!!」

 

 地面から次々と鬼を呼び出す信虎であったが、沸く鬼を次々と切り捨てていく。鬼の攻撃を左手の籠手で受け、そのまま地面に叩きつけ潰す。

 

「はっ!相手にならんぞ、もっとワシを楽しませる鬼はおらんのか!!」

 

 一方的な殺戮であった。

 

「す、凄いでやがります……」

「あの旗……松平、ううん、徳川の?」

「確か水野家の旗と記憶してやがります。あれが……三河の鬼でやがりますか」

 

 桐琴とは違う場所で鬼に囲まれながら信虎と大立ち回りをしている藤十郎を見る。

 

 

「ぐっ……!人の身を捨てられぬ愚かな存在でありながら、我に逆らうか!」

「人の身の限界すらしらん貴様に言われる道理はない!」

 

 既に藤十郎の部下たちも合流し、周囲の鬼から武田を守る動きをしている。水野家の中でも特に血気盛んで腕の立つ一団に鬼は少しずつ押されている。

 藤十郎の槍の一振りで信虎が吹き飛ぶ。

 

「何だ貴様はっ!?人の身でありながら、どうしてそれほどの強さを見につけているのだっ!」

「人だ鬼だと煩い奴だ。俺は、ただ強くなる為に槍を振るい続けているだけだ。鬼になれば強くなれる?そんなのは馬鹿の考えることだろう。それにな」

 

 ニヤリ、と笑う藤十郎。背後から来る猛烈な気配を受けながら。

 

「ただ純粋な武であれば、俺に勝てないんじゃ」

 

 藤十郎の横を通り過ぎて突撃していく影。

 

「綾那には……本多忠勝には勝てんよ」

「とりゃーです!!」

 

 

「助かったよ、藤十郎」

「遅かったな」

「……藤十郎たちが早すぎるんだろ。それはそうと、凄いね藤十郎の部隊」

 

 周囲に居る藤十郎の部下を見て苦笑いを浮かべる。

 

「うちの腕自慢な若い衆だ。徳川の戦の先陣を切らせてもらう」

 

 ちらと桐琴を探すが上手く隠れているのか立ち去ったのか。既に周囲にはいないようだった。

 

 

「と、藤十郎!本陣を鬼が急襲している!!」

「っ!?」

 

 言葉を聞くと同時に藤十郎は馬に跨り駆ける。

 

「ちっ、油断していたか!?本陣には今は葵と……鞠がいる。松平衆がいるとはいえ、長くは持たんかも知れんぞ!」

 

 そんな藤十郎の目に入ったのは、木々を飛び移りながら飛ぶ赤い大猿。そして、その肩には意識を失っているのだろうか葵を抱えていた。

 

「な……葵ーっ!!」

 

 森に藤十郎の声が響き渡った。




二十八騎。
中国では西楚の覇王、項籍が。
日本では鎮西八郎、源為朝が。
共に二十八騎を率いたとされています。
興味のある方は調べてみてくださいね!

駿府屋形が終わったら閑話をはさもうと思ってます。
何かご希望などありましたら、活動報告へどうぞ♪

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