戦国†恋姫~水野の荒武者~   作:玄猫

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UA5000記念?に書いた閑話となります!

※ 10/26の時点で12話を上げておりますので、更新頻度が高いです。
  読まれていない方は一話前の話もどうぞ!


閑話1 一発屋の看板娘

 話は藤十郎が織田へと出向いていた頃へと遡る。

 

「この辺りか。三若の言っていた一発屋とか言う店があるのは」

 

 賑わっている尾張の町の中でも特に人通りの多い一角にその店はあった。

 

「まいどー!あれ、初めてみる顔だね、いらっしゃーい」

 

 元気な声と共に顔を出した少女は愛想良く藤十郎へと声をかけた。

 

「すぐに注文に行くからちょっと待っててね~!は~い、お待ち!」

 

 次々と注文をする客を捌く姿を見て藤十郎は感心する。

 

「……あれほど同時に注文を受けて間違えないものなんだな」

「あはは、慣れだよ慣れ。それでお客さん誰かの紹介?」

「あぁ、織田の三若から薦められてな」

「三若……あぁ、若菜たちかい。ってことはお侍さん?」

「三河から久遠……織田殿に助力に来た水野勝成という。気軽に藤十郎と呼んでくれ」

「助かるよ。正直堅苦しい話し方は苦手でさ」

 

 笑いながら言う少女の態度に腹を立てるものが居るのだろうか。

 

「私はきよ。よろしくね、藤十郎」

 

 少しだけ会話をし、届けられた料理を口に運ぶ。

 

「……美味い!!」

 

 三河の料理が最も口にあっている藤十郎であっても、この料理が一流であることは分かった。正直、そこまで食にこだわりがあるわけではないが、三若が薦めたのも頷けるというものだ。

 

「口に合ったようでよかったよ。気に入ってくれたらまた来てくれると嬉しいな」

「あぁ、是非来させてもらうよ」

 

 あっという間に平らげた藤十郎は、満足気に一発屋を後にした。

 

 

 それから幾らかの日が流れ。

 

「町からそう離れていないところに鬼の巣がいくつか出たか」

「おうよ。流石に早く潰さんと被害が広がる」

「それにオレの獲物も横取りされちまうからなー」

 

 小夜叉は自分の狩る相手が減るのがおきに召さないらしいが、状況としてはあまり芳しくない。町の付近まで鬼が来る、ということは今まで以上に夜の町は危険になるということだ。

 

「それで、だ。孺子、貴様一人で鬼共を蹴散らせるよな?」

「まぁ、余程の数出なければ。まさか」

「応。今回はワシとガキ、孺子が各個撃破したほうがはやそうでな。遊びすぎて殿に怒られても堪らんからな」

「ってわけで、藤十郎にも特別に獲物を分けてやんよ」

 

 

「で、俺が一番小さい巣ね。まぁ構わんのだが」

 

 森の若い衆が数人着いてきているが、ほとんど道案内をするために来てもらったようなものだ。

 

「じゃ、いってくるから警戒は怠るなよ」

「へい、兄貴」

「……いや、俺はお前たちの兄貴じゃないからな」

 

 苦笑いを浮かべながら鬼の巣へと歩を進める藤十郎だったが、咄嗟に木陰に隠れる。鬼と共に人の声が聞こえてきたからだ。

 

「この声……まさか?」

 

 

 普段であれば、日の落ちた時間に外へと出ることはなかっただろうが、この日は違った。一発屋の仕事が少し遅くなってしまい、外とはいっても店の裏手にその日に出たごみを纏めている程度だった。しかし、運が悪かったのか。突如現れた鬼に攫われ、気が付けば洞窟のような場所へと連れて行かれていた。

 

「や、やめてよ!何する気!?」

 

 鬼に対して言葉が通じるとは思えないが、今この瞬間のきよに取れる術はそれ以外にはなかった。周囲に散らばる骨は獣のものだけではなく、明らかに人のものもある。それが自分のこれから辿るであろう未来かと思えばそれも仕方ないことだろう。

 

「グルルル……」

 

 噂では聞いていた鬼に、まさか自身が襲われることになるとは夢にも思っていなかったきよは恐怖に身を震わせる。

 

「っ!」

 

 ゆっくりと近づいてくる鬼に手元にあった木の枝を投げつけるが、まったく効果はなく少しずつ距離がつめられる。じりじりと尻餅をついた状態のきよが下がっていくと、手に少し大きめの石が当たる。それを鬼に投げつけ、洞窟の入り口へと駆ける。

 

 背後から聞こえる鬼の声に身を竦ませながらも入り口から飛び出す。ドン、と何かにぶつかり、最悪の事態を想像し身を震わせる。

 

「遅くなったな。安心しろ」

 

 鬼かもしれない、と思っていたきよの耳に届いたのは最近よく店に来てくれる織田の客将。一見無愛想に見えながらも時折見せる微笑みは優しく、いい友人として付き合っていけそうだと思っていた。

 優しく背中を片手で抱きとめ、もう片方の手で太刀を持ち鬼を敬遠する。

 

「ガアアアア!!」

 

 鬼の咆哮と共にビクリと身体を震わせるきよを優しく抱き上げ、一気に距離を置く。

 

「お前ら、少しこの子を見ておいてくれ」

「へい!兄貴も気をつけて!」

「すぐ終わらせてくる」

 

 

 きよが戦いらしい戦いを見たのはこれが初めてであったが、それでも藤十郎の強さはしっかりと分かった。鬼の攻撃を受け、流し、槍の一振りで沈めていく。

 

「凄い……」

「へぇ、兄貴はうちの頭やお嬢と対等に渡り合えるお人でさぁ」

 

 強面の森一家の男が笑いながら言う。

 

「藤十郎……さんはいつも?」

「へぇ。頭たちと近くにできた鬼の巣を狩りまわってまさぁ」

「待たせたな。……きよ、大丈夫か?」

 

 鬼を殲滅した藤十郎がきよに声をかける。

 

「う、うん。あの、藤十郎……」

「ちょっと待ってな。おい、一応ほかに討ちもらしがないか確認を頼む」

「へい!」

 

 藤十郎に言われた森一家の衆が洞窟の中や周囲の確認に向かう。

 

「大丈夫か?」

「だいぶ落ち着いたよ。ありがとう、藤十郎」

「気にするな、っていうのは難しいだろうから、素直に受けておくよ」

 

 きよの心を落ち着けるためにわざと軽い感じで言っていることが分かる。だからだろうか、藤十郎の優しさが強く感じられた。

 

「それで、どうして夜に外に出た?」

 

 

 きよの説明を聞いて藤十郎は声を上げて笑う。

 

「ちょ、ちょっと!そんなに笑わなくてもいいじゃないか!」

「すまんすまん。正直、そんなに運が悪いとは思わなかったものでな」

 

 少しむくれたきよの頭を軽く叩く。

 

「まぁ、これからは気をつけることだ。……いつも俺が駆けつけることができるとは限らんからな」

「……うん」

「兄貴ー!周辺の確認も大丈夫でさぁ!」

「分かった。俺ときよは先に戻るから桐琴さんと小夜叉に伝えておいてくれるか?」

「へい!……へへ、ごゆっくり!」

「?すぐに帰るが……よく分からん奴だ」

 

 首を傾げる藤十郎と、頬を染めたきよを見てニヤニヤしながら立ち去る森一家。

 

「まぁいいか。……立てるか?」

「……まだ無理っぽい。あはは、私も駄目だね」

「そんなことはないさ、っと」

 

 ひょい、と藤十郎がきよを抱え上げる。

 

「うわわ!?ちょ、ちょっと藤十郎!?」

「ん?いや、歩けないなら仕方ないだろう?」

「だ、だからってこの運び方は……!!」

 

 

 結局、背負われることで話をつけた二人は、虫の声しか聞こえない闇夜を歩いていた。

 

「そんなに恥ずかしいことじゃないさ。俺だって初めての戦のときは……」

「戦のときは?」

「……先陣きって首級を挙げていたな」

「……それ、私の腰が抜けたのはやっぱり恥ずかしいことってことじゃない?」

「む、むぅ」

 

 少し困った様子の藤十郎がおかしく、きよが笑う。

 

「やっと笑ったな。まぁ、あんなことがあったばかりだ。そう簡単に笑顔は出ないかもしれんが、笑え。戦場でも、それがこういった場でも。笑えばきっと福が来る。鬼は俺たちが必ず駆逐するから、安心して笑ってろ」

「……う、うん」

 

 突然真面目な話をし始めて驚いたが、頷く。

 

「ま。どうしても礼がしたいっていうのなら……」

「なら?」

「……明日の飯、大盛りにしてくれると嬉しいかもな」

 

 雲間から覗いた月明かりが、笑う二人を照らしていた。




UAやお気に入りなどの節目で閑話を書こうと思っています!

物語の進み方次第では違う場所で書くこともあるかもしれませんが。
ご要望などが多そうなら活動報告で要望欄みたいなものを作ろうかなと思っております。

それでは、感想、誤字報告などもお待ちしております♪

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