シロクロ!   作:zienN

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file:2 人物試験

「…」

 

俺は小学校の頃は好きな子にちょっかいを出す、どこにでもいるやんちゃ坊主だった。

中学の時も人一倍妹を優先していたくらいが特徴のありふれた普通の生徒だったし、高校に入ってからはまあ色々あったけど彼女がいないことを除けば充実した日々を送る普通の高校生だ。

今まで人との衝突を避け(時に当たって砕けたが)、できるだけ温厚に(情熱的な恋愛願望はあるが)、目立たないように(最近有名になってしまったが)生活をして来たことを思い出すと、俺は拳を交えた喧嘩なんて片手で数えられるくらいしかしていない。

その結果がこの、今の状況なのだろうか。

 

「ええっと、なんで俺、いきなり縛られてるんでしょうか」

 

椅子に縛り付けられ、ロープでぐるぐる巻きにされている理由を、目の前の黒い布を被った一人に問う。

 

「どうして、ですか。そんなの、考えてみればわかるでしょう。胸に手を当てて考えてみてください」

「胸に当てる手がこうして縛られてるんだけど…」

「ちっ。癪に触る言い方ですね」

 

なぜこうもひどい扱いを受けるかわからないが、とりあえず今までの経緯を簡潔にまとめてみよう。

 

①オカルト研究会の部室の前に立つ。

②いきなり扉が開いたかと思えば、目の前が真っ暗になる。

③気づいたら椅子に縛られて、数人の黒いやつらに囲まれている。

 

以上。

 

「ごめん、考えたけど全然わからないや。とりあえずこれ、解いてもらえません?」

「どうします、部長?」

 

下っ端らしい奴が部長であるらしい黒い頭に耳打ちする。

 

「それは聞けませんね。どうせあなたは、生徒会のスパイ、か何かなのでしょう?」

「え、なんだって?」

「難聴主人公キタコレ!」

 

横のもう一人が高い声でそう叫ぶ。

難聴とか言うな。

ちゃんと聞こえた上で聞いてるんだよ!

 

「とぼけないでください。あなた、うちの部室の前でこそこそして、きっと我が部の活動を密に記録して、生徒会長に報告するつもりなのでしょう」

「いや、俺生徒会入ってないんだけど」

「ふふ、ご冗談を。ただならぬリア充の覇気があなたからにじみ出てますよ?これが生徒会とつながりであることを裏付けていると言っても過言ではない!」

 

過言です。

 

「いや、だから俺は違うって…」

「まだ言いますか!それではあなた自身でそれを証明してください」

「証明ったって…」

「では第1問!」

 

どこからかジャラン!とクイズで流れるような効果音が流れる。

いきなりなんか始まったぞ…?

 

「ちょっと待って、いきなりなんなの?」

「そんなの決まってるでしょう。あなたがシロかクロかを判断するためのテストですよ。これから出す問題に全問正解すれば、あなたを解放してあげましょう」

 

なんと言うドヤ顔。

そして目の前のやつは俺に問う。

 

「それでは第1問!キノコ派、タケノコ派?」

「…」

 

いやこれクイズじゃないだろ。

こんなの俺のことなんだから正解不正解なんて決めようがないだろ…。

俺は特に考えることなく、答えることにした。

 

「…タケノコ派」

「正解!」

 

ピンポンピンポーン!

正解音がどこからかけたたましく鳴り響く。

 

「やりますね。キノコ派だったら問答無用で弾圧していたのですが。まさかあなたも同胞でしたか」

「まあ、タケノコはどこも味が付いてて美味しいし」

 

キノコ派を毛嫌いしているっていう話は本当だったのか…。

キノコはキノコで美味しいんだぞ?

ただあっちは開けた時に付け根から折れてる時があって切なくなるけど…。

 

「こほん。まあこんなのは好みの問題。生徒会にタケノコ派の人間がいたところでなんてことはありません。次に行きましょう」

 

再びクイズの音が鳴る。

 

「あなたは友達になんか面白い話をしろと突然振られました。そんな時あなたはどんな話をする?」

 

もうこれクイズなのか?

基準がわからないし、答えなんてない気がするんだけど…。

しかし黙っているのは不正解になってしまいそうなので、直近の面白い話を出そうとして頭の引き出しを開けまくる。

 

「えっと…。あっ、今日のことなんだけど、俺、隣の文芸部に、廊下に頬ずりするほどの廊下フェチっていう設定で、小説の主人公にされたんだけど…面白い、かな?」

「ぶふおぉ!」

 

黒い布に隠れて素顔は見えないが、蒸気機関のような音を出して口元を覆ったかと思うと、すぐに正解の音が薄暗い部屋にこだました。

 

「くっ…ふふ!やりますね…っ!頭の固い生徒会の連中なら、答えをはぐらかすと読んでいたのに、まさか答えられるとは…!」

「ああ、そういう採点基準だったのか…」

 

生徒会ってそんなに真面目な連中がやってたんだっけ。

あんま気にしたことないから覚えてないな。

 

「ふう。ここまでの答えを聞く限り、あなたはシロの気がしてきました」

「最初からそう言ってるじゃん…」

 

俺はクロなんだけどね。

これを言ったら場が白けそうなので黙っておく。

笑いを噛み殺したオカルト黒頭巾は、依然として俺の拘束を解くそぶりは見せない。

 

「次で最後の問題です。生徒会の正答率10%を切っている問題、果たしてあなたに正解できるでしょうか…。それでは第3問!」

 

近くにあったパソコンを指差し、俺に問いかける。

液晶に移った女の子が、無機質に笑っていた。

 

「私の彼女はこの通り、次元の壁によって一生実ることのない、いわば一生会うことのできない遠距離恋愛状態です。あなたはこれを、果たして恋愛と呼ぶでしょうか」

 

 

 

 

「…ふっ」

 

思わず笑い声が漏れた。

何を言いだすかと思えば、最後の最後でこんな問題か。

くだらない。

 

「愚問だな。こんなの、答えるまでもないんじゃないか?」

「…やはりあなたにも理解できませんか」

「ああ、理解できない。俺にとって、愛さえあれば、壁なんて関係ないと思うけどな」

「…!?」

 

俺に恋愛の問題を出すなんてな。

この、恋に飢えた俺に、恋バナをさせようとは…!

 

「恋の形は自由だ。それがたとえ普通の人に認められないものだったとしても、俺はそれを蔑んだりしない。軽蔑もしない。ちょっと引く時もあるかもしれないけど、俺はそれを異質だとは思わないさ」

 

黒い布を被った目の前の恋するものを見上げ、俺は最後の言葉を口にする。

 

「たとえみんながどう言おうと、その恋路、俺は応援するよ」

「…彼の拘束を解いてあげてください」

 

部長らしい黒頭巾がそういうと、取り巻きの黒い頭巾の部員が、俺の縄を解いてくれた。

 

「生徒会ならドン引きするか、一蹴して終わらせる問題。それに対してこんな聖人のような答えを出せるあなたが、生徒会の使いなわけがない。私が間違っていました」

「わかってくれればいいよ。俺、この階の一番端の部活の宣伝に来ただけなんだ。何かあったら、俺でよければ相談にのるよ」

 

足元に置かれていた荷物を拾い上げ、うちの部の宣伝プリントを渡す。

 

「ありがとうございます」

 

部屋にいた全ての者が、被っていた黒い布を取り、頭を下げた。

俺は荷物を脇に挟み、軽く手をあげて教室の扉を開ける。

薄暗い部屋にそとの光が差し込み、それが思いの外眩しくて、つい両手で顔を覆ってしまい、挟んでいた荷物とプリントが落ちてしまった。

 

「あ、プリントが…」

「拾いますよ」

 

オカルト研究会の部員が総出で、落ちたプリントを拾い集めてくれた。

噂通りのへんな奴らだと思ってたけど、なんだ、思ったより良いやつらじゃないか。

でも何かを忘れているような…。

何か、人に知られてはいけないような何かを…。

 

「あ」

 

思い出した。

しかしそれはすでに遅く。

 

「これは…。随分と変わった趣味で…!」

 

プリントの下に隠れていたそいつは、俺が思い出すと同時に顔を見せた。

そう、つい先程文学少女に押し付けられ、処分に困っていた、エロ本である。

その中身を見て、オカルト研究会の誰もが固まる。

 

「えっと、こういうのがお好きなんですか…」

「い、いや、ちがっ…」

「だ、大丈夫です!愛さえあれば問題ないんですよね!私の恋を肯定してくれたように、私もあなたのこと、応援しますから!どうぞ、胸を張ってください!」

 

すぐにプリントを渡され、本と鞄を渡され、教室の外へ出される。

振り返ると、敬礼をした部員たちが、俺を真っ直ぐに見つめていた。

 

「私たちは応援してますから!頑張ってください!」

「ええっと…。うん、ありがとう…」

 

弁明をしなければいけないのだが、俺にはそんな気力はもうなかった。

俺は無理やり笑顔を作って、部室の扉を閉めた。

 

「何を頑張れば良いんだよ…。はあ、もう帰りたい…」

 

俺は廊下の窓から顔を出し、一人呟く。

5月の風は、そんな俺を慰めるように、俺の頭を優しく撫でた。




最後まで読んでいただきありがとうございますm(_ _)m
部活動宣伝の話ですが毎回部活ごとの絡みを用意すると話数がかさみそうですね汗
このまま別行動をしている敦也と涼香の分もやるとすると話が進まなそうなのでそこらへんはカットしていくかもしれないです…。

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