第1話 昼休み:二神優白
私にとって今日という日は最悪の1日だ。
いや、最悪の1日だった、の間違いか。
しかし今は違う。
「自己紹介、やっと終わったあ…!」
「頑張ったわね。お疲れ様」
鳥のように両腕を広げて伸びをする。
ああ、なんて開放感。
今なら蝉のように一週間休まず羽ばたける!
そして一片の悔いなく生涯を終えられる!
「でも、二神さん。ひとつだけ、良いかしら?」
「ん〜、なんでしょうか、先生?」
私を労いつつも浮かない顔をする五十嵐先生の質問を、伸びの姿勢のまま待つ。
まあ、大体の想像はつくけど。
「どうして昼休みなのにここに来るの?初日のお昼よ?まだ交友関係はできてないんだから、近くの人を誘って一緒にお昼を食べればいいのに…」
やっぱり。
五十嵐先生は昼休み開始5分、初日に私が教室ではなく保健室でお昼ご飯を囲んでいることが不満なようだ。
「そうはいっても、うちのクラスは見たところ去年から同じクラスか、部が一緒で仲の良い人が多いんですよぉ。だから入学当初と違って、一人の人もいなくて…」
「そうなの…?はあ…困ったわねぇ」
あらかじめ用意していた言い訳を言うと、先生はいつもみたいに優しく微笑みながら、困った、という仕草をしつつも、私を追い出そうとはせずに弁当を取り出す。
先生にはこういったものの、教室にいる全員がグループを作ってご飯を食べているわけじゃない。
中には私みたいに、一緒にご飯を食べる同級生がいない人もいる。
「まあ、まだ始まったばかりだし、いいじゃないですか。それより…」
そしてまた、放課後の時と同じように、私と先生は年の離れた女の子同士の話が始まる。
わかってはいるんだ。
もうグループができてるとか、始まったばかりだから大丈夫とか、そんな言い訳なんてしないで、自分から話しかけなければ何も始まらないことくらい。
でも、いざ、話しかけようとすると、喉が引き締まって、声が出なくなって、足がすくんじゃって。
話しかられても、焦って大した返事もできないから、すぐに会話が終わっちゃって。
それが積み重なって、「二神さんは話したがらない、一人が好きな子」なんて思われるようになって…
「二神さん?」
「…あ…はい。なんでしょう?」
途中から考え込んでしまっていたようだ。
心配そうな顔で先生は私の顔を覗き込んでくる。
「なんでしょうって…もうすぐ午後の授業始まっちゃうわよ。さ、そろそろ教室に戻りなさい」
「あ…」
ふと先生に言われて保健室の時計を見ると、もう後10分で昼休みが終わるということを時計の針は静かに示していた。
「うう、名残惜しいですが…それじゃあ五十嵐先生。また、放課後に…」
「放課後、ね。放課後は誰かと一緒に帰って欲しいんだけどねぇ」
保健室を後にして、私を待つ2-Cの教室へと向かう足取りは重い。
「ああ、もう!友達作るの、難しすぎるよ…!」
思い切り叫びたい衝動を抑えて、誰にも聞こえないように、静かに言葉を吐き出す。
何も考えなかった子どもの頃に戻って、毎日遊び呆けていたあの頃を、ふと思い出していた。
「今日は話すことないから。部活なり勉強なり青春しろよ。んじゃ、さようなら」
気の抜けた挨拶で教室が賑わい出す。
午後の授業はガイダンスだった。
休み時間も寝たふりをしていたから、おかげで隣の人とも話さずにホームルームが終わって、放課後。
先生、ごめんなさい!
一緒に帰る友達、できませんでした。
よし、こんな感じで謝ろう。
教室を出る時、近くにいたクラスメイトの会話が耳に入ってくる。
「…今日はどっか寄ってくか?」
「いいね!私、最近新しくできたシュークリーム屋さんに…」
あ、そのシュークリームの店、私も気になってるんだけど、よかったら私も一緒に行っていいかな?
はあ、たったこれだけのことなのに。
一瞬だけ足を止めたけれど、私はそのまま教室を後にして、保健室へと足を運ばせる。
いや、やっぱり。
「申し訳ないし、お詫びの品を買いにいこう…」
先生に対する罪悪感もあって、私は学校の近くのスーパーで先生へのお詫びのお菓子を買いに、昇降口へと向かった。
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