シロクロ!   作:zienN

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5月:30期生2-C
GW開けプロローグ


「えーっと、生徒諸君。五月病とか言って、部活動サボんなよ。俺だって五月病でもこうして教壇に立ってるんだからな。それじゃ、ちゃんと部活頑張れよ。さよーなら」

 

いつにも増して気の抜けた担任の先生の声で、ゴールデンウィーク明け初日の学校が終わり、放課後になった。

 

「ねえ敦也くん。五月病って本当にかかるものなのかな〜?」

「さあな。ってか何でもかんでも病気にすればいいってもんじゃないだろ」

 

俺は教室から出て行く生徒の波をかわし、自分たちの席から動かず話す二人の元へ。

 

「おう、クロ。部室、行くか?」

「うん。行こうか」

 

「あ、また忘れてた。おい、三馬鹿、ちょっとこい」

 

また先生が思い出したように呟くと、三馬鹿なる生徒を呼ぶ。

前にも言ったがもちろん俺たちなわけがない。俺はこう見えても学年ではテストの上位者に名前が乗るくらいには勉強ができるし、涼香だって頭が良い。敦也はまあ普通だけど、馬鹿ってほどでもない。

でも相変わらず、先生は俺たちを見ている。

 

「何度も言わせんな。一条、四季、敦也。こい」

 

やっぱ俺たちなんですね。

諦めて先生のいる教卓前に向かう。

 

「先生、私、そんなに馬鹿じゃないと思うんですけど…」

「四季、お前はスイーツ馬鹿だ。んで一条は女馬鹿。敦也はまあ、おまけってことで」

「…このやりとりは前にもやりましたよ」

 

敦也の呆れ気味なツッコミを横で聞いて、俺も以前のこの既視感のあるやりとりを思い出した。

要件も一緒なら完全にデジャブなんだけど。

 

「そうだったか?まあいい。五十嵐先生から伝言だ。放課後、3人で保健室横のカウンセリング室に来いってさ。お前ら、部活やってたんだな…っと、このやりとりは前にもやったな」

「マイペースですね…」

「うるせ。ちゃんと伝えたからな」

 

そういうと先生は切り上げて出て行ってしまった。

全く、うちの担任は本当にフリーダムすぎる。

 

「じゃ、行こうか」

「先生、なんだろうね〜?」

「また最近の愚痴じゃなきゃいいけど」

 

教室に残り俺たちを横目に笑う奴らを背に、俺たちは先生の待つカウンセリング室へと向かった。

 

 

 

「どーれーにぃ、しーよーうーかーなっ♪」

「僕のはなるべく甘さ控えめのやつで頼む」

「よし、君にきめたっ!」

 

涼香が勢いよくボタンを押し、出てきたのは名前の割に午後じゃなくても飲める甘い紅茶。

きっと先生の好物なんだろう。行くたびに紅茶飲んでるし。

 

「敦也くんのは…これだ!」

 

質量のある音を立てて出てきたのはまたも黄色い缶コーヒー。

練乳を存分に使ったそのコーヒーは、口にする者に衝撃を与える。

虫歯の人なんかは特に。

 

「…何で毎回これなんだよ」

「えー、美味しいじゃん!」

 

毎度のことながら露骨に嫌そうな顔をする敦也。

 

「何でいつも涼香に選ばせるんだ?自分で選べばいいのに…」

 

涼香の分も先生の分も代金は敦也持ちだ。

自分の分は自分で選べばいいのに。

そう思い耳打ちすると敦也は肩を竦めて苦笑い。

 

「そういうわけにも、いかないんだよ」

「え?」

「あ、じゃあじゃあ!これならどう?」

 

涼香がもう一度ボタンを押すと、再び黄色い缶が放出された。

両手に缶を持ち、一方を敦也に差し出す。

 

「お揃い、じゃ、だめ?」

「…」

 

敦也が一瞬だけ考え込み、すぐに缶を手に取った。

 

「…はあ。わかった。お揃いなら仕方がない、よな?」

「うん♪」

「…」

 

そんな二人の様子を見て、俺は冷静を装いながらも、頭の中では煩悩がスパークリングしていた。

 

あああもうくっそ、何だこの青春っぽいやりとりは!?

甘すぎる、甘すぎるんだよぉ!黄色い缶の甘さと洒落でもかけてるのか!?

ああ敦也が羨ましい。「お揃いだね」って顔を赤らめながら上目遣いで言ってくれる彼女、俺にもいないかなあ!!同じ飲み物買っただけでなんかもう特別な感じになる、そういうの俺も味わってみたいなあ!

 

「じゃ、もうすぐそこだし、先行ってるね!」

 

涼香はそれで満足したのか、軽やかな足取りで保健室にかけていく。

俺の分は選んでくれないのね。

 

「クロ」

 

敦也が自販機を指差す。

 

「残りやる。好きなの買えよ」

「え、ありがとう。じゃ、これかな」

 

俺はいろんなフレーバーが混ざり合って癖の強い味が賛否両論となっている博士みたいな名前の飲み物をチョイス。

 

「また変わったものを選んだな…」

「はは、たまに飲みたくなるんだよね。はい、お釣り」

「さんきゅ。いこうぜ」

「うん」

 

 

 

 

「失礼します」

「はーい」

 

扉の向こうの返事を確認して中に入る。

長テーブルと棚と花瓶くらいしか目立ったものがない部屋には保健室担当兼カウンセリング室担当兼我が部の顧問である五十嵐先生しかおらず、先に行ったはずの涼香の姿はない。

 

「あれ、涼香は?」

「ちょっとお菓子が欲しいって言って、これ置いて隣のスーパーまで買いに行ったわよ?」

 

テーブルの上に置かれた缶を指差す。

敦也が途端に険しい顔をする。

 

「冗談、トイレよ。その様子じゃまだ気にしてるみたいねぇ」

「…」

「敦也…」

「ただいま〜。あ、二人も来たんだね。あれ、どしたの敦也くん?」

 

重くなった空気をぶち壊して涼香が入ってきた。

敦也は涼香を見た瞬間、その顔を別ジャンルの辛そうな顔へと表情を変えてみせ、口元を覆う。

 

「いや、リサ姉の先週の合コンの話聞いたら、いたたまれなくなって」

「ええっ!?なんで知って…。はっ!」

「え、合コンで何かあったの、先生?」

 

涼香が驚きの声を上げた。

でまかせで言った敦也も驚きを隠せなかった。

 

「まじか…!え、ええとまあ。元気出せよ」

 

あれほど自分が忌み嫌う甘い缶コーヒーを開けておもむろに飲んでいるのがその証拠だ。

 

「うん、大丈夫だよ先生。先生美人さんだから、そのうちまたいい人に会えるよ…」

「どうしてそんなに優しいのよ…。もう、今日は私の話はいいから、みんな座って待ってて」

 

そう言って先生は一度となりの保健室に行ってしまった。

 

残された俺たちがするのはもちろん今の推測。

なんてったって、高校生は恋バナが大好きだからな…!

 

「先生、振られちゃったのかなあ」

「いや、そんなんじゃないだろ」

「じゃあ、どういうことなの?」

「友達か同僚だかの合コンで数が足りないから参加してくれって言われてでてやったら、リサ姉のとこに男が集まっちゃって女の反感買ったんだ。一応顔は美人だからな」

「なるほど〜」

 

確かにさっき悲しそうな顔はしてなかったな。

振られていたら今日はもっと落ち込んでるだろうし、案外当たってるかもしれない。

それにしても、よく次から次へと言葉が出てくるものだ。

この敦也の嘘をつくことと話のでっち上げに関しては、右に出るものはまずいなさそうだ。

 

「ま、本人から詳しい話を聞くと、また長く縛られそうだから聞かないでおこうぜ」

「あはは。そうだね」

「お待たせ〜。はいこれ」

 

話が終わってすぐ。丁度いいタイミングで、五十嵐先生が戻ってきた。

先生は何かのプリントが入ったファイルを持ち、中から一枚を取り出して俺たちの前に置いた。

 

「なんだこれ?」

「ええっと、お悩み相談、受付中?」

「この絵かわいいね!これ、先生が書いたの?」

 

そのA4用紙にはお悩み相談受付中と書かれ、小さくうちの部の天文部という名前と教室の場所、活動時間が簡潔にまとめられていて、下の方に猫っ毛のおさげの女の子とギザギザな髪型でものすごく不機嫌そうな顔の男の子が二頭身で仲良く並んでいて、後は風船やら動物やら可愛らしい絵で飾り付けがなされていた。

 

 

「その絵、全部二神さんが書いたの。うまいでしょ?」

「優白ちゃんが書いたの?すごいね!」

「へえ、うまいな…。こいつはちょっとやる気なさそうだけど」

 

ギザギザ頭の二頭身を指差して呟く敦也。

それ、多分お前だぞ?

 

「それで先生。これは?」

「どうせあなたたち、相談を受けるだけの部活なんだから待ってればいいだろとか言って、毎日トランプでもしてるんじゃない?だから二神さんと一緒に、昼休みに二人で作ったのよ。知名度が上がって少しでも相談が来れば、そう暇にもならないでしょ?」

「…」

 

呆れ顔の先生の言うことはその通りすぎて何も言いかえせなかった。

ここのところ毎日トランプしかやってなかったけど、いざストレートに指摘されると本当に、ぐうの音も出ない!

 

「50部は刷ってあるわ。文化部の部室だけでもいいから、みんなで手分けして配りなさい。二神さんは昼休みにこれ書いて疲れてるだろうから部室で休ませてあげたいし、3人で配ってきてね♪」

「…はい」

 

こうして俺たちの騒がしい放課後の始まりは、静かに幕を開けた。




最後まで読んでいただきありがとうございますm(_ _)m
本編が進むのは一ヶ月ぶりだったのでお待たせしてしまい申し訳なく思っています。
4月5月と章で区切ってはいますがただ時系列をしっかりしたいから付けたのが一番の理由なので月によって話数にものすごいばらつきが出るかもしれませんが、付き合っていただける方はこれからもよろしくお願いします…!
それではまた、次回にお会いしましょう。

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