シロクロ!   作:zienN

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第18話 中二病的自己紹介

中二病。

中学二年の時期に患いやすいことから名付けられたその病気の症状は様々な個人差があるらしく、明確な処方箋がない厄介な病気らしい。見た目的な変化としては髪を思い切り伸ばして片目を前髪で隠したり、基本的に黒をベースとした服や十字架、ドクロみたいなカッコいいアクセサリーを好んだり、画数の多い漢字を並べてルビを振りたがったり。

心境的な変化では背伸びしてコーヒーに砂糖を入れずに飲んだり、自分には何か特別な力があるんじゃないかと思い込んで、ふと怪しい儀式を催したり秘密の訓練(カーテンを殴る、公園で緊急回避etc...)をするようになったり。

人格形成に大きく関わり、時に思い出して布団の上で悶えたくなる反面、時に良い思い出の一つとして不意に思い出して笑うことも出来る恐ろしくも愛すべき病気であるという事を、敦也は誰かの英雄譚のように話してくれた。

 

「中二病…?」

「へ〜。なんか面白そうな病気だね!」

 

沢渡さんが弟に俺たちの事を説明をしている間、俺と一緒にリビングに避難した敦也が説明を終えると、涼香が呑気な顔でそういった。

テーブルの上にあったお菓子は既に半分は無くなっていて、涼香の前に置かれた包み紙の山を見れば、誰が食べたのかはいうまでもない。

 

 

「…まあいいや。そういうわけで、今回はもしかしたら、いじめとかそういう類じゃないかも」

 

氷がすっかり溶けて汗をかいたコップの中身を飲み、敦也はそういった。

 

「とりあえず、いじめかどうかは本人に聞くとして、そうじゃなければその中二病?をどうにかすれば解決ってことでいいんだよね?」

「ああ」

 

いつもの顔色を取り戻した敦也がそういうと、沢渡さんがリビングにやって来て向かいのソファに座る。

時間をかけた説明に神経をすり減らしたのか、疲れたような顔で深くため息をついた。

 

「はあ…。ゆうくん、弟には私の友達だって説明をしたから、もう入ってもいいわよ」

「すいませんね。それじゃあ敦也、いこうか」

「ああ」

 

再び二階へと上がろうとリビングを出る前、ふと後ろを振り向くと、口をへの字に結んだ涼香が一口サイズのドーナツを両目に当てて俺を見ているのが面白くて、つい吹き出してしまった。

 

「どした?」

「ぷっ!いや、涼香が…!」

「涼香?なんともないじゃん」

 

敦也が振り向くと、涼香は隣にいた二神さんの手に瞬時にドーナツを渡し、「美味しいね〜」などと抜かしてドーナツを食べてみせた。

 

「…ごめん、俺の見間違いだった。いこう…!」

「ん?おう」

 

涼香め、覚えとけよ…!

俺は仕返しとして、いつか涼香の弁当に練り辛子を入れることを固く誓った。

 

張り紙のされた沢渡さんの弟の部屋はしまっていた。しかし今回は話は通してくれているようなので、扉を叩くことに抵抗はない。ノックをして張り紙にある通りに扉を開けずに待っていると、少しして中から返事が返ってきた。

 

「入っていいよ」

「んじゃ、遠慮なく」

「お邪魔します…」

 

扉を開け、中へと入る。

部屋は先ほどよりは綺麗になっていたが、部屋の中は相変わらず暗く、カーテンの隙間からこぼれた一筋の光に飛び込む部屋のハウスダストが、その光を受けて瞬いていた。

 

「ようこそ、我が聖域へ…」

「ああ、うん」

「…」

 

なあ、色々ということあるけどさ…。

もうちょっとお前は興味を示せよ!

弟君、なんかスルーされて「あれ?」って顔してるけど?

 

「まずは自己紹介かな。僕は敦也。こっちは玄人(はると)。まあクロとかハルとか好きに呼んでくれ」

「えと、よろしくね」

「…ちょっと待って」

 

握手を求めたが、弟君はそういうと机の上にあったノートパソコンを開き、キーボードを鳴らし始めた。

1分くらいしてようやく、こちらに振り返り、俺の前に歩み寄ると、腰を落として両足を開き、顔に手を当てながら言った。

 

「待たせたな…。現世の穢れた世界に生まれし堕天使、現世に混沌を生んだ七大罪が一人、その背負いし…」

「その背負いし罪は強欲、罪状は楽園の禁忌の実を齧り…。うわあ、長いな。これ全部聞かないとだめなの?」

「わあああぁぁぁ!!やめろよ!今僕が言おうとしてたのに!」

 

敦也が弟君の後ろのノートパソコンの画面を覗き込み、それに書かれているらしい文章を読み上げ、文章をスクロールして嫌そうな顔をした。

高いながらも重みを含んだ先ほどまでの口調はどこへ言ったのやら、急に情けない声を出して、敦也に詰め寄るが、振り返った敦也に見られた瞬間、弟君が蛇に睨まれた蛙のようにピタッと固まる。

 

「いいだろ別に。こっちはさっさと本題に入りたいんだよ。んで、名前は?」

「う…」

 

パソコンの光を受け、その鋭い目がギラリと光る。

いきなり現れた年上の男に、しかもこんな風に凄まれて物怖じしない中学生なんてそういないんじゃないだろうか。

少しして、弟君は口を開いた。

 

「…優希。沢渡優希(さわたりゆうき)

「ユウキ、ね。よしよし、そんなに怖がるなって。改めて敦也だ、

よろしくな」

「え、う、うん」

 

優希君の頭に手を置いて敦也が笑った。

危険を予知して目をつぶっていた優希君も、睨みを効かせた顔の次に頭を撫でられるとは思っておらず、その不意打ちに驚きこそしたが安心したようだった。

 

「ん、ユウキ、お前の髪撫で心地最高だな」

「え?あぁ!いた、いった!ちょっとまって!そんなかき回さないで!ええっとはると、さん!?見てないで止めてくださいよ!ああぁ!」

「あはは」

 

ちゃんと名前で呼ばれたの久しぶりだな…。

下にいる沢渡さんに悲鳴が聞かれないように、俺は部屋の扉を固く閉ざした。




最後まで読んでいただきありがとうございますm(_ _)m
中二病にも色々と和訳があるようで、先日意味を調べてびっくりしました。

中でも一番の驚きは
闇に飲まれよ(お疲れ様です)
この一言につきましたね(汗

それではまた、次の話でお会いしましょう。

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