今日は十字高校新年度の始業式。
2年に上がり、クラスも変わり、見覚えのない顔の新たな同級生たちとともに、校長先生の長い話を聞く。それから、教室へ戻って、早めの帰りのホームルームが始まると同時に、私は配られたプリントをカバンにしまいこんで、ホームルームが終わると同時にすぐに教室を出られるように準備する。
「んー、何話そうか。お前ら今日から2年生になったわけだが…」
先生の話長いのかなあ…
早く終わってくれないかなあ。
「とりあえず自己紹介でも…」
自己紹介!?
いきなり飛ばしすぎだよ先生!
「って思ったけど、せっかくの午前の日なんだ。今日は早く帰りたいよな。それじゃあ、明日からみんな仲良くな。帰り道事故んなよー」
先生の発言で教室にくすくすと笑い声が上がる。
はあ、よかった。
面倒くさがりな先生で。
「んじゃ、さよーなら」
先生の挨拶が終わり、ホームルームが終わる。
それと同時に賑わう教室。
「今年も同じクラスでよかったよ〜」
「おい、早く部活行こうぜ!」
「いいじゃん!あのクレープ、すごく甘くて美味しいじゃん」
耳に届く音を全て遮断して、教室から早足で抜け出す。
階段を下り、一階の保健室へ。
慣れた手つきでノックをして、扉を開く。
「失礼します」
「は〜い。新学期からどうし…あら、二神さんじゃない。一ヶ月ぶりかしら?久しぶりね〜」
椅子をくるりと回してこちらに向き直り、私に気付くと優しい笑顔をするのは五十嵐先生。担任の先生よりも付き合いがある、私がこの高校で一番お世話になっている先生。
「お久しぶりです。今、お時間大丈夫でしたか?」
「ええ、大丈夫よ。となり、移りましょう」
隣のカウンセリング室に移り、長テーブルを挟んで向かい合って座ると、先生は早速痛い話題を振ってきた。
「さて…どう?新しいクラスは?うまくやっていけそう?」
「さあ、どうでしょうね。とりあえず今日は誰とも、一言も話しませんでした…」
先生は笑顔こそ崩さないが、眉をひそめて、困ったように頬杖をつく。
「そう、相変わらずねぇ。はあ、どうしたものかしら…」
「どうしましょうね…」
「まあ、初日から暗い話題ばかりじゃダメよね!今日は私が、高校生活の山場である2年生の良さについて、二神さんに説明してあげるわ!」
先生は立ち上がり、「青春の正念場、2年生!」と近くのホワイトボードに書いて、目を輝かせる。
「ふふ、なんですかそれ」
「本当よ?2年の時が一番自由で楽しい時期だもの。あーあ、私も戻りたいなー!」
「戻りたいって、まだまだ若いじゃないですか」
「そういう問題じゃないのよ〜」
「先生、ありがとうございました。また明日」
「はい、またね〜」
世間話をすること1時間、先生と別れを告げて、カウンセリング室から出て、新しい下駄箱で靴を履き替えて、誰もいない昇降口から一人校舎を後にする。
「やっぱり、先生は優しいなあ」
あ、つい口に…今の聞かれてないよね!?
ぶんぶんあたりを見回して、近くに人がいないことを確認して安堵し、ほっと息をつく。
私の日常は、先生と他愛もない話をして、帰り道に商店街に並ぶ洒落たお店を見つけては、ガラス越しの可愛い置物や店の中の素敵な空間に目を奪われ、いいなあ、友達と一緒に来たいなあ、と思いながら家に帰る。
「ただいま〜」
「あら、優白、おかえりなさい。今日は早かったのね」
「うん、始業式だったから」
学校へ行き、授業を受け、先生、お母さんという、二人の大人と話をして、後は授業の予習と復習で1日が終わる。
「ああ、今年は友達、できるといいなあ…」
ベッドの上で、誰にも聞こえないようにつぶやく。
私、
いや、進級してしまったのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。