「じゃ、留守番頼んだよ」
「はるちゃん、またね!」
「うん!あつやくん、帰ったらまた遊ぼうね!」
「おう、お邪魔しました」
一条家の楽しい(?)時間も終わりを告げ、俺たち3人は駅へと向かう。
時刻は12時40分。俺の家から駅まではそう遠くない、せいぜい歩いても5分あれば着く。
来週の課題とか適当に少し話をしただけで、駅へと辿り着いた。
「お、もうきてたか」
行き交う人の中、駅前の広場の椅子に座っていたシロと相談者の
青い顔をして下を向く様子から、どう話をすればいいかわからずに俺たちがくるのを待っていたことは一目瞭然だ。
ふと顔を上げたシロと目が合い、真っ青だった顔に安堵の表情が浮かんだ。
「こんにちは。早いですね」
「ええ、まあ。お願いしたのはこちらですから」
「少し早いですがこうしてるのもなんですし、早速行きましょうか」
社交辞令とも言える挨拶をして、俺たちは問題の弟の待つ沢渡家に向かうことにした。
「敦也君、すごいですね…!」
「あー、うん」
道中、敦也が話を繋げているのを見て、シロが感心したように言った。
「へえー、もう3年ってことは、もう受験勉強にも専念したりしてるんですか?」
「ううん、まだ全然。これから少しずつ忙しくなってくるかもしれないけど、今は束の間の休息みたいなものかしら」
「まあ、沢渡先輩頭良さそうですし、結構いいとこ行けそうっすね。羨ましいです」
「ふふ、上手ね」
確かにすごいコミュ力だ。
いつの間にか向こうも敬語じゃなくなってるし、ちょいちょい笑ってるし。
俺たちとしかつるんでいたからわからなかったが、誰が相手でも普通に話せるようだ。
ってかここまでとは知らなかった。
こいつ本気出せば全校生徒と仲良くなれるんじゃないの?
「敦也に聞いたら、人との話し方も教えてくれるんじゃないか?」
「今度聞いてみます…」
そうこうしているうちに、前を歩く二人が立ち止まる。
止まった家の表札には沢渡と書かれていて、ここが目的地だと悟った。
「ここっすか」
「そう。今は出かけてて弟しかいないから、変に気を使わなくていいからね」
鍵を開けて家に入り、誰もいないリビングに案内される。
お茶とお菓子を出され、お菓子に手を伸ばす涼香を見ていると、敦也が頭を抑えて牽制した。
「あぅ!」
「遠慮くらいしろ」
「ふふっ、いいのよ。好きに食べてちょうだい」
「すいませんね…」
涼香の代わりに敦也が頭を下げる。
お前は涼香の兄貴かお父さんなの?
「おほん。とりあえず、弟さん、紹介してもらってもいいですか?」
「ええ、一応昨日から人が来るっていうのは言ってあるんだけど…。でも、あまり人数が多いと戸惑うだろうから…」
暗に四人は多いと言いたいんだろう。
依頼人の意を汲んで、敦也が言う。
「じゃあ男同士、僕とこいつで話を聞いて見ます。シロ、涼香を頼んだ」
「あ、はい!」
沢渡さん、敦也に続き、部屋を出て扉を閉める瞬間、涼香の手がものすごいスピードでお菓子に伸びたのを見て、思わずにやけてしまった。
「どした?」
「いや、なんでも」
階段を上がって二番目の部屋の前で沢渡さんが立ち止まる。
部屋の前には張り紙がしてあって、それを読もうとした途端、敦也が小さく「マジか」と漏らした。
「ここなんだけど…。こんな張り紙もしてて、全然出てこないの…」
「えーっと、『オレの許可無しに絶対に開けないこと』?中で何かやってるのかな…。それにしてもこの十字架と剣の絵は…ん、敦也?」
「…」
手書きで書かれたカクカクした字体の文章と脇に描かれた絵に首を傾げていると、青ざめた顔の敦也が、眉を顰め何か考えていたようだが、深呼吸して腕まくりをするとノックもせずにドアノブを回した。
鍵のついていない扉はたやすく開き、敦也が部屋の中へ入る。
「ちょっと、敦也君!?」
「おい、敦也!」
「うぇえ!?な、なんだ!?」
俺たちの驚きとともに、中からは変声期を迎えていない幼い驚きの声が上がる。
敦也の背に隠れて中を見ると、昼間なのにカーテンを閉めて薄暗い部屋の中には、モデルガンやらコインやらが転がっていた。真っ黒なジャンパーを着た中学生くらいの男の子が一人、部屋の真ん中でへたり込んで俺と敦也を交互に見ていた。
「やっぱりそうか…」
「ごめんね
沢渡さんが弁解をする中、振り向いた敦也が俺のジャケットの襟を引っ張り、顔を寄せて耳打ちしてきた。
「クロ。間違いない、こいつは…」
「え…?」
今朝、悠の包帯を見た時と同じような色々と辛そうな目の敦也が
少しの間を置いて、敦也が語気を強めて言う。
「こいつは絶賛、中二病患者だ…!」
最後まで読んでいただきありがとうございますm(_ _)m
中二病と聞くと中学時代を思い出しますね…。
なんにせよ普通が一番です…!
それでは次回、またお会いしましょう。