僕の名前は一条玄人。
十字高校に通う、普通の高校生です。
彼女コンプレックスで、誰でもいいから付きあってくれないかなって思っています。やっぱり彼女は欲しいですよね。
これに対して、君たちの中には一人が良いとかいう意見をあげる者もあるかもしれないけど、でもそれは嘘であり、一人である自分を擁護するための合理化にすぎない。誰しも人肌の温もりを求めて、日々模索しているはずだ。
彼女ができないことについて諦めて、それらしい理由をつけて自分を正当化する諸君。言わせてもらおう。ヘタレであると。
彼女の拘束でプライベートな時間がなくなる?デートの度に毎回飯奢る金がない?出会いがない?
そんな理由で独り身を肯定するな!
プライベートな時間なんて腐るほどあるだろ。同棲するわけじゃないんだから、週に数回くらい彼女のために使ってやれよ。
飯を奢る金がない?これだから恋愛初心者は。デートコースはこっちで選んでいいんだから、お金の調整くらいどうとでもできるだろう。
エスコートの仕方がわからないからそんなことが言えるんだ。
それでも金がないというならば、草食系男子が主流のこの時代、弁当を作る男子力でも見せてやるくらいの考えを持て。
そして出会いがない?否、出会いとは待つものじゃなくて作るもの!自分からいかなきゃ、始まりなんて永遠に来ないぞ。
結論に入ろう。
以上のことから、彼女なんていらないという男は存在せず、世の男どもは、誰しもが彼女が欲しいのである。
「言いたいことはわかるけどさ。流石に自己紹介の作文でこういうの書くのはやめようぜ」
「再提出の敦也くんも、人のこと言えないけどね〜」
「涼香も、ブーメランだけどな」
天文部が設立してから早1週間。
1週間も経つと放課後に部室で4人集まることも慣れたもので、今日は机を囲んで、先週末に出された自己紹介の作文の課題の書き直しをしている。
「はあ。3人とも、どうしたら再提出になるんですか…」
「えへへ。好きなもの書いてたら、途中からお菓子の話になっちゃって」
「僕は真面目に書いたつもりなんだけどね」
「シロは再提出にならなかったのか。すごいな」
「それが普通なんですよ。全く」
二神さん改めシロのため息も今日で何度目だろう。
まあ対して難しくないはずの作文で再提出を3人も部活内で出したんだ。不安も覚えるだろう。
しかし俺たちだって真面目にやったんだ。文句はうちの担任に言って欲しいものだ。
「なんでお前ら、呼ばれたと思う?」
遡ること月曜の放課後。担任である不動先生に呼び出しを受け、職員室に行くと、すぐにそう言われた。
「なんでしょうね。あの無気力全開の
「敦也。お前の中での俺ってそんな物臭なの?まあいいや、これだよ」
突き出されたのは3枚の作文。
俺、涼香、敦也の名前が上に並んでいる。
「この作文。内容は自己紹介だし、ある程度なら思わず引いちゃう趣味の話でも目をつぶろうと思ってたんだが」
まず指をさされたのは俺の作文。
「まず一条。お前の作文。最初の2、3行で自己紹介終わってるんだけど。残りはだらだらと彼女がどうのこうの、敬語も忘れて欲望書き綴りやがって…」
「お、最後まで読んでくれたんですね。ありがとうございます」
「ある程度の脱線程度なら多めに見ようと思って最後まで読んだよ。最後まで脱線してたけど」
まあ確かに話が飛びすぎたか。
書いてるとついついテンション上がっちゃうんだよなあ。
「次、涼香」
「はい!」
「敬礼しなくていいから。お前のも一条と似たような感じだ。どいつもこいつも中途半端な量で提出する中、四季だけは裏一面まで使うほど書いてて印象は良かったが、3行目からの好きなものの話で表面使い切って、残りはマカロンについての考察とか、何?お前の彼氏ってマカロンなのかってくらい書きすぎじゃない?これも書き直しな」
「え〜。自己紹介っていうから、好きなものの話しただけなのに…」
自己紹介でもスイーツトークが起爆したのか。
こればっかりは最後まで読んだ不動先生を褒めざるを得ない。
「最後、敦也」
「はあ。最初に言っておきますが、僕は2人より何百倍もマシですよね?正直呼ばれた意味がわからないんですけど」
「んなわけあるか。お前のが一番ひどい。自己紹介はしっかりしているが、もう高二だってのに、中学時代の話引きずりすぎ。後、これに書いてる話全部嘘だろ。友人に頼まれてよその学校との縄張り争いに単身で乗り込んだとか、中学時代のスクールカースト壊滅させたとか、ネットのテンプレでだって見たことないこと書きやがって。真面目にやれ」
「…なるほど。すいませんね」
お前もなんてこと書いてるんだよ。
よくそれで俺と涼香よりマシだと思ったな。
現実的ではないが、しかし敦也ならあり得そうな話だからまた怖い。
「教室の後ろに掲示しないといけないから文面だけでも人当たりの良いこと書いたほうがいいぞ。お前ら見た感じ、クラスでも3人で固まってること多いし、他のやつとも話してないから友達少なそうだしな」
「ええ!なんで知ってるんですか!?」
「よくご存知で…」
俺達が友達が少ないことを見破っただと?
この人、適当な教師だと思っていたが、俺たちのことちゃんと見てるな…!
「つーことだから、今日は解散。今週末まで待ってやるから、ちゃんと書けよ」
これが月曜日の放課後。
そして今日は金曜日。の放課後。
後は言わなくてもわかるだろ?
「それにしたって、教室の後ろに掲示って。小学校じゃないんだから」
「とにかく、早く書いちゃってください。相談者が来た時に、こんなことやってたら真面目にできないでしょ」
「これは失礼。それならこんなことしてないで、依頼者のために万全の状態で待機することにしますかね」
そう言って敦也はクリアファイルに作文をしまう。
「おい、提出は今日だぞ?この時間に書かないで、いつ書くんだよ。今でしょ!」
「そんなのわかってるよ。だからシロのいう通り、早く書いたんだろうが」
クリアファイルに透けて見える作文は、一番下まで埋まっていた。
いつの間に、俺より先に終わっていたのか。
「まじか」
「あぁ〜。終わった〜!」
「え…?」
涼香も終わったらしい。大きく伸びをして、椅子の前足を浮かせる。
「クロ、お前待ちだ。隅っこで書いてろ」
「…」
腑に落ちない。腑に落ちない!
にやける敦也を横目に、近くの机を持って部室の隅に運びながら、俺は心の中で叫んでいた。
「それにしても、今日はくるのかなあ。相談」
「どうだかねえ。まだ一回も来てないじゃん」
「ちゃ、ちゃんとポスターは貼ったから、そのうち来ますよ!」
ポスターを作って掲示したのが先週末、それから部活棟を回り、挨拶と宣伝活動もやってみたが、相談がうちの部室にやって来ることは一度もない。先生も相談に来た人に声をかけるとはいったものの、そう頻繁に悩みをしに来る生徒はいないわけで。
俺たちはただ部室で4人で時間を潰すということに徹していた。
「今日も来るかわかんないし、またトランプでもやる?」
「そうだね。今日は何にしよっか。ババ抜き、ぶたのしっぽ、ドボン、大富豪…」
「もう!ちゃんと待ちましょうっ!」
「そう言って、なんだかんだでやるんでしょ。トランプ」
「それは…!そうですけど…」
そうして3人が机を運ぶ。
教室に響くトランプを切る音。
今日も結局、この流れか。
俺もさっさと書いて混ざろうっと。
「今日も誰もこないかあ…」
涼香に続き、俺もそう思った矢先だった。
コンコン。
突然、部室のドアが叩かれる。
「あ…」
「え?」
「ん?」
ガチャリ。
返事もする間も無く開かれる扉。
入って来た女生徒は落ち着かなそうに視線を泳がせ、尋ねる。
「あの、五十嵐先生に言われて来たんですけど…。ここで、あってますか?」
「…ダウト」
静まり返った部屋に、俺たちの予想を否定する敦也の声が嫌に響いた。
最後まで読んでいただきありがとうございますm(._.)m
タイトルは紛らわしいかもしれませんがpart1が抜けてるというご意見はできればお控えいただけると幸いです。
それでは、またノシ