シロクロ!   作:zienN

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第8話 青春の聖地

「それにしても、一条くんがこの二人を連れてくるなんてね〜」

「僕もリサ姉が顧問だとは思わなかったよ」

「でも、先生でよかったあ」

 

色々あったが俺たちは先生が入れてくれた紅茶を飲みながら、談笑している。

俺はその輪に入れなさそうだから小さくなって紅茶をすすっていると、敦也が両手をパンッと音を立てて合わせた。

 

「ま、咲かせるほどの昔話もないし、さっさと本題入ろうぜ」

「ええ!?ちょっと、随分と薄情じゃない!?」

 

敦也は平常運転で気を遣うことなくそう吐き捨てて、本題に入ることを促してきた。

少しそっけない気もするが、早くしないと二神さんも一人で待たせ続けることになるだろうし、この場は敦也に乗ることにする。

 

「クロ、頼む」

「ああ。わかった。先生、とりあえず入部希望者二人集めたし、同好会ってことでいいですか?」

 

申請書を長テーブルの上に乗せると、少し膨れながらも先生はそれをつまみあげ、俺たち三人の名前に目を通して言う。

 

「ええ、この二人なら間違いないわ。私の名前とはんこは、部活動名と部長の名前を書いて持ってきた時に押してあげるから。それじゃあ話も終わったことだし…」

 

手短に話を終わらせ、それを俺の元に返すと、先生は目を輝かせ身を乗り出す。

 

「最近の二人の話、色々と聞かせて!」

「遠慮しとく」

 

バッサリと切り捨てる敦也の一言。

いやまあ、早く部活行かないと二神さんにも悪いからね?

そういう意味で早く行かないとだから遠慮しとくっていう気遣いだよね?

 

「…最近の二人の話、色々と聞かせて!」

「遠慮しとく」

「…最近の」

「遠慮しとく」

「…」

「遠慮しとく」

 

あ、これ気遣いじゃない。ただ面倒なだけだ。

最後の「遠慮しとく」ってもう何も考えないで言ってるだろ。

敦也の変わらない『いいえ』の連打に、先生もついには黙り込んでしまった。

 

「すいません。僕たち部活なんでこの辺で。行こうぜ二人とも」

「え?あ、うん」

 

席を立とうとする敦也と、戸惑いながらも立ち上がる涼香。

先生はそんなドライな敦也の背後に回り込んで肩を掴み、無理やり椅子に座らせる。

 

「なんでよぉ!?ちょっとくらい話してくれたっていいじゃないのぉ!」

「いつの間に!?」

「っ!おい、離してくださいよ。これから部活行かないといけねーんすよ」

 

肩を握る力が強いのか、一瞬眉をしかめると、敬語なのかタメ口なのかわからない口調で、敦也は反抗の目つきで先生を睨みつけた。

大抵の人ならば怖気付くその鋭い眼光に、先生は物怖じしない。

 

「ねえお願い!後5分でいいから!ちょっとでいいから!お願いだからぁ!」

 

敦也を離すまいと、肩を掴んでいた手は敦也の胸の前に交差し、後ろから抱きつく姿勢になった。

先生ほどの美人に後ろから抱きつかれたら常人ならば速攻で落ちるはずなのだが、敦也は取り乱すことなく、めんどくさそうに舌打ちをしてみせた。

 

「お願いぃ、ちょっとでいいから、お話ししようよぉ…」

 

ついに涙声になってぐずり始めた。

ええ、泣いた?

昨日散々俺のことをいじり倒してくれたドSなあの先生が、生徒一人に泣かされただと!?

敦也、お前ってやつは…。

 

「…めんどくせえ。取り敢えず席つけ。5分だけだからな。その代わり涼香とクロは先に行かせるぞ」

「うん、それでもいいがら…」

「はあ。そういうことだからさ。二人とも悪い。先に行っててくれ…」

 

右手を挙げて、敦也は親指で俺たちに出口を指した。

 

「お、おお。敦也も、後で来いよ」

「ああ。後でちゃんと向かう。我が部の部長にもよろしく言っておいてくれ」

「敦也くん、また後でね。先生も、また今度お話ししようね」

「うぅ、うん…またね…ぐすっ」

「ほら、さっさと座って、カウンセリング始めますよ」

 

どっちのカウンセリングだよ…。

俺と涼香はカウンセリング室の扉をそっと閉める。

一人の犠牲を残して。

 

「先生、なんでそこまで敦也と話したがるんだ…?」

「あはは。先生は敦也くんがお気に入りだからね…。久しぶりに会えて嬉しかった、的な?」

「…」

 

初耳だよ全く。

結構長く友達やってたけど、まだまだ知らないことがあるとは。

友達…?

 

 

 

あ、二神さん。

 

 

 

「っと早く行こう。ずっと部室で一人で待たせるのも悪いし」

「あ、それってこの部の部長さん!?どんな人なんだろう、仲良くなれるといいな〜」

「仲良く、ね。うん、なれるといいな」

 

放課後を迎えてそこまで時間の経っていない、まだ賑わっている廊下を歩きながら、俺は二神さんが仲良くできるか、それだけが気がかりだった。

 

 

 

 

部活棟の階段は登校の時と比べて登るのが苦ではない。

授業への憂鬱も、クラス独特のスクールカースト制度もない新しい世界に、俺はむしろ心を躍らせている。

 

「というか青春の聖地だよな。部活棟って」

「そうだね〜」

 

隣を歩く涼香も、いつもよりもご機嫌な足取りで、一本に結んだ三つ編みを揺らす。

階段を登って3階にたどり着くと、涼香は廊下の中心でくるくる回って、教室を指差す。

 

「文芸部、放送部、軽音部、オカルト研究会…!この高校って、こんなに部活あったんだ〜」

「うちの学校は文武両道を掲げているからね。この校舎全部部室に使うくらいだから相当だよな」

 

我が学び舎は部活動に力を入れており、特に文化系部活動の功績が目を見張るほどで、そのおかげか、学校側でも部活に入ることを強く推すため、我が校の部活動加入率は95パーセントを超えているらしい。

 

因みに運動部の部室は体育館、そしてグラウンド前にアパートのような建物にそれぞれ割り当てられている。

 

「くろくん!部室はどこ?」

「うん。ほら、あそこに…」

 

俺は昨日まで空き教室だった、最果ての教室へと歩く。

相変わらず部活名も書いていない教室。

俺たちの新しい部室。

 

「涼香、ちょっと待っててくれ。部長になる人なんだけど、人見知りでいきなり入ったら緊張しちゃうからさ。俺がいいって言うまで外で待っててくれ」

「そうなんだ〜。わかった。待ってるねっ」

 

二神さんが驚かないように、控えめに扉をノックする。

中からの返事はない。

 

「…いないのか?」

 

扉を開けて入ると、開いた窓から吹き込む柔らかな春の風が俺の顔を撫でる。

静かなこの空間にはカーテンがなびいて布の擦れる音と、外から聞こえる運動部のかけ声とぱこんぱこんとボールをうつラケットの音だけが遠くから耳に届くだけ。

そして窓から受ける風を背中で受け、黒い髪をふわりと浮かせて長いテーブルに体を預けるのは、我が部の部長となろう人物。

 

「ん、んぅ…」

「…はあ」

 

日差しが斜めに傾き始める放課後、俺たち以外誰も足を踏み入れることのない部室で、二神さんは、寝息を立て、昼寝をしていた。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
なんかよくわからない部活とか、高校でも大学でもありますよね。
結構興味はそそられますが、僕は謎の敷居の高さに扉を開くことができませんでした。文芸部とか、活動はわからないけど入りたいと今でも思うんですけどね。
それではまた。
ありがとうございましたm(._.)m

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