君のためなら俺は   作:アナイアレイター

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お久し振りです。
お待たせしました。


第24話

 アリーナにて黒と白のISが激突する。互いの意地を賭けて。

 黒いISは悠斗が駆る黒曜。白いISは一夏が駆る白式。クラス代表決定戦から実に二週間振りの事だった。

 

「おぉぉぉらぁっ!」

「でやぁっ!」

 

 掛け声と共に二つの刀が切り結ぶ。同時に二人の負けたくないという意地もぶつかる。

 前回と違い、観客なんて誰もいないが二人は何処までも盛り上がっていた。

 

 戦いの切っ掛けなんて些細なもの。お互いにこの前の戦いの決着に納得出来なかったのだ。一夏との戦いにも、最初からシステムを使っていればここまで心残りになる事もなかっただろう。

 

「おおおっ!!」

 

 しかし、最初に使わなかったせいで見えてしまった。ずっと身近にいて、届かない存在だったはずの勝利への道筋。

 それが決してあり得ないものではないと知り、悠斗はその手にある刀を振るう。

 

「らぁっ!」

 

 それに応えるように一夏も刀を振るう。

 あの時、久し振りの親友との真剣勝負に心を踊らせていた。今度こそ勝つのだと、自分に言い聞かせて。

 だが、それも悠斗が勝利への渇望に、システムという甘い果実に負けてしまったせいで台無しとなった。

 

「やっぱ、そうじゃなくちゃなぁ……!」

「いきなり何の話してんだ、よっ!」

「うおっ!?」

 

 鍔迫り合いとなった時に笑みを浮かべてそう呟く一夏。訳の分からない言葉に悠斗は言葉と共に上段蹴りを繰り出す。足癖の悪い、彼らしい攻撃だった。

 

「へ、へへ……!」

 

 寸前で何とか避けて、一歩だけ間合いを広げると更に笑みを深める。

 一夏の目の前にいる男は黒いバイザーを付けているが、間違いなくシステムに頼っていない。ありのままの悠斗がそこにいた。

 

「攻撃されて笑ってんじゃねぇよ! ドMか、お前は!?」

「ちげぇよ! そうじゃねぇよ!」

 

 気味悪く思った悠斗が口汚く言い放つ。そんなやり取りでさえ、一夏には嬉しいのだ。

 しかし、そんな嬉しくて楽しい時間にも終わりがやってくる。

 

「次食らったら終わりだな……」

「俺もだ」

 

 SEはお互い残り僅か。後一撃でも貰えばそれで終わり。勝者と敗者が決定する。

 そんな緊迫する状況で、二人は相手を見据えて刀を握り直し――――

 

「またやろうぜ」

「おう、次も勝つけどな」

 

 示し合わせたかのように笑った。まるで幼い子供が明日も遊ぼうと約束しているような、そんな日常を錯覚させる光景。

 それも直ぐに戦いの空気へと変わる。

 

「はっ、もう勝った気かよ!」

「最初からそのつもりだ!」

 

 言い終えると共に悠斗が飛び出す。両手で保持した刀を上段に構えた。相手に向けて真っ直ぐに振り下ろすために。

 対する一夏は腰に構えた刀を自分の背で隠すようにした。鋭く振り抜き、刀を弾こうという算段らしい。

 

「せやぁっ!!」

「だぁっ!!」

 

 悠斗の振り下ろしと、一夏の一撃が交差する。甲高い音が鳴り響くと同時、悠斗の刀が宙を舞った。

 

「(勝った……っ!?)」

 

 後はがら空きのところへ上段に構えて振り下ろすだけ。勝ちを確信した一夏の表情が強張る。横に振り払った先、彼の視界に映ってしまったのだ。

 

「(両手で持ってない!?)」

 

 悠斗が右手でしか刀を持っていない姿を。振り下ろす直前は確かに両手だったのに。

 ならば左手はというと、右の腰に差している未だ鞘に収まったままのもう一振りへと。

 

「う、おおお!?」

「でぃぃぃやぁぁぁ!!」

 

 気付いた時にはもう遅い。気合いと共に鞘から刀が抜き放たれ、一夏のがら空きの脇腹へと。

 

「くぅっ……!」

「ふぅー……」

 

 痛む脇腹を抑えて苦悶の表情を浮かべる一夏に、悠斗は宙に舞った刀を掴み、鞘に納めてから深い息を吐いた。

 本当ならせっかくの勝利、もっと体で喜びを表現したいところ。だが、そこは剣道を習っていたのもあってこの場では絶対にしない。相手に失礼だからだ。

 

「最後の……また思い付きか?」

「おう。いや、我ながら上手くいったな」

「(まじかよ……)」

 

 相手にあからさまな上段に意識を向けさせ、本命はもう一本の刀からの一撃。最初のは捨ての一撃と侮っていると、そのまま両手でバッサリと斬られてしまう。咄嗟にしては出来すぎていた。

 

「くっそぉ……これで二一戦二一敗かよ……」

「何だ、その戦績?」

「悠斗との喧嘩の戦績だ」

「えっ。そんなん数えてたのかよ、怖っ」

「う、うるせぇ! 悔しいんだよ!」

 

 戦績の通り、今まで一夏は喧嘩で悠斗に勝った事がない。どれだけ強くなろうとも最後にはさっきのような思い付きで負けていたのだ。

 悠斗も喧嘩ではずっと勝ってたなくらいにしか思っておらず、戦績までは覚えていなかった。試合ならいざ知らず、喧嘩で勝っても誇れないと思っている悠斗にとってはどうでも良いものだった。

 

「そもそもISの試合は喧嘩にカウントしていいのか?」

「ISって喧嘩と同じで何でもありだからいいんじゃね?」

「何だそれ……」

 

 加えて一夏にとっての喧嘩の定義が少し曖昧なのもあるのかもしれない。

 呆れがちに悠斗は続ける。

 

「ていうか、少なくともこの前の屋上のは俺の負けだろ」

「いや、勝ってもないけど負けてもないじゃんか」

「――――負けでいいんだよ」

 

 一夏の言い分に笑ってんじゃ悠斗は答えた。自分が間違っていたのだから、勝ってはいけない。そしてその間違いを正してくれた一夏こそ、勝利すべきなのだと。

 

「……ノーカンにしとく。それにしても、今日こそ勝利の女神が微笑んでくれたと思ったのになぁ……」

「悪いな、俺は勝利の女神と恋人なんだ。しかも二人とな」

「最後にノロケですか、そうですか」

 

 確かに勝利の女神二人と恋人なら微笑んでくれたくらいでは一夏は勝てそうにはない。せめてもの仕返しと茶化すが、箒や楯無のおかげで耐性が出来ている今の悠斗には通用しない。

 

「へっへー、いいだろ。お前もさっさと彼女作れよ」

「いや、俺なんかに作れる訳ないだろ」

「おまっ、えぇ……?」

 

 悠斗も笑って茶化してやると、冷静に真顔で言われてしまい、笑みが消える。

 他人の色恋沙汰には鋭いが、自分の事にはとことん疎い一夏だった。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「ただいま」

「お帰りなさい、悠斗くんっ!」

「はいよっと」

 

 一夏との勝負を終えた悠斗が部屋に着くと、いつも通りまずは楯無が胸に飛び込んで出迎えてくれた。最早慣れたもので、抱き止めるのもぐらつく事はない。

 恋人関係になってからかれこれ二週間は経つが、楯無は未だに大人しくしていられなかった。愛する人を出迎えるため、常に全力なのだ。

 

「お帰り、悠斗」

「ああ、ただいま」

 

 遅れて箒も悠斗の元へ駆け寄ってくる。夕食を作っていたのだろう、制服にエプロン姿のままだ。

 ゆったりと微笑む彼女につられて、悠斗も笑顔になる。楯無のように露骨に愛情表現する事はなく、静かに愛を伝えてくれる姿は対称的だ。

 

「で、一夏くんには勝ったの?」

「おう、これも師匠のおかげかな」

「そうかっ。良かったなっ」

「ああ、ありがとうな」

「よしよし、ご褒美におねーさんが頭を撫でてあげましょう! ほら、屈んで屈んで!」

 

 勝利報告するや否や、頭を撫でるために屈めと言う楯無。こうなると彼女は何が何でも撫でようとしてくるため、素直に従う事に。

 

「はいはい、ってむぐ!?」

「良い子、良い子っ」

「んー! んー!」

 

 屈んだ瞬間、悠斗の頭を自身の胸元に抱き寄せてから頭を撫で始めた。まさかこうしてくるとは思いもよらず、精一杯の抗議をする。

 

「悠斗くん……えへへ」

「あの、楯無さん……? そろそろ離さないと悠斗が……」

 

 箒の心配する声も何のその。自身の豊満な胸に埋もれて呼吸が出来ない悠斗の事なんて考えられない。それ以上に弟子の成長と愛する人の勝利に本人以上に喜び、浮かれている楯無だった。

 

「し、死ぬかと思った……」

「もう大丈夫か?」

「ああ、大丈夫」

「ご、ごめんなさい……」

 

 流石にそれまで抗議していた腕がだらりと下がったのを見て、まずいと感じた箒の必死の救助活動により何とか命は無事に済んだ。

 浮かれすぎていた楯無のテンションも今ではどん底にまで。しょんぼりと俯いているせいか、二人にはいつもより彼女が小さく見えていた。

 

「気にすんなよ、喜んでくれただけなんだろ?」

「う、うん。でも、んぅ」

「はい、そこまで」

 

 何かを言おうとする楯無の口を人差し指で塞ぐ。どうせ出てくるのなんて謝罪の類いだと高を括ったのだ。

 

「気にすんなって言っただろ。だからこの話はそれまでだ」

「うん……」

「それにやっぱ刀奈には笑ってる方が似合ってるよ。はっきり言って落ち込んでるのなんて似合わないぞ」

「ぷっ、確かに。楯無さんがしおらしいのは似合わないな」

「だろ? はははっ」

「な、何よもう!」

 

 二人に笑われて恥ずかしくなった楯無は立ち上がると悠斗へ詰め寄り、その左頬に口付けをした。

 

「もう、馬鹿。ありがとっ」

「お、おう……」

 

 それだけ告げると楯無は着替えを用意して部屋にある浴室へと。入る直前で立ち止まり、振り返ると。

 

「悠斗くんっ」

「何だ?」

「覗いちゃダメよ?」

 

 意味ありげな台詞と共にウィンク一つし、楯無は浴室へと消えた。その胸に淡い期待を持って。

 その意味を正しく理解した悠斗は顔を赤くし少し俯くも、隣でくすくす笑っている箒のせいで直ぐに顔を上げる事に。

 

「……何だよ」

「ふふっ、行かないのか?」

「い、行かねぇよ。それに箒は俺が行ってもいいのかよ?」

「ふむ……そうだな」

 

 行けばどうなるかなんてこの二週間で嫌というほど分かっているはずだ。長風呂になるのは間違いない。だがそれでも箒の楽しげに浮かべている笑みは崩れなかった。

 

「悠斗が行きたいなら行けばいいさ」

「そ、そうか……はぁ」

 

 少し考える素振りを見せて出した答えは何処か冷たさを感じさせるものだった。

 しかし、その答えに悠斗は肩を落としてしまう。止めて欲しかった。行くなと言って欲しかったのに。

 

「むぐっ?」

「全く、話は最後まで聞け」

 

 その時、落ち込んでいる悠斗を箒が抱き寄せた。今度は箒の胸に埋もれるが、前のように息苦しさはない。何とか顔を上げると、そこにはやはり笑顔の箒の姿。

 

「いいか、私から楯無さんも愛してくれと頼んだんだ。楯無さんとの何をしたかで、一々目くじら立てる方がおかしいだろう」

 

 確かにその通りだ。自分から頼んだのだから結果がどうであれ、それで悠斗を怒るのはおかしい。

 

「でも……」

「それにお前は楯無さんを愛したなら、ちゃんと私も愛してくれるからな。不安に感じた事はない」

「――――」

 

 違うか? と首を傾げて問い掛ける箒は幸せそうだ。さっきの言葉も何も根拠がない訳じゃなく、結局は自分も愛してくれると信頼しているから。ただ先か後かの違いだけで。

 

「期待しているぞ」

「ま、任せておけ」

 

 正直な話、二人相手はきついのが心情だが目の前で笑ってくれる彼女を見ると、悠斗も弱音なんて言っていられない。

 解放された悠斗は触れるだけのキスをして離れると、箒が自身の太腿を優しく叩いているのに気付いた。

 

「もう耳垢も溜まっているだろう。掃除するから来い」

「あれ? 箒の番だっけ?」

「そうだぞ。ほら」

 

 悠斗の耳掃除は何故か交代制で行われていた。カレンダーを見れば水色のマーカーでデフォルメの楯無の顔と、赤のマーカーで同じくデフォルメの箒の顔が交互に描かれている。これはどちらがその日に耳掃除したのかというマークだ。

 描かれているマークが楯無の顔を最後に何もない。つまり次は箒の番となる。

 

「じゃあお邪魔します」

「はい、どうぞ」

 

 謎の制度に疑問を持ちつつ、箒の太腿に頭を預ける。女性特有の柔らかさと良い匂いに悠斗の心臓が高鳴るが、何とか平静を装って耳掃除へと。

 

「む、大物がいるな……動くなよ」

「お、おう」

「……よし、取れた」

 

 耳掻きを巧みに扱って大きな獲物を取り上げた箒は、獲物を用意していたティッシュへ。その表情は大変満足そうに見える。

 相変わらず膝枕に慣れない悠斗はどぎまぎしながらも、この謎の制度について質問する事にした。

 

「そ、そういや何でこれ交代制なんだ? どっちかで良くないか?」

「そういえば言ってなかったな。これは将来のためだ」

「将来のため?」

 

 耳掃除が将来何の役に立つのか。皆目検討がつかない悠斗はオウム返し。

 

「耳垢というのは遺伝するんだ。聞いた事があるだろう?」

「あー、そういえば……」

「だから楯無さんと今から覚えておこうと思ってな。いつか確認するために」

「……えっ。な、何をだ?」

 

 問い掛けたが、既に悠斗は正解を知っている。でも、それでも確かめたくて問い掛けて。

 

「生まれてくる子供の耳垢が父親似かどうかをな。私としては、父親似の方がいいんだが」

 

 結果、盛大に爆発するはめとなった。

 

「ちょ、えっ、えっ?」

「こら、危ないだろう。耳掃除の途中なんだから動くな」

「は、はい」

 

 動揺のあまり起き上がりそうになるが、箒に手で制される。元々、胸の動悸をどうにかするべく話し出した話題だったが、結果的に落ち着かせるどころかより悪化させるだけ。

 

「あの、流石に子供は気が早いんじゃ……?」

「だからあくまで将来のためだと言っただろう? お前にはやるべき事なんていっぱいあるしな」

 

 世界最強になって箒の側にいる。そのために強くならなければならない。問題は他にもある。悠斗にはやらなくてはいけない事が山ほどあった。

 

「だが一応言っておくが、私も楯無さんも相手はお前じゃなければ嫌だぞ」

「う、ぐぅ……わ、分かってるよ」

「分かっているならいい」

 

 遂にはストレートな告白も飛び出し、たじたじで耳まで真っ赤にさせている悠斗へ止めが入る。そっと耳まで顔を寄せて、囁くように言った。

 

「そっちも期待しているぞ、あ、な、た」

「――――うがぁぁぁ!!」

「きゃ!?」

 

 我慢の限界を越えた一匹の獣が爆誕。

 元からもう色々と溜め込んでいた悠斗は箒を押し倒した。そしてそこへもう一人やってくる。

 

「ちょっと、何で本当に覗いて来ないのよ!? お風呂出ちゃったじゃない!」

「ふー、ふー……!」

「えっ、どういう事?」

「楯無さん、舞台はこっちです」

「あ、うん」

 

 襲われているはずなのに冷静な箒に困惑するも楯無もそこへ参戦。今日も今日とて、長い夜が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 翌日、教室では朝からある話題で持ちきりとなっていた。

 

「まだ四月なのに転校生ってどうなってんだ?」

「なんでも中国の代表候補生らしいよ」

「へー」

 

 一夏がクラスの面々と転校生について話している間、悠斗は自分の席でうつ伏せになっていた。その側には当然のように箒が。

 何故うつ伏せになっているかというと。

 

「だ、大丈夫か?」

「今回は結構きつい……」

 

 また腰を痛めてしまったのだ。何をしたのかは言わないでおく。

 周りも悠斗が腰を痛めているのはいつもの事なので気にしていない。下手に気にするとバカップルの餌食となるからだ。

 

「それにしても中国か……」

「気になるのか?」

「まぁ、な」

 

 ただの転校生ならいざ知らず、相手は代表候補生。セシリアやシャルロットと同等と見て間違いないだろう。

 そして、気になるのはそれだけではない。中国には悠斗と一夏の共通の友人がいるのもあるのだ。中学の途中で別れてしまって以来、連絡を取っていないため余計に気になってしまう。

 

「専用機持ってるのうちのクラスだけらしいから余裕だよ!」

「――――その情報、古いよ」

 

 クラスの誰かが言った言葉に反応した女子は教室の入り口で両手を組んで不敵な笑みを浮かべていた。

 その姿に見覚えのある悠斗と一夏は同時にその女子の名を呟いた。

 

『り、鈴……』

 

 波乱のクラス対抗戦まで後少し。

 


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