空に憧れて   作:moti-

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 進化回。あんまぐだぐだやるのもあれかなー、だなんて思ったから手早くやらせてもらったよ。

 文字数は2000字程度でやらせてもらいます。


空に近付いて

 走る。ただひたすら走ることに意識を向ける。息が切れようとも、走ることを止めればその瞬間消し炭になってしまうことが理解出来ている。走って、逃げて、しかし一定の距離を保たれて。

 

 疲労に足を止めそうになるが、それを無理やり動かして、全身に酸素を送り出す心臓がオーバーワークと思うほど早鐘を打つ。後ろを振り向けば死ぬ。足を止めても死ぬ。体力が切れようとも、無理やり体を動かして、そうして、過呼吸に陥って息が出来ず死にかけながらも走って。

 

 ごっ、と。後ろから伸びた丸太のような剛腕が、幼い体を横殴りにして。

 

 力が、抜けて。

 

 血だらけの死に体で、うつ伏せに倒れて、力の籠もらない腕を必死に動かそうとして、地面を爪がひっかく。口から血が溢れ出て、あまりの痛さに目からは涙が溢れそうで、しかしそれを無理やりこらえて、そのまま。

 

 ぐちゃり、と水っぽい音と共に。

 

 指が一本吹き飛んでいった。

 

 ◇

 

 ピカチュウがいった。

 

「ピカ、ピーカー、ピカピカァ?」

 

 意味は分からなかった。けれど体の動きで、敵を引っ掛けてそのまま全力逃走して素早さを上げるのはどうか、ということだろう。この現実世界で努力値の概念がどうなのかは分からないが。

 

 ──まあ、大先輩の言葉だ。試してみるのもいいだろう。

 

 そう思って、実際にやってみた。

 

 ピカチュウが始めにやらかしたのは、こんじょう持ちのリングマを麻痺させて、此方になすりつけるという超絶鬼畜な所業であった。追いつかれたらやられるという状況で、全力で走らざるをえなくなったのだ。

 

 そうして圧倒的レベル差であっけなく追いつかれて、そして冒頭に戻る。リングマが軽く爪を振るうだけで、あっさりと此方の指は切断された。あまりに見事な切り口だったので血も少なく、痛みもなかったことは幸いだが、腹からはどくどくと血が流れ出ている。正直泣きそうだが、泣いてしまえば負けた気になる。だから必死にこらえて、ハピナスが来てくれるのを待つ。目が若干潤んでいるのは気のせいだ。そうに違いない。涙目になってるとかそんなんじゃない。

 

 リングマが足を踏み潰す。ぐちゃり、とリングマの体重と膂力で潰されたそれは、ミンチ状になっていて、赤黒い肉片と化している。激痛に悲鳴を上げそうになるが、そうすれば他のポケモンまで寄ってくるかもしれない。だから唇を噛んで、耐えた。歯で切れたのだろうか。唇からは血が伝う。

 

 リングマは潰れた肉をつまみあげ、口に放り込む。ぐちゃぐちゃと数回咀嚼して、唇の端を釣り上げた。

 

 腕を上に上げ、リングマがそれを振り下ろそうとする。潰されれば凄惨な死体が出来上がるだろう事は予想出来た。あのカイリューが例外なだけだったのだ。普通の野生ポケモンは木の実がないここに生息している以上、ポケモンを殺して喰うしか生き長らえる手段はない。海からコイキングを釣れるやつがいるならコイキングは絶滅しているだろうが。

 

 リングマが腕を振り下ろす瞬間、体が光を纏った。何故だろうか。死にたくないと思ったからだろうか。ともかく、燐光が体を覆い隠していく。

 

 だんだんと体の形が変わっていくのが分かる。1メートルもなかった身長は辛うじてそれを超えるくらいまで伸びて、頭を帽子のようなものが隠す。服は幼稚園児じみた青いものから灰色のコートへと姿を変え、さっき潰された足が再生を始めた。

 

 目の色が変わったのか、今までとは違い明確に洞窟内部の構造が把握できる。ゲームの擬人化絵では琥珀色の瞳だったはずだ。なら、今の自分も同じように瞳の色が変わったのだろう。

 

 帽子の外にある前髪は二本、頬のラインを沿って胸元辺りまでに降りている。髪の色も変わったのか、茶色い髪を指で少しいじくって、そうして光に目をやられたのか目を抑えてうずくまるリングマに目を向ける。

 

「──逃げろぉ!」

 

 そうして、だっ、と先ほどより動き易くなった体で入り口まで逃げ出した。

 

 ◇

 

「……なるほど」

 

 そう呟いて、川で自分の姿を確認しながらさらに言葉を続ける。

 

「何か変わったことがないと進化出来ないんだ、きっと」

 

 あくまで推測だが、劇的に心境が変わった時、あるいは命の危機の場合、あとは進化への意志が強い場合。

 

 レベルが足りていれば、ポケモンは進化を果たす。

 

 今回自分のケースだと、つまりは生への渇望、命の危機、進化への憧れ。これらの条件が揃った状態で進化出来た。

 

 つまり、何かへの意志が強ければレベルを満たしたと共に進化を果たす。この予想が当たっていればいいのだが、まずレベルが上がるはずのない状況で、先程の三拍子が揃い、進化を果たした。つまり、レベルは始めから足りていたということか、もしくは走っていた途中で上がった、嬲られてる途中で上がったということだろう。ポケスペでは確か、戦闘中にレベルが上がるといったことがあった。あれと同じ現象で、死にかけたことで必要経験値が溜まって進化を果たした。よく考えたらハピナスには一度も攻撃した覚えがない。攻撃しないと経験値が入らないといった設定なら、レベルが上がりにくいのにも納得がいく。

 

 だって、そもそもハピナスが持つ膨大な経験値をもらってないんだもの!

 

 ということで。これからはハピナスを軽くデコピンさせてもらおう。

 

 そんなことを思いながら、仰向けに寝転がった。

 

 しばらくそうしていると、洞窟からピカチュウがぴょこぴょこと現れる。此方の胸の上に軽やかに乗ると、体を丸めて目を閉じた。

 

 日を浴びて毒のない表情で、気持ちよさそうに眠るピカチュウをしばし眺める。

 

 そうして、空の情景を目に焼き付けるために上を向いて。

 

 上を向いて、空を行く雲を眺めていた。

 

 鳥が群れて北へ向かう。

 

 その様子を、羨望の念で眺めて。

 

 そうして、眠気に襲われて、目を瞑った。




 コモルーちゃんかわいいよコモルーちゃん。
 なんだかんだやっていってるけど。

 TS要素薄いね、これ。

 まあ、俺っていう単語をあんま使用してないのもあるだろうけど。
 それはそうと、お気に入り登録ありがとうございます。ロリマンダ好きな方から感想もいただきました。ありがとうございます。
 身長は萌えもん図鑑からの設定です。タツベイが0.6m、コモルーが1.1m、マンダが1.5mです。みんなロリだね!

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