そういえばこの間善悪の話をした覚えがあるが、善悪と言うのは状況や立ち位置や価値観によって簡単に変わるものなのでどうにも飄々とした印象が拭えない。いや、そりゃあ実際自分の言っていることは間違っていないはずなのだ。
たとえば俺が人を殺したとする。そのとき、殺された人からはこっちが悪いと言うことになる。時々間が悪いと思う変な人間もいるかもしれないが、それは変わらないはずだ。が、こちらからすればそんなに悪でもないのだ。
こういう例を上げるとよく極端だと言われるが、実際極端にしてもしなくても言っていることは変わらなかったりする。実際、やったことに関してはその極端のケースがつきまとう可能性がある。だから極端はそんなに否定できない。まぁそれは流石に顔を合わせての問答を肯定するが、そうでなく顔も合わせず十分な議論を交わしていない相手が噛み付く場合はこの極端な例と言うのは途端に迷惑に変わるが。
その迷惑に変わる、と言うのも極端な例を持ち出したほうは感じ取れないわけだが、その相手からすれば迷惑になるわけだ。つまり善と悪の関係は一応ここでも成り立つわけで、つまり自分が不快な思いをしているのであればそれはそれでちゃんと相手に言ったほうがいいのである。当然、自分で回避できる場合は回避して、回避できない場合に文句を言うべきである。
つまり、自分にはレッドに現在文句を言う権利があると言うことになる。
……どうしてこういう状況に? と考えながら一つのベッドの上でレッドに抱きつかれている。記憶を思い返してみても全く記憶は帰ってこない。さて、これはどういうことか。
とりあえず自分は寝ているはずだったのだが。というか人の服の中を弄ろうとするな貴様は。殴るぞ。
でもこれ自分が発端なら下手に動き始めると申し訳ないのでこのままで動かないことにする。別にこの状況を楽しんでなんかいない。楽しんでなんかいないのだ。
そう、絶対楽しんでなんかいないのだ!
「……………………」
起きないなぁ、と思う。こんなに起きないなら、こっちも少しだけ遊んでもいいかもしれない。
相手の体に自分の体を貼り付けるようにしてなるべく密着し、胴体に手を回す。トレーナーであるからには必要とされる筋肉を身につけたその体は、自分より明らかに太い。まだ幼いくせにやるではないか……などと思いながら、少し見上げるくらいにある顔を見る。
大人になりかけ、と言うことでうっすらと髭が生えてきているのを見て、少しだけ意外に思った。
なんとなく、やっぱり生きているのだなぁ、と言う気持ちになる。それは当然なのだが、言語化しづらいが、どうもこいつだけ別次元の法則で動いているような気がするのだ。それが主人公という人種の特徴なのかもしれないし、あるいは単純に、もっと別の何かなのかもしれない。
二人が固まっているベッドの上は心地よいくらいの熱がある。これが夏ならたぶん暑さでつらいだろうが、今は春のはじめ。くっついても丁度いいくらいだ。
小さく吐息を溢す。喉から先に出るとき、熱が通り抜ける感覚に、自分が今熱を湛えていることに気づいた。
「……………………」
もっと体を寄せてみて、胸の中に収まるくらいに体を丸めてからそのまま目を瞑る。
これは暑さからきた行動。そう、これは暑さのせいなんだ。そうやって自分の行動に言い訳しながら、多少の混乱の中で、また眠ることにして、
「……………………はっ」
どろどろに熱が交わっていく感覚にきっと自分はどこか正常じゃなかったのだ、と先ほどのことについて思う。
少し冷静になって考えてみればまずなんであんな行動をとってしまったのかがわからない。とりあえず起き上がろうとして、背中に回されている腕が邪魔になることが気づいた。なんとかそれから抜け出そうとベッドの中に潜る……そうして腕を乗り越えて、ベッドから抜け出した。
立ち上がって軽く手で顔を扇ぐと、それが冷たくて気持ちいい。
「んー……やっぱり、さっきはどこかおかしかっただけね」
体を伸ばしながら、そう小さくつぶやいた。今日の予定を思い出しつつ、今日もいつもどおりの日程であることを思い出した。
時間を見ると午前5時。まぁ起きるのならこんなもんだろう、と思う。軽く体を温めるついでに空でも散歩してこようか、と思いながら、軽く前屈する。なるべく衣擦れの音をさせないようにゆっくり、ゆっくりと体を動かしながらそうしていく。
「ん、快調」
今日も一日乗り切ろう、とそんな気分で考えながら、扉を開いて部屋の外へと出る。朝の冷たい風を浴びるには丁度いい時間だろう。冬は寒さで動きたくないが、このくらいなら全然問題もない。
かちゃり、と扉がしまって先ほどの部屋は完全に遮られた。中のことなど気にもせず、とりあえず歩くことにする。
「……なんだったんだろう」
現状バトル回まで構想が皆無だからさっさと話を進めようとしてる人