空に憧れて   作:moti-

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オツキミ山ダイレクトアタック

 ◆

 

 

「君はほんとは世界が嫌いじゃないのかい?」

 

 唐突に、突然に、ごく普通に近状を問うようにそいつは、──グレイは嘲りもなくしかし常識的な喜の感情も一切なく所謂真顔でこちらに聞いてきた。

 

 俺は静かにそいつの問いについて答えようと吐息し、帽子で視線を遮るようにしてから、一切の干渉を許さぬようにしてから言う。

 

 

「──ごく当然に嫌いだよ。俺だってお前だってポケモンだって人だって──そう、『彼女』だって嫌いなはずなんだ」

 

 

「はず、か。けどそう言えるあたり何か思うところもあったようで。そしてそれについては──明らかにマトモじゃない彼女が原因かな?」

 

「……………………」

 

「そもそもおかしいだろ。彼女は元々いたって普通の人間だったはず。そんな彼女が唐突に死が間近にある世界に来て、何故あそこまで頑張る……この場合は痛みに耐える、と言うことになるのかな。ま、とりあえずそれが出来るのか。突然放り出された現状について何かを思っていないわけないじゃないだろ。けどじやあなんで頑張るのか、って言ったらそこの説明がつかない。生きたいと願ったから? そう思って行動して実際に結果が伴ってるあたりおかしいだろ。そもそも平和惚けした世界からきた彼女が行動しようと言う発想に即座にいたった時点でイカれてるんだよ。破綻してる、破綻だ破綻」

 

 なあ──お前はどこまで何を知ってるんだろうな? そう問おうとして、それが完全に無駄であるだろうと考え口を塞ぐ。

 

「真っ暗な場所で目覚めた。それはいい。だからと言って多少困惑するだけで怯えがないことがおかしい。未知を恐れる人間と言う生物が持つはずの危機感が欠けている。そう、それはまるで未知を切り開く天才と呼ばれる人種のように。だけどだったら君は彼女を大切にしな。理由は言わずともわかってくれるよね?」

 

「……………………」

 

「おいおい言わなきゃいけないのかよ。まあいいや」

 

 そう言って、そいつは言った。

 

「天才である彼女は必ず早死にするぞ。最悪今年中だ。君も自分を好いてくれてる少女を殺したくないなら自分の使命にでも反逆してしっかりその長い手を伸ばしな。僕は助けない。けど彼女が死んだら僕が君を殺す。ああ、僕も彼女に惚れた人間だからね」

 

 それだけ言うとどこかへ消えるそいつは、そう、まるで運命を俯瞰する神のようだった。

 

 

 ◇

 

 

 酷い暗闇とあれば自らを発光させるレッドさんだが、今回はそういうことはなかった。というのもオツキミ山の中は想像以上に明るい物だったからだ。

 

「で、実際何をどうするの?」

 

 一種の全能感がある。今ならなんでも出来そう……薬とかやったらこうなるのかな、とぼんやり頭に浮かべつつ、レッドに聞いた。

 

「まぁ、結論は慣れだよ」

 

 そもそも、

 

「いろいろ卑怯な技能ばっか使ってきたからね。一個目、二個目とジムバッジを取って来た──その方法は正攻法でない、一種禁じ手のようなもので、だからこそ規制に弱い」

 

 あり得ない技法を使っているからね、とその言葉を最後にくっつけて言葉を終える。ふーん、と簡単な声を発した。

 

「……その反応はわかってないのか?」

 

「わかってるわかってる」

 

 そもそもプレイヤーとしての経験があるのだ。何を意味しているかくらいはわかる。

 

 要するに何をいいたいのかと言えば、ゲームではあり得ない、二次創作でしか許されない非公式的な技能の乱用と言うことだ。

 

 ゲームを振り返れば明白。

 

 異能なんてない。オリジナル技なんてない。共有技能なんてない。つまりはそういうこと。排斥されるべき絡め手、絶対あり得ない世界の異常。

 

 それはオリジナル要素の否定にとても弱い。

 

「ノーマルルールとフラットルールみたいなものってことよね」

 

 女口調も板に付いてきた。段々自分が狂っていくような感覚は、今はない。無意識で自分についてを把握できているのかもしれない。

 

「そゆこと」

 

「ラストで砕けた……」

 

 とりあえず進んで行きながらの会話で辺りを観察していくと、野生のポケモンたちがどこか気が立っているように見える。

 

 そう言えばここ、原作でロケット団いたよな。じゃあたぶんいるんだろうか、と察しをつけつつ襲ってくる野生のポケモンをとりあえずドラゴンクローで適当に仕留めておく。わざわざ消耗するような技を使う気もないのでこれくらいが丁度いいだろう。

 

 ともあれ進んでいくと梯子がある。それを下に降り、道なりに進んで行けば何処か螺旋を描くような通路にたどり着く──原作でロケット団がいたところでは無かったか? 疑問そのままに、無言で進んでいく、

 

 

 あっけなく外に出ることが出来た。

 

 

「……全然修行にもならなかったな」

 

 レッドの言葉に同意を返し、そして奇妙なほどのオツキミ山の静けさに少し不自然を感じ、少し考えふと気付く、

 

「──あれ」

 

 

 トレーナーは?

 

 

 ◇

 

 

 あ、これ不味いな、と思った時には、気づいてしまった時にはもう遅い。ぞっとする。ぞっとする。ぞっとする。何が怖いのか──それを問われると即座に答えられる、

 

 そもそもそれを疑問に思わなかったこと。

 

 

 本来人が多いだろう、少なくとも多少はいるであろうオツキミ山で、人が一人もいないことに気づけなかった。それはどうしてだろう? なぜだろう?

 

 例えば──本来いるはずのやつらとか。

 

 影も形も跡形もなく消え去ったそれらはどこへ行った?

 

「……………………」

 

 相方は気づかない。気づいていない? わからないが、何も言わない。だから自分から切り出すべきだと考える。洞窟から出てすぐの道路で、人は少しだけ見て取れる──その事実の安堵し、そしてレッドにそれを伝えようとする、

 

 しかし口が動かない。

 

 何故、などと考えるつもりもない、既にそれを理解している。故にそのまま無言でレッドが歩き出した方向に続いていく。

 

 ──即ち洞窟の中へ。

 

 

 ◇

 

 

 洗脳系の能力干渉と言うのは直ぐにわかった──ならばそれの対応をどうするか、と言うのが問題になるが、実のところ特定キーワードの思考制限、その解除による行動制限となれば存外対処は簡単である。

 

 何故なら自分はその能力の制御下に今ない為だ。その原因とか理由はわからない。それは置いておき第一に洞窟にわざわざ戻るとなれば洞窟内にその術師がいる確率が高いのだから、そこを一人で叩くといい。

 

 レッドに続いて一度来た道を戻っていく。野生のポケモンは既に陥落しているようでレッドを先導しているようにも見え、ならば今は敵でないと言うことだ。そのまま放置が安定だろう。

 

 そしてたどり着いた場所には誰かが背を向けて立っている。黒服、大きいR文字──間違い無くロケット団であっている筈だ、

 

 故に先手で殺しにかかる。

 

 どうも例の洞窟で培った倫理感は敵=仕留めると言う形で自分の中で根付いているようで、それも敵が悪人となれば初手で殺すことに躊躇いはない。

 

 そもそも非常に濃い時間だったのだ。実のところ安全とは到底言いがたい環境、フライゴンさんとかハピナスやらピカチュウやらがいなければ間違い無く死んでいた場所で過ごした時間である。学んだことも理解したことも身に付けたことも大量にあるのは当然だった。

 

 その学んだことは殺していい敵は確実に殺す、と言うことだった。どうにも初めてレベル60台を殺した辺りから塞き止めていた物が壊れたように敵を殺す術が格段に巧くなった。例えば確実殺せる柔い部分。例えばわりと小さい体と女子と言う弱そうな容姿を活かして自分を弱く見せる方法。

 

 だからそいつを殺すのは極普通に簡単だった。

 

 まず始めに足音を消す為空気を踏みしめて跳躍する。空を飛べると言うのはこう言う場合の利点にもなる──容易に距離をつめられたり、などにだ。そして背を向けたままのそいつに影を見て気付かれないように地面すれすれで飛行し、両足をドラゴンクローで切断する。そのまま悲鳴をあげようとするそいつを空で旋回しつつ十爪で引き裂き輪切りにする──声が万一に洩れないように念入りに声帯は潰しておく。そういえばずたずたに引き裂くこの殺し方は痛みが酷いらしい。まぁ敵なので別にそれはどうでもいい。寧ろ苦しんで死ね。手間取らせやがって。

 

 なんてことを死体に言っても意味のないことはわかっているため手の血を服で拭って正気を取り戻したらしいレッドの頬を何度かつんつんして遊ぶ。つんつん。むにー。

 

「──おう、助かった」

 

「その顔で言われるとしまらないわね……」

 

 今回の問題点は何だろうか。引っ掛かった原因が俺にあるとしたらこちらの責任になる……そして今回引っ掛かったのはたぶんこっちの責任である。でもこれ、多分ピカチュウいたら大体全部何とかなってた感もあるので自分は悪くないと思っておこう。

 

 俺は悪くねぇ!

 

「で、こいつは?」

 

「多分ロケット団の団員よ。ここに連れてきたのもこいつと思うわ」

 

「へぇ。ロケット団、ねぇ。とはいえトレーナーが一人ってのも馬鹿だな。ポケモンくらい出しとけばいいのに」

 

 まさか問答無用で殺されるとは思わなかったのだろう。悪の組織がそんな無用心なのもどうかとは思うが。

 

「どうする? ロケット団潰しでもジム巡りついでにするか?」

 

「そんなおつかいみたいなノリで言われても……私は別にいいけど」

 

「じゃあそうするか。使えそうなもんは……おっと、かいふくのくすりじゃねぇかマジかよロケット団太っ腹だな」

 

 端からみたらこっちが悪人臭いことをしているよなぁ……と思いつつ、静かになったその空間を見回す。野生のポケモンは全部逃げたらしいので問題なし、と結論付け、

 

 オツキミ山についてはこれで終わりだろうと一息を吐いた。




後書きと言うか最近の話になるんですけど漸く戯言シリーズネコソギラジカル(下)まで購入しました。一月辺りから購入を始め九巻全部……何故かネコソギラジカルの前に最強シリーズ揃えてしまったんで九巻分だけの代金じゃない(
ともあれ年度末に押し寄せたあれこれ終わったんで更新再開でーす。ここらへんからちょっといろいろ個人的な転生やらの疑問を交えて書きますんで話も変になって行きますが、終始ロリマンダで始まりロリマンダで終わるような話なんでそんなに難しく捉えなくて大丈夫です。

まーあれこれどうそれでもなく実のところ単純な話なんですけど。なんなら一話か二話に答え書いた気もしますけど。

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