思考同調と感覚同調はある程度習熟を済ませた。レッドはもともと“繋ぐ”才能があったのか、リンクを行うことについてはかなりスムーズに──というか一発成功させた。リンクが容易に成功するということはつまり、切断と接続の切り替えがスムーズだということの証明でもあり、レッドという少年は切り替えの速さという武器を手にした。もともと肉体的に馬鹿げているほどの、ポケモンと戦闘を繰り広げられる程度には強いレッドだったが、ポケモントレーナーとしては絆を結ぶこと以外についてはその実からっきしである。育成力も微妙なレベル、とはいえまだ経験が浅いため仕方ないのだが、指示も強制力はない。指示で命中率を上昇させるトレーナーは多くないが確かに存在する。つまり、未だ指示が甘い。能力にはもともと恵まれていないし、故にレッドが取った方法は──圧倒的読みとリンクによる能力強化。
未だ九歳の少年がレベルの高いポケモンを従えて、その強化と共に着々と育成力は強化されているが。
──実戦経験が足りない。その事実が重かった。
だから、奴が帰ってきたのはいいタイミングであった。
◇
あれから更にひと月経って、雪はすっかり成りを潜めた。完全に引っ込んでしまったが、未だ寒冷であることは間違いない。ストレッチでしっかりと筋をほぐし、今日も今日とてピカチュウとの模擬戦を始めるのだが、しかし今日は何故かレッドに身が入っていなかった。そんな状態で訓練をするのは危険なので、家に戻って椅子に座る。部屋に何時の間にか装備されたボーマンダのぬいぐるみを抱えて抱きしめながら、寒いので暖かいココアを喉に流し込んでいく。熱々のそれは猫舌である自分にはきつかったが、吐息でふーふーと冷ませば何とか飲める熱さまでには下げることが出来た。レッドはその合間にも何かを考えていた様子だが、気にすることはない。すっとそれを飲み干し、椅子から立ち上がってソファーに寝転んで、ほんの少し──あれから三センチ伸びた身長より大きいそれの上で、大きく伸びをする。体が固まっている訳ではないが、やはり気分的にこうしたかったのだ。
そうして、数時間を無意味に消費していると、家の扉が開いた。ナナミさんだろうか。そう思い、顔をそちらに向けると、レッドがぼそりと呟いて。
「グリーン……」
そうして、視界に茶色いツンツンが映り込んだ。
◇
「おー、よう。久しぶりだな、レッド」
そういって、今度は此方を向いたグリーンがツリ目気味な目を細め。
「へえ……ボーマンダとは、カントーでお目にかかれるとは思わなかったな──レベルは多分……90近くか。レッド、お前なかなか育成力も鍛えてるようだな」
「そうだね、そういうグリーンこそ、ホウエンジムリーダーを下したって話じゃないか? ……そんで、じゃあ」
そういって獰猛に笑い、机の上に置いていた赤帽子を手に取り、頭に載せて数度動かす。対するグリーンも八重歯を剥き出しにしながら、ボールホルダーに二つ吊り下げたボールの内片方を手に取り、かちゃかちゃと持て余しながら、生意気に言った。
「お互いにどれだけ強くなったかを競おうぜ……!!」
ところ変わってモンスターボールの中で待機することとなり、テレビが巨大モニターへ変化したそれを眺めながら、手繰り寄せたマイクを口元に持っていきながら勝負の流れを静観する。レッドとグリーン、お互いに対峙しながら視線を鮮烈に交錯させてボールホルダーに手を持っていっていた。
「さて」
グリーンがそういって、左手で胸を押さえながら宣言した。
「──原初ノルールヲ強制サセル」
そうして、フィールドが変質し、混ざり、はじけ、複雑に練り混ざった世界のルールを今、この場限定で単純化した。言葉通りの意味に、“この世界の始まりのルール”に世界を戻し、それ以降のルールをねじ伏せて──強者が勝つ、その世界へとフィールド全域を誘った。
そして、直感的にこの仕様では自分は戦えないことを理解し、マイクに向かって叫ぶ。
「──この戦い、必ずピカチュウじゃないと勝てない!!」
そう叫んだのが聞こえたレッドはビクン、と体を振るわせ、そうしてピカチュウのボールを手に取り、グリーンと同じタイミングで投げる。
「いけ、タロウ!」
「ピカチュウ! “リンク”!!」
そうして場に出たピカチュウがレッドと感覚を共有し、そうして場に出たことが切っ掛けとなって条件を満たした固有技が発動する。
「“レールガン”!!」
そうして、電撃を纏ったピカチュウがタロウと呼ばれたケンタロスに突貫した。
ロリマンダアアアアアアアアアアアアアかわいいかわいいよおおおおおおおおおお。
ただいま。
グリーン君は初代ルールの押し付けとかいう対策必至なものを繰り出した!
そしてケンタロスーーー分かったひとてーあげてー