プロローグ
暗い、暗い洞窟だった。
起き上がってみれば、首筋に髪の毛が触れて口から変な声が漏れ出る。
と、そこで違和感にようやく気付くことができた。
髪が、長い。
自分はあくまで普通の、至って普通の高校生の男で、そもそも髪は丸めている。バリカンという魔具にやられてしまった。
ところがどうだ。感覚からすれば、間違いなく足に届くほどには長い髪があるではないか。久方ぶりの髪の感覚だった。
そして、異常に気付く。
テンプレートをなぞった、間違いようもない不思議で奇怪な現象。自分が身に付けた物は少し緩めに作られているのか、少々はだけていた。と、いうかこんな洞窟にいること自体異常だった。明かりなんて一つもない。人が生身で入るにしては危険すぎる。手探りで何とか抜け出そうにしても、真面目に考えたら難しい。運悪く崖があって落ちる可能性がないわけではないのだ。神は死んだ。少なくとも自分の中では。
抜け出すことを諦めてじっとしていればいいのだが、如何せんそんなことをして救援が来ると決まったわけではない。というかこない。さっき神が死んだため、奇跡は起こりやしない。ふざけんな。そもそも食糧がないから無駄に動くと危険な気もしてきた。こういう時ラノベとかで無駄に培った知識は役立つ。だいたいが非常識バトル物だったので、こういったいきなり洞窟に転移させられた時の対処法とかの勉強になる。そういえばあのラノベはしばらく救援を待って、誰も来なかったから抜け出そうとした直後仲間が洞窟ごと消し飛ばすという展開だった。今このばではなんの役にも経たない。というか内容だけみればなかなかに地雷物だった。何故好んで読んでいたし、俺。
暗闇にも目が慣れてきた。見渡せば、少し遠くに出口と思わしき物がある。ゆっくりと、こけないようにそこに向かい、洞窟から抜け出し、そうしてすぐそばにあった川を見て、絶句した。
白銀の長髪に、青い瞳。服も青、例えるなら幼稚園の制服だろうか。そういった印象を思わせる。──そんな、幼い少女。
特徴でいえば、萌えもんのタツベイがこんな姿形をしていた。というかそれと変わりが思い付かない程、プレイした中で目にしていたドット絵に類似していた。
今の自分はそのような存在だった。
◇
タツベイ。
タツベイである。
図鑑の説明で空を飛ぶことに憧れ、そうして進化の過程を経て最後、空を飛ぶという悲願が叶う──ドラゴンタイプのポケモン。
ポケモンである。姿は人だが、最終進化すれば背中から羽が生えるためもう人ではない何かになるわけだからやっぱポケモンである。
何故だ何故です二段活用。あーだこーだもない。タツベイになって、そして野生の世界に突然放り込まれた訳である。
……いや、分かるか。てか分かってたまるか。
現実逃避にすがる現状である。服の下覗いて性別はメスだと判明してしまった。TSである。トランスセクシャル。性転換。間違いない。ポケモン世界だからアルセウスもげろ。
ところで自分の体ってものっそい興奮しないものなんだね。何ら無感情に女体の神秘を見てしまったが、出てきた感想は何だ、程度である。
と、まあ取りあえず。
当面の目標は生き抜くことだろう。
背後で唸るような重低音を耳にして、そうして逃避気味にそう思った。
次回から成長編かなあ。マンダにならないと空飛べないし。
という訳でレベル10に満たないタツベイちゃんがレベル80が蔓延する洞窟に挑んでひたすら死にかけるストーリーになっていきます。稀にハピネスが出ます。願って死にます。上手く拾えばレベルアップ確定です。運が悪いとレベル100が殺しに来ます。確率は1:9くらいの理不尽なものです。
レッドの登場はまだしばらく先です。ご了承下さい。
流行らない。