霊夢たちの協力の下、『四隅の怪』が行われるも、四ツ谷や慧音すら思っても見なかった予想外な事態が起こってしまう――。
霊夢の話を聞いた慧音はすぐさま先ほど『四隅の怪』を行っていた部屋に飛び込んだ。
そして奥の格子窓に覆っていた木の蓋と布を一息でひっぺがす。
ベリッという音と共に蓋が外され、格子窓から日の光があふれ出し部屋の中を明るく照らした。もう夕方になっており、部屋の中が茜色に染まる。
慧音は部屋の中を見渡す。
――誰もいない。
何度部屋の中を見渡しても、『者』どころか『物』の影も形も見当たらない。
ガラーンとした空間がそこに広がっているだけであった――。
少し遅れて四ツ谷たちも部屋に入ってきた。
梳だけは子供たちのそばにいる為に廊下側から子供たちと一緒に部屋の中をうかがっている。
「……誰もいないぞ?見間違いじゃないのか?」
慧音のその問いかけに霊夢は険しい顔で首を振る。
「いいえ、確かに居たわ。しかもあの身長と体格からして大人の男。そいつがこの部屋のそこに立っていたのよ」
そう言って霊夢は部屋の中央付近を指で指して見せた。
それを見た慧音は困惑した様子で霊夢を見返す。
慧音のその顔を見た霊夢は少しムッとした顔で続けて言う。
「信じないつもり?言っとくけど絶対に見間違いじゃないわ。
「実体も?触ったのか?」
「直接じゃないけど、このお祓い棒で背中を思いっきり殴ってやったわ」
そう言って霊夢は何処に隠してたのか長めのお祓い棒を取り出し、慧音に見せ付けるように掲げて見せた。
それを見た慧音は半ば呆れた目を霊夢に向ける。
その直後、霊夢を後押しするかのように魔理沙も声を上げた。
「……私も見たぜ」
「……!魔理沙、本当か!?」
「ああ、暗くて顔も見えなかったが、あの人影は霊夢の言うとおり確かに男っぽかった。直後に霊夢や他の奴にもみくちゃにされて何が何だか分からなくなっちまったが……」
頭に被る鍔広のとんがり黒帽子を指先でクイッと上げながら、真剣な顔で魔理沙はそう証言する。
「……だとしたら、妙だな」
唐突に今まで黙っていた四ツ谷が一歩前に出てそう静かに呟いた。
その場にいる全員が四ツ谷に注目すると同時に、四ツ谷は続けて響く。
「そいつは実体を持ってたんだよな?……なら、少なくとも幽霊の類じゃないことだけは確かだ。だが、この部屋は四方を土壁に囲まれ、そこの小窓もさっきまで蓋されてた上に布で覆われてて蟻の子一匹入る余地も無かった。……唯一、俺たちが入ってきたこの出入り口も事が起きた時、廊下側に俺と慧音先生に
四ツ谷が何を言いたいのか理解した慧音たちは固唾を呑んで彼を見つめる。
その視線を受けて四ツ谷も自身が一番言いたかった疑問を声に出して部屋の中に響かせた。
「……じゃあそいつは、一体何処からふって沸いて現れ、一体何処へ消えた……?」
日が西の山の頂上にくっ付き、日の入りが始まったのを確認した慧音は今回はここでお開きという事で、やや強引に『四隅の怪』を打ち切らせた。
そして妹紅と共に子供たちを家路へと送るために彼女たちと一緒に寺子屋を後にする。
四ツ谷はというと、梳と共に未だ寺子屋の空き部屋の中にいた。
四方の土壁を念入りにぺたぺたと触る。もちろんそこには、人が通り抜けられるような穴所かヒビ一つ入っていない平らな壁がそびえているだけであった。
別の壁を調べていた梳が四ツ谷の元へやって来る。
「四ツ谷さん、やっぱり何もありませんね。普通の壁です」
「うーん、やっぱ隠し扉の類があるわけないか」
四ツ谷が唸りながらそう言った瞬間、
「……当たり前でしょ。何で寺子屋にそんなモンがあるのよ」
唐突に第三者の声がその場に響き、四ツ谷と梳が声のした部屋の出入り口へと目を向ける。
そこには
魔理沙は棒立ちだが霊夢に至っては扉に背中を預けて呆れた目を四ツ谷に向けている。
それを見た四ツ谷は声を上げた。
「……なんだ?お前ら慧音先生らが出た後、帰ったんじゃなかったのか?」
「そうしようかって思ってたんだけどね。ちょっと
霊夢がそう言った瞬間、彼女の目が僅かに細まるのを梳は見た。
そして霊夢の視線を受けた四ツ谷もまた僅かに目を細める。
二人の視線が交差し、その空間だけがほんの一瞬、温度が下がったような感覚をそばで見ていた魔理沙と梳が感じ取っていた。
四ツ谷が僅かに口角を上げて口を開く。
「ヒッヒ。そうか、丁度良い。俺も
そう言って四ツ谷は霊夢に向かって一歩歩み寄り、続けて口を開いた。
「……さっき、お前がこの部屋で起こった事について話してくれたが……俺はお前や
「あら、そう?慧音は半信半疑っぽかったのにアンタは完全に信じてくれるなんてね。……嬉しくはないけど」
「ヒッヒッヒ……だいたい、お前らがそんな嘘言う必要なんて何処にも無いだろう?筋立ては変わっちまったが、結果はこっちの考えてた通りの終わり方だったんだからな。……だが、
そう響いた四ツ谷は一拍置いて、改めて霊夢を見据えて口を開いた。
「……お前、あの時言わなかった事があったんじゃないのか?」
四ツ谷の確信とも言える問いかけに、「チッ」と小さく舌打ちをした霊夢はそっぽを向き、僅かに苦虫を噛み潰したかのような表情になる。
そしてやや険しい目を四ツ谷に向けて霊夢は問いかけ返す。
「……どうして分かったの?」
「ほとんどは勘だが……、お前があの時『
「…………」
霊夢は沈黙する。だが構わず四ツ谷は口を開いた。
「そいつは、
その場に静寂が満ちる。空気が僅かにピリピリする中、霊夢はため息と共に静かに答えを吐いた。
「……あの時この部屋に現れたそいつは、幽霊所か
「ヒッヒ、やっぱそうか。……なら、
どこかスッキリとした表情で四ツ谷がそう響くも、それを見ていた霊夢は冷ややかな目を向けていた。
そして彼女はゆっくりとした足取りで四ツ谷に近づき始める――。
「……私の方も
そう響きながら霊夢は四ツ谷に歩む脚を止める事無く近づいてゆく――。
その手にはいつの間にかお祓い棒が握られていた――。
「……この一件、
次の瞬間、ヒュンと風を切る音が部屋の中に響き渡る。そしてその直後に四ツ谷の首元に霊夢のお祓い棒が押し当てられていた――。
それでも相も変わらず不気味な笑みを浮かべて霊夢を見下ろす四ツ谷。されどその頬から一筋の冷や汗が伝っていた――。
対して霊夢は冷徹な目で四ツ谷を見上げながら、死刑宣告の如く静かに響いた――。
「――……
少々短いですが投稿です。
ちょっと予想外な展開になっちゃいました……。
大筋はできているのですが、この後の展開の帳尻あわせどうしよう……。