四ツ谷文太郎の幻想怪奇語   作:綾辻真

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時系列的には、前々回の『外来人』の直ぐ後の噺となっております。
今回はオリキャラのみの登場だけで、四ツ谷はおろか、東方キャラも一切出てきません。


『蠢く闇』

外の世界のとある森の中――。

月どころか星一つ無い、真っ暗な夜の闇の中で、三つの影が蠢いていた――。

 

「一体何処へ行っていた!?」

 

影の一つが残りの二つの影にそう怒鳴る。

女性の声を発したその声は、白い着物を纏っており、長い黒髪を垂らした頭部には歌舞伎舞台などで見る黒衣(くろご)という役者が着ける頭巾を被っていた。ただし、黒衣が着ける物とは違い、黒ではなく白ではあったが。

そのため、顔は分からないが長身で見た感じ大人の女性と言っても過言ではない体躯をしている。

対する怒鳴られた二人組の影は、まだ子供と言ってもおかしくは無い、少年少女であった。

見た目、双方共に十三、四歳ぐらいの二人で、二卵性の双子であるのか、顔立ちが良く似ていた。

少年の方は、短い白い髪に血を垂らしたかのような真っ赤なやや釣り上がった目の整った顔立ちをしていた。

服は白いシャツに茶色の半ズボンを纏っている。

反対に少女の方は、少年と同じく白髪に赤い目を持った整った顔立ちはしているものの、その髪は足元まで異様に長く垂れ下がっており、前髪も顔半分を覆い隠すのではないかというほど伸びていた。その伸びた髪の間から覗く双眸は、少年と違いタレ眼であり、一見ポヤンとした印象を受ける少女であった。

服は何故かその身体には不釣合いなほど大きな長袖シャツを纏っており、両袖がすっぽりと両手を覆い隠している。少々着崩れも起こしており、首を出している部分は本来の首周りだけでなく、左肩も大きく露になっていた。

また、そのだぼついた服で隠れてはいるが、下には短パンをはいている。

そして、もっとも特徴的だったのが()()()()()()()()であった――。

 

「…………」

 

首に怪我でもしているのか、その白髪の少女は一切声を発する事無く、無表情に頭巾の女性の怒る姿を眺めていた。

その頭巾の女性の怒鳴り声に、少年の方が涼しい顔で答える。

 

「何処って、ちょっとした観光旅行だよ。日本に来るの初めてだしねぇ~」

「馬鹿か!私たちは()()()()なんだぞ!?そんな悠長な事をやっている暇は無い!」

「『私たち』じゃなく、『姐さんは』でしょ?ボクたち日本(ここで)はまだな~んにもやってないもん。……あ、違った。ちょっと前に女の人を一人、()()()()()()()()()っけ?」

 

少年のその言葉に、頭巾の女性がビクリと反応する。

 

「何?殺したのか!?戯けめが!!それで()()()()感づかれたらどうする!?苦労して日本に密入国したというのに、()()逃げ出す羽目になるだろうがッ!!」

 

声を荒げて言う頭巾の女性に対し、白髪の少年はため息を漏らす。

彼の言う崖から突き落とした女性の安否は実質未だ不明ではあったのだが、頭巾の女性の小心的な態度に呆れてそれを報告する事すら頭からすっぽりと抜け落ちてしまっていた。

 

「……そんなに心配する事じゃないでしょ?人間の一人や二人、意図して死ぬ事なんて今のこの時代でも日常茶飯事な光景だよ?そうそう姐さんの言う()()()に気づかれる分け無いじゃない。……って言うか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ヤツが何初っ端から弱腰になってんのさ」

 

呆れた目を向ける少年に、頭巾の女性が声を荒げて反論する。

 

「う、うるさいッ!!お前たちには分からんのだ!!()()()()()の恐ろしさを!!まだ計画も練っていない今、私たちがここにいる事がバレれば確実に殺されてしまうわ!!」

 

そう言って頭巾の女性は踵を返すと、夜の森の奥へと歩み始める。

その背中に少年は声をかける。

 

「ちょっと姐さん。これから何処行くの?」

()()だ。まずは戦力を募る。幸いにも私と同じヤツを怨敵とする同類がそこにいるからな。そいつを味方につけ、戦力を拡大し、ゆくゆくは()()()()()をも凌駕する一大組織を立ち上げるのだッ!!」

 

頭巾の女性がそう言った直後、「ぐっ!」と苦悶の声を漏らし、片手で自身の顔を頭巾越しに抑えて立ち止まった。

 

()()()()……!おのれ見ていろ!()()()()の一族はいずれ全て根絶やしにしてくれるッ……!!そして、()()()()()を倒し、ゆくゆくは私がこの日ノ本の頂点に君臨するのだッ……!!」

 

頭巾の奥にある双眸に、歪んだ執念と復讐心の炎を滾らせ、頭巾の女性は再び歩み始め、森の奥へと消えていく。

一拍遅れて白髪の少年少女も彼女の後を追って、森の中へと消えていった――。




これにて小噺集は終了です。
次回からまた新しい怪談の噺に入っていきます。

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