日本の某山中――。
冬の曇天の下、
時期が時期なら、景色見たさにドライブに来るカップルや家族連れが多く来る場所なのではあるのだが、今は冬場、山中の木々は葉が落ちているモノが多く、しかも天候も良くないためここにやってくる者は多くはいなかった。
そんな展望台の一つにぼんやりと景色を眺めている少女が一人いた。
危険防止のために作られた木製の手すりに両手を添えて景色をぼんやりと眺めているその少女は、
しかし、その顔立ちは驚くほどに整っており、背中まである黒髪をシュシュで二つに分けて束ね、両肩から前に垂らしいた。
陶磁器のような白い肌、そして均整の取れた身体の上から茶色の厚手のダッフルコートに淡いピンクのマフラーとロングスカート、紐無しブーツを纏ったその女性は十人中八割が「美人」と称するほど魅力に満ちていたのである。
だが彼女の心は今現在、絶望と途方に暮れていた。
何故なら少女――
――つい先日、家族を全て失い天涯孤独な身の上となってしまったからだ――。
実家が理髪店という事もあり、自身も理容師になる事を夢見て目指していた梳は、中学卒業後に市内に在る理容美容師専門学校へと入学した。
そして二年の勉学と実技を経て、見事資格免許を取る事に成功したのである。
喜び、これからの未来に夢を膨らませる梳。しかし、それは直ぐに破綻する。
卒業を間近に控えた年明けのある日、両親がドライブ中に事故にあい、そのまま帰らぬ人となってしまったのだ――。
十七歳、それも一人っ子であった梳にはこの衝撃的な事態は身に重すぎた。
両親を失ったという大きな喪失感。そしてこれからその両親と共に理髪師として働くという夢すらも粉々に散ってしまったのだ。
両親の葬式も親戚や近所の人たちに任せっきりで何かをする気力すら湧いてこなかった。
そうこうしている内に葬式が終えた彼女は、行く当ても無くふらりとした足取りで街中を彷徨い歩いた。
家に引きこもっていても胸のうちのもやもやが増すばかりで一向に落ち着かない。ならば外に出て何処かへ行こうと考えたのだ。
行き先など何処でも良い、ただ現実から逃れられるのであればそれで充分であった。
近場の駅から電車を乗り継ぎ、時にはバスやタクシーを使い、彼女は適当に、思うがままにあちこちへ移動していった。
そして、最終的に着いたのがこの山中の展望台であったのだ。
見知らぬ山中の、誰もいない展望台の上から下の景色を眺める梳。
もはや手元にある金銭はわずかな小銭しかなく、帰るための交通費が明らかに不足していた。
ヒッチハイクをしてもここが何処なのかすらも皆目見当がつかない。なにせ滅茶苦茶に移動した果てにたどり着いた場所なのだから当然だと言えた。
自身のスマホも家に忘れて来ており、近場に公衆電話の類も見当たらないため連絡手段も無い。
それ以前に家に帰れたとしてももはや彼女を迎える者は誰一人としていないため、帰ろうという考えすら彼女の頭の中から抜け落ちてしまっていた。
夢も帰る場所も、何かをやろうという気力すらも失い、彼女は曇った眼で虚空を見上げる。
空もまた、彼女の今の心境を映すかのようにどんよりと灰色に曇っていた。
「……いっその事、死んじゃおうかな……」
そうポツリと口から零れる。
別に本気で死にたい訳じゃない。だが絶望の中に放り込まれている今の彼女は、何一つとして未来に希望を見出せないでいたのだ。
この先何が起こり、何ができるのか分からない恐怖と不安。それが彼女の口からそんな言葉を漏らさせていたのである。
「じゃあ死ねば?」
……ドンッ……!
「えっ……?」
唐突に背後から響かれた声と強い衝撃が、思考を止めていた彼女の脳内を一時的に回復する。
何が起こったのか理解するよりも先に、
天と地が目まぐるしく動き回り、次の瞬間、彼女の視界にある光景が目に映る。
それは自分が今し方まで立っていた展望台。そこに二つの小さな人影があった。
視界が急速に動いているため、その人影の詳細な部分はブレてよく見えない。
しかし、その人影のうちの一人がこちらに向けて右手を大きく突き出しているのが僅かに確認できた。
そしてそれは彼女に一つの事実を理解させた。
(あ……私、
そんな事を頭に浮かべながら梳の体は吸い込まれるようにして崖下へと消えて行き、そして同時に彼女の意識を強制的に途絶えさせた――。
「……あれ?肉の潰れる音がしないね」
「…………」
展望台で梳を突き落とした影のうちの一人がそう言い、もう一人は黙ったまま首をかしげた。
声を発した方の影が下を覗き込む。
「崖下の木々に引っかかって勢いが落ちちゃったのかな?それでもこの高さだから普通の人間なら打ち所が悪ければ死んでるはずだし……ちぇ~、あの肉がグシャって潰れる音、ボク好きなになァ~」
「…………」
両手を頭の後ろで組んで残念そうに響く影をもう一つの影が黙ったまま見続けている。
それを気にする風でも無くもう片方の影は一方的に喋り続ける。
「まあ、万が一もしまだ生きてるんだったら、ちゃーんと息の根を止めとかないとね!落ちてる最中に顔見られたかもだし」
「………(コクリ)」
影のその言葉に言葉を発しないもう一人の影は小さく頷くと、二人同時に崖下へと飛び降りた。
そして
そして数分後、崖下の森の中で首を大きくかしげる二つの影があった――。
「あれ~?おっかしいなァ~?
「…………」
崖下に下りた二つの影は、早々に梳の骸を探したのだが、何故かいくら探しても、今し方ここに突き落としたばかりの彼女の身体は影も形も無かったのである――。
「……まさか、あのお姉さん。実はここいらを彷徨う幽霊だったとか……?いやいや、突き飛ばしたあの感触と温もりは明らかに生者のモノだった……。なら、あのお姉さんは一体何処に消えたんだろう……?」
「…………」
黙々と思考にふけりながら喋り続ける影を、首をかしげながらもう一人の影が眺め続けた――。
(…………。……なんだろう?花の匂いがする……)
自身の肌を優しく撫でる風の感触と、鼻をくすぐる花の匂いに、梳の意識は急速に覚醒されてゆく。
ゆっくりと目が見開かれ一瞬の光と共に視界が鮮明に蘇る。そして梳の目は眼前の光景を映し出した。
(彼岸花……?)
視界いっぱいに広がる彼岸花の群れに梳は目を大きく見開き、倒れていた自身の体を起こした。
森の中、辺り一面に彼岸花が咲き誇り、彼女はその真ん中に倒れていたのである。
「こんなにたくさん……あれ?でも彼岸花ってこの時期咲かないはず……」
梳の言うとおり、彼岸花は夏の終りから秋の初めの間までに咲くため、年明けのこの時期に咲くのは大いに不自然であった――。
首をかしげる梳であったが、それよりももっと重大な事を思い出す。
(あれ……?待って。それよりもどうして私こんな所に……。!……そ、そうだ、私誰かに展望台から突き落とされて……!)
急速に記憶が覚醒していき、自身が今し方殺されそうになってたのを思い出す梳。
慌てて自分の体を確認するも、何故か自分の身体には傷はおろか服に汚れの一つも見当たらなかった。
何故?あの高さから落ちたというのに、木々の枝で落下速度が弱まって運よく助かったのだとしたらギリギリ納得はいくものの、傷はおろか服に破れや汚れが一切無いのは明らかに異常であった。
不思議に思いながら梳は、自身が落ちてきた背後の崖を見ようと振り向き――。
「!?」
直後に目を見開いて固まってしまう。
先程自分が突き落とされたはずの崖が綺麗さっぱり消え失せていたのである。
「嘘……何で……?」
何が起こっているのかまるで分からず、梳はオロオロと辺りを見渡した。
そしてある一点で視界が止まる。
「何あれ……。紫の……桜……?」
梳の眼に留まったのは大きな桜の巨木であった――。
ただの桜の木ならあまり気にも留めなかったであろうが、その気は明らかにおかしかった。
何故なら桜が咲くにはあまりにも早すぎるこの時期に、既に満開になっており、しかも咲いている花は不気味なほど濃い紫色に彩っていたのだから――。
しかもそれだけに留まらず、更なる光景が彼女を驚愕させる。
「人……魂……?」
その桜の木の下に青白い火の玉が宙を漂っていた。それも一つや二つではなく無数に。
それは明らかに現実離れした光景であったが、まず間違いなくたくさんの人魂であると、梳はぼんやりと理解した。
その瞬間、満開だった桜の花が急速に散り始める。何が起こったのか分からぬまま梳はその光景を見続けた。
そして花が完全に散った瞬間、桜の木に集まっていた多くの人魂が一斉に動き出した。
ある方向へと一斉に向かいだす無数の魂たち。しかしそのいくつかが梳の姿に気づいたのか、ふわりふわりとした動きで彼女に近づいてきた。
「あ……あぁ……!」
それを見た梳の中で急速に恐怖が支配する。あの人魂たちは自分に取りつく、もしくは一緒にあの世へと連れて行こうとしているのではないかと、そんな考えが頭をよぎったからだ。
梳は慌てて立ち上がると、おぼつかない足取りで必死に人魂たちから逃げ出した。
全速力で走って。走って。走り続ける――。
そして体力を使い切った瞬間、彼女は再び地面に倒れた。
そこは先程いた彼岸花の場所から然程遠くない森の中であった。
呼吸を整えながら、梳は頭の中を必死になって整理する。
(一体……一体何が起きてるの……?崖から誰かに突き落とされたかと思ったら、次の瞬間には
考えれば考える程に今の現状が理解できなくなっていく梳。
とにかく一刻も早くこの場を離れようと、疲れ切った身体に鞭打って上体を起こし――。
――赤い眼と眼が合った――。
森の奥、木々で薄暗くなっている場所にソレらはいた――。
梳を見つめる無数の眼光。それらが一斉に梳に突き刺さり、彼女を射すくめる。
だが梳自身、それだけが彼女の動きを封じた理由ではなかった。
見てしまったのだ。
四足歩行の獣のようなモノ。二足歩行だがその頭部が異常に巨大なモノ。上半身は人間の姿ではあるが、下半身はムカデの様に無数の脚が生えたモノなど。その姿はどれも、人間や梳が図鑑等で知っている動物たちとは程遠い、明らかに未知の異形としか見て取れないモノたちばかりであった。
これが特撮などの特殊メイクによるものならどれ程良かった事だろう。
もしそうであるのなら、これを行った人は世界でも頂点に位置するメイクアーティストとして名が知れ渡っていただろう。
しかし、それらを見た梳は直感的に理解していた。
――こいつらは、
「……あ、あぁぁ……!」
恐怖で腰が抜ける。
気づけば梳は完全にそのモノたちに取り囲まれていた。
木々の間からその身を現したそのモノたちは、サメの様な歯をむき出しにして、涎を垂らしながら、梳の全身を舐めるように視線を這わした。
梳もそれに気づくも、それが決して性的な欲求から来るモノではない事を直ぐに理解する。
何故なら目の前にいるモノたちは明らかに自分を『女』としてではなく、『食べ物』として喰おうとしている眼をしていたからだ。
「ヒッ……!?」
小さな悲鳴を上げて梳は逃げようとするも、身体は全く言う事を聞かない。
身をよじるばかりでその場から全然動けずにいた。
いつの間にか彼女の顔は涙でグシャグシャに濡れ、ガクガクと身体が震えていた。
次の瞬間、周りにいたモノたちは「もう我慢できない」とばかりに一斉に梳に飛び掛っていった。
その動きが梳にはスローモーションのように映る。
(あ……私、死ぬんだ……。こいつらに食い殺されて……)
恐怖の感情が振り切れたのか、この時の梳の頭の中は不思議とクリアになっていた。
スローモーションに自身に襲い掛かってくるそのモノたちを、梳はまるで他人事のようにぼんやりと見つめ続ける。
もう恐怖は感じない。考えて見ればこれは丁度良い機会だ。一度は自身の『死』を口にした身だ。食い殺されようが何だろうが、死は死だ。何の変わりも無い。一瞬の内に全てが終わるだろう。
……ならば何故自分は今もその眼から涙を流している?
いやそれだけではない、たった今までこいつらに恐怖を感じ、逃げようとまでしていたではないか。
何故、死を拒絶するような行動を取った?
自問自答を繰り返す梳の視界いっぱいに、異形の手が接近する。そして次の瞬間――。
――スパパパパパァァン……!!!
まるでハリセンで連続で引っ叩かれたかのような乾いた音が響き渡り、同時に梳に襲い掛かろうとしていたモノたちは四方八方へ吹き飛ばされていたのである。
今し方まで自身を食べようとしていたモノたちが、次の瞬間には大きく吹き飛ばされ倒れている姿に、梳は何が起こったのか分からず、ただただ呆然と座り込む。
そんな彼女の直ぐ隣から呆れたような声が響いた。
「全くあんたたちは!師匠のおかげで人間を食べずにいられるようになったのに、また食べたくなったりしたの?」
その声に梳が眼を向けると、そこには自分と同年代くらいの少女が畳んだ大きな赤い傘を肩に担いで仁王立ちに立っている姿が眼に映った。
白と水色を基調とした洋服に同じく水色の短い髪、そして特徴的な赤と水色のオッドアイの瞳を持ったその少女は呆れた顔で周囲のモノたちに声を上げる。
「悪いけど、あんたたちの食事はお預け。見つけてしまった以上、この人は
パンパンと両手を叩いてそう言う少女に、周囲の異形のモノたちは渋々と言った
ポツンと一人残された梳は思考が追いつかないまま、隣に立つ少女をただただ見上げ続けた。
時間はほんの少し前に
大晦日の夜に、人里の広場で会った『香霖堂』の店主、森近との約束でその日、四ツ谷と四ツ谷会館の面々は、揃って店の大掃除のために訪れていた。
そして数時間をかけて店と商品の掃除を終えた四ツ谷たちに、森近が最後にこう頼んできたのだ。
『すまない。この後新しい商品を仕入れたいから、無縁塚まで一緒に同行しては貰えないだろうか?』
その仕事が最後という事もあり、店番を薊と折り畳み入道、そしてその店の従業員である鳥妖怪の娘に任せ、四ツ谷たちは森近と共にリヤカーを押しながら、徒歩で無縁塚まで向かう。
無縁塚は幻想郷を囲む博麗大結界で唯一綻びのある場所であり、そこから別世界へ繋がる事や外の世界の物が落ちて来る事が多い所でもあった――。
そして森近は、そんな無縁塚から落ちてくる物を商品として拾い、店に並べていたりもしていた。
金小僧がリヤカーを引き、残った四ツ谷と小傘、森近の三人は先導するかのように歩き、無縁塚を目指す。
この仕事でようやく終りだと四ツ谷がそう思っていた矢先、ふいに隣を歩いていた小傘の脚が止まる。
「……?どうした、小傘」
「……師匠、この先で妖怪たちが集まってきています。しかもそいつらが何かを囲うように……囲っているのは、これは……。!……人間!?」
「何?」
気配を察した小傘のその言葉に、四ツ谷は被っている中折れ帽を片手で押さえると、瞬時に黙考する。
見ず知らずの人間を助ける気は全然無いが、これから行く先の道端に食い千切られて転がっている死体を見るなど、正直目覚めが悪い。
それ故、四ツ谷は直ぐに小傘に指示を出す。
「小傘、行けっ!」
「ハッ!!」
瞬間、小傘の身体は弾丸のような速さで道の向こうへと飛び出して行った――。
「あなた、大丈夫――!?」
妖怪たちを追い払い、一息ついた小傘は、隣に座り込む少女に声をかけ――直ぐに少女の
「……?」
小傘の突然の様子の変化に、少女――梳はお礼を言うのも忘れて、どうしたのかと首をかしげる。
それと同時に、道の向こうから男の声が響いてきた。
「おーい!小傘ー!大丈夫かー?もうそっちに行って良いかー?」
その声を聞いた小傘が慌ててそれに答える。
「だ、ダメです師匠!もうちょっとだけ森近さんと金小僧と一緒にそこで待っていてくださいー!」
「あん?何でだー?もう妖怪どもは追い払ったんだろー?」
「そ、そうなんですけど……!助けた人間が女の子で!あの……よっぽど怖かったのか……その……ちょっと……そ、
真っ赤になって小傘がそう言った瞬間、道の向こうで「「「えっ!?」」」と三人の男性の声が同時に響き、同じく梳も「えっ!?」と慌てて視線を下へと向けた。
見ると小傘の言うとおり、いつの間にか梳を中心に小さな水溜りができてしまっていた。
そしてこの時になってようやく梳は、下半身から感じる、湿った温もりを意識する事となったのである。
「…………」
「あー、その、えーっとぉ……。し、仕方ないよ。あんなにいっぱい妖怪に囲まれてちゃあ、人間なら失禁の一つや二つしちゃってもおかしくないだろうし……。そ、それにほら!結果的に助かったんだから、これくらいの事、命に比べれば安い代償じゃないかなー?なんて……は、ハハハッ……!」
何とか梳にフォローを入れようとする小傘であったが、自身もその妖怪の一人なためあまり下手な事が言えず、終いには乾いた誤魔化し笑いを浮かべる始末。
対して梳は、そんな小傘の言葉は一切頭の中に入らず、ただジッと虚空を見続けていた。
その時、彼女の心の大半を占めていたのは、下腹部を濡らした事へのショックや、はたまた得体の知れない魑魅魍魎に食い殺されそうになった事へのショックから来る絶望でもなんでもなかった。
今彼女の胸のうちに飛来していたのは――深く、大きな『安堵感』であった――。
まだ終わっていない、自分はまだ生存している。そんな思いが今彼女の中を大きくグルグルと渦巻いていたのだ。
自然と再び、梳のその双眸から涙がとめどなく流れ落ちてゆく――。
「!……ちょっとあなた、大丈夫!?どこか怪我とかしたの!?」
それに気づいた小傘が覗き込むようにして梳にそう声をかけるも、梳はそれに答える事も無くただ涙を流し続ける。
今にして、殺されかけて梳はようやく理解したのだ。
自分は死にたかったわけじゃない、ただ
両親の死、そして自身の夢が打ち壊されたという非常な現実から――。
失って空っぽになっていたはずの自分の中から感情が溢れてくる。
どれほど何かをなくしても、どれほど夢を打ち砕かれようと、自分は己が人生だけはまだ幕引きにはしたくなかったのだ――。
それは先程、襲われていた時にも感じていたし、今下半身に感じる湿った感触も決して不快とは思えず、ただただ自分がまだ生きている事への証明になっていると、嬉しささえこみ上げて来くるのであった。
(あぁ……、私、まだ生きたかったんだ……)
それを悟った瞬間、梳の中の感情の渦が決壊する。
両親を失い、夢を失った悲しみ、怒り、絶望、喪失感……そのほかの様々な感情が混ざり合い、爆発し、彼女の双眸と口から、一気に解き放たれたのだ。
「……あ、あア゛ア゛ア゛ァァァァァーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!」
曇天の下、その空へと轟渡るようにして、家族を失った少女の慟哭が大きく木霊した――。
今回は結構長くなりました。
その分、達成感もあってだいぶ満足感もあります。
そして今回は、レギュラー予定であるオリキャラ登場回でもありました。