四ツ谷たちは怪しい動きをする天狗たちを発見するが、一緒にマミゾウたちにも発見されてしまう。
「気を落とさないで下さい、聖」
「ええ……、ですが、さすがに二度も同じ事が起きればこうなってしまって当たり前です……」
命蓮寺の客室にしょんぼりとうな垂れる白蓮を慰める星の姿があった。
その周りには他にもマミゾウやぬえ、村紗、一輪や入道。射命丸にその部下である三人の天狗たち、そして四ツ谷と小傘、折り畳み入道などの姿があった。
先程白蓮は、老婆の親族たちからここでの葬式を中止して人里の実家で家族葬にすると言われたのだ。
一度やならず二度までも老婆が踊りだすという光景を目撃した親族たちはこの寺自体を気味悪がりそう申し出を出してきたのである。
暗い顔で俯く白蓮を尻目にマミゾウは目の前に座る射命丸に口を開く。
「今ぬえがこの部屋の周囲に『人除け』と『音漏れ遮断』のための結界を張っておる。それが終わり次第、お主らが影で何をやっていたのか全て吐いてもらうぞ」
「ええわかってますよ。ここまで来た以上、私どもも逃げも隠れもいたしませんから」
両手をひらひらと振って射命丸がそう言った直後、タイミングを見計らったかのように、客室にぬえが入ってきた。
「マミゾウ。結界を張り終えたよ~」
「そうか。……さて、それじゃあ始めるとしようかのぅ」
マミゾウの隣にぬえが座ったと同時に、マミゾウがそう言い、改めて射命丸の方へと向き直った。
その瞬間部屋全体の空気が重くなるのをその場にいた全員が感じ取る。
まるで外界の取調室を思わせるような雰囲気の中、マミゾウはゆっくりと射命丸に問いかけ始めた。
「……単刀直入に聞くぞ鴉天狗。あの『踊るしかばね』を起こしたのは貴様らか?」
「本当に直球ですね。もう少し遠まわしに聞いてくるかと思いましたよ」
「残念じゃが、ワシ自身今回のことには少しばかり内心イライラしておってのぅ。居候しているこの寺に騒ぎを起こし、評判を落とすという行為に重ね、その住職に傷心を与えたこの一件を何としても早急に解決し、その元凶を断罪したいと思うておる」
淡々とそう言いながら懐から取り出した
そのマミゾウの様子には射命丸もいち早く気付いており、ため息交じりに答える。
「ハア……わかりました。わかりましたよ。答えますので一端怒りを静めてください。……先程の質問の答えですが、答えは――『
「ほぅ……ならば何故、子飼いの天狗どもをこの寺に潜ませていた?」
「それについては少々長い話になりますが、よろしいですか……?」
マミゾウのその問いかけに、射命丸がそう答る。
最後の『よろしいですか』という言葉をこの場にいる全員に投げかけているらしく、射命丸は部屋全体に視線を送っていた。
そこへ三人の天狗のうちの一人が声を上げる。
「射命丸様。よろしいので?」
「こうなってしまった以上、もうどうしようもないでしょう。……天魔様からは私が直接説明します」
「『天魔』?……今回の一件は天狗の総大将も関与しているのか?」
思わぬ所で天狗社会の頂点に立つ存在の名を聞き、四ツ谷は射命丸に問い詰めた。
それに対し射命丸は四ツ谷をやや疫病神でも見るかのような目で見るもそれに答える。
「ええそうですよ。この寺の潜入捜査だって天魔様直々の指令だったんですよ。それなのにあなたたちが絡んできたせいで、数年にも及ぶ潜入捜査が全部パーになってしまいましたよ。どうしてくれるんですか」
「ヒッヒッヒ。そりゃあ悪かったな。お詫びと言っちゃなんだが、その潜入捜査とやらも微力ながら協力してやるよ。だからほら、さっさと全部話しな♪」
「清々しいほどに自己中心的でずうずうしい……。私としては『これ以上何もせずに引っ込んでいやがれ』と言いたい所なんですけどねぇ、まったく……」
最後に大きくため息をついた射命丸は再びマミゾウたちに向き直り、自分たち天狗たちが今抱えている一件、その一部始終を静かに語り始めた――。
「――始まりは数年前……ある異変、いえ『一件』でしょうか……?それの解決の為に霊夢さんや魔理沙さんたちが動いていたちょうどその頃……我々天狗の里でも天狗社会を揺るがすほどの一件が、もう一つ起こっていたんです……」
「天狗の里で……?一体何が?」
村紗がそう質問し、射命丸が簡潔に答えた。
「盗難事件です。……それも天魔様が直接預かり、管理していた『鬼の宝』の一つが……」
「えっ!?」
射命丸の言葉に思わず小傘が声を漏らす。周囲の者たちも大なり小なりそれなりに驚愕していた。
それに構わず、射命丸は話を続ける。
「……賊は全身黒装束の二人組。日が沈んでからの夜の犯行でした。天狗の里の近くの森に火を放ち、山火事を起こして天狗たちの注意を一点に集中させられ、警戒網を潜り抜けられてしまいました。幸いにも火事はボヤ程度で消す事はできましたが、奴らはまんまと里の中心部――天魔様の屋敷にまで入り込んだのです……。しかも運が悪い事に、その時天魔様は外出中で屋敷所か里にもいませんでした。……奴らは山火事で警戒が薄くなった天魔様の屋敷に悠々と入り込み、宝物庫から鬼の宝を……!」
そこまで言った射命丸は両手をぎゅっと力強く握り、口の端を大きく歪めて見せた。
どうやらその一件は彼女にとっても痛恨の極みだったらしく、心底悔しそうな様子がありありと見て取れた。
だがすぐさま射命丸は顔を真顔に戻し話を継続する。
「……ですが屋敷の周辺を警護していた
そこで沈黙が訪れ、数秒間耳が痛くなるような静寂が訪れる。しかし再び射命丸が口を開いた。
「……私たちはすぐさま捜索隊を編成し、幻想郷じゅうに何人もの天狗たちを放ちました。『他の有力者たち』を刺激しないように密かに、それでいて火急に……。しかし、多くの天狗たちを導入した努力も空しく、ついに賊の足取りを掴むことはできませんでした……」
これで話は全てだと言わんばかりに、射命丸は小さなため息と共に口を閉ざした。
代わりにマミゾウが口を開く。
「……なるほどのぅ。天狗の里でそんなことが起こっていたとは……しかしな鴉天狗、それと今回の一件、どう関係あるのじゃ?話を聞く限りじゃ
それにすぐさま射命丸が静かに答えた。
「……実は探索中、一度だけ哨戒天狗の一人が賊の一人を発見したのです。すぐさま追いかけたようですが、後一歩の所で逃げられてしまい、結局捕まえる事ができませんでした。……その背格好や服装が里に侵入した賊とぴったり一致したため、まず間違いなく探している賊の一人だと確定したのです」
「だから、それと私たちと何の関係が――」
「――
いまいち話が見えないことに苛立ちを覚えたぬえが射命丸に食って掛かるも、それに上乗せするように射命丸が右手の人差し指を下に向け、言葉を重ねた。
一瞬の沈黙後、今度は村紗が口を開く。
「ここ……?」
「ええ……、その哨戒天狗が賊を発見した場所がこの命蓮寺なのです。……いえ、正確に言えば――」
「――
射命丸がそう響き、また数秒の沈黙が訪れるも、今度は村紗が射命丸に食って掛かった。
「……だ、だから何だって言うのさ。命蓮寺が建つ前のこの場所でそいつを発見したからって私たちには何の関係も――」
だが、そこでマミゾウが待ったをかけた。
「待て村紗。鴉天狗、お主最初こう言ったな?『霊夢たちが動いていた一件と同じ時に起こっていた一件』だと……もしや霊夢たちが追っていた方の一件と言うのは……」
マミゾウの言葉にその予想が正しいと言いたげに、射命丸は力強く頷いて口を開いた。
「そう……あなたの想像通り。それはあなたたち命蓮寺組がそこの住職さんの封印を解くために起こした一件――」
「――『
射命丸のその言葉に、周囲の者たち……特に命蓮寺の者たちは驚愕に目を見開く。
それに構わず、射命丸はまくし立てるように早口で言葉を紡ぐ。
「可笑しいとは思いませんか?あなたたちが起こした異変とほぼ同時期に私どもの里で盗難事件が起きた。しかも最後にここで発見された賊の姿は
命蓮寺組は何も答えず沈黙を通す。それに構わず射命丸は続けて口を開いた。
「空き地だったこの場所にこの寺が建ったからですよ。しかも
「ち、違います!私たちがこの場所に寺を建てたのは――」
反論しようとした白蓮が身を乗り出すもそれを射命丸が左手で静止、続けて言う。
「ええ知ってますよ?この地下深くに眠っていた『
「そんな……」
射命丸のその言葉に、白蓮はペタンと腰を落とし、再び俯いた。
それに入れ替わるようにして険しい目つきをしたマミゾウが射命丸に問いかける。
「……それで?お主らはこれから一体どうするつもりじゃ?まさか
「……ぶっちゃけると最悪それも考えています。あの里での一件は私たちにとって拭いがたき汚点となりました。あの時盗まれた『鬼の宝』は伊吹様の物でしてね……。盗まれて意気消沈する伊吹様の前で天魔様がなりふり構わず必死に土下座をして謝罪していた光景が今でもこの目に焼きついてます。我々天狗のプライドをここまでズタズタにしたあの賊どもは決して許すわけにはいきません……!そして、もしその賊どもにあなたたち命蓮寺組が加担しているのだったら――」
「――私どもは喜んで
感情が抜け落ちたかのような真顔で怒りのオーラを放ちながら、射命丸はそう言いきって見せる。
それに負けじとマミゾウとぬえも殺気を放ち、射命丸を威嚇した。
バチバチと双方の間で火花が散る中、そのわきから星が割って入る。
「待て鴉天狗。確かにお前の話を聞く限りだと私たちは怪しまれても仕方ないかもしれない。しかし、お前の言ったことはまだ全て『状況証拠』に過ぎない。全面戦争をするには軽率だとは思わないか?それに話の内容が入れ替わっている。本題はお前たちが『踊るしかばね』を行った張本人かどうかだ。お前は『否』と言ったが、完全に『白』だと証明できる証拠はここにはあるまい?」
「あー、そのことなんだがなぁ……」
星がそう言った瞬間、場違いなほど気だるげな口調で手を上げる男が口を開いた。
それと同時にその場にいた全員がその男――四ツ谷文太郎に視線が集中する。
四ツ谷は周囲の視線を受けても全く動じることなく、あぐらの上に頬杖をついて意見を口にする――。
「……俺はな、話を聞く限りだとその数年前の盗難事件と、今回起こった『踊るしかばね』の一件は――二つとも
「ほぉ……?」
全員が目を丸くする中、四ツ谷のその言葉に興味を示したのか、マミゾウが四ツ谷へと問いかける。
「して、そう思う理由はあるのかのぅ?」
「あぁ……最初に起こった盗難事件は山火事を使って警戒網を薄くしての犯行だったんだろ?そして今回の『踊るしかばね』は老婆が踊りだしたことで周囲はそれに釘付けとなった……」
四ツ谷のその言葉に、その場にいた何人かがハッとなる。
それに気付いてか、四ツ谷はニンマリと不気味に笑いながら続けて口を開いた――。
「……周りの注意を別の所に逸らし、その隙に犯行を行う……。手口がよく似てると思わねーか……?」
昨日に引き続き、最新話投稿です。
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