夜明けと共に起きた私は、外に出て朝の空気を一杯に吸い込んだ。
今日もいい天気。今日も気合を入れて家事仕事にはげまないと。
それに今日は
だから今晩は気合を入れた料理を作らないとね。
いつもどおり清一郎さんを送り出した後、私は
一週間前と同じく、鈴奈庵に来た私を小鈴ちゃんは迎え入れてくれた。
「あ、いらっしゃいませー!真澄さん!お久しぶりです!」
「久しぶり、小鈴ちゃん。本返しに来たわよ」
「はい、ありがとうございます!え~と……はい、全冊返却、確かに受け取らせてもらいました!」
「……それじゃあ、私はこれで」
そう言って踵を返して店を出ようとする私に、小鈴ちゃんは「え?」と声を漏らす。
振り返ってもう一度彼女を見ると、目をパチクリと見開いて驚いていた。
首をかしげて私は小鈴ちゃんに口を開いた。
「?どうしたの?」
「あ、いえ……今日は別の本をお借りにならないのかと思いまして……」
「あー、ごめんね。今日は私にとって特別な日なの。だから急いで準備しないと……」
「特別な日?」
「ええ、そうなの。本を借りるのはまた今度にするわ。じゃあね!」
そう言い残して私は鈴奈庵から出て行った。
「……この間いなくなったウチの鶏、まだ見つからなくて……」
「まあそうですの?ウチの飼っていた猫も昨日からどこにもいなくって……何か心当たりありませんか?」
「いいえ……。そう言えばウチの隣のおじいさんが飼っていた犬もいなくなったんですって」
「本当ですの?……いやだわぁ、まさか妖怪の仕業じゃ……」
「巫女様に相談したほうがいいのかしら……?」
家路に向かう途中、近所の奥様方の会話が耳に飛び込んでくる。
私はそれに聞き耳を立てながら、静かに自宅の玄関をくぐった。
そして奥の間にいた清太に向かって微笑みながら祝福の言葉をつむいだ――。
「――おかえり、清太……」
その夜、私は奮発して晩御飯を豪華なものにした。
いつもならそうそう食べられない料理がお膳の上に乗せられる。うん、我ながら豪勢ね。
そうこうしている内に清一郎さんが帰ってきた。
疲れて帰ってきた清一郎さんを私は彼のお膳の前に座らせる。
「お、今日は偉く豪勢だな」
「そりゃそうよ。何てったって私たちの最愛の息子の誕生日ですもの。財布の紐も緩むわ」
「……そうだな」
「うふふ!それじゃあ三人で一緒に食べましょう!待ってて、今清太呼んでくるから!」
そう言って私は隣の部屋にいる清太を呼びに、その襖を開ける。
清太は私がこの日のために新しく買った着物を纏ってそこに立っていた。
私は清太の手を取って微笑みかける。
「さぁ清太。晩御飯よ、一緒に食べましょう?」
「うん!」
「ふふふっ、清太その着物、すっごく似合うわよ?」
「ありがとうお母さん!」
満面の笑みを浮かべる清太。そんな清太を見て私は再び笑いかけると清太の手を取って清一郎さんの待つ隣の居間へ向かおうとし――。
ガシャアンッ!!!
唐突に何かが割れる壮大な音が響き、私は何事かと音のした居間のほうへ振り返った。
するとそこで待っているはずの清一郎さんの姿が何処にも無く、盛大にひっくり返され、料理と食器の破片が散らばった彼のお膳だけが転がっているだけであった。
その光景に呆然となった私だが、直ぐに別の音が響きハッとなる。
玄関の戸が乱暴に開け放たれる音と、誰かが玄関から外に飛び出す足音が聞こえたのだ。
「あなた!?」
私は慌てて玄関に向かう。しかしそこで見たのは大きく開かれた玄関の戸とそこからのぞく墨汁を垂らしたかのような真っ暗な夜の闇だけであった――。