四ツ谷はやってきた子供たちに怪談を語る。
だがその近くになにやら怪しい影が忍び寄っていた――。
「おい、何度言ったら分かりやがる!!こんな簡単な作業すらできないのかてめえは!?」
「う、うるさいぞ下民風情が!!俺を誰だと思ってんだ!?」
「あん!?お前は
とある商店の中、そこでその店の店主とそこで雇われた日雇いの男が言い争っていた――。
三十代前半と思われるその日雇いの男は、仕事でその商店を訪れ、働き出したのだが、働き始めて半日も立たずして
しかもその日雇いの男は、明らかな自分のミスであるにもかかわらず、常に上から目線で店主に乱暴な言葉を吐き出す。
少しの間不毛な言い争いが続いたが、ついに店主のほうがキレた。
「もういい、お前はクビだ!!とっとと出て行きやがれ!!二度とウチの
「ケッ!!言われなくてもこんな品の無い貧乏店なんぞ二度と来るか!!」
売り言葉に買い言葉。お互いに暴言を吐き散らすと、日雇いの男は大股で商店から出て行った――。
この日雇いの男、名は
――金貸し半兵衛の……
半兵衛の一人息子として生まれた庄三は、半兵衛とその周囲の人間によってこれでもかと言うほど甘やかされて育った。
寺子屋にも通わず、常に豪華な屋敷の中で最低限の教育だけを学んで、後は遊び呆けるという毎日を送っていたのである。
そんな教育とも言えない教育を受けて成長すれば、自然と一般人では手に負えないドラ息子になってしまうのは当然の帰結と言えた。
思春期に突入した頃、彼は屋敷に奉公に来ていた一人の女中に手を出した――。
初めて味わった人間の三大欲求の一つ、その快楽を骨の髄までたっぷりと楽しむと、もう彼は
初体験で味を占めた彼は、その日から目に付く若い女性に片っ端から手を出していく。
時には誘導的に、時には無理矢理、女性たちを己が毒牙にかけていった。
配下の者を使い、拉致同然に若い娘を屋敷に連れ込んで暴力を持ってその身を支配した事も数え切れないほどあった。
繁華街にある女郎屋の常連にもなり、そこの女たちと連日連夜、朝から晩まで
当然、地獄のどん底に叩き落し、泣かせた女は数知れず。その中には彼の子を身篭った娘も多くいた。
その子を盾に被害者女性たちから訴えられた事も多く、被害者女性たちの家族も連れて屋敷に押しかけられた事もあった。
そこでその子たちの教育費と無理矢理手を出した女性たちへ慰謝料を払う広い度量があれば、まだ少しは彼を見直す事ができたかもしれないが――。
――彼はどこまでも冷酷非情であった。
人里一番の稗田家ほどではないが、それでも高い財力と権力を持つ半兵衛の息子故、その力を利用して被害者たちの悲痛な訴えを闇に葬り去る事ぐらい簡単な事であった。
時に大金を押し付けて黙らせ、それでも受け取ろうとしない女性たちは配下を使って人知れずその身に宿す子供共々
中には事故を装って子供だけを
庄三の背後にいる強大な有力者――半兵衛の存在に被害者の娘たちとその家族たちは次第に戦う気力を失い、泣き寝入りする日々を送っていた。
それに気付いた稗田家と寺子屋の教師である慧音が血相変えて屋敷に乗り込み、半兵衛を通して庄三にもう二度とこんな事をおこさないよう厳重注意をしたが、半兵衛同様、庄三も口約束だけでまるで反省の色を見せなかった。
そんな女にだらしのない庄三だが、意外と小物じみた所があった。
それは人里内の自分の家よりも格下の家の者、それも何の能力も持たない非力な女性ばかりに狙いを定めている所であった。
この幻想郷には人外とは言え、美人の枠内に入る女性たちがたくさん住んではいるものの、そのほとんどが強力な自衛の術を持つ者ばかりである、それ故彼は
したがって、同じ人間である霊夢や魔理沙、人里で一番の美人と歌われる慧音や権力的に位の高い稗田の娘とその仲の良い
まあ、歯がゆい思いをしていた彼であるが、それでも毎日のように他の娘たちに手を出していたのでその気持ちを埋めなおす事ができてはいたのだが……。
そんな彼に歪んだ運命の出会いが訪れた――。
いつもの如く、女郎屋からの朝帰りで屋敷に戻った庄三は、門前で自分の父、半兵衛と話している母娘に目を奪われた。
少し病弱そうではあるが、美人に入る母親もそうであったが、それ以上に庄三の眼が行ったのは娘のほうであった。
烏の濡れ羽色と言える艶やかな黒髪、まだ幼さは残るものの整った顔に陶磁器のような白く滑らかな肌を少女は持っていた。
歳は十代中頃、背は低くまだ子供っぽさが抜け切れていないその顔立ちとは反比例して、身体は大人である事を着物の上からでも強調していた。
少し動くだけで着物を突き破って来るのではないかと思える豊満で美しい曲線を描く胸。それとは逆に帯で隠れてはいるものの、驚くほどほっそりとしたウェストのくびれ。そして胸ほどではないにしろ、一目で安産型と分かるふっくらとした尻周り。太すぎず、かと言って細すぎない年齢に似合わないその均整の取れた抜群のプロポーションが幼さの残る顔立ちと合わさって可憐でありながらも妖艶な美しさを全身から滲み出していた。
その穢れを全く知らないと感じさせるあどけなさと、隠し切れない色香を纏う美少女――薊を見て、庄三は無意識に舌なめずりをする。
これほどの
それと同時に半兵衛と薊の母親の会話に耳をそばだてた。
話の内容は庄三には聞きなれたもので、借金返済日の延長を頼み込むモノであった。
それを聞いた庄三はニヤリと笑う。
これをネタにして薊に
彼には彼女をさらって無理矢理という手もあったのだが、反抗されたら手がかかりそうな上、彼女ほどの上玉はじっくりと味わいたいという欲望もあったため、それを没にしたのだ。
薊と母親が帰った後、庄三は父半兵衛に彼女たちの自宅の場所を聞きだした。
聞いて直ぐ向かいたい衝動に駆られたが、今の自分は朝帰りで、体力的にも気力的にもそんな余裕が無かった。
寝所に飛び込んで熟睡した後、夕方近くになってようやく起き、その脚で薊の家へ訪れた。
彼にとっては残念な事に、その時薊は外出中だったが、代わりに家にいた母親に「薊に俺から親父に借金の事で口添えしてやってもいいぞ?」という伝言を薊に伝えるように
もちろん彼自身は借金の解決をするつもりはさらさら無く、この伝言の内容も裏を返せば「俺から親父に相談してやるから、代わりに俺のモノになれ」というものであった。
気が速い事にこれで薊は自分のものになると既に確信し、ウキウキとした顔で家に帰る庄三であったが、この時薊の母親はこの伝言を薊に話すつもりは無かった。
彼女は庄三の悪行を噂で耳にしていたため、庄三がどういうつもりでこの伝言を薊に伝えるように言ったのか、その企みが丸分かりだったのである。
それ故、薊にはこの伝言の事は伝わらずじまいであった――。
数日立っても何の音沙汰も無い事に少し訝しむ庄三であったが、薊が自分のモノになることは決まっていると思っていたため、気長に待つ事を考え、その間は女郎屋巡りをして女遊びに現を抜かしたのだった――。
ちょうどその頃からであった……人里に『妖怪、金小僧』の噂が広まりだしたのは――。
今回のオリジナルキャラクター兼悪役、庄三の話です。
これは前編で次後編上げます。