四ツ谷文太郎の幻想怪奇語   作:綾辻真

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第三幕の続編です。
この話で折り畳み入道の物語が完全完結します。


第三幕 続・折り畳み入道
其ノ一


トンテンカンカンコンコントン……!

 

夏祭りが終わって数日後、人里の端っこ、田畑に近い所に四ツ谷と彼が率いる者たちのための新たな拠点作りが開始された。

土地をならし、土台を作り、柱を立ててと着々と工事が進行していく。

それを四ツ谷と小傘、そして薊はボーッとした表情で眺めていた。

小傘が口を開いた。

 

「この調子なら冬までには完成しそうですね。いや~どんなのができるんだろ。楽しみですね~」

「なんでも外の世界で言う多目的施設……いわゆる体育館みたいな所に生活設備を備えた建物を作るらしい……俺が怪談を行うためのでっかい舞台も作るらしいぞ?」

「そうなんですか?……でもそれだけ大規模な施設を作るのでしたらなおさら何もしないのは心苦しいですね」

 

四ツ谷のその言葉に、薊は俯きがちにそう答える。が、それにすぐさま四ツ谷は返す。

 

「まあ差し入れもしなきゃならんが……それ以前に何もしないって事はないんだぞ薊。これでも一応、建設費用はこっち持ちになってんだからな」

「え、そうなんですか?」

「ああ。まあ俺らには金小僧の能力があるから特に問題は無いんだがな」

「あー、そうですね。……そう言えば今思い出しましたけど、先日の宴会での霊夢さん、金小僧さんの能力にえらくご執心でしたね」

「あー確かにな」

 

小傘の言葉に、四ツ谷は先日宴会の最中に起こった霊夢と金小僧の出来事を思い出していた。

宴会での自己紹介のとき、金小僧は自身の能力、『隠し金を召喚する程度の能力』もその場にいた全員に披露してしまっていたのだ(その時召喚したのは()()()()()()()()()()()()()())。

それを見た瞬間、貧乏巫女である霊夢の目の色が一変する――。

金小僧に擦り寄った霊夢はあまりふくらみの目立たない自身の胸を金小僧に押し付けるように密着させると、これまたあまり聞くことの無い、甘ったるい猫なで声を金小僧の耳元で囁く。

 

『ア~ン、金小僧ォ~?貴方の能力の恩恵をこの神社にも納めてもらえるのなら、四ツ谷が新しい妖怪創っても、多少目を瞑ってあげてもいいけど、どぉ~~う?』

 

金小僧の胸元へ指で円を書くようにしてクネクネと動かしながら言い寄る霊夢に金小僧本人は背筋に悪寒が走り、周りで見ていた者たちは全員ドン引きしたのだった。

 

「金であそこまで性格変わるもんなのかあの守銭奴巫女は」

「あ、あははは……」

「私、あの光景を見て巫女様の印象変わっちゃいました」

 

四ツ谷の呟きに、小傘が空笑いし、薊はどこか遠くを見つめてそう響いた。

結局あの後、霊夢の迫力に押され、月に一度神社へ納金するという約束を半ば無理矢理させられる事となったのだった。

 

(あの時の霊夢ときたら、一人有頂天になって変な踊りを踊ってやがったな……)

 

そんなことを思いながら四ツ谷はため息を一つすると、小傘と薊に向き直る。

 

「……ここに居てもしょうがない。長屋に帰るぞ」

「「あ、はい」」

 

二人が頷いたのを確認した四ツ谷はきびすを返して金小僧と折り畳み入道がいる長屋に帰ろうとしたとき、背後から声がかかる。

 

「あ!四ツ谷のおにいちゃんだ!」

「ほんとだ!やっと見つけた!」

 

その声に四ツ谷たちが振り向くと、五人の小さな少年少女たちが駆け寄ってくるのが見えた。

その子供たちに四ツ谷は見覚えがあった。赤染傘、そして折り畳み入道の怪談を行った時に聞き手の中にいた子供たちであった。

歳の大きな順から名を太一(たいち)千草(ちぐさ)佐助(さすけ)(けい)育汰(いくた)と言った。

それぞれの年齢が太一は十歳、その一つ下が千草、佐助は八歳で蛍は六歳。一番年下の育汰は五歳であった。

五人は仲がよく、毎日のように一緒に遊んでいるのだが、最近は四ツ谷の怪談に()()()()していた。

と言うのも先の四ツ谷の行った赤染傘と折り畳み入道の怪談が主な原因であった。

その怪談で怖がって逃げていった子供たちであったが、やがてその恐怖がスリルと好奇心を刺激する形となり、今では自分たちから四ツ谷の元にやってきて怪談をせがむようになっていたのである。

子供たちの姿を視界に入れた四ツ谷は顔を不気味に歪めて声をかける。

 

「シシシッ!またお前たちか。怖い怖いって騒ぐくせに、最近毎日のように俺の所に来るじゃないか?」

「うん!確かににいちゃんの怪談は怖いけど、何度も聞いてたらすごくドキドキしてもっと聞きたいって思うようになっちゃったんだもん!だからお願い、また怪談聞かせて?」

 

太一が代表して四ツ谷にそう言うと、四ツ谷はふはっはっはっはと笑って見せた。

 

「怖いもの見たさ……いや聞きたさもここまで来れば立派なもんだ!いいぞ、語ってやる。せいぜい小便ちびらないよう気をつけな!」

 

そう言って四ツ谷は近くに転がっていた大きな石の上に腰を下ろした。

そして四ツ谷を囲むようにして五人の子供たちと共に小傘と薊も聞き手として四ツ谷の前に立った。

四ツ谷は子供たちを一望すると、お決まりの怪談を語るための前口上を唱えた。

 

「それじゃあ始めるぞ?……お前たちのための怪談を……!」

 

そう言って四ツ谷が怪談を語り始め、それを子供たちと小傘と薊はワクワクしながら耳を傾けて聞き入っていた。

 

だが、誰一人気付く事は無かった――。

 

彼らのいる所からすぐそばの物陰で、何者かが彼らを……正確には()に視線を注いでいる事に――。

ハア、ハアと荒い息を吐きながら、彼女の全身を舐めるようにして下から上へ、上から下へと怪しく視線を這わせている事に――。




今回も短めです。
今回登場した子供たちですが、名前は出ていなかったのですが、一応赤染傘と折り畳み入道の怪談の聞き手たちの中にいました。
そして名前なのですが、彼らの名はぐるっと一周するように、輪になるように繋げてみました。

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