四ツ谷文太郎の幻想怪奇語   作:綾辻真

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前回のあらすじ。
四ツ谷の怪談で、幻想郷じゅうに『畏れ』が雨のように降り注いだ。


其ノ四 (終)

夜も更け、夏祭りの後片付けが終わり、人里が就寝に静まり返っても、博麗神社は未だに宴会が続いていた――。

怪談が終わった直後、紫のスキマによって半ば強引に博麗神社に招かれた四ツ谷たちはそこで他の妖怪たちと自己紹介を交わし、宴会に参加させられていた。

外の世界で天寿を全うした四ツ谷は、酒に対して多少は慣れていたため、チビチビとだが飲み続ける事ができた。

しかし、今四ツ谷の隣で()()()()()()()()()()()()少女にはいささかきつかったようであった――。

その少女――薊は、四ツ谷と共に博麗神社に連れてこられていた。いたって普通の人間なのだが、四ツ谷の助手ということもあって紫が特別に()()したのだった――。

博麗神社が妖怪たちの巣窟になっていたことに薊は驚き、同時に近寄ってくる異形たちに戦々恐々とし、四ツ谷と小傘のそばから離れられなくなっていた(と言ってもその二人も人間ではないのだが)……。

それでもこの宴会に馴染もうと頑張ろうとしたのか、魔理沙に勧められたお酒を飲むも、全く耐性がなかったらしく、お猪口三杯分であっけなく撃沈したのだった――。

 

(まったく……酒飲んだ事ないなら、無理に飲むなっつーの)

 

そんなことを思いながら、「すー、すー」と寝息を立てる薊のために、四ツ谷は小傘に掛け布団を持ってくるように頼む。

そのまま放置していたら風邪を引く、そういう懸念もあったにはあったのだが、それ以上に四ツ谷は()()()()()()があり、それを目から離したいがために掛け布団を一刻も早く必要としていた。

隣で眠る薊は()()()()()()()であった。いや、熟睡しているため無防備になるのは仕方ないが、その姿は完全に眼の毒すぎた。

四肢を投げ出して眠る彼女の着物は大きくはだけ、真っ白い美脚を惜しげもなく太ももまでさらけ出し、胸に実るその豊かな二つの山脈も大半を露出させ、肩から()()近くまでその肌を完全に露にしていたのである。

しかも、その時になって四ツ谷には気づいた事が一つあった。

 

(こいつ上の下着(ブラ)、着けてねえ!?)

 

チラチラと薊の胸辺りを何度も確認するも、それらしきものがどこにも見当たらない事に四ツ谷は薊の大胆さに慄きを隠しきれずにいた。

その上、仰向けに寝ても形の崩れないその二つの山が薊が呼吸するたびに小さく揺れ、汗を掻いたのか髪の一部が口元に張り付き、赤い顔をして眠る薊とマッチしてその妖艶さがMAX状態になっていた。

もはや『食べてくれ』と言わんばかりのその寝姿に、隣に座る四ツ谷は半ばパニック状態である。

そんな彼に悪戯心が芽生えたのか魔理沙が声をかける。

 

「なあ、そいつ襲わねえの?」

「なっ!?ななななな何を言ってんだお前は!?」

「だって私から見てもそいつ結構な上玉だぜ?(オオカミ)なら直ぐにでも食らいつきそうだ」

「ば、馬鹿言うな!年端もいかない娘をこんな大衆の面前でやれるわけないだろ!?」

「え。人前じゃなきゃいいのか?」

「人の揚げ足を取るなああぁぁぁーーー!!?」

 

珍しく慌てる四ツ谷の元に掛け布団を持った小傘が現れ、四ツ谷はそれを受け取ると直ぐに薊に掛けてこの話はそれっきりとなった。

 

 

 

 

 

 

 

ひと段落して落ち着いた四ツ谷は静かに酒を飲んでいると、今度は紫が声をかけてきた。

 

「お疲れ様。どう?幻想郷(ココ)の空気には慣れた?」

「あん?……まだまだってところか。ここの住人は一癖も二癖もありそうなやつらが多そうだからな」

「フフフ……、今日はありがとう。私たちが長い事悩ませていた問題の一つがやっと解決できたわ。これで私も少しは肩の荷が下りるってものよ」

「……ヒッヒッヒ、そりゃよかったな。で、どうなんだ?これで俺も正式にここの住人の仲間入りできたのか?」

「うーん、一応は、ね。でもやっぱり貴方の持つ能力は危険な事に変わりないから、私たちと霊夢でこれからも貴方の監視はしていくつもりよ。もちろん、私の許可無く『最恐の怪談』を『人間』に語ることも禁止ね。それを破って次々と新しい怪異を創り出したら、今度こそ貴方を処分しなければならなくなるから」

 

冷たい口調でそう言う紫に、四ツ谷は「善処しよう」と一言呟いた。

その一言に満足したのか、紫は小さく笑うと、席を立とうとし――そこで大事な事を思い出したのか動きを止めた。

 

「あ!そうそう……。貴方にもう一つ、大事な話があるの」

「……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?()()()()()ですか?」

 

博麗神社の宴会が終わり、妖怪たちがそれぞれ家路に着き、四ツ谷たちも人里へ徒歩で帰りながらの道中、小傘がそう声を上げた。

その場には、四ツ谷、小傘、薊、金小僧、折り畳み入道の五人しかおらず、その中で熟睡している薊は小傘に背負われており、折り畳み入道は四ツ谷が背負っている背負子(しょいこ)に括り付けられた木箱の中で顔だけを出していた。また、金小僧は提灯を持ってそんな四ツ谷と小傘の先頭に立って歩いている。

驚いた顔をする小傘に四ツ谷は頷く。

 

「ああ、あの賢者が言うには近々、里の人間たちに頼んで俺専用の拠点を作ってもらうつもりらしい。なんでも今の人数じゃあの長屋は狭すぎるだろうというあの女なりの配慮なんだと。もうすでに慧音先生とあの阿求って子には話を通してあるとか言ってたな」

「……なんか胡散臭くないですかそれ……?」

 

金小僧の問いに四ツ谷は「まったくだ」と同意する。

 

「……だが()()()()()()()()()()()()()()()()を作るとか言ってたから多少なりとも興味はある。それに今住んでる所が人数の多さで狭くなっているって言うのも事実だしな……ここはあえてお言葉に甘えようと思う」

「そうですか。……それにしても、新しい拠点かぁ~。一体どんなのが立つんだろ?」

 

小傘の呟きに四ツ谷は「さあな」と答え、空を見上げる。

 

「……また厄介ごとのタネにならなきゃいいが……」

 

夜空に浮かぶ月を眺めながら、四ツ谷はそう響かずにはいられなかった――。




幕間の物語、終了です。
今回少し短めです。
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